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異世界人と銀の魔女  作者: NewWorld
第8章 天空の神殿と世界の真実
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第80話 狂える夢/狂おしい愛

     -狂える夢-


 昇降機が上がりきり、ようやくたどり着いたそこは、細かい【古代文字】が刻まれた黒光りする箱のようなものが並べられている部屋だった。これが『魔族』の【魔導装置】なのだろうか?


〈よく来たね、歓迎するよ。部屋の中央まで進んでくれ。丸く区切られた部分が上昇する仕組みになっているからね。〉


 唐突にノエルの声がした。近くの【魔導装置】から発せられているらしい。

 僕たちは言われた通り、部屋の中央へと足を進める。僕の前を歩くルシアは、ぶつぶつと何かを呟いているようだ。


「何が歓迎するよ、だか。あんなえげつない『幻獣』と戦わせやがって。どうにもあのノエルって野郎は気に入らないな。自分だけ上から目線で知ったような口を利いて、挙句のはては『俺たちを試す』ときたもんだ」


 どうやら、よほど『幻獣』の訓練区画で苦戦したらしい。確かに、僕が相手をした『ゾルクレイド』は相当に手強い相手だった。文句を言いたくなるのも無理はないけれど、それにしてもルシアは随分とノエルに対する印象が良くないみたいだな。


「ふふ! ルシアくんってば、自分がどうしてノエルさんのことが気に入らないのか、わかってないんだ?」


「ん? どういう意味だ?」


 アリシアさんの含み笑いに、首をかしげるルシア。彼女の表情や言い方すると……なるほど、ルシアはノエルがシリルと仲がいいことに嫉妬しているってことか。でも、あれくらいで嫉妬するなんて、ちょっとみっともないんじゃないか?


 と、思っていると──


「くす! あ、あははははは!」


 直後に響くアリシアさんの笑い声。一体、なんだろう? 驚いて振り返るシリルに対し、彼女は笑いながら首を振ると、涙目のまま僕に向かって親指を立ててくる。……よくわからないけれど、僕は何か『いい仕事』をしたらしい。アリシアさんにしかわからない笑いのツボでもあったのだろうか?

 上昇する床に乗って着いた先は、先ほどよりも一回り小さい部屋だ。

 周囲の壁面すべてを映像を映すための画面で覆われたその部屋には、白い丸テーブルと何脚かの椅子が置かれている。


「やあ、待っていたよ。君たちの席も用意してある。まずはかけてくれ」


 相変わらずの気取ったような言葉づかいは、ルシアじゃなくても少しばかり気に障る。とはいえ、逆らっても意味はないし、僕たちは言われた通り、用意された丸テーブルの席へと腰かけた。


「さて、それじゃあ全員がそろったところで、早速はじめようか。君たちが知りたいのは世界の真実、だったね。ならまずは、この映像を見てもらおうか」


 間近で見るノエルは、立体映像で見るよりもさらに繊細で整った顔立ちをしていた。短めの黒髪もサラサラだし……と思ったところで、僕はあることに気づく。あれ? ひょっとして……


 ノエルが手に持った【魔導装置】(おそらく操作盤のようなものだろう)を操作する間、シリルがルシアの傍をジロリとにらみつけていた。おそらくシリルには、さっきルシアが話していた『ファラ』の姿が見えているんだろう。

 でも、なんだって仮にも『神』様をにらんだりするんだろう?


 そうこうしているうちに、壁面の一つに設置された一番巨大な画面に光が灯る。

 そこに映し出されたものは──世界地図だ。でも、その辺の街で売られているような周辺諸国の位置関係を示した程度のものなんかじゃなく、もっとスケールの大きいものだ。

 というよりこれは、上空から撮影した画像そのもの、といったところだろう。


「これは世界の姿だよ。まあ、僕ら『魔族』が確認できた範囲の、ということだけどね。で、これを見て気が付くことはないかい?」


 僕はその画像を食い入るように見つめていた。これが、この世界?

 映された『世界』の大部分は山や湖、森や草原などに覆われた美しい大地の姿だ。それは確かに間違いない。……けれど。


「北の方に境界線、があるみたいです……」


 シャルの言葉通り、北部地域はある境界線を境にいきなり様相が変化している。まるで霧で覆われているかのような状態で、地形そのものがはっきりと見通せない。

 でも、それだけじゃない。世界の各地にはそうしたモヤがかかっている地域がいくつも点在しているのだ。これはどういうことだろう?


