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異世界人と銀の魔女  作者: NewWorld
第9章 天使と悪魔の舞踏会
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第83話 インテーク/カウンセリング

     -インテーク-


 メリーお婆さんの宿で出された夕食は、エリオットさんの言うとおり、すごくおいしいものでした。高級な材料などは使用されていなくても、仕込みや味付けの工夫ひとつでここまでおいしいものができるなんて、料理って本当に魔法みたいです。

 他のみんなも口々に料理を褒めちぎっていたせいか、いつもは無愛想な感じのメリーお婆さんも憎まれ口をたたきつつ、少しだけ嬉しそうな顔をしていました。

 料理が得意なシリルお姉ちゃんにいたっては、料理のレシピについてメリーさんを質問攻めにした挙句、一緒に厨房まで行って手ほどきを受け始めたほどです。


 シリルお姉ちゃんがあまりに真剣なので邪魔してはいけないと思い、わたしは街で買ってきた本でも読もうと部屋に戻ることにしたのですが……。


「シャル。すまないが、少し話がある」


「え? なんでしょう?」


 ヴァリスさんから話しかけられるなんて、珍しいこともあるものです。

 と、このときのわたしは、事態をあまりにも軽く考えすぎていました。ましてや自分が以前、『天空神殿』で何気なく口にした言葉のことなんて、完全に頭から消えていたのです。

 できれば二人で話したいということで、2階にある空き部屋の一室を勝手に借りることになったのですが、椅子に座って向かい合うなり、ヴァリスさんはこう切り出したのです。


「話とは、我の抱える『難題』についてだ。これから話すことについて、思うところがあれば何なりと意見を言ってもらいたい」


「? えっと、はい、わかりました……」


 最初、ヴァリスさんが何のことを言っているのか、さっぱりわからなかったわたしは、そんな風に安請け合いをしてしまったのです。


「自分なりに分析もしてみたのだが、まず、それを聞いてもらいたい。……我はアリシアのことを優先的に守るべき対象だと考えている。それは確かだ」


「えっと、そうですね。いくら【魔鍵】があるとは言っても、基本的にアリシアお姉ちゃ……あ、アリシアさんは戦闘には向かないわけですし、守る必要はあるかと思います」


 わたしが言わずもがなのことを言うと、ヴァリスさんは少し難しそうな顔をしました。


「そうではない。竜王様の使命を考えれば、我は第一にルシアを守るべきなのだ。だが、あのラドラックの宮殿でアリシアが死にかけた時以降は、我は何よりもまず、彼女を守ることに意識が向いている」


 ラドラックの? わたしはそこまで言われて思い出す。そういえばあの時、《転空飛翔(エンゲージ・ウイング)》で姿を現したヴァリスさんは、真っ先にアリシアお姉ちゃんのことを抱きしめていたのです。


 あれ? これって、もしかして……。


「使命とは矛盾する感情。だが、不思議なことに我自身、それを悪いものだとは考えていないのだ。気がつけば、我は常にアリシアの姿を目で追っている。まあ、それはシャルも気がついていたようだがな」


 それはそうです。アリシアお姉ちゃんがヴァリスさんへ寄せる好意は誰が見ても明らかだっただろうけど、ヴァリスさんがアリシアお姉ちゃんを見るときの優しい瞳に気づいていたのは、多分わたしだけだったでしょう。

 だからこそ、エリオットさんとアリシアお姉ちゃんが二人きりだと聞いた時、ヴァリスさんが連絡を取ろうともしないことに、何となく不安な気持ちになったんです。


「そういえば、こんなこともあった……」


 ヴァリスさんの話は続きます。話の内容はもちろん、アリシアお姉ちゃんのこと。

 初めて二人きりで出かけた時に、アリシアお姉ちゃんに笑顔で見つめられて、抱きつかれた時に感じた腕のぬくもりに戸惑いを覚えたこと。

 わたしを助けるため、ラドラックの宮殿に一人潜入したアリシアお姉ちゃんのことが心配で、胸の張り裂けるような思いをしたこと。無事な姿を見つけた時の安堵と、それに続く抱きしめた時の満たされた気持ち……。


 それらを延々と話して聞かされたのです。


 な、なんということでしょうか……。

 これはどう考えても──そう『恋・愛・相・談』です!!

