表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界人と銀の魔女  作者: NewWorld
エピローグ 精霊少女の招待状
264/270

第4幕 聖騎士の城・精霊の森

 それからわたしたちは、『魔導客船アリア・ノルン』に乗って各地を巡りました。ツィーヴィフの次に立ち寄った先は、ホーリーグレンド聖王国における聖騎士団の本拠地『セイリア城』です。


「おお! 久しぶりだね。シャルくん。いや、また随分と大人っぽくなったものだ。うちの娘とは大違いだよ」


 そんな風に笑って出迎えてくれたのは、この聖騎士団でエイミア様の後を継ぎ、団長を務めているサイアスさんです。


「その節は、本当にありがとうございました。聖騎士の皆さんが救出に来てくれなかったら、わたしは今頃ここにはいなかったはずです」


「いやいや、騎士として当然のことをしたまでだよ。それに、ほとんどエイミア前団長のおかげだけどね」


 わたしはここで、早速今回の『招待状』を渡しましたが、彼は少し悩むようなそぶりを見せました。


「ふむ。しかし……わたしなどが出席してよいものなのかな?」


「もちろんです! それにエイミア様も会いたがっていますよ」


「そ、そうか……」


 なおも悩んだ顔をするサイアス団長ですが、そこで同席の騎士の人たちから声がかけられました。


「団長、行ってきてくださいよ。そして、エイミア様にたまにはこの城にも顔を出してくださるよう、ぜひ伝えてきてください!」


「そうだ! そのとおり! これは重要な役目ですぞ、団長!」


「むぐぐ……お前たちという奴は……」


 相変わらずエイミア様は、騎士の人たちに絶大な人気を誇っているようです。自由闊達な彼らの様子に、わたしも思わず笑いを零してしまったのでした。


 サイアス団長を船に乗せ、続いて向かった先はエルフォレスト精霊王国にある『妖精の森』と『精霊の森』です。


「うわあ! 綺麗な森! 久しぶりに来たけど、やっぱり素敵な場所だよね」


「ふふ! セフィリアはここの森がお気に入りだもんね?」


 この二年半というもの、わたしとセフィリアは、かつてシリルお姉ちゃんたちと一緒にわたしが廻った旅の軌跡をなぞるように冒険を続けてきた部分もありました。そのため、セフィリアも一度はこの国の森を訪れているのです。


「お久しぶりです。ソアラ様」


「まあ、まあ、ようこそいらっしゃいました。わたくしのお友達。どうやらあなたにもまた、新しいお友達が増えたようですね」


 いつ見ても綺麗な『妖精族』の最長老、ソアラ様が温かく出迎えてくれました。


「こんにちは、ソアラ様! また会えて嬉しいです!」


「うふふ。セフィリアさんも、相変わらずお元気そうで何よりだわ」


 勢いよく挨拶するセフィリアにも、ソアラ様は穏やかな笑みで応じてくれました。

 実のところ、セフィリアがここに最初に訪れた時は、『最長老』という身分からはあまりにかけ離れた若々しい外見の彼女に対し、随分と失礼なことを言ったりもしていました。けれど、その時も彼女は優しく相手をしてくれて、セフィリアはそれ以来、彼女のことが大好きなのでした。


 そして今日もまた……まるでお母さんのように優しい彼女には、リオンもシェリーもすっかり懐いてしまい、


「ええー? ソアラ様は一緒に来てくれないの?」


「一緒に行こうよ。このままお別れなんてつまんないよー」


 『森』の傍を離れられない彼女が付いてきてくれないことがわかると、頬を膨らませながら駄々をこねてしまったほどでした。


「ふふふ。そんなに別れを惜しんでくれるなんて、嬉しいわ。でも、別れがあるから出会いもある。また会える日を楽しみにするのも、また人生の醍醐味なのよ?」


 けれどソアラ様は、そう言って二人の頭を優しく撫でてくれたのでした。それに【狂夢】が無くなった今の世界でなら、いつかきっとソアラ様が『森』から離れて活動できる日も来るかもしれないのです。


 わたしたちは名残惜しい気持ちを抑え、『精霊の森』へと向かいました。もちろん、レイフォンさんとルフィールさんに『招待状』を渡すことが目的です。


 森の中心に立つ巨大な茶色の塔──世界の『精霊』たちと【精霊界】を繋ぐ『創世霊樹』には、わたしが腰に下げた『差し招く未来の霊剣エレメンタル・ブレード』の材料にもなった『新世界樹』が絡みつくように枝を伸ばし、青々とした葉を今でも元気よく茂らせていました。


「やあ! シャルじゃないか! 久しぶりだね。前回ここに来てくれたのは……もう何か月も前になるかな?」


「はい。お久しぶりです。レイフォンさんもルフィールさんも、相変わらずお元気そうで何よりです」


 『創世霊樹』の根元につくられた集落にある一軒の家。こじんまりとしていながらも、温かい雰囲気漂う建物の扉を叩いたわたしたちを出迎えてくれたのは、『妖精族』のレイフォンさんでした。


