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異世界人と銀の魔女  作者: NewWorld
第2章 冒険者ギルドと新たな出会い
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第16話 爆炎の戦い/彼の能力

いつもお読みいただいて、ありがとうございます。

今回は三連休ということもあり、若干短い間隔で更新させていただきました。

少しでもお楽しみいただければと思います。

     -爆炎の戦い-


 いやいや、これは無理だろ。勝てないって。何だ今の戦いは。


 俺は頭の中でぶんぶん首を横に振っていた。『ゴブリン』の群れを片っ端から駆逐していたヴァリスが、ほとんど手玉に取られて負けてしまった光景は、現実のものとは思えなかった。


 これって試験でやるような戦闘なのか? 一歩間違えれば死ぬんじゃないか?


「いえ、御安心ください。勝負が決まるような怪我をした時点で、即座に【生命魔法】ライフ・リィンフォースをかけられるよう準備していますから」


 そう言いながら、リラさんがヴァリスに向けて翳した手からは、淡い光が照射されていて、ヴァリスが全身に負った火傷や太ももの刺し傷などが見る間に治療されていく。


「驚いたわね。リラ。あなた、“治癒術士”だったの?」


「正確には【アドヴァンスドスキル】“強化治癒者”です。かつては兄と二人でギルドからの依頼も受けていたことがありましたから」


「なるほど、あなたも冒険者だったのね」


「はい。今ではギルドで後進の育成にあたっていますが、これが結構重宝しています」


 どうやら現役から引退しているってことみたいだけど、こんだけ能力があって引退って、現役の奴ってもっとすごいってことなのか?

 だが、俺のそんな疑問にリラさんは首を振る。ちなみにライルズさんは「準備してくる」といって部屋から出て行ってしまっている。どうやら、ヴァリスの攻撃がかすったときに壊れた鎧を替えてくるみたいだ。


「わたしは以前に任務の途中で大怪我をしてしまって。特に後遺症もないんですけど、兄はわたしに引退しろって、独りで稼げるからって言って、……馬鹿な兄なんです」


 言葉とは裏腹に、リラさんからは、凄くライルズさんのことを慕っているんだなという雰囲気が伝わってくる。


「馬鹿とはなんだ、妹よ。実の兄にむかって」


 ライルズさんが鎧を新調して戻ってきた。


「よし、待たせたな。始めようぜ。実際のところ、武器使用系の【エクストラスキル】を持ってる奴って少ないから、楽しみなんだよな」


 ライルズさんは、いかにも楽しげにそう言うと、『静寂なる爆炎の双剣サージェス・フォルム・ソリアス』を構えた。

 やばい。この人、本当に戦闘大好き人間だ。


「さて、今度は最初から全力で行くぜ!」


「いや、ちょっとそれは不公平じゃ!」


「いやいや、さっきは油断してたら危うく大怪我するところだったからな。ま、“剣聖”くんなら、俺が本気でいっても大丈夫だろ?」


「大丈夫じゃないです!【スキル】があれば強いってもんじゃないでしょうが!」


 俺があわてて抗議すると、ライルズさんは意外そうな顔をした。


「あれ? よくわかってんじゃん。たいがい武器使用系【エクストラスキル】持ちの連中って、なまじ最初から才能があって強い分、鼻っ柱の高い奴が多いもんだから、へし折ってやろうかと思ったのに」


「いや、どう考えてもあんたの方が強いでしょうが」


「それはどうも。“剣聖”所持者だってことで、剣士スキル的には“舞剣士”レベルの俺をなめてかかってりゃ、1秒で決着がつくところだったが、まあ、少し楽しめそうだな」


 そう言うと、ライルズさんは改めて構えをとりなおした。その構えは不思議なことに、左手の短剣を正眼に構え、右手の短剣を背後に回すという奇妙なものだった。


「えっと、ところで、俺の【魔鍵】のことは確認しなくてもいいんですか?」


「ん? ああ、【魔鍵】持ってたのか?見たとこ、ないように見えるけどな」


「……これがそうです。そうは見えないでしょうけど」


 俺は見た目は何の変哲もない長剣である『切り拓く絆の魔剣グラン・ファラ・ソリアス』を構えて見せる。


「ふうん。それか。まあ、いいや。俺もまだ【魔鍵】の力は全部見せてないからな。このままで始めた方が面白そうだ。じゃ、いくぜ」


「では、試験開始!」


 リラさんの掛け声がした瞬間、ライルズさんが猛スピードで突っ込んでくる。そんなに強く地面を蹴ったようにも見えないのに、信じられない速度だ。

 だが俺は、冷静に剣を正眼に構えたまま、その突進を待ち受けた。剣の長さからすれば、こちらが有利なのだから、正面から来る以上、左右に変化してくるに違いない。そう思っての構えだったが、結果は予想を超えていた。

