第84話 王城マギスレギア/獅子王レオグラフト
-王城マギスレギア-
冒険者ギルドの本部でルシエラとヴァルナガンと出会った翌日、僕たちは約束の時間に王城マギスレギアの城門前に集まっていた。
「やっぱり、王城って言うだけのことはあるよな。一個の建物だけで見たら、流石にギルド本部より大きいみたいだし」
「ええ、そうね……」
ルシアが素朴な感想を漏らすも、シリルは上の空といった様子だ。これから向かう先は、『魔族』の本拠地にして、シリルの故郷だ。いろいろと感傷的になることが多いのかもしれない。
とはいえ、そんなことより……
「あの二人、約束の時間を自分で指定しておいて、いつまで待たせるつもりだ?」
エイミアさんが何度目になるかわからない愚痴をこぼす。実のところ、彼女はすごく気が短い。僕としては彼女がいつ痺れを切らしてしまうか、気が気でなかった。とはいえ、勝手に中へ向かうわけにもいかない。王城内で一般人が入れる場所は、城門から一階大広間を結ぶ途中の取次所がある小部屋までだ。そこまで入るにしても、城門自体にも門番がおり、合理的な入城理由が話せなければ通してもらえるはずもない。
そんなことを考えていると、ようやく例の二人が姿を現した。
「遅くなりまして申し訳ありません。馬鹿が寝坊しまして」
羽飾りが装飾過多な白装束に身を包む金髪の美女、ルシエラが表情一つ変えずに詫びの言葉を口にする。
「ああ? 寝坊だって? 何言ってんだルシエラ、朝っぱらから小難しい調査だのなんだのって……、ってなんだよ?」
全身に鎖を巻きつけた大男、ヴァルナガンはルシエラから冷たい視線を向けられて、焦げ茶色の目を白黒させる。
「それは機密事項だと言ったはずです。ほんの数秒前に話したことを忘れたのですか?」
「あれ? そうだっけか?」
「馬鹿につける薬が無いことが、嘆かわしいばかりですね」
言葉とは裏腹に、ルシエラの声には呆れたような響きすらない。
──日常茶飯事にして予定調和。彼女の前ではすべてが万事、そうなのかもしれないと思わせるような冷淡な口調だった。
「漫才はいいから、早く案内してくれるかしら」
「ええ、承知いたしました。参りましょう」
シリルの皮肉にさえまるで反応を見せず、ルシエラは優雅に身をひるがえすと、門番のもとへと歩き出す。
「ああ、つまんねえな。ただの案内なんざ、俺の趣味じゃないぜ」
不満そうにぼやくヴァルナガンが、僕に意味ありげな視線を向けてくる。この男は、何か僕に含むところでもあるのだろうか? 『最強の冒険者』──その肩書きが気になるとか?
「気にしちゃダメだよ、エリオットくん。あの人のはただの挑発。見た目通りの性格の人じゃないみたい……」
「え? あ、は、はい」
急にアリシアさんから声をかけられたので、僕は驚いてしまった。──見た目通りの性格じゃない、か。確かにそうなのかもしれない。でなければ、ルシエラのような女性とコンビなど組んではいられないだろう。
「ご苦労様です」
ルシエラが懐から取り出した金色の金属板を見せると、門番の兵士は最敬礼の姿勢を取って僕たちを通してくれた。恐らく内部にも伝令を走らせていることだろう。かなりの賓客待遇だ。
「それ、ライセンス証?」
「ええ、Sランクの、それも元老院直属エージェント限定のものです。これさえあれば、この国ではそれこそやりたい放題ですね」
「やりたい放題、ね」
シリルは、うんざりした声で吐き捨てる。
「どうかしましたか?」
「別に、いいわよ。早く行きましょう」
シリルの態度は明らかに棘を感じさせるものだったのに、ルシエラはまるで意にも介さず、軽く頷くと城門の中へと入っていく。事務的というか、目的以外には興味がないというか、なんとも掴みどころのない女性だ。
「綺麗なお城……」
シャルが感嘆の声をあげるのも無理はない。王城マギスレギアは、世界で最も強大な国家の本拠地だけあって、荘厳にして華麗な城だった。城を構成する石壁や石畳などは、僕が過去に見たいくつかの国の城と大差ないものの、内装そのものは天と地ほどにも違う。
取次所の小部屋を抜けた先の大広間。その正面には二階にある王の謁見の間に続いているらしい巨大な階段が設けれらており、天井は二階の高さまで吹き抜けになっている。
「あんなに大きいシャンデリア、初めて見ました!」
シャルの声に頭上へ目を向ければ、確かに目を疑うような巨大なシャンデリアがある。重量としても相当のものがあるだろう。
