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異世界人と銀の魔女  作者: NewWorld
第10章 魔導の都市と繋がる世界
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第96話 ペットとショッピング/カリスマ魔族

     -ペットとショッピング-


 その気配は、僕らが元老院の建物から出て以降、つかず離れずの距離を保ってついてきている。恐らくそのことに気付いているのは僕と、それからエイミアさんだけだろう。ヴァリスにも“超感覚”があるはずだが、この気配の主は『敵意』を見せていない。尾行や監視のための視線と街行く人々の好奇の視線とを区別できるほどには、彼もこういったことに慣れてはいないのだろうか。


「どうする、エリオット?」


「どう、と言われましても……」


「わたしとしては、このままついてこさせるのは得策でないと思う」


「じゃあ、どうするんです?」


 そこで不意に、会話が途切れる。それは単に、エイミアさんが自分の言葉に一拍の間を置いただけだ。だが、それだけでも僕には、彼女が何をしようとしているのかが分かった。


「──むろん、こうする」


〈還し給え、一の光〉


 横目で対象を確認しただけで、エイミアさんは背中の弓を手に取り、歌うように言葉を唱えた。


「ひ!」


 天から降り注ぐ一本の光の矢。それはその人物の鼻先をかすめ、地面に深々と突き刺さった。僕はその人物の姿を視界の正面に収める。尻餅をついておびえた表情を浮かべた彼は、僕と目が合うと、慌てたように立ち上り、走り去っていく。


「へえ、“黎明蒼弓フォール・ダウン”って、こんな場所でも使えるのか」


「ん? ああ、どうやら【異空間】であれどこであれ、『青い空』があれば関係ないらしい。わたしの【魔鍵】も案外いい加減なのかもしれないな」


 感心したように言ったルシアに、エイミアさんは空を見上げながら答える。


 だが、今のルシアの口ぶりからすると、彼も先ほどの尾行には気づいていたのだろうか?


「そりゃな。ヴァリスだって気づいてたろ?」


「そこまで我も鈍くはない」


「でも、ならどうして何も言わなかったんだ?」


「エイミアさんがやってくれそうな気はしたからな。……いや、違うか。ほら、あの二人。何か邪魔しちゃ悪い雰囲気だろ?」


 ルシアが指し示す先には、楽しそうに笑うシリルとシャルの姿。それから二人の様子を指をくわえて物欲しそうに見つめる、アリシアさんの姿があった。そして、その原因は、彼女たちが連れ添っている『生き物』にある。


「ほら、シャル。『ファルーク』は頭がいいのよ。わたしが言った言葉には、ちゃんと反応してくれるの。シャルの呼びかけにだって答えてくれるわよ」


「え? ほんとう? ……『ファルーク』ちゃん?」


〈キュアァ〉


 白銀の飛竜は雄々しく翼をはためかせ、シャルの呼びかけに答えた。

 ──ただし、シリルの『肩の上』で愛想よく、小首を傾げながら。


「可愛い……」


 シャルは紅潮した頬を緩ませ、小鳥サイズの飛竜『ファルーク』の頭を撫でている。飛竜もまた、気持ちよさそうに目を細めていた。

 すると今度は、シャルの隣で何かがぴょんぴょんと飛び跳ねた。


〈グルグル!〉


「あ、『リュダイン』! どうしたの?」


 シャルが『見下ろした』先には、頭に丸い小さな一本の角を生やした黄金の獣がいた。『リュダイン』と呼ばれたそれは、かつての馬の姿ではなく、子猫のような姿をしている。


「ふふ! ひょっとして、嫉妬しているんじゃないかしら?」


「え? 嫉妬?」


 シリルの言葉に、シャルは不思議そうに首をかしげる。


「あなたが『ファルーク』のことばかり可愛がるものだから、ね」


「あ! ごめんね? 『リュダイン』。おいで」


 シャルは自分の足元をぴょんぴょんと跳ね回る獣をひょいとすくい上げると、自分の胸元に抱え込んだ。


〈グルル〉


 シャルの胸元で、満足そうに喉を鳴らす黄金の獣。


「あーん、いいなあ! あたしもそんな可愛いペットが欲しい!」


 悔しそうに水色の頭をぶんぶんと振るアリシアさん。

 確かに、微笑ましい光景だとは思う。

 けれど、彼女たちとじゃれている小型の動物たちが実は、Aランクモンスターにも匹敵しかねない調整後の『幻獣』だと言って、一体誰が信じてくれるだろうか?