「こんにちは! レイフォンさん」


「あ、ああ、セフィリアさんも一緒だね。い、いらっしゃい……」


 わたしの背後から顔を出し、元気いっぱいに挨拶したセフィリアに、レイフォンさんは引きつったような笑顔を向けています。わたしが身体を横にずらしながら彼女の顔を見てみれば、キラキラと輝く瞳で彼の顔を見つめているのがわかりました。


「あ、あはは……」


「うふふ!」


 あまりの勢いに若干引き気味のレイフォンさんに、セフィリアは構うことなく畳み掛けるように言いました。


「あかちゃんは!? もう、生まれたんだよね? ね?」


「あ、ああ、もちろんだよ。い、今、案内するから、落ち着いてくれって……」


「うん!」


 迎え入れてくれたレイフォンさんを追い抜きかねない勢いで後を付いていくセフィリア。その後ろ姿を見て、リオンとシェリーが唖然とした顔でわたしを見上げてきます。


「あはは、すっかり二人のことを紹介するのを忘れちゃったね」


 わたしは二人の肩を後ろから押すように、セフィリアの後に続いていく。


 案内された先の部屋には、セフィリアの言う「あかちゃん」がいました。椅子に腰かけた金髪の女性、ルフィールさんの腕に抱かれ、すやすやと眠る小さな赤ん坊。


「あら、二人とも。ようこそいらっしゃいました。わたしもこの人も……それからこの子も、お二人のことを心待ちにしていましたわ」


 ちょうどわたしとセフィリアが前回訪問した時、ルフィールさんは妊娠したことがわかったばかりで、これから「あかちゃん」が生まれると知ったセフィリアは、それからずっとこの日を楽しみにしていたのでした。


 かつて、数百年に渡って自分の村に新しい命が誕生するのを見続けてきた彼女にとって、子供の誕生というのは、何より嬉しいものらしいのです。世界に拒絶されてきた彼女だからこそ、世界に祝福されて生まれてくる命の大切さがわかるのかもしれません。


「かーわーいーい!」


 はしゃぐセフィリアに抱き上げられた、小さな命。わたしの頬もついつい緩んできてしまいそうです。


「わたしにも! わたしにも抱かせてよー!」


 そんなセフィリアの周りでは、シェリーがぴょんぴょんと跳ねています。


「本当だ。赤ん坊って可愛いなあ。……どうせならノエルも来ればよかったのに」


 わたしの傍らでぼそりとつぶやくリオンの声には、わたしも思わずクスリと笑いを零してしまいます。


「ん? シャルお姉ちゃん。何がおかしいの?」


「んーん。なんでもないわ」


 何だかんだと言いながら、リオンはノエルさんのことが気に入っているようです。とはいえ、当のノエルさんは自分が子ども扱いされるのが嫌なので、なるべく人前には姿を現さないようにしているらしいのですが。


「あははは! かっわいい!」


 シェリーはセフィリアから赤ん坊を受け取って、嬉しそうにくるくると回っています。

 でも少しだけ、はしゃぎ過ぎじゃないでしょうか?


 わたしがルフィールさんに謝罪の気持ちを込めた視線を向けると、彼女は柔らかな笑みを浮かべて首を振ります。


「大丈夫ですわ。もう二か月は経っていますし、ミリーは丈夫な女の子ですから」


「え? 女の子なんですか?」


 わたしは驚いて、赤ん坊の姿を確認します。『妖精族』には、男性しか生まれません。人間と『妖精族』の間に女の子が生まれたならば、それは例外なく人間であるはずなのです。なのに、その子には『妖精族』特有の尖った耳がありました。


「これもきっと、君たちが世界を救ってくれたおかげだよ。あらためて礼を言わせてほしい。きっとこれからは、種の存続なんてものに関係なく、人間と『妖精族』の新たな関係を築くことができるようになる」


 ルフィールさんにそっと寄り添いながら、感慨深そうに語るレイフォンさん。わたしはここで、懐から『招待状』を取り出しました。


「それならぜひ、こちらにも参加してください。お二人にも、お二人の間に生まれた『新しい世界』を象徴するこの子にも、皆に来てもらえた方が嬉しいですから……」


 ──その日はレイフォンさんの家に一泊して、出発の準備を整えてもらうと、わたしたちは早速三人を『魔導客船アリア・ノルン』に案内しました。

 先客のサイアス団長さんも含め、わたしたちの『招待状』の企画を聞いた皆さんは、快く付き合ってくれることになったため、そのまま次の目的地に向かうことにします。


「とはいえ、ヴァリスがいない旅路だからね。この『アリア・ノルン』も三年前とは比較にならない魔力運用効率を誇っているとはいえ、どこかで補給しないとこのスピードは維持できそうもないな」