「このとおり、【フロンティア】のある地域は、この『天空神殿』の観測装置をもってしても記録できない。リアルタイムの観測ならできるけど、あえてこの記録画像にしたのは、これを見れば一目瞭然だからだよ」


 何が一目瞭然なのか? そんなこと、言うまでもない。

 今のノエルの話からすれば、この画像が意味するものは、およそ世界の北側3分の1が【フロンティア】だということだ。


「そういえば、北部には【真のフロンティア】などと呼ばれる広大な【フロンティア】があるとの噂も聞いたことはあったが……。まさか、これほどとは……」


 さすがのエイミアさんも驚きを隠せないみたいだ。僕だって【真のフロンティア】の話なら聞いたことはあるけれど、それが世界の三分の一を占めるだなんて話、とてもじゃないが信じられない。


「いや、バカな。これほどのものが、そんな噂話程度で済むわけがあるまい」


「『魔族』は大規模な【魔導装置】を使って、境界線に空間を歪める結界を張っているからね。だから……人間どころか例え『竜族』だって北部には入れない。彼らが幻惑や空間操作の類には弱いということは、千年前の封印の件でも明らかだろう? 立ち入ることができるのは、ギルドから特別な依頼を受けた一部の冒険者だけなんだ」


「空間操作か……」


 黙り込むヴァリス。あえてヴァリスに対して『竜族』を例に出すあたり、ノエルはシリルから彼のことも聞いているのだろうか?──つまり、そこまで信頼の置ける相手だと考えてしまっていいのだろうか?  ──などと考えをめぐらす僕の胸中をよそに、ノエルはなおも淡々と言葉を続ける。


「北部には世界でも最大級のものも含め、無数の【歪夢】が存在しているんだ」


「【歪夢】……か。そういえば、『オルガストの湖底洞窟』でシリルが【歪夢】のことを『神』の残留思念だって言っていたよな?」


「よく覚えていたわね、ルシア。でも正確には『残留思念を材料にしたモノ』と言ったのよ。……争いの中で恐慌をきたした『神』の狂った思念。でも、いかに強力なものとはいえ、単なる残留思念に何かを為す力なんてない。……【狂夢】さえ、なければね」


「【狂夢】?」


 首をかしげたルシアに対し、ノエルがおかしそうな笑みを浮かべる。


「じゃあ、次はこれを見てもらおう」


 そんな声と共に、再び操作された画面には、何もない空間に浮かぶ小さな箱のようなものが映し出された。銀と紫に彩られた表面に法則性のある凹凸が刻まれているその『箱』は、鎖のようなもので何重にも縛られ、絶対に開かないようにと拘束されているかのようだ。


「なんだ、これ?」


「これが【狂夢】だよ。映像だからわかりにくいだろうけれど、大きさとしては人ひとりが中に入れるかどうか、といった程度のものさ」


「で、でも、これ、ただの箱だよね? この箱の中に入っているってことなの?」


 アリシアさんの疑問は至極もっともなものだ。でも、ノエルは首を振って否定する。


「いいや、この『箱』そのものだよ。本来、これの元になった【幻想法則(ソーサラス・ロウ)】自体は、法則なんだから目に見えるものじゃない。でも、重ねられる過程で術式を発動させた『魔族』の意識に引きずられたのか、こんな形になったのさ。これの象徴するもの、わかるかい?」


「いや、そんなの、わかるわけないだろ」


 とルシア。けれど直後に、


「宝箱、ですか?」


 恐る恐る、といった感じで発言したのはシャルだった。


「そのとおり。君は賢い子だね。崇めるべき『神』を失った『魔族』にとっての『宝物』。それこそが『神』の創りし【魔法】の源、【幻想法則(ソーサラス・ロウ)】だったんだ」


 シャルはノエルに褒められて、少しだけ嬉しそうにしている。


「でも、それがいけなかったんだろうね。本来、形のないものに形を与えてしまったこと。それは『神』ならぬ身の限界だったんだろうけど、そんな矛盾がこれを『宝物』から『狂った夢』に変えてしまったんだ」


 さらに映像が切り替わる。今度は、おなじみのモンスターたちの姿だ。


「さて、ここからが本題かな。さっきの【狂夢】は、世界中の意識という意識に接触し、それを元にあらゆる事象を無差別に具現化する危険なものだ。八百年前の『変質』はまさに、それが原因で起こった。自我の弱い存在や【世界律】そのものに近い存在から徐々に蝕み、その在り方を狂わせたのさ」