 ──『ラフォウル・テナス』での調整を終えた後、ローナさんが僕たちに教えてくれたところでは、本来の力をいくらかでも取り戻した『幻獣』なら、召喚者からの【魔力】供給がなくても、いわゆる仮の姿で具現化し続けていることができるらしい。

 鳥が飛竜に、馬が猫に変わっているのは、【召喚】という技法が術者のイメージを頼りに対象を具現化させるからで、召喚時にシリルが鳥を、シャルの養父ジグルドが馬をイメージしていたのが元の姿に影響を及ぼしていたということのようだ。


「ま、もっとも術者が死ねば、すぐにでもモンスター化するリスクはある。だから、くれぐれも死なないことだ。──特にシリル、君はね。神獣クラスがモンスター化なんかすれば、『魔神』並みに始末に負えない存在になるんだからな」


 ローナさんは別れ際に、そんな忠告をしてくれた。


「……ありがとう。心配してくれて」


 シリルはそんなローナさんに、神妙な顔で礼を言った。


「心配? おかしなことを言うものだね。それに、礼を言うならノエルにだろう? わたしは君になんて興味はないし、どうなったって関係ない。自分のやりたいことをやっただけさ」


「『魔族』の中にも──ノエル以外にも、貴女みたいな人がいてくれてよかったわ」


「いやだからわたしは……。ああ! もう、君は人の話を聞かないなあ!」


 『興味はない、関係ない』なんて言ってはいたけれど、わざわざシリルが来るタイミングに合わせて他の職員全員を休ませたこと自体、人間を見下す『魔族』や『最高傑作』を品定めしようとする研究者たちを僕たちに会わせまいと、配慮してくれた結果だったのではないだろうか?


「──『元老院』が放った尾行にしては、随分レベルの低い奴だったけど、何かの罠じゃないか?」


 回想を続けていた僕はふと、ルシアの声に我に返る。


「……かもしれないね。油断させておいての二重尾行だってあり得ない話じゃない。気配を消す【魔導装置】の類だってあるかもしれないし」


「それはないわよ」


 僕の言葉を聞きつけたのか、それまでアリシアと二人で『リュダイン』を撫でていたシリルが会話に参加してきた。


「その手の【魔導装置】なら、さっきからずっと警戒しているけど“魔王の百眼”でも感知はできないわ。もちろん、用心に越したことはないけれどね」


 ……はしゃいでいるように見えて、完全に気を抜いていたわけでもないってことか。僕たちが思うのと同様、シリルにとってもここはもはや、敵地も同然の場所なのかもしれない。

 とはいえ、僕たちとしてはこの都市に来たもう一つの目的を果たす必要がある。つまり、装備品の充実だ。


「装備品ってことは、魔法具屋さんみたいなところに行くの?」


 シャルは、エイミアさんとアリシアさんを含め、こちらを警戒するような目で見ている。──前にアルマグリッドで不本意ながら彼女の捕獲を手伝って以来、なんだか僕まで警戒されているみたいだ。


「ええ。でもこの都市には【魔法具】や【魔装兵器】以外の装備なんて売っていないから、単純に武器屋というべきかしらね。でも、わたしもこの街でそんなものを買う機会はなかったから、店なんて知らないけど……」


「それなら安心しろ。レイミがわたしにお勧めの店を教えてくれたからな」


「え? レイミさんから? 本当ですか?」


 僕はあまりの意外さに、思わずエイミアさんに聞き返してしまった。 

 まさか、あの不良メイドがそんな気の利いた親切を?

 けれど、エイミアさんはそれを別の捉え方をしたみたいで、僕の肩に手をかけて笑う。


「レイミのことが気になるのか? まあ、その、彼女のせいへ……い、いや『趣味』からすると少し……いや、だいぶ大変かもしれないが、諦めなければ振り向かせることだってきっとできるさ!」


「……」


 言葉の端々に何かひっかかるものを感じたものの、エイミアさんの相変わらずの調子に、僕は少しだけ凹んでしまった。


「ほらほら、うつむくんじゃない。君はキリっとしていれば男前なんだから、ちゃんとしないとな?」


「は、はい!」


 彼女のちょっとした言葉に一喜一憂してしまう自分が情けない……。でも、今のはかなり嬉しかった。少しでも彼女にそう思ってもらえるなら、僕は頑張ろう。

 顔を上げ、背筋を伸ばし、前を向く。まずは、それからだ。

 それから歩くことしばらく、エイミアさんの案内で僕らは一軒の武器屋に辿り着く。 


「ここが武器屋、なんですか?」


「あ、ああ。渡された地図の通りだから間違いはないと思うが」


 僕はエイミアさんが手に持つ地図を覗き見る。確かに、間違いはなさそうだ。だとするとやっぱり、僕らはあの不良メイドに騙されたのではないだろうか?

