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異世界人と銀の魔女  作者: NewWorld
第3章 覚醒する精霊と湖底の魔鍵 
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第23話 本物って凄いんだね/湖底洞窟

     -本物ってすごいんだね-


 それから一週間、あたしたちはカルナックの町でのんびりと過ごした。

 あたしとヴァリスの二人で探した宿の名前は『聖女の弓置き場』。ここ、カルナックには聖女エイミアにちなんだ名前のお店が多いんだけど、流石にこの名前は無理矢理って感じだよね。

 宿の部屋をとるとき、そこの御主人に二人で泊まるんだと勘違いされたことは内緒の話。

 あたしは自分でもわかるくらい顔を真っ赤にして否定したけれど、ヴァリスの方は、意味がわかっていないみたいで、きょとんとしていた。


 それはともかく、宿の食事はおいしいし、町の中はすごく賑やかだしで、旅をするのも楽しいけれど、町の中でのんびりするのもいいものだなって改めて思った。


 ただ、あたしたちは冒険者。この先どんな危険があるかもわからないんだから、少しは訓練もしないといけないってことで、ギルドの練兵場を借りての特訓もした。


 あたしが取り組んだのは、『気配を消す』ための練習。潜伏系の“孤高の隠者”は【エクストラスキル】だから、普通なら何もしなくてもある程度はできるはずなんだけれど、これがなかなか難しかった。あたしの場合、自分に迫る脅威を感じ取りやすいうえに、『拒絶する渇望の霊楯サージェス・レミル・アイギス』がそれに過剰に反応してしまうせいで、周囲の気配への同調が上手くいかなくなるみたい。でも、訓練次第でなんとかなりそうだし、できるまで頑張ろう!


 ヴァリスとルシアくんは二人で組み手みたいなことをしていたけど、「素手でも少しは戦えるようになるんだ」って言っていたルシアくんは、すごくボロボロになっていた。

 結局それが、シャルちゃんの【生命魔法ライフ・リィンフォース】の練習にも繋がってるんだから、シリルちゃんも抜け目がないよね。

 ルシアくんは、「回復してくれるのはいいけど、無限に痛めつけられるみたいなもんだよなこれ」ってボヤいてたっけ。

 でもいくら“聖戦士”のスキルで【生命魔法ライフ・リィンフォース】の素質があるからと言っても、そんなにすぐに使えるようになるものなのかな? 実はシャルちゃんってすごいんじゃ……。


「シリルお姉ちゃんの教え方がうまいんです」なんて、本人は謙遜していたけれど。

 

 確かにシリルちゃんの“魔王の百眼”があれば、【魔力】の集中の仕方から、どこがいけないのか細かく教えられるのかもしれないけど、きっと才能があるのは間違いないよね。


「でも、【精霊魔法(エレメンタル・ロウ)】の練習はいいの?」


「ええ、それは『ここじゃ』危ないからね」


 シリルちゃんには、何か考えがあるみたいだった。


 そんなこんなで一週間。楽しみにしていた時はあっという間にやってきた。あたしたちは今、『オルガストの湖』の近くまで来ている。もちろん本来なら移動時間もあるんだけど、そこは『ファルーク』ちゃん大活躍。頼りになるよね。


「もう、始まっているみたいね」


 シリルちゃんの言葉に、あたしは慌てて、その指さす方向を見る。まだ遠かったけれど、白銀の鎧を着た聖騎士の人たちが剣を振っているのが見える。うーん、エイミアらしき人は見えないなあ。やっぱり団長直々に来たりはしないのかな。残念。

 『オルガストの湖底洞窟』はその名のとおり、平原の真ん中の湖にある。ただ、実際に【フロンティア】指定されているのは、湖とその周辺も同じみたいで、聖騎士の人が戦っているのも、湖のほとりだった。


 ルシアくんが聖騎士の人たちと戦っているモンスターを指さして尋ねる。


「あれは、なんてモンスターなんだ?」


「あの緑の半分魚みたいな体をしたのが『グリーンサハギン』で、あの真っ黒な岩の塊が浮いているみたいなのが『ダークルギア』ね。それぞれCランクとBランクのモンスターよ」