 本でなら読んだことはあっても、わたし自身は恋愛経験なんて皆無です。とても他人の相談に乗るなんて、できっこありません。

 ましてや、話している当の本人にはまったく自覚がないんです。そんなレベルの『恋愛相談』なんて、どう考えてもわたしの手に負える話じゃありません。


「シャル? どうした?」


「あ、えっと、その、すみません。大丈夫です」


 全然、大丈夫じゃありません! 駄目です。駄目駄目です。どうにもなりません。

 どうしよう。いったいどうしたら……。


「そうか。それで、どう思う? 我の精神状態には、何か問題があるのだろうか?」


「い、いえ、そんなことないと思います」


「そうか? だが、特に不可解だったのはアルマグリッドで買い物に出かけた時だったな」


 ええ? まだ続くんですか、この話?

 聞きようによっては、のろけ話を聞かされているようなものですけれど、本人はいたってまじめで本気なんです。なんでしょうこれは? 新手の拷問ですか?


「アリシアはその日、それまでとは違う服装をしていたのだが、なぜか我はその姿に目を奪われてしまったのだ。たかが服装が違うくらいで何が変わったというわけでもない。だというのに、我はその日、アリシアからなかなか目を離すことができなかった。いったいどういうことだろうか?」


 わたしにそんなことを言われても……とは言えません。なんといっても「話してみてください」なんて最初に言ったのはわたしのはずなんですから。


「えっと、その、やっぱり女の人って服装が変わると中身まで変わって見えるものですから。その、わたしが読んだ本にも『服装ひとつで女は化ける』とか書いてありましたし」


 正確には違う表現だったかもしれませんけど、思い出せません。

 わたしの言葉にヴァリスさんはやはり、納得いかなげな表情をしていました。


「化ける? だが、我には“超感覚”がある。空間を歪められたのならともかく、目の前にいて化かされることなど考えにくいのだが……」


 ちょ、超感覚? 何を言っているんでしょう、この人は? ……駄目です。言葉がまるで通じません。


「ああ、えっと、だから……。そう、ヴァリスさんって何かを見て、綺麗だなとか素敵だなとか思ったことはないですか?」


「そうだな。前に『妖精の森』を見たときはそう感じたと思うが」


「ア、アリシアさんを見たときは、どうだったんですか?」


 ──これぞ秘技、『質問返し』。


 もう、これしか手段はありません。とにかくヴァリスさん自身でなんとか自分の気持ちに気付いてもらうんです。ヴァリスさんの様子からして、わたしの口から下手な言い方をすれば、話が変な方向に進みかねません。


「ふむ。そうだな。森を見たときはすぐにそう感じたものだが、よく考えてみればアリシアから目を離せないと思ったのは、あの服装を見た直後のことではない。つまり、服装そのものの話ではないということだな」


「そ、そう! それです!」


「つまり、どういうことなのだ?」


 あう、下手な相槌を打つんじゃありませんでした……。

 話がこっちに戻ってきてしまったじゃないですか!


「ちょ、直後じゃないとすれば、いつだったんですか?」


「確か……、『服装に見惚れていたのか?』と聞かれて、『違う。我が見ていたのはアリシアだ』と答えた時だ」


 ……へ? なんですかそれは?

 どう聞いても恋人同士の甘い会話にしか聞こえません。ひょっとしてヴァリスさん、わかっていて、のろけているのでしょうか?


「あ、あの、よく意味が分かりませんが……」


 わたしとしては、そう言うしかありません。


「ああ、そうか。説明が足りなかったな。正確には、我がそう言った後のアリシアの表情だ。いつもの笑顔とは違う……上手く表現できないが、顔を赤らめて目を潤ませた、俯き加減の笑顔だった。その様子に、我は惹きつけられてしまったのだと思う」


 ……もう、駄目です。限界です。これ以上は絶対無理です。耐えられません!