 いや、確かにライルズさんは軌道を変えてきた。しかし、あまりにも唐突すぎる。人間がその速度で方向転換なんかできるわけないだろ!と言いたくなるようなタイミングで俺の真横に回り込んでいたのだ。

 どうやら右手の短剣には、急激に方向を変えるための爆炎を放つ力があるみたいだ。

 これも“炉心火速(ファイアスターター)”とかいう力なんだろうか。

 しかも、それだけじゃない。俺の正面からは数本の《炎の矢(フレイムアロー)》が迫ってきている。

 初級魔法だけを正面に残して高速で側面から同時攻撃とか、手加減抜きにもほどがある!


 俺は迷わず《炎の矢(フレイムアロー)》を剣で切り裂きながら、前方へ身を投げ出した。


「うお! 【魔法】が!」


 ライルズさんの驚きの声が聞こえてくる。

 どうやら俺が《炎の矢(フレイムアロー)》を斬ったことに驚いたらしい。とにかく、その隙を逃さず、俺は一転して起き上がり、体勢を整えた。


「いや、驚いたぜ。それがその【魔鍵】の能力か?」


 ライルズさんは追撃を仕掛けてこなかった。しかし、彼の目の前には赤く明滅する【魔法陣】が展開されている。すぐに【魔法】が来ないところをみると、中級以上だろう。


「やばい!」


俺はあわてて間合いを詰める。


「おっと、気づかれたか。これも斬ってみるかい?」


〈爆ぜ散り狂え、紅蓮の光球〉


爆炎の宝珠(バースト・ボール)》!


 赤い炎の塊が目前に迫る。だが俺は、これを横っ跳びで回避した。


「いい判断だ!」


 直後、炎の塊はその場で爆散。俺の身体は少なからず爆風で吹き飛ばされる。もし、あのまま斬りつけようとすれば、間違いなく直撃コースだったろう。

 当然、この隙をライルズさんが見逃してくれるはずもなく、立ち上がりかけたところに2本の短剣が肉薄してくる。


「くあ!」


 俺はほとんど無我夢中で剣を翳し、その一撃を受け止める。くそ、なんて威力だ。短剣によるものとはとても思えない。

 今の攻撃を受け止められたのは、はっきり言ってまぐれだ。続く斬撃の連続に、たちまち俺はよたよたと後退しながら防戦一方に追い込まれる。

 身体のあちこちが斬り裂かれ、焼けつくような痛みが全身に走る。


「これで、しまいだ!」


 気づけば目の前に赤く明滅する【魔法陣】がある。《炎の矢(フレイムアロー)》か!

 回避できる状況でもなく、手にした剣も斬撃を防ぐのに手いっぱいの状況で、俺は闇雲にその【魔法陣】に向けて蹴りを放った。


「は!【魔法陣】に、そんなことをしても無駄だぜ!」


 ライルズさんの馬鹿にしたような一言は、しかし、ここでは裏切られることになる。

 俺の脚が触れるや否や、【魔法陣】は形を崩し、そのまま消滅してしまったのだ。


「ええ?!」


 驚愕の声は、離れて観戦しているシリルのものだ。一方、声こそ挙げなかったものの、ライルズさんも驚愕のあまり体を硬直させている。

 俺はバックステップで間合いをあけ、こちらに有利な距離で再びライルズさんに斬りかかろうとする。

 が、しかし、その直後に感じたのは、自分の脇腹を焼き貫くような灼熱の痛みだった。


「や、槍?」


 俺は自分の脇腹から生えている赤い槍を茫然と見つめていた。


「あーあ、コレまで使うつもりはなかったんだがな」


 ライルズさんは、左の短剣から伸びた炎の槍を、ゆっくりと俺の脇腹から引き抜く。

 

〈満ちる緑、鳥の歌声〉


生命の賛歌(キュアボイス)