天井に備え付けられた巨大なシャンデリアは、全体が透明なガラス質の鉱石で造られており、ところどころに【魔法具】らしき力の込められた宝石がちりばめられていて、まばゆいほどの輝きを放っている。
「うおお、赤絨毯だ。これって土足で踏んでもいいのか?」
「……もう、みっともないから落ち着きなさいよね」
「おお? とっと。押すなよな」
隣から聞こえてきた声に視線を戻せば、ちょうど恐る恐る絨毯に足を踏み出しては引っ込めるルシアの背中を、シリルが苦笑しながら軽く突き飛ばしているところだった。
と、そこにコツコツとひびく靴の音。新たな足音の主が、僕たちへと近づいてくる。
「ようこそお越しくださいました。シリル様。それから、……『エージェント』のお二人も。私はマギスレギア魔導騎士団の副騎士団長ヴェルフィン・マルドゥスと申します。王の謁見の準備が済み次第、案内させますので、まずは来賓室へどうぞ」
そう言って恭しく頭を下げてきたのは、まだ二十代ほどに見える若い騎士だ。マントや甲冑、腰に差した剣など、騎士として当然の装備を身に着けてはいるが、そのすべてが【魔鍵】あるいは【魔法具】だろうと思わせる輝きを帯びている。
癖のない金髪に顔立ちも整っており、柔和な雰囲気もあるものの、才気と野心に満ちた若者独特の鋭い眼光がそれらを台無しにしている。そんな印象の青年だった。
「別に、王様に謁見してもらいたいわけじゃないの。『不可侵領域』を使わせてもらえればいいんだから」
シリルが素っ気なくそう言うと、ヴェルフィンは人差し指を口の前に立てるようにして声を潜めた。
「その言葉は機密事項です。くれぐれも不用意に口になさらないでください。それと、『領域』の使用許可は国王陛下自らが行いますので謁見は不可欠なのです」
「……四年前はそんな仕組み、なかったと思うけど?」
「最近は、いろいろと『物騒』ですからね」
その言葉に、アリシアさんがぴくりと反応するのがわかる。
ん? いったいどうしたんだろう?
「さあ、謁見の時間まで来賓室でおくつろぎください。……『エージェント』のお二人も『領域』に行かれるご予定ですか?」
「うんにゃ、俺たちは案内役で来ただけだけどな」
「ええ、案内役ですから『領域』の使用を確認するまでは、案内させてもらいます」
だが、ヴェルフィンはルシエラの言葉に大きく首を振る。
「その必要はございません。我々にとってもシリル様は最大級の賓客です。責任を持って送り届けさせていただきますので、御用がなければどうぞお引き取りください」
「ん? 俺らに向かって大した口のきき方じゃねえか。ええ? たかが操り人形の子分の分際で、ご主人様に逆らっても、いいことないぜ?」
ヴァルナガンはギラついた目でヴェルフィンを睨み付け、凄みを利かせるように言った。だが、酷い物言いだ。一国の副騎士団長に向かって言うには無礼にも程がある台詞だろう。
気になってヴェルフィンを見れば、やはり屈辱に身を震わせ、唇をかみしめている。ここまで言われてなお逆らえないとは、よほど『魔族』とその直属エージェントの地位は高いということか。
「ヴァルナガン、おやめなさい。失礼しました副騎士団長どの。この馬鹿は魔導騎士団始まって以来の天才と噂される貴方と戦いたいがために挑発の言葉を口にしただけです。身の程知らずの馬鹿ですが、悪気のある馬鹿ではないのでお許しください。それと、お言葉に従いまして、わたくしたちはここで辞去させていただきます。彼女たちをどうぞ、よしなに」
息もつかずに整然と言葉を並べ立てたルシエラは、呆気にとられて固まっているヴェルフィンを尻目に、そのままヴァルナガンを連れてあっさりと引き下がっていく。この異常なまでの切り替えの早さは、常人には理解しがたいものがある。
僕たちもしばらくは唖然としていたものの、どうにか気持ちを切り替えると、案内に従って来賓室へと向かうことになった。
「さて、アリシア。ヴェルフィンの言葉に妙な顔をしていたな? いったい何があった?」
案内役の人間が部屋を出ていくなり、ヴァリスがアリシアさんに質問する。やっぱり彼もアリシアさんの様子に気づいていたようだ。
「……待って。盗聴されても厄介だからね。シャル。風で音の結界を張ってくれる?」
「うん、わかった」
シリルの指示に従い、シャルが周囲に風の膜を形成する。ここに来る前に用心のためにと開発した、《凝固》の応用技法らしい。むろん『風糸の指輪』を使うという手もあったが、あれはあれで自由な会話を行うには不便も多い。
「えっとね。少しだけなんだけど、ヴェルフィンさんが『物騒』って言葉を口にしたとき、なにか悪い感情が見えた気がしたの」