 なぜといって僕らの前にある建物は、これでもかというくらいにキラキラとした装飾の施された、恐ろしく派手な店構えをしているからだ。どう考えてもこれは武器屋じゃない。武器屋には看板の周囲に動物を模したマスコットの絵なんて描かれてはいないものだし、客層だって若い女の子たちがひしめき合ってなんているわけがない。


「いらっしゃいませ! ようこそアクセサリショップ『ララ・ファウナ』へ!」


 店内に入るなり声をかけてきたのは、『服にフリルが付いている』と言うより、『フリルが服になっている』と言った方がいいような服を着た店員の女の子だった。


「う、あ」


 スカートが短く胸元が開いたその服装は、僕にとっては目に毒だ。慌てて目を逸らそうとするその前を、エイミアさんがずんずんと進んでいく。


「あ、ちょっと待ってください!」


 明らかに目的の店ではないとは思ったけれど、やむなく僕らは店の奥へと歩いていく。店の中には装飾品の類だろうか、女性が喜びそうな可愛らしいデザインの小物がたくさん置かれていて、女の子たちがきゃぴきゃぴと騒いでいる。その多くは黒髪の『魔族』ではなく、茶色や金色の髪をした人間らしき人たちだった。

 そんな中でもかわりなく、颯爽と歩くエイミアさんは、本当に格好いい。すれ違う女性が彼女の姿にため息をついているほどだ。


「ここの店長はどこだ?」


「あ、えっと、はい……。お呼びします!」


 エイミアさんに声をかけられた店員の女の子は、ぽーっとした顔をあわてて引き締めると、店の奥の部屋へと駆け込んでいく。するとほどなくして、奥から一人の男性が姿を現した。


「何か御用かな? 美しいお嬢さん方」


 タキシードのような黒づくめの服に身を固めた金髪の男性。彼が店内の女性たちに白い歯を見せて笑顔を振りまくと、一斉に黄色い歓声が上がる。どうやらただの店長というわけではなさそうだ。いずれにしても、気障な仕草が鼻につくな……と思っていたら、まさにそんな声がした。


「気障野郎め。なんかアイツ、むかつくな……」


 ルシアはいつでも正直だった。僕にはそれが、少しばかり羨ましい。



     -カリスマ魔族-


「見ない顔だね? でも、みんな綺麗で可愛いねえ!」


 店長らしき男性は、どうやら男を視界に写していないみたいだ。わたしたち女性陣だけを見つめ、甘く微笑みかけながら近づいてくる。


「まるで青い空のような素敵な髪だね。こんなに鮮やかな色、初めて見たよ。それにそっちの君なんて、まるで月の妖精のようだよ。なんて美しい銀髪なんだ! ああそれから、そっちの君も可愛らしい水色の髪と瞳がとっても魅力的だね。みんな、よかったら僕の店で働かないかい?」


 彼は、自分の魅力がどんな女性にも通じると信じて疑わない顔をしている。だが、なんというか、褒め言葉に芸がない。とりあえず女に会ったら髪を褒めておけばいいとでも思っているのだろうか?


「というか、そのつもりで来たのかな? だとすれば合格だよ。君たちみんな合格さ。そっちの子はまだ少し小さいけれど、うん、成長すれば立派なレディになれそうだ。この僕が保証するよ」


「エイミア? 殴っちゃ駄目よ?」


 シリルは彼に目もくれず、わたしに向かって心配そうな声をかけてくる。まったく失敬な。わたしはそんなに喧嘩っ早くないぞ?


