表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界人と銀の魔女  作者: NewWorld
第11章 希望の道と神の絶望
138/270

第109話 異世界からの侵略者/覚えのない夢

     -異世界からの侵略者-


〈これからする話は、いわば身内の恥だ。【歪夢】や『モンスター』というものをお主らが理解する、その助けになればと思って、恥を忍んで話をさせてもらおう〉


 ファラは念入りすぎるぐらい念入りに、そんな前置きをした。その顔に笑みはなく、これから話そうとしている事柄のくだらなさに、呆れかえっているかのような表情を浮かべている。


〈……千年前の世界に『邪神』と呼ばれる存在がいたことは知っているか?〉


「ええ、『魔族』の間では『神』が滅び、【魔鍵】へと姿を変えることになった原因ともされているわね」


〈その正体については?〉


「……確か『神』の力が通じなかったことから『異世界からの侵略者』だった、なんて話も聞いたことがあるけれど……」


 異世界? 俺のいた世界のことか?


「いや、ちょっと待て。それはおかしくないか? 【異世界】は、この世界に絶望した『四柱神』が創ったって話だったろうが。なら順番が逆だろう?」


 それまで黙って聞いていようと思っていた俺ではあったが、流石に気になって言葉を挟んでしまった。


「ええ、だからあくまで伝承よ。真実では、ないんでしょうね……」


 シリルが苦々しげな顔でつぶやく。『魔族』の連中は『伝承』とやらを使って、どれだけの真実を嘘で塗り固めてきたのだろうか? それに翻弄されてきたシリルの胸中も穏やかではないのだろう。


〈そのとおり。真実は残酷で、馬鹿馬鹿しい限りのものだ。……もったいぶっていても仕方がないからはっきり言おう。──『邪神』は神々が生み出したものだ。自らの力の及ばない存在として、自分たちの手で生み出した、自作自演の化け物なのだよ〉


「……自作自演の化け物? そんなものに『竜族』は苦しめられたというのか?」


 ヴァリスはそう言って低く唸る。彼から聞いた話では、『竜族』の間では『邪神』とは、凶悪で手の付けられない天敵のような存在として語り継がれていたらしい。そこへこんな話を聞かされては、彼が驚くのも無理はない。……俺も、黙ってなどいられない。


 なぜなら──


「……なら、『神』は自分で自分を滅ぼしたってのか? 奴らは、最初から狂ってたっていうのか? 俺を……創った連中も? そんなの、冗談じゃない!」


 俺は叫ぶ。そんな救いのない話があるだろうか?


「……ルシア、落ち着いて。『神』は『邪神』に滅ぼされたわけじゃないわ。……どうして、こんな簡単なことに気付かなかったのかしら?」


 シリルは何かに気付いたように首を振り、俺の言葉を遮った。


〈そのとおり。『神』は『邪神』を『竜の谷』に押し込め、『竜族』もろとも封印した。だが、なぜ自らの力が通じぬはずの存在に、そんなことができたのか? ……答えは簡単だ。いざとなれば自分の創り出したものを従わせられないはずもない。それすらも、『無意識』だったのだろうが……〉


「……理屈はわかるんだが、理由がさっぱりわからないぞ」


〈すまないな。遠回しに言うつもりもなかったのだが、内容が内容なだけに、やはり口が重くなる……〉


「いや、それはいいけどさ……」


 俺も、つい熱くなってしまった。どうも昔の話が関係すると、感情的になってしまう。


〈核心を話そう。『邪神』──否、【事象魔法】《異世界からの侵略者(アウトサイダー)》とは、自らの過ちを認めたくない神々が『無意識のうちに』創りだした仮想敵だ。すべての責任を押し付けるためのスケープゴート。『神』の法則が通じない|《無法者》(アウトサイダー)……〉


「……レミル。彼女も言ってた。わたしは間違ってなんかいない。わたしは正しい。悪いのは全部、あいつらなんだって……」


 それまで黙っていたアリシアが、ぽつりと漏らす。『レミル』と言うのは、アリシアの【魔鍵】に名を持つ『神』だったか。


「まるで子供だな。いや、子供だって自分の間違いを認めるぐらいはできそうなものだが」


 さすがのエイミアも、あきれた顔をしている。


〈だが『神』にとっては、それは死活問題だ。わらわたちは高次精神体。想うだけで世界を変える存在であり、『想うだけで世界に存在する存在』なのだから〉


「つまり、己の過ちを認めることが、己の存在の否定につながる?」


〈そこまで極端ではないが、人間が考えるより簡単ではないことは確かだ。『神』としての力が強ければ強いほど、己の絶対性を信じて疑わない──否、疑うことができない〉


 ──わらわから見れば実に馬鹿馬鹿しい限りだが、とファラは続けた。


「なあ、それはわかったけど、それがモンスターと何の関係があるんだ?」


 ファラは核心を話すと言ったが、核心どころか本題にかすりもしていないのではないだろうか?