 シリルたちに聞いた話では、『精霊』や『幻獣』のみならず、かつての『妖精族』たちも、それが原因でモンスター化してしまったということらしいけど……。


「今でこそ、さっき見たとおり『鎖』の術式で封印を施して抑えているけれど、それでも漏れ出る『狂い』は、今なお残る強力な『神』の残留思念に反応し、【歪夢】を生み出し続けている。それに、あの封印自体、遠からず破綻する。そうなれば世界の破滅だ。それを防ぐために……」


 核心に迫るノエルの言葉に、皆が引き込まれていく中、それを遮るようにシリルが割り込んでくる。


「ノエル。そこからはわたしに話させて?」


 その言葉にノエルは軽く頷いて口を閉じた。


「わたしの使命はね。あの【狂夢】を収束させ、再構築し、正しい法則として世界に再び秩序を取り戻すことなの。わたしは、そのために生み出された。でも、『セントラル』の本当の目的が何なのか、今のわたしにはわからない。……だから、皆にも聞いてもらいたいの。わたしだけじゃ決断できないこともある。だから、皆の力を貸してほしい。みっともないようだけど、これがわたしからのお願い」


「何がみっともないもんかよ。そんなの当然だろう? こんなでかい話、一人で抱え込む方がどうかしてるって。俺にも一枚かませろよ」


 ルシアはまるで何でもないことのように、軽い調子で言葉を返す。すると、彼の気遣いを理解したかのように、シリルはくすっと笑みをこぼした。このあたり、二人は心が通じ合っているようにも見えるし、ルシアも嫉妬なんてする必要はないんじゃないだろうか。


「もう、博打じゃないんだからね?」


 ふと気づけば、ノエルが驚きの表情を浮かべた後、ルシアに対して柔らかな笑みを向けているのが目に入った。



     -狂おしい愛-


 うん。こういう光景は見ていて微笑ましいものだな。

 前々からこの二人はお似合いだと思っていたが、ここにきてますます親密さを増しているようだ。

 それに、面白いことにルシアは盛大な勘違いをしてしまっている。わたしも最初は似たようなものだったが、ここにきて面と向かえば間違いなくわかる。

 まあもっとも、これは彼の観察眼のなさと言うより、『愛ゆえの』余裕のなさの表れとみるべきだろう。と、なおも事の推移を楽しもうと思っていたら、アリシアがおずおずと手を上げて発言する。


「ね、ねえ、話の腰を折っちゃいけないと思って黙ってたんだけど、確認していいかな?」


「なにかな?」


 アリシアはちらちらとルシアの方を見たかと思うと、意を決したかのように口を開いた。


「えっと、ノエルさんって、女の人だよね?」


「うん? そうだけど……」


 言わずもがなの確認だ。……ただし、一人を除いては。


「ぶ!?」


 奇妙な声がした。驚いてみれば、ルシアがなにやら目を白黒させている。


「お、女だったのか!?」


「え!? 彼女を男だと思っていたの?」


「いや、だって『僕』とか言ってるし、その、シリルのことを……」


 シリルの驚きの声にあたふたと弁解するように言いながら、尻すぼみに言葉を途切れさせるルシア。ふふ、まあここで暴露してしまったのは多少もったいなかったが、ここはひとつ、からかってあげるとしよう。


「いや、まさか気付かなかったのか? わたしも面と向かえばさすがにわかったぞ? それをまさか……。流石にレディに対して失礼なんじゃないか?」


「し、失礼って、いや、その……エイミアさんもわかってたんですか!?」


「いや、僕もわかっていたけど……」


「エリオットまで……」


 がっくりと落ち込むルシア。


「まったく失礼だな、君は。こんなに可愛い僕のことを男だと思っていただなんて。……なんてね。きっと君は誤解してるだろうなと思ったけれど、面白そうだから黙っていたのに」