「まじかよ。随分ランクの高いのが、うようよいるんだな」


「それはそうよ。かつてはSランクの『魔神オルガスト』を筆頭に、Aランクがぞろぞろいたようなところなんだから」


 【フロンティア】って場所によってモンスターの強さが違うし、放置しておくと、どんどん強いモンスターが出てくるようになっちゃうし、謎が多いんだよね。

 ……それにしても、やっぱり聖騎士団ってすごく強い。遠くから見ていてもわかるけど、みんな上級スキルの持ち主ばっかりだし、CランクやBランクのモンスターを相手に余裕の戦いをしてるんだもの。


「Bランクとはいっても、『ダークルギア』は単体でランク認定されてるわけじゃないから、各個体はそんなに強くはないわ。とはいえ、集団を相手にして余裕で戦えるのは、連携で隙を作らないようにしているからよ。身体強化や光属性魔法をうまく組み合わせてね」


「なるほど。かつて『魔竜の森』で見た冒険者たちもそうだったが、人間の戦い方は仲間との連携を基本としているようだな。前衛が後衛の【魔法】発動の時間稼ぎを行い、後衛は前衛の状態に応じて攻撃魔法と回復魔法を選択しているのか。ふむ。敵によっても攻撃手段を変えている。やはり、あの『ダークルギア』には光属性魔法か。それに、何人かが持っているあれは【魔鍵】か?」


 ヴァリスは真剣な表情で、その戦いぶりを眺めている。

 ヴァリスは目がいいから見えるのかもしれないけど、あたしたちには少し遠い。もう少し近寄ってみようかな。まだ、邪魔になるような距離じゃないし。あたしたちは、ゆっくりと湖へ近づいてみることにした。

 すると、


「おお、あんたたちも見に来たのか?」


「ひゃあ!」


突然、声をかけられてびっくりしちゃった。


「おお、驚かせて悪かった。おたくらも聖女様の戦いぶりを見に来たんだろ?」


 そう言ってきたのは、冒険者風の恰好をした男の人だった。見れば他にもちらほらと冒険者の人たちの姿がある。

 って、あれ? それじゃ、聖女エイミアも来てるの?


「もちろんだ。あれは聖騎士団の訓練みたいなものなんだよ。実際には聖女様さえいれば、片づくんだけどな」


 どうやらこの人たちは地元の冒険者みたいで、討伐のときにはいつも見物に来ているんだって。


「片づく? どういうこと?」


「お、来たぞ!」


 シリルちゃんの疑問の声は、別の声にかき消された。

 見れば、ちょうど一人の女性騎士が姿を現したところだった。ていうか、兜を脱いだせいで女性であることが分かったのであって、もともと近くに控えていたみたい。


「今日の訓練もこれで終わりか。まあ、見ごたえはあったよな」


 そんな声が近くから聞こえるけど、あたしの目は『彼女』に釘付けになっていた。

 すごい。すごすぎる! なに、あのスキル……。

 弓術系最上級の【エクストラスキル】“弓聖”があるほかに、“聖騎士”の中でも【光属性上級適性スキル】“閃光の支配者”を備えた“閃光の聖騎士”があるの!?


 シリルちゃん以外で【エクストラスキル】が二つある人なんて初めて見た。


 それに、すごく綺麗な人。目の覚めるような青い髪を首の後ろで一つにまとめていて、格式ある騎士装束の上に他の騎士たちの白銀の鎧とは違った青白く輝く鎧を身に着けている。それに、手にしているのは何の装飾もない弓だけど、少し動かすたびに青い光の残像が見えた。