〈モンスターは【歪夢】によって生まれるのだろう? そして【歪夢】は『神』の残留思念を元にしたものだ。この場合、残留思念とは、『神』が最も強く心に念じた思いということだが……〉


「……考えたくないことほど、余計に『考えてしまう』?」


 アリシアがファラの言葉を継ぐように言った。


〈そう、それこそ絶望的なまでにな。『邪神』は『神』の敵。モンスターは『神』の魂を宿す人間の敵。つまりモンスターとは、形は違えど『邪神』をいびつに複写したような存在なのだろう〉


 それはまさに、配役を替えながら、繰り返される演劇のようだ。フェイルが言ったとおり、この世界は『神々の悪夢に踊らされている』のか……。


「歪んだ夢……前にシリルも言ってたけど、まさに『狂える意識の堂々巡り』ってわけだな」


 狂える意識の堂々巡り。


……そう言えば、シリルがその言葉を口にしたのは、『オルガストの湖底洞窟』で【歪夢】を見た時だったはずだ。だが、あの時点では、シリルだって今の話は知らなかったんじゃないのか?


「え? わたし、そんなこと言ったかしら?」


 シリルは、俺の言葉に不思議そうな顔をした。忘れてる? まあ、シリルだって人間だ。あのときは皆が【歪夢】の姿に動揺しているみたいだったし、無理もないか。


 何となく感じた違和感を、このときの俺はそんな風に解釈した。


「……そっか。それで【歪夢】を見たとき、気持ちが悪い感じがしたんだね。何か間違ったものを見せられているみたいな、そんな感覚だった……」


 シャルはその時のことを思い出したのか、腕で身体を抱えるように身を震わせている。


「俺だけ平気だったのは、俺の中にいるのがファラだったからか?」


〈確証はないが、恐らくそうなのだろうな。……だが、ゆえにこそ、わらわにはどうしてもわからないことがある〉


「神々はどんな過ちを犯したのか? そして、彼らが本当に『恐れていたモノ』は何だったのか?……ね」


〈うむ〉


 シリルの言葉に頷くファラ。仮想敵を生み出してまで目を逸らそうとした現実とは、いったいどんなものだったのだろう? 俺には想像もつかない。


〈わらわと他の『神』の違いは、『世界の改変』に関わったか否かだ。つまり、【自然法則(エレメンタル・ロウ)】の上位法則としての【幻想法則(ソーサラス・ロウ)】。その構築作業に問題があったということだろうが……〉


 さすがにファラも、それ以上のことはわからないらしい。

 だがこれで、俺はともかく、他の皆がモンスターや【歪夢】、あるいはこの『ゼルグの地平』に感じる嫌悪感や恐怖感の源を知ることはできた。得体の知れない感覚を抱えたまま敵と戦うより、大分ましになっただろう。


「確かに、僕も少し心が軽くなった気がするな」


「そうだな。理由のない感情ほど相手にしにくいものはない。ファラどの。助かった。礼を言う」


 ん? エリオットはわかるけど、ヴァリスには【オリジン】は無いんじゃないか? 俺がそう言うと、シリルが説明してくれた。


「ヴァリスの場合はアリシアと繋がっているから、影響を受けているのよ。彼女がヴァリスの心を読めない原因も、むしろそこにあるんだろうけどね」


「……そっか、ごめんね? ヴァリス」


 アリシアが申し訳なさそうに言うと、ヴァリスはみなまで言うなとばかりに首を振る。


「言っただろう? 我はお前に感謝しているのだと。……それに、それ以上に我は、お前と繋がっていることを悪いことなどと考えていない。気にするな」


 その言葉を聞いて、アリシアの顔が心なしか赤くなったようだ。なんだかいつにも増して、いい雰囲気になってきているな。一体何があったんだろうか?