 さっきからヴァリスさんは大真面目な表情をしていますが、聞いているわたしの方は、いったいどんな顔をしたらいいというのでしょうか?

 

 一歩間違えれば思わず吹き出してしまいそうな展開ですが、それでは真剣に悩んでいるヴァリスさんに申し訳なさすぎです。


「それに今日も、おかしなことがあった」


「え?」


 わたしの思考が追いつかないうちに、矢継ぎ早に畳み掛けないでください。お願いです!  そんなわたしの胸中になど気づきもせずに、ヴァリスさんの言葉はさらに続きました。


「ルシアがシリルに絡んできた連中を追い払った時のことだ」


 話を聞くと、ヴァリスさんはそのとき、シリルお姉ちゃんとルシアの立場をアリシアお姉ちゃんと自分に置き換えて考えたみたいでした。

 あの仲睦まじい二人を自分たちに置き換えて考える時点で、それはもう『そういうこと』に間違いはないと思いますが、それをどのように伝えて差し上げたらいいのか、見当もつきません。


「シャル。ここまでのところ、まだ意見らしい意見を聞いていないように思うが、遠慮はしなくていい。我自身にもわからぬ難題だ。多少的外れかもしれないと思うようなことでも、手掛かりにはなるかもしれん。多面的な物の見方をするには、他者の考えを聞くのが一番だからな」


 ヴァリスさんが言っていることはすごく理論的で、間違ったことは言っていないのですが、それを言うべき場面が完全に間違っています。

 手がかりも何も、多面的も何も、答えは一つしかないと言うのに……。


「シャル?」


「あう、あうう……」


 わたしは完全にパニックになっていました。よし、こういうときは正真正銘、最後の手段しかありません。……助けて、『フィリス』!



     -カウンセリング-


〈そんなの無理〉


〈そう言わないで、お願い! 意見なんて言わなくても、ただ聞くだけで十分だから。ね?〉


〈シャルがわからないものが、ワタシにわかるわけがないし……〉


〈それがいいの! なまじわかっちゃう方がその、あのギャップに耐えられないと言うか、その……〉


〈あまりの滑稽さに笑ってしまう?〉


〈なんだ、よくわかってるのね〉


〈『わたし』のことだから〉


〈でも、間違っても目の前で滑稽だなんて言わないでね?〉


〈わかってる。ワタシには何がそんなに可笑しいのか、よくわからないし〉


〈あくまで、ヴァリスさんには自分の気持ちに自分で気付いてもらうこと。いい? じゃあ、お願い!〉


 その声を最後に、ワタシは『表』に出た。


「どうした、シャル? 先ほどから様子がおかしいが……」


「すみませン。シャルは疲れていたみたいデ、眠ってしまいましタ」


 ヴァリスさんの問いかけに、とっさに思いついた言い訳を返す。

 ああこれで、ワタシは嘘をつく『精霊』になってしまった……。


「む? フィリスか。……そうか。悪いことをしたな。シャルも、そうならそうと言ってくれればよかったのだが」


「いえ、大丈夫でス。それより、ワタシもさっきから話は聞いていましたのデ、よければ続きを話しませんカ?」


「いいのか? それは助かる」


 とは言ったものの、ワタシには何をどうすればいいのかさっぱりだ。ただ、困っているヴァリスさんを放っておくのは仲間として正しくないと思うから、ワタシで力になれることがあればいいのだけれど。


「ワタシの思ったことを言ってもいいですカ?」


「ああ、もちろんだ」


 とりあえず、どんなことでも手がかりになると言うのが本当なら、ワタシの感じたことでも役には立つかもしれない。


「ヴァリスさんはアリシアさんが好きなのデでょう。だから、ずっと見ていたいのデしょうし、守りたくなル。特に不思議とは思いませン」


「だが、好悪の情でいうなら、我は他の仲間に対しても悪感情を抱いてはいない。アリシアだけというのは奇妙だろう」


「ですかラ、アリシアさんは特別なのデしょう?」


 他の人と違うというのなら、それは特別だということだ。ここまで言えば、ヴァリスさんも気づくところがあるに違いない。すると、ヴァリスさんは何かを考え込むように黙り込んでしまう。

 なにか、まずいことでも言ってしまっただろうか?