「うーん、よくいるタイプだけど、心がこもっていない分、ハンスさんより酷いかな」


 アリシアはそう言って、呆れたように肩をすくめているし、

 

「なんか気持ち悪いです……」


 シャルに至っては心底嫌そうにしながら、ルシアの背後に隠れてしまった。


「……き、きもちわるい?」


 特に最後の反応がショックだったのか、石化したように固まる男性。いずれにしても、らちが明かない。さっさと用件を済ませよう。


「あー、悪いが聞きたいことがある」


「……! ん? なんだい、お嬢さん?」


 彼は、ただ一人反応を返さなかったわたしの言葉に、気を取り直したように返事をしてきた。


「ここは武器屋じゃないのか?」


「え?」


「そうか。違うのか。やっぱりレイミに担がれたのだろうか?」


 あの時のレイミはそんな様子ではなかったのだが、わたしの見込み違いだったかな?


「レ、レイミさん、ですか……?」


 おや? なにやら彼の様子がおかしい。

 わなわなと身体を震わせ、顔色を蒼白に変えている。


「ああ、ホテル『中央迎賓館』のメイドさんだ。彼女のことを知っているのか?」


「う、あ、え、ひ、ひい! し、知りません、知りません! そんな人、知りませんよお! 僕は誓って何も知りませんし、何にも見ていません! 本当ですう!」


「え? いったいどうしたの?」


 シリルが驚いて彼に声をかけるも、彼はさらに怯えたように後ずさる。


「わ、わかりました! 売ります! 売りますから、助けてください! も、もう、アレをアレするのはやめてえええ! ……ああ! そ、そこは、ソコだけはご勘弁を! あそこはイヤアアアアア!」


 彼の情けない絶叫が店内に響き渡る。

 ……レイミ、いったい何をやったんだ?


 ──それから。

 案内された店の奥には、表と違って実用的な武器防具の数々が並べられていた。思ったよりも広いスペースがある。


「へえ、すごいじゃない。でもどうしてこんな奥の方に?」


「は、はい! その、元老院の許可を受けずに武器防具を販売するのは違法なんです。特に、人間向けの【魔法具】なんかは規制が厳しくて……」


 シリルの問いかけにしどろもどろに答える彼は、名前をランディ・ハミルトンと言った。

 表の店、アクセサリショップ『ララ・ファウナ』の自称カリスマデザイナー兼店長だという彼は、それをカムフラージュに裏ではこうした武器売買も行っているらしい。


 ちなみに髪が金色なのは、あえて染めているだけであり、彼もれっきとした『魔族』なんだそうだ。レイミの話によれば、『魔族』の若者の中には様々な色の髪を持つ人間の容姿に憧れを抱く者も多く、髪の色を変えるのが一つのファッションになっているらしい。そう考えると、彼がわたしたちを見るなり髪の色をほめてきたのも頷ける。


「非合法の店って訳ね。でも、それって大丈夫なのかな?」


「元老院の許可を得ていないというのは、かえって良いのではないか? 武具と言えど、連中の検閲が入っているとなれば、どんな細工があるかわかるまい」


 ヴァリスが棚に並べられた商品を手に取りながら、アリシアと話している。


「さすがに品ぞろえはいいわね。ルシア、これにしたら? 『放魔の装甲』に治癒効果まで付加されているみたい。これなら少しぐらいの怪我は自己回復できるんじゃないかしら」


「ん? ああ、そうだな。『理想化』すればかなり良さそうだ。これでシリルに心配をかけることも減るといいんだけどな」


「ほんとよ! まったく……。何かあるたびに怪我したり、死にかけたり……。心臓がいくつあっても足りないわよ」


 ルシアとシリルも随分と仲が良さそうだ。

 さて、わたしも邪魔にならないように装備を見せてもらうとしようかな。

 とはいえ、一人では面白くないのでシャルを探しては見たものの、わたしと目が合うと、猫が全身の毛を逆立てるように警戒の気配を見せてくる。……うう、近づけない。


「あ、あの! エイミアさん!」


 突然、背後から声がする。


「どうした、エリオット?」


「よ、良かったら、ぼ、僕と一緒に、装備を選んでくれませんか?」


 『断られたらどうしよう』と顔に書いてある。そんなおどおどした調子で聞いてくるエリオットに、わたしは思わず笑みを浮かべた。可愛いこの子の頼みを、わたしが断るわけがないと言うのにな。


「うん、じゃあ、そうしよう。わたしは防御に不安が残るし、エリオットは鎧の重さをカバーできるようなものがあるといいんじゃないか?」


「は、はい!」


 わたしの言葉に嬉しそうに頷くエリオット。ただ、少しだけ表情が硬いな。前はもっと表情の面でも感情表現豊かだったし、自分のことも『オレ』と言っていたはずなんだが、まあ、それだけ大人になったということだろうか。