 あれが噂の『謳い捧ぐ蒼天の聖弓カルラ・リュミエル・レイド』なんだろうなあ。


「ん? 何するつもりなんだ?」


 ルシアくんの声に、あたしは騎士団の状況を改めて確認する。どうやら号令が出て、一斉に引き下がったみたい。


「総員退避完了です!」


「わかった。では殲滅する」


 副官らしき人の言葉に、エイミアは凛とした声で答える。

 見れば湖からはぞくぞくとモンスターが湧き出してきている。わざとこうなるように群れを刺激したみたいだけど、かなりの数になっている。百匹近くはいるんじゃないだろうか。大丈夫かな? なんて、あたしの心配はまったくの杞憂だった。


『魔神殺し』。それは、やっぱり生半可な称号じゃなかったんだ。


『彼女』はモンスターの集団に向かって、ゆっくりと手にした弓を掲げて、こう言った。


〈還し給え、千の光〉


 それは、『光の雨』。本当に何の脈絡もなく、ものすごい速度で空から光が降ってきた。

 ううん、噂が本当なら、あれは光の矢。彼女が日々、天空に捧げている矢、そのもの。

謳い捧ぐ蒼天の聖弓カルラ・リュミエル・レイド』の神性、“黎明蒼弓(フォール・ダウン)”。


 激しい水音をあたりに響かせながら着弾する無数の矢。

 『グリーンサハギン』も『ダークルギア』も関係なく、着弾した光の矢はその身体を貫き、地面に突き刺さり、しばらくして消滅する。言葉の通りなら千本はあろうかという光の矢のうち、湖に着弾した半分近くのものを除く数百本すべてが、一本も外れることなくモンスターに命中している。

 きっと湖に落ちた矢も、まだ水中から這い出してくるかもしれない『グリーンサハギン』に備えてのものだったに違いない。だってその証拠に、『雨』が止んだ後に湖から現れるモンスターは一匹もいなかったんだから……。


“弓聖”


 これが極めつくした武器使用系【エクストラスキル】……


 あたしたちは、あまりの凄まじさに言葉を失って、ただ、ただ、殲滅されていくモンスターの様子を眺めているしかなかった。



     -湖底洞窟-


 我は完全に人間の力を見縊っていた。それはもう、認めるしかない。

 ギルドのランク認定試験とやらでライルズに敗れた時ですら、我は奴の実力を認めこそすれ、己が人身に貶められたがゆえの敗北であるとのみ認識しており、人間そのものの評価を上げるには至らなかったのだ。

 だが、これは違う。たった一人の人間が、これだけの数のモンスターを一瞬で殲滅する。

 これではもう、『竜族』をしても、人間は矮小なる存在だなどと言えるものではない。

 しかも、我の目で捉えた限り、あの光の矢は『千本同時』に落ちたのではなく、『千本連続』で落ちてきていた。

 それはつまり、あの【魔鍵】には、複数の敵へ同時に照準を合わせる能力があるわけではない、ということを意味する。あの女の視線の動かし方から察するに、おそらく敵を一体ずつ確認し、その動きを読んだうえで、そのほとんどすべてを『順番に』命中させたのだ。それが、どれほどの偉業なのか、考えるまでもない。