「特別? そうかもしれん。だが、なぜだ? 一体、他の者とアリシアとで、何が異なるというのだろう?」


 『アリシアお姉ちゃん自身が特別』という意味で言ったわけではないのだけれど、やっぱり「自分で気付いてもらう」というシャルの考えは無理そうだ。

 なら、ワタシの考えでやってみよう。……決して、面倒になったわけではなく。


「他の人との違いですカ……。やっぱり、本人に聞いてみるのが一番デは?」


「本人?」


「ハイ。他の人と違うところがあるなら、それはアリシアさん自身が一番よく知っているはずでス。ヴァリスさんの思うところを伝えれば、それがわかるのデは?」


 想いがあるのなら、さっさと話してしまえばいい。そうすればすべてがはっきりするだろうし、ヴァリスさんがアリシアさんのことが好きなら、それを伝えないのは不思議なことだ。ワタシは至極当然にそう判断する。

 なのに、なにやらワタシの中でシャルが慌てているみたいな気配がする。けれど、『眠った』と嘘をついた以上、いまさら入れ替わることもできない。


〈ま、まずいよ、フィリスぅ……〉


〈だって、シャルの考えじゃ埒があかないから。さっさと話せばそれで終わりでしょう?〉


〈自覚もないまま話しても、変な風にこじれちゃうでしょ? うう、パニックのあまり替わっちゃったけど、良く考えてみればヴァリスさんとフィリスで、まともな話になるわけがなかったんだよね……〉


 失礼な。今のやり取りの何がいけないというのだろう?

 

「よし、……そうするか」


 ヴァリスさんは得心いったように頷く。ほら、ワタシのおかげで上手くいった。もしかして、ワタシは『精霊』でありながら、恋愛相談の才能があるんじゃないだろうか?