「悪い感情?」
「うん。殺そうとか傷つけようとか言うほどじゃないけど、でも、なんだか嫌な感情だった」
アリシアの意味深な発言に、エイミアさんが疑問の言葉を口にした。
「だが、どういうことだ? ここは『セントラル』の支配下なんだろう?」
「さっきの様子を見れば、王もその周辺の人間も、『セントラル』に力づくで従わされている部分はあるわけだし、わたしに悪感情を持つこともあり得ない話ではないわね」
「ああ。誰だって……『操り人形』扱いされて、気分のいい人間はいねえよ」
シリルに同調するようなルシアの言葉には、かなりの実感が込められているようだった。
「いずれにしても、嫌な予感がするな。警戒は怠るべきではなかろう。ここで出される飲食物に口をつけるのもやめておくべきだ」
ヴァリスの慎重な発言に、みなが頷く。これまでの経験から言って、こういう予感めいたものは軽視してはならないものだからだ。
そして、僕たちは警戒すべき事項について、さらに詳細な検討をすることにした。
-獅子王レオグラフト-
わたしも聖騎士団長になって以来、王侯貴族などに面会する機会は多かった。だから、いわゆる「お偉いさん」というものは見慣れているはずだったのだが、彼に関しては格が違うと言うべきだろう。
「よくぞ参った。『セントラル』の誇る『最高傑作』シリル・マギウス・ティアルーンよ。一度会ってみたいと思っていたぞ」
大階段を上がりきり、巨大な扉の先に広がっていたのは、百人は優に収容できようかという広さの謁見の間。中央に敷かれた長い赤絨毯の上を歩き、一段高い場所に設けられた玉座に向けて跪くわたしたちに対し、彼が放った第一声がそれだった。
威厳に満ちた王の声。世界最大の国家マギスディバインの最高権力者『獅子王』レオグラフト・レギア・マギスディバインの名は伊達ではない。
「過分なお言葉、光栄です。陛下。ご存じのことと思いますが、わたしは『魔導都市アストラル』に向かうべく、こちらに参りました。どうか『領域』への立ち入りをご許可ください」
対するシリルは、まったく臆することなく平然と言葉を返している。挨拶の言葉もそこそこに性急に自分の望みを告げる話し方に、思わず聞いているこちらの方が冷や汗をかいてしまいそうだ。
「余を前にして臆することなし、か。大した胆力だな。顔を上げよ。『領域』に向かうにしても、時間がない訳ではあるまい。少し、話がしたい」
王たるものにそう言われては、流石にお断りしますと言うわけにはいかないだろう。わたしたちは揃って顔を上げ、彼の姿を見た。
赤みを帯びた黄金の髪を獅子の鬣のように伸ばし、謁見の場だというのに戦争にでも行くかのような豪奢で華麗な甲冑を身にまとっている。ここ数年は他国との戦争もないらしいが、まだ三十代と年若いこの王は、かつては自身で戦場を駆け回り、剣と【魔法】で数多の敵を屠ってきたという武勇の人でもあるらしい。
「人払いだ。大臣と文官どもは退出せよ」
突然放たれたその一言に、謁見の間に居合わせた彼らは騒然となる。しかし、王の言葉は絶対なのか、彼らは抗議の声一つ上げずに部屋を退出していった。
残されたのは、わたしたち『六人』と国王レオグラフト、それに数人の護衛らしき魔導騎士たちのみ。身のこなしから見てそれなりに腕の立つ連中のようだ。
「できれば貴様たちにも席を用意したうえでじっくり話をしたいところだが、この広間以外では人払いが難しくてな。ご容赦願おうか」
そんな言葉とは裏腹に、国王は玉座にどっしりと腰を掛けた体勢のままだ。
「なるほど、部屋全体に特定の【魔力波動】を停滞させておくことで、間諜が仕掛けるような盗聴用の【魔法具】の類をも発見できる仕組みを作っていらっしゃる、というわけですか」
「な! なぜそれを?」
よどみのないシリルの言葉に、国王以外の騎士たちから驚きの声があがる。
「流石は『銀の魔女』だ。……さて、単刀直入に話をしよう」
国王はさすがと言うべきか、驚いた様子もない。落ち着いた声音で賞賛の言葉を口にすると、ゆっくりと玉座から立ち上がる。そこで初めて分かったのだが、彼はかなりの長身である。過去に見た王侯貴族たちとは比較にならないほど、鍛え上げられた肉体をしている。
まだ距離こそあるものの、こちらが立つ床と同じ高さにまで降りてくる国王。見れば、腰には複雑な装飾の施された長剣を佩いていた。
「──余の、部下になれ。貴様は『魔族』どもの道具として使われるには、あまりに惜しい人材だ」
部下になれ? 何を言っているのだろう、この王様は?