 ノエルは軽い非難の目をアリシアに向けながら笑った。

 む、このノエルという女性、わたしと同じでいい趣味をしているようだ。


「でも、あのときシリルお姉ちゃんのことを愛しているって言ってましたよね?」


 と今度はシャルがそんな質問を投げかける。まあ、確かにあれは愛の告白にしか聞こえない言葉だった。わたしが一時、勘違いしたのもそのせいだしな。


「当然だよ。彼女は僕が育てたみたいなものだ。愛していないはずがない。だから、変な虫がつかないよう、旅に出る前にもよくよく教育しておいたはずなんだけどね」


「そ、それでシリルちゃんって、『潔癖症』なんだね……」


 アリシアが納得したように言う。


「そんなにわたし、潔癖症かしら?」


 不思議そうに首をかしげるシリル。どうやら自覚はなさそうだ。


「だから本当に驚きなんだよ。ルシア君。いったいどれだけ紳士的に接すれば、そんな彼女の心を開かせることができるんだい?」


「な、何を変なことを……!」


 ノエルの唐突な言葉に、シリルは動転して言葉を詰まらせる。続いて何かに気づいたかのようにルシアの方に目を向けたかと思うと、顔を真っ赤にして叫び声を出した。


「お、押し倒すって、あれは事故で!!」


 しん、と水を打ったように静まり返る一同。視線の方向から推測するに、おそらく『ファラ』が彼女に何かを言ったのだろう。今の言葉はそれに対する返事であるに違いない。違いないのだが……


「事故!? お、押し倒されちゃったの、シリルちゃん! やっぱりそんな関係なんだ!」


 ──シリルも、よりにもよって考えうる限りで最悪の言葉を選択したものだ。『事故』という表現は、わたしも前に使っておきながら言うのもなんだが、……色々と想像をかきたてる言葉なんだな。


 こういう話題には目がないらしいアリシアが、身を乗り出すように食いついていた。

 よし、ここはわたしも負け(?)てはいられない!


「いやいや、シャルもいるというのに、随分と大胆な告白をするものだ。なあ、エリオット?」


「え? いや、その、そうですね、ははは……」


「ち、違うのよ! みんな、それは違うの! 今のはちょっと、その、違うの!」


 シリルは焦りのあまり、まともな言葉を口から出せないでいるようだ。彼女は半ば涙目になってルシアの傍らに立っているのだろう、『ファラ』をにらみつける。


「うう、あとで覚えておきなさい……!」


 一方、ノエルは心底驚愕したような表情のまま、顎に手をあてて呟きを続けている。


「そ、そうか。それは予想外だった。まさかそんな逆転の発想があっただなんて……。押し倒された時の心の持ち方なんて、流石に教えてはあげられなかったからね」


「もう! ノエルまで!」


 そうやって、ひとしきり皆にからかわれた後、シリルはもうひとつの本題をノエルに尋ねた。


「さっき言った通り、わたしは『セントラル』の本当の狙いが知りたい。あなたの知っていることを教えてほしいの」


「うん。ここから先は完全な機密情報だ。口頭だけで説明するよ。僕も計画の全貌を知っているわけじゃないけれど」


 そう前置きしてから、ノエルはゆっくりと話し始める。


「『四柱神』の伝説……。知っているかい?」


「……『四柱神』? 『大聖堂』に祀られた四体の『神』のこと?」


「そう。ゼスト神族、マーセル神族、サージェス神族にカルラ神族の四種族。中でも最高神たる四柱の神たちは、ある日、『誤謬に満ちた世界に絶望した』と言い残し、忠実なる信徒だった『魔族』を見捨てて姿を消した。……酷い話だよね?」


「『四柱神』が『魔族』を捨てた? 嘘でしょう? それならどうして、『大聖堂』なんかに祀られているのよ?」


「まあ、それにも理由はあるんだけど……今は別の話だ。とにかく、『魔族』による【幻想法則(ソーサラス・ロウ)】の一元化は『失敗』だった。でも、何が失敗かと言えば、【狂夢】が生まれたことなんかじゃない。『魔族』にとっての本当の失敗は、結果として『神』の【オリジン】を失ったことだ」


「その、失った力を人間が盗んだというんでしょう? それは聞いたことがあるわ」


「『盗んだ』というのは、言いがかりだと思うけどね。それより、そんな状況では【狂夢】を再構築しただけでは、『魔族』が【魔法】を使えるようにはならない。だから、他の手段が必要なんだ」


「他の手段?」


「『神の帰還』だよ。僕が調べた限りじゃ、この言葉が計画のキーワードだ。ただし、【重なる世界】は不安定な【亜空間】だ。『精霊』や『幻獣』のような自我の薄い存在ならともかく、そんな場所に『神』はいない。だから、シリルのやったような単純な【召喚】によるものではないだろうね」