 買い物を始めようとすると、ランディ店長がわたしの元に近づいてきた。


「あ、あの、お、お代は……どうすれば……」


「ん?」


「い、いえ! も、もちろん、タダで結構ですう!」


 わたしが何の気なく振り向いただけで、飛び上がって叫ぶランディ店長。


「いや、何を言っている? 買い物なんだから代金は払うに決まっているさ」


「へ? あ、あ、そうですか! ありがとうございます! 元手がかかってますんで、タダで持っていかれると首を吊るところでした!」


 ……そんな状況でタダで良いなどと言い出すなんて、いったいレイミはどれだけ彼に恐れられているのだろうか? そう思うと、よせばいいのに、わたしの中の悪戯心が騒ぎ出す。


「無論、金は払うが相場が分からんのでな。後でレイミに相場のことを教えてもらおうと思っている」


 彼の顔から血の気の引く音が聞こえた。


「あ、あう……最大限、努力しますです……」


 がっくりとうなだれる彼の姿に、少しやりすぎたかとも思ったが、表の店も繁盛しているようだし、首を吊るほどのことはあるまい。


「うーん、迷うなあ。どれもみんな、可愛さに欠けると言うか……」


「アリシア。自分の命を守る道具を見た目で選ぶな」


「えー? でもヴァリスだって、あたしが可愛い恰好をしていた方がよくない?」


 おやおや、まるで恋人同士のような会話だな。わたしはつい、二人の会話に耳をそばだててしまった。


「……それとこれとは話が別だ」


「うん! 別だよねー」


 自分の言葉をヴァリスが否定しなかったことに、満面の笑みを浮かべるアリシア。仲睦まじいとはあのことを言うのだな。


「シャル、これなんかいいんじゃないかしら? 隠蔽用の結界を展開できる額冠なんだけど、【魔力】の集中を助ける効果もある上に、すごく軽くて邪魔にならないし、似合うと思うわよ」


「あ、うん! ありがとう」


 どうやらシャルは、自分を着せ替え人形にして遊んだ前科のある面々を避け、シリルとルシアについて回ることにしたようだ。


「へーえ、似合うじゃん。そうやってアクセサリを着けてるところなんかを見ると、少しは大人っぽく見えるかもな」


「……それって、いつもは子供っぽいってこと?」


「へ? いや、そういうわけじゃ……」


 相変わらずルシアは地雷を踏むのが上手だな。


「まったく、無神経なことを言うわね。女の子はデリケートなのよ? ねー? シャル?」


「ねー? シリルお姉ちゃん」


「さ、デリカシーのない男は放っておいて、他のところも見てみましょ?」


「うん!」


「あ、ちょ、おーい、待ってくれって! まいったな」


 頭をかきながらルシアは二人を追いかけていく。


「……エイミアさん?」


「ん? ああ、悪い、エリオット。どうした?」


「……いえ、その、これを」


 そう言ってエリオットが差し出してきたのは、薄紅色の輝きを宿した髪留めのようだった。恐らくは何らかの効果がある【魔法具】なんだろうが……。


「……エリオット。確かに君は髪が長いけれど、これはちょっと女の子向け過ぎないか?」


「ち、違いますよ! その、エ、エイミアさんが着けたら似合うんじゃないかと、思って……」


「わたしが?」


 そういえば、最近わたしは後頭部で髪の一部を結い上げ、髪留めで止めている。今使っているものは【魔法具】でもなんでもないので、確かにこれを代わりにするのはいい考えだ。……って、いや、そうじゃなくて──エリオットは、昔とは違うわたしの髪型に気を留めてくれたのだろうか?


「あ、あの、ごめんなさい……」


「なんで謝る?」


「余計なことでしたよね? あの、気を遣わなくていいです。気に入らないなら……」


 わたしがすぐに返事を返さなかったものだから、わたしが悩んでいるものと勘違いをしたらしい。まったく本当に、可愛い子だな。


「そんなわけがないだろう? いいじゃないか、それ。わたしはとっても気に入ったぞ? だが、人に勧めてくれたからには、それは君が買ってくれるんだろうね?」


「も、もちろんです!」


 恋人同士のやり取りとは程遠いけれど、これはこれでいいものだ。わたしは何故か、胸の中が温かくなるのを感じていた。


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