あまりにも唐突な彼の言葉の意図は、いまいち掴み切れない。
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味だ。人間が『魔族』に膝を屈する時代は間もなく終わる。奴らのような過去の遺物に、いつまでもこの世界を牛耳らせておく必要などない。そうは思わぬか?」
まさか、『魔族』への敵対行為に出るつもりなのか? でも、どう考えても今までのこの国の繁栄は、『魔族』の技術力や『冒険者ギルド』のおかげだったはずだ。それをいまさら裏切って、いったい何の得があるというのか?
「『魔族』を裏切ると?」
「裏切る? 余は国王だ。もともと奴らに従う義理などない。……余は『魔導都市アストラル』へと続く『不可侵領域』を破壊・封印する術を手に入れたのだ。これが叶えば、この世界に『魔族』の手など及ばなくなる。……ふん、なまじ【異空間】などに隠れ住むから、こういうことになる」
『不可侵領域』を破壊する? 意味はよくわからないが、そんなことができるなら『魔族』だって警戒しないはずがない。つまり、『魔族』には予想もつかない手段を手に入れたということだろうか?
──だが、対するシリルの返答は、実に辛辣なものだった。
「全然、駄目ね。あなた、馬鹿じゃないの?」
「なんだと?」
「貴様! よくも陛下にそのような口を!」
魔導騎士たちが色めき立つのも当然だ。……というか、信じられない。
仮にも国王に向かって「馬鹿じゃないの?」とは、その場で首を刎ねられたって文句は言えないぞ。
「突然の話に混乱しているようだな。今の言葉は聞き流してやる。『銀の魔女』よ。貴様も奴らにただの道具として扱われているのだろう? いつまでそんな境遇に甘んじるつもりだ。余なら貴様に、その能力にふさわしい待遇を与えてやろう」
「……銀の魔女」
「なに?」
「わたしをそう呼ぶのは『パラダイム』だけよ」
その言葉に、初めて国王の顔に動揺の色が見えた。
「どうせ、破壊する術とやらも『パラダイム』に示されたのでしょう? 繰り返すけど、馬鹿じゃないの、あなた? よくそんなことで『魔族』に膝を屈する時代は終わる、だなんて口にできたわね。尻尾を振る相手を『パラダイム』に変えただけじゃない」
「……断じて違う。余は奴らと取引をしただけだ。『魔導都市』の封印については、利害が一致しているのだからな」
「それだけなら、わたしのことなんて放っておけばいいでしょ? それとも『パラダイム』にわたしの身柄でも要求されたのかしら?」
もはやシリルの言葉には、国王への敬意など欠片も見当たらない。この状況では、あまりに過激な言い回しは避けた方が無難なはずだが、彼女は見た目以上に感情を高ぶらせてしまっているようだ。……こうなると、ブレーキ役の『彼』にもいてもらった方がよかっただろうか?