〈そんなわけないでしょう! ああ、どうしよう……〉


 ヴァリスさんが椅子から立ち上がりかけた、その時。


「おーい、シャル? どこに行ったんだ? みんなが捜しているぞ」


 ルシアの声だ。シャルとヴァリスさんは、みんなには無断でこの部屋に入ったので、心配させてしまったのかもしれない。


「ルシア。ここデす」


「ん? ああ、この部屋か」


 がちゃりと開く扉。現れたルシアは、ワタシとヴァリスさんを見て意外そうな顔をした。


「あれ? 珍しい組み合わせだな。何かあったのか?」


〈フィ、フィリス! ルシアにも相談して!〉


〈え? でももう解決して……〉


〈いいから、早く!〉


 シャルのあまりに切羽詰った様子に仕方なく、ワタシはルシアにも相談してみることをヴァリスさんに勧めた。


「む? だが、本人に聞いた方が早いということではなかったか?」


「念のためデす」


「なんのことだ?」


 不思議そうに首をかしげるルシアを部屋に招き入れ、再度ルシアにも今までの一連の話を聞いてもらう。

 するとルシアは、最初はあっけにとられたような顔をしていたかと思うと、だんだんと奇妙に顔を歪め、最後には半分涙目になりながらも腹を抱えて爆笑しはじめた。


「ルシア! 真剣に悩んでいるヴァリスさんに失礼じゃないデすか!」


「いや、悪い悪い。もちろん、ヴァリスのことを笑ったんじゃないぞ」


「では、何ですカ?」


 ワタシがそう追及すると、ルシアはじっとワタシの顔を覗き込んでくる。

 いえ、どちらかと言えば『わたしシャル』を見つめているみたいだ。にやにやと笑いながら、ルシアは言葉を続けた。


「まったく、面白いことになってるじゃないか? ……わかってるよな? 貸し、ひとつだぜ?」


〈うう、悔しい……〉


 シャルの内心の声が聞こえてくる。どういうことなのか、ワタシには理解できない。


「ヴァリス、一個だけ確認するけど、いいか?」


「なんだ?」


「アリシアのこと、他の奴には渡したくないとか、考えたことあるか?」


「渡したくない?」


「ああ。まあ、独占欲って奴だな。アリシアには、自分にだけ笑顔を向けていてもらいたいとか、アリシアが他の男と仲良くなっていると腹が立つとか、さ」


 ルシアの質問は、ワタシが思いつきもしなかった内容のものだったけれど、なんとなく重要そうな質問に思えた。

 ヴァリスさんは少し考えた後、迷いのない口調で断言する。


「いや、笑顔なら、できるかぎり多くの相手に向けていてもらいたい。それが彼女らしさと言うものだろう」


「うーん、そうか。それはそれで、ってとこだが、微妙かな?」


 ルシアはそう言いながら、軽く首をひねっている。するとヴァリスさんは、ためらいがちに言葉を続けた。


「だが、もう一つの方は思い当たる節がある。『天空神殿』でのことだ」


 ヴァリスさんが話したのは、アリシアさんがエリオットさんと二人きりになった時にシャルが口にした言葉のことだった。


「そのとき我は、かすかにだが不快感を覚えた。言われてみれば、それは独占欲のような感情だったかもしれん」


「なるほどな。じゃあ、やっぱり『そう』なのかもしれないな」


「なんだ?」


「ま、俺があれこれ口出しするのは野暮ってもんだろ。だから、俺からは一つだけだ。お前がもてあましているらしい感情に、とりあえずの『名前』を付けといてやるよ」


 そう言って意味ありげに言葉を切るルシア。いったい、何を言い出すつもりだろう?


「それはな、人間の間じゃ『恋愛感情』って言うんだぜ」


 ……どストレートだった。

 シャルどころかワタシですら、それは直接言っちゃいけないことなんじゃないかと思っていたのに、何を言い出すのだろう、この人は?


「恋愛感情? 人間の男女間の愛情のことか? ……まさか、我が?」


 案の定、ヴァリスさんは驚きのあまり、言葉を失っている。


「なんだ、それくらいはわかってるのか。まあ、それなりに人間社会でも生活してるんだから、当然なんだろうけどな。ただ、俺は人に教えられるほど恋愛経験豊富じゃないし、間違ってるかもしれない。だからアリシアにそんな話をする前に、本か何かで勉強しておいた方がいいんじゃないか?」 


「勉強?」


「ああ。人間社会のお勉強さ。恋愛感情って奴が何なのか、自分が抱いているのが本当にそんな感情なのか、確認するにはまず事例を追ってみるのが一番だろ。俺はあくまで仮に『名づけて』やっただけだからな」


「なるほど。そうか。ふむ、参考になった。方向性が見えてきただけでも話が早い。早速勉強とやらをしてみよう」


 あれ? なんだか話が無難な方向に向かいかけているような?

 ワタシが驚いてルシアを見ると、彼はどうだと言わんばかりに片目を瞑って見せた。

 そのことがなぜか、少しだけ悔しかった。


「本か。だが、どんな本を読めばよいのか、見当もつかんな。これまで【魔法】のことや社会情勢に関する本なら読んだこともあるが、それらには『恋愛感情』については書かれていなかった」


「そんなの、それこそシャルに頼めよ。あいつ確か、その手の本を目を輝かせながら読んでたぜ?」


〈うう~! どうしてそれを!?〉


 シャルの悲鳴にも似た声が聞こえる。恋愛ものの本は、実はシャルが何より好むジャンルなのだけれど、人に見られるのは恥ずかしいらしく、隠れて読んでいることが多かった。


「なるほど、では後で頼んでみよう。……よし、すっきりしたところで、我は少し身体を動かしてくる。このところ怠けていたからな。世話になったな、二人とも」


 そう言って、ヴァリスさんは部屋を出て行った。

 残されたのはワタシとルシアの二人だけ。


「ま、とっておきの本でも貸してやるんだな」


 にやりと笑ったルシアの言葉に、シャルの悔しそうな心の叫びが響き渡った。


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