 会食の場でただ一人、背の高い(座面が高い?)席に腰かけ、壁面に大写しになった空を眺めながらつぶいたのは、ノエルさんです。

 レイフォンさんもルフィールさんも、はじめは彼女の正体に驚きを隠せないようでしたが、そこはわたしと違って我慢強い人たちです。笑ったりすることはありませんでした。


「なんだか、また愉快なことを考えているみたいだね、シャル?」


「い、いえ!」


 半眼で睨まれ、背筋を正すわたしでした。するとそこに、レイミさんが楽しそうに笑いながら、わたしの肩を叩いてきました。


「ごめんなさいね。シャルちゃん。彼女ったら、若返ったのはいいんですけど……うふふ! 『成長』したシャルちゃんに置いてきぼりを喰らったのが悔しいみたいなんですよ」


「え?」


「あ! こら! レイミ!」


 何故かあわてたように叫ぶノエルさん。そんな彼女を尻目に、レイミさんはあえて胸を強調するポーズをとって続けます。


「でも、若返る前と今とを比べても大して変わらな……」


「うあああ! もう黙れ、変態メイド! 今日という今日は、さすがに勘弁ならないぞ!」


「あら? 命の恩人に何をするつもりですか?」


「く、こ、この……」


 目に涙をにじませ、悔しげにうつむく幼女。彼女の身体も、プルプルと小さく震えているように見えます。そんな姿を見ていると……


「あはは!」


 わたしはまたしても、彼女のあまりの可愛さに、思わず吹き出してしまいました。ふと気づけば、ノエルさんが凄い目でこちらを睨んできています。怖いです。とても五歳児とは思えない迫力です。


「まあまあ、落ち着いてくださいな。それより補給係となら、もうすぐ合流予定のはずですよ?」


「む……」


 レイミさんの言葉に、ノエルさんは改めて顔をしかめます。


「補給係? どういうことですか?」


「……できれば、彼ら……というか彼女にだけはこの姿で会いたくないんだけどなあ……」


 五歳のお子様が憂鬱そうに溜め息を吐き、やれやれと首を振っています。


〈うふ! あは、あははは!〉


 ……どうやら、わたしの頭の中の情景描写に一人で爆笑を続ける『精霊』がいるようですが、この際それは置いておきましょう。


「えっと、まさか……」


「はいな。そのまさかです。ほら、早速見えてきましたよ?」


 レイミさんが軽く手をかざすと、壁面の映像の一部が大きく拡大されました。


 そこに映っていたのは、青銀色に輝く鱗を持った青竜の姿。そして、その首にまたがった赤毛の魔女の姿でした。


「よし、レイミ。砲撃開始だ」


「これは『客船』です。そんな装備はありません」


 呆れたように言いながら、レイミさんは皆の食事の後片付けを始めます。わたしは驚くレイフォンさんたちに事情を説明しながら、甲板へと皆を促しました。いくらこの『アリア・ノルン』が大きいと言っても、『竜族』のラーズさんが入れるようなスペースはないでしょう。


 甲板に上がったわたしたちの目の前には、こちらにスピードを合わせながら着艦してくる青竜ラーズさんの姿がありました。


〈シャル殿! ノエル殿! 久方ぶりだ! こうして息災な姿を見られて、我としてはこれほど嬉しいことはない!〉


「あはは! 大げさだなあ、ラーくんは。息災も何も、ぷーくくく! あっはっは! ひーひー! ノエルなんて、こ-んなちっちゃくなっちゃって!」


 ラーズさんとは対照的に甲板に飛び降りてくるなり、ノエルさんの身体を腋の下から手を差し入れるように持ち上げて、いわゆる『高い、高い』をしながら爆笑を続けるレイフィアさん。本当の本当に……相変わらずです。


「……君って奴は、お仕置きが必要みたいだね?」


 憮然とした顔で言う、五歳のお子様。


「お仕置き? どんなお仕置きをしてくれるのかな? ノエルちゃん? あははは!」


「君は、僕の万全主義を忘れたのかな?」


「え?」


「この身体になって、僕が護身用の【魔装兵器】を携帯していないとでも?」


「うげ! うきゃあああああ!」


 ノエルさんの台詞の直後、バチバチと電光がほとばしり、全身を痙攣させて倒れていくレイフィアさん。やっぱり、やり過ぎちゃいましたね。


〈すまんが、レイフィア。今のは我も、お前が悪いと思うぞ……〉


 ラーズさんが諦めの混じった声で言っているのが聞こえました。ここ三年間というもの、彼は悪名高い『紅蓮の魔姫』の相棒として各地で暴れまわっているそうですが、きっと気苦労も多いことでしょう。


 自分で選んだこととはいえ、少しばかり気の毒な青竜さんでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