「とんでもない、わね」


 言葉を失っていた我らの中で、ようやくシリルがその言葉を口にした。まさしく、そのとおりだ。とんでもない、としか言いようがない。


「すごい、すごい、すごい!」


アリシアも興奮気味に繰り返す。


「あれが、『魔神殺しの聖女』? 人ってあそこまで強くなれるんでしょうか?」


「いやまあ、文字通り殲滅だもんな。ありゃ、真似できないだろ」


「ですよね……」


 シャルとルシアは、このとき初めてまともな会話をしたのではないかと思うが、二人とも、そのことに気づく余裕はなさそうだった。


 目の前では聖騎士団がモンスターの亡骸を処理し始めている。


「ああ、もったいない! あのまま残しておいてくれりゃ、いい材料になるのによ」


 地元の冒険者らしき男の呟きが聞こえてくる。


「あのモンスターたちからじゃ、大した魔法具の材料はとれないでしょうに。それにここじゃ討伐登録もランク限定されている以上、できないはずよ?」


「へ? い、いやあ、若い子には関係ない薬の材料になるんだよ。とくにサハギンの方はな」


「薬?」


 シリルがさらに問い詰めようとするが、男はそそくさと逃げ去って行ってしまった。


「あの、シリルちゃん。たぶんそれ、毛生え薬だと思う……」


「え?」


「さっきの人、頭に毛がなかったでしょ? 薬のこと聞かれた時、なんだか頭に意識を向けてるみたいだったから、ね」


「そ、そう。なんだか悪いこと聞いちゃったかしら……」


 アリシアとシリルは、何やらばつが悪そうに顔を見合わせている。

 ……ふむ。何を気にしているのか、さっぱりわからない。


「で、モンスターはいなくなったけどさ、どうやって『湖底洞窟』なんて行くんだ?」


「もちろん、湖に潜るわけじゃないわよ。入口は別にあるの」


 シリルの案内で、我らは洞窟の入り口とされる場所に向かった。

 そこは、湖のほとりに小さく開いた、文字通りの穴だった。


「こ、ここから入るのか?」


「そうよ。ちなみに『グリーンサハギン』は湖から上がってきたけど、『ダークルギア』は、この中から出てきたものだから、気をつけてね。たぶん中にはまだ残っているわ」


「むう、と、とにかく入るか」


「ルシア、怖いの?」


 シャルが意識して自分からルシアに話しかけたのは、これが初めてではないか?


「へ? んなわけないだろ。シャルこそ、気をつけろよな。あの黒いのがその辺から出てくるかもしれないぞ?」


「わたしは平気」


 洞窟の中に入りながら、二人はそんな掛け合いを続けている。まったく、不思議なものだ。


 洞窟の中はひんやりとした冷気が漂い、ほとんど光が差さないためか、先の見通せない暗闇となっていた。


「さて、明かりが必要ね」


 そう言ってシリルは、荷物の中から紐がついた結晶のようなものを取り出す。そして軽くその結晶に【魔力】を通しはじめると、途端に結晶が光り輝きだし、辺りを照らした。


「おお、すごい。なんなんだ。それ?」


「『精輝石』よ。【魔力】に反応して光る、ただそれだけの石だけど、こういう場面では便利よね。はい、これ」


 シリルはそう言って、ルシアに近づき、その首に『精輝石』をぶら下げる。


「うへ?」


 シリルが首の後ろに手を回した際に、うろたえたような声を出すルシア。

 だが、ほかのメンバーにも次々と同じことをするシリルを見て、なぜかがっかりしたような顔をしている。


「さて、これでいいわ。行きましょう」


 そう言って歩き出すシリル。洞窟の中はいまだ一本道で、迷うことはない。とはいえ、モンスターがいるかもしれない中で先頭を切って歩きだすのはどうなのだろうか。


「魔導師が先頭を歩くな」


 我はそう言って、シリルの前に割り込む。


「え? あ、ありがとう。気が利くじゃない」


「ふん。お前が非常識なだけだ」


 そう言うと、シリルは急に顔をゆがめ、そしておもむろに笑いだした。


「ふふふ。まさかヴァリスに『非常識』だなんて言葉を言われるとは思わなかったわ。ちょっと前まで、人間の常識など関係ないって言っていたのに」


 そう言えば、我はいつの間に、人間の常識に馴染んでしまったのだろう?