「さて。それじゃあ、話もひと段落したところで、後片付けに入りましょう?」


 シリルの号令とともに、皆が一斉に食事の片づけを始める。いつの間にか役割分担まできっちり決まっているあたり、シリルはさすがだ。俺も昔は部隊長なんて務めたことはあったが、あの頃のメンバーはみんな勝手ばっかりしてやがったからなあ……。


 ……駄目だな。どうしても感傷的になってしまう。それもこれもこの灰色の世界が、かつての俺の世界によく似ているからだ。……などと深刻なことを考えているようで、今の俺は、シャルが《凝固ソリッド》で空気中の水分を固めて造ったタワシによる皿洗いに従事しているというのだから、何とも締まらないが。


「それにしても、ホント、シリルちゃんって料理上手だよねえ」


「ん? ああ、そうだな」


 隣で鍋を洗っていたアリシアが、急に声をかけてきた。

 何かを企んでいる顔だな?


「ほら、二人とも皿洗いが終わったらテントの用意をするわよ」


 するとそこにシリルから声がかかる。考え事をしていたせいか、皿洗いに随分と時間をかけてしまったようだ。


「ああ、悪い。今行くよ」


 シリルに呼ばれて、俺とアリシアはテントの設置場所へと向かう。【魔法具】のテント自体は簡単に敷設できるが、夜間に外敵を警戒するための結界の設置が面倒だった。


「料理だけじゃなくて、家事全般の手際もいいし」


「なあに、アリシア……気味が悪いわね。褒めても何にも出ないわよ?」


 シリルも何かを感じたのか、警戒気味の顔をしている。


「ううん。ただね、シリルちゃんなら、いいお嫁さんになれそうだなーって。ルシアくんも幸せ者だよねー」


「んな!?」


「ふえ!? ……ア、アリシア!」


「ほらほら、お二人さん? そんなところで息を合わせてないで結界の設置、手伝ってね? これこそ、みんなで協力しないと時間かかるんだから」


 俺とシリルの叫びにも、アリシアはどこ吹く風だ。彼女はパチリと俺に片目を閉じてみせる。……どうやら先ほどまで俺が感傷的になっていたことに、彼女なりの気を遣ってくれたらしい。


「うう、また過剰に反応しちゃった……」


 まあ、シリルには、とんだとばっちりだったわけだが。



     -覚えのない夢-


 【魔法具】による警戒用の簡易結界を周囲に設置したとはいえ、こんな危険な場所では若干の不安も残る。夜間に関しては、本来なら交代制で見張りを立てる必要があった。

 けれど、わたしたちには寝ないで済む人がいる。明日も万全の態勢で挑む必要がある以上、寝不足は避けたいところだ。だから、わたしから彼女にお願いしたのだけど──


〈まあ、見張りぐらいしてやらんでもないが、一晩中一人では、暇を持て余すなあ……〉


 寂しそうな顔でそんなことを言うものだから、ルシアが同情してしまい、自分も起きているなどと言い出す一幕もあった。とはいえ、そんなわけにもいかないため、結局は代わりに『ファルーク』と『リュダイン』を一緒にいさせてあげることにした。彼等なら今では魔力供給がなくても具現化できているし、睡眠も基本的には必要ない。


「まったく、ルシアもなんだかんだでファラには甘いのよね」


「ふふふ、でもしょうがないよ。ファラちゃんって黒髪の頃のシリルちゃんの顔をしてるんだよ? そりゃ、ルシアくんだって甘くなるんじゃない?」


 同じテントで床についたアリシアが、性懲りもなくそんなことを言ってくる。


「……もう、とにかく寝ましょ?」


「うん。お休み、シリルちゃん」


 しばらくして、アリシアの方から規則正しい寝息が聞こえてくる。


 ……今後の不安材料としては、やっぱりアリシアが【魔鍵】を使えないことだろう。早く寝なければと思いつつも、わたしはそんなことを考えていた。彼らが自分で選んでくれた道とはいえ、この『ゼルグの地平』にみんなが足を踏み入れたのは、主にわたしのためなのだ。