「姿を消した『神』を呼び戻す方法が、他にあるの?」


「推測だけど……『世界の理』という言葉からすれば、この世界が間違っているなら、間違いを正せばよい。正しく世界の理を示せば、『神』は帰る。そして帰った『神』から再び寵愛を、【オリジン】を得る……ということなんだろう」


「そこまでして、『魔族』は『神』を求めているというの? 彼らがことあるごとに、『神なき世界』とか『迷える我ら』とか言っていたのは、そういう意味だったのね」


 シリルはようやく合点がいった、というような顔で頷く。

 自らを見捨てた『神』への狂おしいまでの愛。見捨てられてなお、そこに近づきたいと望む『魔族』の執念。それこそが、すべての発端だったということなのか。どんな形であれ、自分を捨てたものにそこまで執着するなんて、わたしには考えられない話だ。


「話が抽象的でいまいち、わからないんだが、俺の理解力が足りないのか?」


 途中で口を挟んできたルシアに、ノエルは小さく首を振る。


「僕も断片的な情報をもとに組み立てて話しているだけだからね。これが絶対の真実だというわけじゃない。だから、その真実に迫るには、君たち自身が動く必要がある。具体的な話はこれからさ」


 ノエルはゆっくりと一同を見回しながら言葉を続ける。


「元老院はもともと、【真のフロンティア】の開拓には相当力を入れている。それこそ直属のSランクエージェントですら、ちょくちょく投入するくらいにはね」


「つまり、そこに何かがある?」


「うん。目的は不明だけれど、彼らが捜しているのは、『古代魔族』が遺した【超魔導装置】の中でも、『クロイアのくさび』と呼ばれる特殊なものだ。でも、【真のフロンティア】は危険すぎて今の『魔族』の手には負えない場所だからね。実際には、冒険者たちに片端から古代遺跡を発掘させて運び出したものを『魔導都市』で解析しているらしい」


「なら、『冒険者』であり『魔族』でもあるわたしが行って、その【魔導装置】を解析できれば計画の詳細もわかるかもしれない?」


「そのとおり。君には“魔王の百眼”もあるしね。だけど、あの場所は最高難度の【フロンティア】だ。正直、君たちの訓練区画での戦いぶりは僕の予想を上回るものだったけれど、それでもギリギリの合格点なんだよ。……だからまず、『魔導都市アストラル』に向かうことをお勧めする」


「『魔導都市アストラル』? 聞いたことのない場所だな?」


 唐突な提案と聞きなれない地名に、それまで黙って話を聞いていたわたしは、思わず疑問の声を上げてしまった。


「『セントラル』の本拠地よ。……でも、なぜ?」


「あそこなら君らの『幻獣』の調整も可能だし、強力な装備も手に入る。北部には少しでも戦力を増強してから挑むべきだ。僕は君に……ううん、君たちに死んでほしくないんだよ」


「ノエル……。でも、『パラダイム』に狙われている状況で、『セントラル』が一度帰還したわたしを手放すかしら? それに、皆はどうやって連れて行けばいいの?」


「心配ないさ。万が一の時の脱出ルートも、みんなの同行の許可も僕がちゃんと手配しておくから。実際、冒険者ならシリルの護衛としては適任だ。推薦するための記録映像もさっき撮影済みだしね」


 なるほど、それでこんな茶番を仕組んだというわけか。用意周到な人だ。


「どうだい? シリルと一緒に、行ってくれるかい?」


 ノエルの問いかけに、全員がためらうことなく頷きを返す。もちろん、わたしもだ。

 弟のアベルの件で恩義があるのも確かだが、何より彼らと共に世界の真相に迫るべく旅を続けるというのは、少し不謹慎な言い方かもしれないが、実に胸の躍る話なのだ。


「そうそう、ルシア君。君にひとつだけ、言っておくことがあるんだ」


「え? なんでしょう? っていうか、男に間違えたことなら謝ります」


「ああ、それなんだけどね。僕が女だからと言って油断はすべきじゃないよ」


 ん? ノエルは何を言い出すつもりだろう?


「言ったはずだよ。僕はシリルを愛しているんだって。……そこに性別なんて関係ないさ。だから、そうだね。君と僕はライバルってことになるのかな?」


「ええー!」


 シリルとルシア、二人の叫び声がそろって部屋中に響きわたった。


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