 リラさんの声がした直後、俺の身体を淡い光が包み込み、全身の傷を癒していく。

 おお!【魔法薬】なんて目じゃないスピードで傷が治っていく。これが【生命魔法】ライフ・リィンフォースか。

 でも、これが使われたってことは、俺の負けか。ああ、やっぱり勝てないよな。こんなの。



     -彼の能力-


 ルシアとヴァリスの試験が終わり、残るはアリシアの試験だけになった。でも支援系の試験については、何の心配もいらないはず。

 なにしろ、パーティ内でサポートに回って初めて真価を発揮する支援系冒険者を、その場限りの試験でランク付けできるわけがないのだから。


「アリシアさんについては、当面、シリルさんのパーティで行動する場合に限り、仮のCランク扱いとさせていただきます。その状態で一定程度の難易度の任務を一定回数以上こなし、シリルさんの同意を得たうえで申請すれば、正式なCランクとして、他のパーティでも仕事ができるようになりますので、そのつもりで実績を積んでください」


「Cランク? あたし、何にもしてないけどいいの?」


「はい。【スキル】を確認させていただいた結果とパーティの総合的な実力で判断させていただきました。【オリジナルスキル】“真実の審判者”による分析能力と【エクストラスキル】“孤高の隠者”による潜伏能力をお持ちであれば、かなりのサポートが可能でしょう」


 そう、アリシアには支援系として十分な実力を発揮できる【スキル】がある。“孤高の隠者”に関しては、いくら【スキル】があっても気配を消す訓練をしたことのないアリシアにはすぐに使えるものではないけれど、『拒絶する渇望の霊楯サージェス・レミル・アイギス』もあるから問題はない。


「パーティの総合的な実力、ということは、二人の試験結果も出たということね?」


 わたしはリラに確認をとる。


「はい。お二人はCランク冒険者に認定させていただきます。FランクからCランクへの認定はかなり珍しい事です。さすがは魔導師系Aランク冒険者のシリルさんが認めた方々ですね」


 まあ、あの結果なら、そんなところかも知れない。Cランクからなら、わたしが同じパーティにいてもそれほどバランスは悪くないわけだし。


「ところで、シリルさんは、まだ【魔鍵】を見つけられていないのですか? もしよろしければ、【ダウジング】もできますよ。最近、カルラ系のものが発見されて、当支部の保管扱いとなっていますし……」


「いえ、いいわ。それほど必要性は感じていないし」


 胸の奥がズキンと痛むが、わたしはそっけなく答える。


「そうですか。それでは、ギルドのライセンス証は明日にもご用意いたしますので、また、いらしてください」


 ありがたいことに、リラはそれ以上そのことには触れず、話を進めてくれた。やっぱりギルドの受付係には彼女のような気遣いが必要ね。


 こうして、わたしたちは一通りの手続きを終えると、ギルドを後にしようとしたのだが、不意に呼び止められた。


「シリル。ちょっと聞きたいことがあるんだが」


「わたしには、聞かれたいことはないわね」


「そう言うなよ。下手に詮索するより、直接聞いた方がいいと思ってさ」


 声をかけてきたのは、試験官だったライルズ。彼はここで時々試験官をしているようだが、本来は戦士系Aランク冒険者であり、わたしとも何度か臨時のパーティを組んだことがある相手だ。


「それを詮索というのよ」


「じゃあ、直接じゃない方がいいのか?」


 さりげなく脅してきているわね。この男。まあ、戦闘と妹以外に興味のないこの男のこと、単にヴァリスとルシアに興味を持っただけだろうから、あまり悪質な真似はしてこないだろうけど。


「みんな。悪いけど、先に宿まで戻ってて」


「ん? ああ、わかった」


「じゃ、先に行ってるね」


「承知した」


 みんなと別れたわたしは、ライルズとともにギルド内の事務室の一つに入った。


「試験官の仕事はいいの?」


「そんなに頻繁に冒険者の新規登録はないんだよ。ここ数年来、特にモンスターの活動が活発化して、冒険者もいっそう危険な仕事になっちまったからな」


「そう、で、用件はなに?手早く済ませてくれない?」


「もちろん、あの二人のことだよ。まあ、あれだけ人を寄せ付けなかったあんたがパーティ登録しようなんていう連中だ。普通じゃないとは思ったが、ありゃ、普通じゃなさすぎるだろ」


「その割には、試験結果はCランクじゃない」


「それについては感謝してもらいたいところだね。FからBとか、普通あり得ないからな。もし、そうなってたらギルド上層部の注目を集めまくってたところだぜ?」


 確かに彼の言うとおり、FランクからBランク以上への登録なんて、めったにない出来事だ。


「上層部もいちいち、新規登録者の【スキル】内容なんざ見ちゃいないだろうが、それほどの注目株となりゃ、話は違う。……だから、あんたも試験のときには手を抜いたんだろ?」