とはいえ、『彼』の言うとおり、全員ひとかたまりで敵かもしれない相手の懐に飛び込むなど、愚策以外の何物でもない。
「身柄の要求か……確かに、それもあった。だが、余は貴様を奴らに引き渡すつもりはない。貴様は、余にとっての切り札になるだろう貴重な存在だからな」
国王の言葉に嘘はない。そう思わせるだけの真摯な瞳で、彼はこちらを見つめている。けれど、その言葉こそシリルにとっては決定的なものだったようだ。
「あはははは!」
いきなり大声で笑いだすシリル。
「……気でも触れたか?」
「うふふふ! これが笑わずにいられる? 今のではっきりしたわ。あなた、結局はわたしのことを道具としてしか思ってないじゃない。あなたが国民のために傀儡の王の座に甘んじているというのなら、少しは尊敬もしてあげられたのにね。ほんと、残念な王様」
シリルは目じりにたまった涙をぬぐうようにして、笑いを収めた。そして、自分の半分ほども生きていないような少女になじられ、笑いものにされた当の国王はと言えば、屈辱のあまり顔を紅潮させ、全身をぶるぶると震わせている
「なにが、可笑しい。余は、世界の雄たる魔法王国マギスディバインの国王なのだ。玉座についてから十年以上の間、余はひたすら屈辱に耐えてきた。今こそ、絶好の機会なのだ!」
その言葉に、周囲の魔導騎士たちが一斉に頷く。武官である彼らは特に、王のこうした思想に共鳴しているようだ。
「いい加減にしてくれる? わたしには、あなたのおままごとに付き合っている暇はないのよ。わかったら、さっさと『領域』に通しなさい!!」
シリルは、その小柄な体からは想像できないような声で国王を一喝する。
「……身の程知らずが。余は国王だ。従わぬなら、力づくでも従わせるまでだ」
王の合図とともに、周囲の垂れ幕から一斉に飛び出してきた連中がいる。わたしはもちろん、その気配に気付いてはいた。ただ、国王の護衛として伏兵がいるのは当然としても、魔導騎士団や宮廷魔術師団の精鋭たちをここまで揃えているとは、さすがに意外だった。
彼らのうち、宮廷魔術師たちが一斉に【魔導の杖】を構えた。そして、色とりどりの【魔法陣】が構築され、即座に【魔法】が放たれる。発動時間からすれば、初級クラスの【魔法】だろうか。
「そんなものが効くと思っているの?」
シリルはそう言いながら、『ディ・エルバの楯』を発動させる。聞いた限りでは初級魔法程度なら、わたしたち全員を守って余りあるほどの防御壁が発動できる【魔装兵器】だということだ。
「え?」
けれど、驚愕の声を出したのはシリルの方だった。
確かに、宮廷魔術師たちから放たれた【魔法】は、こちらには届かなかった。しかし、その代わりにわたしたちの周囲には、奇妙な光の輪が生じている。
「ひゃひゃ。ここが【魔法】研究の最先端、マギスレギアだと言うことをお忘れですかあ?」
耳障りな甲高い声の主は、いつの間にか王の隣に現れた禿頭の老人だ。顔に刻まれた皺やたくわえられた口髭は年輪を感じさせるものの、声だけは奇妙に若い。
「何をしたの?」
「複数の【魔法】による【相互干渉】作用ですよ。今の組み合わせは特に強力でしてな? 【魔法】の発動を妨げ、体力を消耗させる力場を発生させるものです。もっとも、ここまで効力が高いのは、この広間の『仕掛け』のおかげですがね」
「な!?」
そういえば、心なしか体が重い。見ればアリシアが苦しそうに膝をつき、座り込んでいるのが見える。相互干渉の結果は、害意ある攻撃とみなせないということか?
わたしは咄嗟に【生命魔法】を使おうとしたが、上手く集中ができない。全身を襲う脱力感はますます強まっていき、思わず顔をしかめてしまう。
……ふと、わたしを心配そうに見つめる視線に気が付く。
──エリオットだ。だが、彼はわたしと目が合うと、辛そうに顔を背けてしまった。なんだ、今のは? 一瞬だが彼の目に垣間見えたものは、『怒り』そして『憎しみ』の感情だった。彼があんなにも暗い感情を見せるのは、あの森で出会った時以来のことではないだろうか?
「ああ、申し遅れましたな。わしは宮廷魔術師長のレイフ・マダン。その【結界】の開発者です。ひゃひゃひゃ! ちなみにその【結界】は、わしの合図で爆発させることもできますので、不用意に動かない方が身のためですよ」
「ぐ……」
とうとう、シリルまでもが膝をつく。【魔装兵器】による防御壁もすでに消えており、周囲の魔導騎士たちは油断なく【魔法剣】を構えている。