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異世界人と銀の魔女  作者: NewWorld
プロローグ 銀の少女の召喚魔法
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─召喚されしもの─

「エウラ・カルデス・レリクス・ルーン……」


 少女の口から美しい旋律を伴った言葉が紡ぎだされている。

 そこは、険しい山々に囲まれた人跡未踏の地だった。とはいえ、決して荒廃した大地などではなく、瑞々しい生命力に満ち溢れた草花が咲き誇る緑の草原、鏡のような水面に澄んだ青空を映しだした湖など、幻想的な風景が拡がっている。


〈わが友となるべき隣人よ。我が呼びかけに応え、その姿を現わさんことを願う〉


 少女は両手を高く掲げており、頭上には巨大な円形の魔法陣が光を放っている。少女の銀色の長髪がその光を受けて輝く様は、見る者があればうっとりと見とれてしまうほどに美しかった。


 そして、【召喚魔法(サモン・ガーディアン)】の術式は完成する。


 これだけ大規模で複雑な魔法を使用するためには、構築に多量の魔力と長い時間を要する多重展開魔法陣が必要なはずである。

 しかし、少女は己の所持する召喚系最上級の【エクストラスキル】“血の契約者”と特殊な魔法体系を組み合わせることで、驚くべきことに、この魔法を数十分で完成させていた。


 光があたりを包み込む。


「どうやら、成功のようね。さすがに【聖地】のマナだけあって、量・質ともに十分だったわ。……さて、何が召喚されるのかしら?」


少女は安堵の息を漏らす。しかし、それも一瞬のことだった。


「えっ?」


 驚愕の声を発する少女の前に光を放つ魔法陣が収縮し、召喚されたものが姿を現す。


 己の所有する最高クラスの才能を最大限に発揮できる環境下で召喚を行えば、最高位の精霊や幻獣との契約も夢ではない。歴史上誰もなしえなかった『神』とすら契約できるかもしれない。そう考えていた少女ではあったが、こんなモノは予想すらしていなかった。


 そこに現れたのは、「人影」だった。


 それも人の姿をした精霊などではなく、れっきとした「人間」だ。それは見ればわかる。 

 しかし、見たこともない衣服を身にまとい、その身を地に横たえる青年は、明らかにこの世界の人間ではない。少女はそう確信した。確信せざるを、得なかった。


 【召喚魔法(サモン・ガーディアン)】は世界の外から世界の内へ、対象を呼び込むもの。


 とはいえ、【幻獣界】や【精霊界】のように、もとは一つであったはずの世界からの召喚ならばともかく、まったくの『異世界』など存在自体が信じられないものだ。

 それでも、召喚によって多少なりとも彼と魂に繋がりのできた自分には、この青年が自分と同じ人間でありながら、この世界の存在でないことは、嫌でもわかってしまうのだ。


「うそ、でしょ?これって一体……」


 常に冷静沈着な振る舞いで、パーティを組んだことのある冒険者仲間たちから「氷の闇姫」の異名で呼ばれることすらある彼女にしては珍しく狼狽し、次の行動を選択できないでいるうちに、青年がゆっくりと目を開けた。


 黒髪黒目の端正な顔立ちをした青年は、眩しそうに目を瞬かせた後、上半身を起こしてあたりを見回し、そしてこの場にいる唯一の人間である少女を見た。


「あれ? ここはどこなんだ? 俺はなぜ、こんなところに?」


 その言葉に、いや、意味のある言葉を目の前の存在が話したという事実に、少女は自分の体を抱きしめるようにしながら、がっくりと膝をついた。

 自我を持ち、自分の世界で自分の生活を営んできた人間を、異世界に引き摺りこんだ。

 それだけではない。これが【召喚魔法(サモン・ガーディアン)】によるものである以上、その性質上、彼の身には取り返しもつかなければ、どうすることもできないような、恐ろしい問題が起こっているはずなのだ。 


「ご、ごめんなさい……」


 少女は大粒の涙を目に溜めたまま、絞り出すようにそう言った。


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