 ノエルには絶対に生きて帰る、と伝えたけれど、それ以上に『みんなで』無事に帰りたい。でも、もしものことがあったらと思うと……。

 『考えてはいけないことほど、余計に考えてしまう』か。まったくそのとおりね。


 わたしはどうにか気を落ち着けると、ようやく眠りに落ちることができた……。



 ──淡く、ぼんやりとした景色が見えてくる。


〈神々は我らを見捨てたのだ!〉


〈いや、違う。あの方々は我らに【神機】を残してくださった。『神』は我らに試練をお与えになられたのだ!〉


〈なら、何だというのだ。形ばかりの力の断片を残されて、この『分断された世界』で我らに一体何ができる!〉


 いがみ合う声が響く。うるさいな、と『私』は思う。


〈ウフフフ。もはや『神』など過去の遺物。皆も見たでしょう? あの存在を。『神』を超越した新たなる変革者。あれにこそ、我らは希望を見いだすべき……〉


 新しい声は、議場にあふれる多数の罵声によってかき消された。


 くだらないくだらないくだらない。

 馬鹿馬鹿しい馬鹿馬鹿しい馬鹿馬鹿しい。

 クズとカスとゴミばかり。よく吠える犬ばかり。

 腐臭を放つ老害ばかり。

 汚い汚い汚い汚い。醜い醜い醜い醜い。


〈あなたは、どうお考えですか?〉


 そんな声。尊敬、崇拝、憧憬、敬愛。声に込められたそれらの感情に、私は少しだけ興味を引かれ、そちらを見る。まだ年若い同族の顔。銀の髪に銀の瞳。この会場にいる『魔族』たちと同じく、色濃く『神』の恩恵をその身に残した少年を見て……私は、『おいしそう』と思ってしまった。


〈え? そ、それは……。その、あなたを尊敬しているからです。この場にいる誰よりも、あなたは優れている。だから、あなたに、これからの僕ら『魔族』がどうあるべきか、お聞きしたいんです〉


 どうして自分にそんなことを聞くのか? といった類の質問を、私はしたのだろう。少年は頬を紅潮させて答えている。そして、私の回答を目を輝かせて待っている。そんな彼に向かい、私は……



 ──目が覚めた。


 周囲を見回せば、すでにアリシアもシャルも起きているらしく、身支度を始めているところだった。


「あ、シリルちゃん、おはよう」


「おはよう、シリルお姉ちゃん」


「……ええ、おはよう」


 何か夢を見ていたような気がする。それも酷く重要な夢を。けれど、霧がかかったように思い出せない。わたしは軽く頭を振る。とにかく、身支度を始めなくちゃ。


 テントを出ると、男性陣もちょうどテントから姿を現し始めていた。


「よう、おはようシリル」


「うん、おはよう」


 わたしは、にこやかに笑いかけてくるルシアに挨拶を返す。


「ん? ちょっと寝ぼけてないか?」


「え? そんなことないわよ」


「そうか? いーや、よく見るとよだれの跡が……ゲフ!」


 わたしはつまらない冗談を口にしたルシアを撃沈させると、ファラの姿を探した。睡眠の必要がないからと言って、彼女に一晩中見張りをお願いしてしまったのだ。お礼とねぎらいの言葉くらいはかけてあげないといけない。


 そして、ようやく見つけた彼女はといえば、……ホクホク顔のにっこにこ(?)だった。


〈おう、目が覚めたか。夜の間は特に異常なかったぞ〉


「そ、そう……よかった。無理を言って悪かったわね。ありがとう」


〈いやいや、よいよい。わらわもルシアの相棒として、この程度の役には立たないとな〉


 彼女は胸に『リュダイン』を抱きかかえたまま、笑いかけてくる。『幻獣』が相手だと、実体化しなくても抱けるのかしら?


〈うむ。そこは根性で何とかした。こいつらは話ができないからな。触れなければ、やることがない〉


 根性? そんなものでなんとかなるの? と言おうと思ったけれど、この女神様に理屈なんて通じなさそうなのでやめておく。……それにしても、『リュダイン』が全力で嫌がっているのに、彼女はまるで歯牙にもかけない。ジタバタと暴れる金の子猫に頬ずりせんばかりに、しっかりと抱きしめている。


〈よしよし、はしゃいでからに。可愛い奴め。そんなにわらわの腕の中が気に入ったか?〉


〈グルル! グルグルー!〉


 わたしが労いの言葉をかけるべきは、『リュダイン』だっただろうか?