 お見通しってわけね。でも理由は違う。上層部に目を付けられるとか、わたしには、そんなことはまったく問題ではないのだから。手を抜いたのは、単に面倒だっただけ。


「【スキル】登録システムも“鑑定者”による【スキル】鑑定も、【スキル】の名称以外はわからないからな。一般的なのならともかく、【オリジナルスキル】となりゃ、名称だけ見てもわからないし、あんたのお仲間みたいに自己申告でもしない限り、ギルドもそこまでは求めないもんだけどな」


 確かにアリシアの【オリジナルスキル】については、ランク認定に必要だったので一部は情報を伝えたけれど、ギルドは冒険者の情報把握について一定の線を引いている。

 【魔鍵】と【オリジナルスキル】の詳細については、ランク認定の要素に使えないことを気にしなければ、登録の有無は自由なのだ。現にルシアの【魔鍵】は特殊な種族のようなので、念のため、登録は避けたところでもある。


「まあ、百歩譲って『竜族』との【因子所持者(ハイブリッド)】ってのはあり得なくないかもしれない。聞いたことないけどな。でも、あれは“混沌の導き”の効果なのか? あれはないだろ」


「……なんのことかしら」


「とぼけんな。あいつ、俺の【魔法陣】をかき消したんだぞ?」


「あなたの構築が甘かったんじゃないの? 魔力が足りなかったとか」


「あのな、俺が実戦で何百回、あの【魔法】を使ってると思ってるんだよ。《炎の矢(フレイムアロー)》を斬ったのは、あの【魔鍵】の力かと思ったけどな、最後のは違うだろ。脚で蹴っただけだ。しかも発動前の、『俺の支配下にあるはず』の【魔法陣】をだ。あんたも魔導師なら、これがどういうことかわかるだろ?」


 【魔法陣】は世界から【マナ】を吸収して方向性を持った【魔力】に変換するために、使用者自身の【魔力】によって構築された魔力回路だ。実体はなく、術者以外の外部から影響を与えることもできない。

 【魔力】とは術者の意志。術者が自己の存在を維持するための力の余剰部分を使って構築するのが【魔法陣】。

 それをかき消すということは、ある意味では他者の存在そのものを否定するということ。

 そんなことは、【事象魔法コマンド・オブ・ルーラー】にだってできない。『神』でさえ、他者の存在を根本から否定することはできないのだ。だとすれば、あの力は何なのか?

 アリシアの鑑定にあった“混沌の導き”の力『確率の変動』というやつだろうか?

 ……否、そんな生易しいものではない。


「……わからないわよ。言いたいことはわかるけど、なら、どうしろって言うのよ?」


 わたしは自分でもよくわからない感情に襲われ、不覚にも目に涙を浮かべてしまった。


「へ? いや、ちょっと待て、なんで泣くんだ? ごめんごめんごめん。ごめんなさい。ただ、なんつうか、気をつけろよって言いたかったんだって!」


「え?」


「まあ、俺はさ、知ってのとおり、戦闘にしか興味がない男だ。だから、奴についてもまた戦ってみてえな、ぐらいにしか思わないけどな。他はそうはいかんだろ。あんな面白そうな奴を訳の分らん連中の思惑なんかでつぶされちゃ、困るんだよ」


 わたしは、あまりのライルズの言い草に、思わずぽかんと口を開けてしまった。


「お、珍しい表情だな。でも、まあ、そこまで思われてんなら、奴も幸せもんだよな」


「な、なななな! 何を言ってるのよ!」


「何っておいおい、泣くほど大事な仲間なんだろ?」


「うう、そういう意味ね……。いずれにしても冒険者をする以上、リスクは避けて通れないし、実力があれば【フロンティア】開拓任務を求められるのも当然。誰かの思惑でどうにかなるものでもないし、心配は無用よ」


「ま、そりゃそうだ。確かにあの二人、とんでもないぜ。俺が勝てたのは、【魔鍵】の神性で押し切ったからだろうよ。ギルド初心者が【魔鍵】を『硬気功』で防ぐとか、俺の必中の同時攻撃を初見で回避するとか、ありえないよな、ほんと」


 ライルズは楽しそうに戦いを振り返る。どうやら彼は、本当にルシアたちのことを心配してくれただけのようだ。


 まったく、冒険者の人たちには本当に変わりものが多い。特に高ランクになればなるほど、その傾向が強いみたい。

 わたしは彼に改めて礼を言うと、晴れ晴れとした気持ちでその場を後にした。


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