「じゃ、俺は殿を守るかな」


「本当は怖いだけじゃない?」


 またしても、シャルがルシアに声をかける。


「あのな。後ろから襲われる危険だってあるだろ?」


「一本道なのに?」


「モンスターなんて、どこから出てくるかわからないじゃないか」


 相変わらず仲が良いようには見えないが、ルシアとシャルはそれなりに会話をかわしているようだ。シリルはその様子を満足そうに眺めていた。


 我はふと、珍しく黙ったままのアリシアを見やる。

 そしてなんとなく、見たことを後悔した。…………にやけている。

 それはもう、「だらしがない」としか言いようがないほど、にやけた顔をしていた。


「あ、あのアリシア? 少しは気を引き締めないと『拒絶する渇望の霊楯サージェス・レミル・アイギス』も発動しないんじゃないかしら?」


 シリルもその様子に気づいたのか、怪訝そうに声をかける。


「え? ああ、うんそうだよね。ああ、でも、エイミア、恰好よかったなあ。惚れちゃいそうなくらいだよ。凛としていて勇ましくって、強くって、ほんと、理想だよね」


 なるほど、どうやら先ほどの殲滅戦のことを思い返していたようだ。確かに鮮やかな戦いぶりではあったと思うが、そこまで思い入れることはあるまいに。

 奴はただ、強かった。それで終わりだ。それ以上でも以下でもない。

 ふと我は、何故か心の内に生まれた不快感を振り切るように思考を中断させる。


 ……敵の気配がする。アリシアによれば、今の我にも『竜族』としての【種族特性】“超感覚”は、かろうじて残っているらしい。竜王様のように『竜の谷』全域を知覚できるほどの有効範囲は望むべくもないが、敵性体の接近を感知することに関しては、人間種族の索敵警戒系【エクストラスキル】“天より見下ろす瞳”にも匹敵するものを維持している。ゆえに、たとえ明かりの届かない距離から近づく敵の気配であろうが、関係ない。


「来るぞ!」


 我が注意を促す短い言葉を発すると、皆が戦闘態勢に入る。このあたりまでくると洞窟の幅自体はかなり広くなっており、全員がどうにか横に並べるほどにはなっていたが、足元に若干水たまりができており、気をつけないと足を取られそうではあった。


 現れたのは例の『ダークルギア』が二体。黒い岩のような身体で宙に浮いているモンスターで、『精霊』の類が【歪夢】により、『邪霊』となり果てたものと言われている。


「気を付けて。あれに取り憑かれたら生命力を持っていかれるわよ」


 シリルの言葉を背後に聞きながら、我は拳に気を纏い、敵の一体に向けて突きを放った。

 しかし、奴は意外なほどの速度で横にかわすと、身体の一部から分離したと思しき黒い欠片を飛ばしてくる。


 我はその攻撃を対打撃用に編み出した“竜気功”『流体の鱗』で防ごうと試みたが、それが失敗だった。奴は、確かに岩のような外見をしているが、その実態は『精霊』に近い存在だ。つまり、飛来する飛礫は、打撃になるようなものではない。


「ぐ、ぬうう!」


 黒い欠片は我の身体に取り憑くと、身体から急激に力を奪っていく。我は慌てて、それを掴んで引き剥がしたが、少なからず体力を消耗してしまった。


「こういう奴は俺に任せろ!」


 ルシアが『切り拓く絆の魔剣グラン・ファラ・ソリアス』を手に『ダークルギア』に斬りかかる。するとたちまち一体が斬り裂かれ、塵のように崩れていく。

 悔しいが、相性の問題もある。ここはルシアに任せよう。

 と、その時。


〈注がれる水、輝く息吹〉


命の水(ヒール・アクア)


 ふと体が軽くなった。どうやらシャルが【生命魔法ライフ・リィンフォース】の初級魔法を使ったようだ。


「すまない。助かった」


「い、いえ……」


 シャルは我の言葉に、ぎこちない返事をする。やはり我は、いまだにシャルから恐れられているらしい。

 気づけば、ルシアはもう一体の『ダークルギア』も斬り裂いていた。なかなか鮮やかな手並みだ。そういえば奴も、剣術系最上級の【エクストラスキル】“剣聖”を所持しているのだったか。


 どうにか敵は片づいたが、我は自らの力の無さを思い知ることになった。

 人身に堕ちた以上、それに応じた戦い方というものが必要なのかもしれないが、なんとも歯痒い。かつての我ならば、先ほどのような低級モンスターごとき、相手にもならぬものを。


 このときの我はまだ、自らの『強さ』の在るべき形に、気付いてはいなかったのだった。


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