 と思っていると、空からわたしの肩へと『ファルーク』が舞い降りてきた。


「あれ? どうしたの『ファルーク』?」


〈ああ、そやつは随分と照れ屋のようだな。最初はそやつを可愛がってやったのだが、ちょっと油断した隙に飛んで行かれてしまった〉


 ……ごめんね、『ファルーク』。

 わたしは『ファルーク』の頭を撫でながら、心の中で詫びを入れる。


「あ、『リュダイン』……」


 こちらに気付いたシャルが、心配そうに声をかけてくる。そこでようやくファラは、『リュダイン』を手放してくれた。


〈いやあ、動物って触り心地がいいものだな! 特にその肉球というやつが最高だ!〉


 ファラは、なおも上機嫌に笑っている。


「ま、あいつは物を触るってことに飢えてるんだよ。俺に触れたままじゃないと実体化できないってのは、やっぱり不便なものらしくてな。思いがけなく『幻獣』に触れたんで、はしゃいでるんだろうな」


 いつの間にか、ルシアがわたしの背後に立っていた。


「そう……じゃあ、仕方ないわね」


 そんな事情があるとなれば、時々は触らせてあげてもいいかもしれない。


 それから、わたしたちは再び隊列を組んで歩き出す。『ファルーク』の視界を借りて上空から確認した限り、小さな建造物らしきものがある場所が見えた。まだ少し歩く必要はありそうだけど、間もなく到着するだろう。


「シャル。結界を張りっぱなしにしていて疲れない?」


「うん、大丈夫。思ったより平気だよ?」


 シャルの顔には無理をしているような様子は見えない。どうやらルシアの【オリジナルスキル】“理想の道標”による『理想化』は【魔法具】の魔力運用効率まで大幅に改善しているらしい。改めて考えると、本当にとんでもない能力ね。


「でも、どうしてファラさんってそんなに凄いんですか?」


 シャルも同じことを思ったのか、そんなことを言い出した。

 ルシアは【魔鍵】の能力にしても、【オリジナルスキル】にしても、破格のものを有している。それはつまり、ファラが特別だからだろう。と、思ったのだけれど──


〈ふふん。まあ、わらわが凄いのは当然だが、こやつの能力が特別なのは、【オリジン】の保有量の違いも大きな理由だろうな〉


「保有量、ですか?」


〈そうだ。これまでにわらわが見た人間に限っての話になるが、個人差はあれ、現在の人間たちに宿る【オリジン】は本来必要な量には程遠いようだ。まあ、『古代魔族』のシリルは、それなりにあるようだがな〉


「……そうね。わたしは『そういうふうに』造られているから」


 とはいえ、わたしの場合は『魔族』でもあるせいか、適合する【魔鍵】は存在しないらしい。アリシアに見てもらっても“魔鍵適性者”の【種族特性】は備わっていないのだ。


〈わらわが言いたいのは、ルシアの場合、そんなシリルですら比較にならぬ【オリジン】を有しているということだ。なにしろ『神』の力の一部ではなく、一柱の『神』全部をその身に宿しているのだからな〉


「なるほど……それなら納得です」


〈だが、まあ良く神経が焼き切れなかったものと思う。一柱分の【オリジン】など、常人に耐えきれるものではないぞ?〉


「……まじかよ。そんな危ない状況だったのか。俺?」


 案外、最初にルシアとわたしが出会った時、彼が倒れたのはそのせいだったのかもしれない。


〈きっとこの男の頭があまりに空っぽだったので、どうにか入りきれたということだろうな〉


「誰の頭が空っぽだ! 失礼なことを言うな!」


 ルシアは抗議の声をあげたけれど、周囲では皆がしみじみと頷いていた。


「え? 嘘だろ? 俺、そんなに頭悪いと思われてたのか? うう、ショックだ」


「うーん、頭悪いとかじゃないんだけど、何て言うかな、そう……」


 落ち込むルシアにアリシアが慰めの言葉をかけようとして、言葉を詰まらせる。


「焼き切れるような神経がない?」


 言葉を継いだのはシャルだった。


「結局、そこなのかよ!!」


 ルシアは傷ついたような顔でわたしを見た。なんだか、救いを求められているみたいね。 わたしは軽くため息をつくと、仕方なく『絆の指輪』の念話機能で呼びかけてあげた。


〈ほ、ほら、良く言えば器が大きいってことでしょう?〉


〈いまいちフォローになってないし、できれば声に出して言ってほしかったんだが、慰めてくれて、ありがとな……〉


〈うう、仕方ないじゃない。この状況でわたしがあなたをかばったりしたら、またアリシアから何て言われるか……〉


〈……それに関しては心配するだけ無駄じゃないか?〉


〈え?〉


「んふふ、仲良さそうだね? お二人さん? 何を話していたのかな?」


 突然の声に、慌てて念話を中断する。いつの間にか、アリシアがにんまり笑ってこちらを見ていた。あ……しまった。細かい念話の内容はともかく、念話そのものがあったことぐらいには気づくわよね、アリシアなら……。


 それからしばらくの間、アリシアからの質問攻めが、しつこいくらいに続いたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