【連載化開始しました】ワンオペ神父、蘇生やめたら世界が詰みました 〜死んだら自己責任です〜
【本日連載開始!】現在日間8位!短編では描けなかった「元魔王軍秘書との共謀」と「クソ勇者への無限蘇生ループ」の連載版を公開中。本日18時・21時に激震の最新話投下予定!→ ワンオペ神父、蘇生やめたら世界が詰みました 〜死んだら自己責任です〜
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どこかからパイプオルガンの音色が聞こえてくる。
「そなたに神の祝福を。アーメン」
数分後。
「そなたに神の祝福を。アーメン」
……3時間後。
「死んでしまうとは不甲斐ない。神の祝福を。アーメン」
8時間後。
「はい。アーメン。はい。次のかたー」
私、アルヴィン・クロス(35歳)は、もはや自分の声を自分のものとして認識していなかった。
条件反射のように口から飛び出る「祈り」を捧げる毎日。
祭壇に横たわるのは、本日32体目の「勇者と呼ばれる不甲斐ない肉塊」だ。
視界が極度の疲労で端が白く霞んでいる。
かつては、この手で誰かを救えることに、震えるような喜びを感じていた。
敬虔な父は、悟った目で言っていた。
「神父とは、人々の杖であれ」
いや、諦めた目だったのかもしれない。
愛の深い母は、その小さな手を握りしめて言った。
「その優しさで世界を照らしなさい」と。
疲れすぎて部屋を照らすことすら諦めた。
15歳の時。
珍しく父が言い出した家族旅行。
帰りの道中でモンスターの群れに襲われ、父は私を庇って死んだ。
あの日、私は泣きながら決意したのだ。
父が愛したこの世界を、救世主、勇者を私が支える。
だが。
20年という歳月は、少年の純真な魂を、薄汚れた雑巾のように絞り尽くした。
魔王軍の「神父狩り」で、仲間は1人、また1人と消えいった。
最初は、いつかは勇者が魔王を倒してくれると信じて
「さすが魔王ですね。敵ながら知的な戦略です。でも伝説の勇者ならきっと倒してくれます。それまで頑張りましょう」
他の神父たちと誓い合っていた。
昨日の夜まで一緒に酒を飲み、休みのない現場の愚痴を言い合っていた同僚が、翌朝には無残な死体となって運び込まれてくる。
そんな地獄を何度も繰り返すうち、私の心は疲れていった。
気づけば世界に約40箇所ある教会に神父は、私ただ1人。
それなのに、国も神も、馬鹿の一つ覚えみたいに異世界から「勇者」と称する転移者を呼び寄せ続ける。
次第に勇者は飽和し、街には「自分が世界の主役だ」と勘違いした特権意識の塊が溢れかえっていった。
1日20拠点を《転移魔法》でハシゴする。
午前3時、第1教会の鍵を開け、溜まった死体を蘇生することから1日は始まる。
休憩時間は、魔法による視界の暗転中のみ。
朝食は、高栄養ポーションを喉に流し込む。
1箇所につき滞在できるのは、わずか数十分。
その短い間に、腐りかけた勇者を蘇生し、仲間たちを蘇生し、猛毒を抜き、呪いを解き、次のレベルまでの経験値を算定する。
もちろん備品の発注も忘れない。
私にとっての「平穏」とは、蘇生待ちの行列が途切れた、わずか数十秒の沈黙だけだった。
「ちょっと神父さん!これ、どういうことだよ!」
生き返ったばかりの勇者(笑)が、祭壇の前で跳ね起きるなり、私の胸ぐらを掴んできた。
私は、血管が浮き出そうなこめかみを指で押さえ、感情を一切排除した「接客用」の声で応対する。
「……勇者様。蘇生は無事に完了しております。何か不手際でも?」
「不手際だらけだよ!見てくれよ、この腕の傷! うっすら跡が残ってるじゃないか!俺はこれからの魔王を倒して、伝説になる予定なんだぞ?こんな傷物、映えねーだろ!慰謝料請求するからな!」
私は、勇者(笑)の黄金色に輝く聖剣(笑)を眺めた。
その聖剣を研ぐ金があるなら、まず自分のマヌケな防御技術を研ぐべきだろう。
もちろんそんなことは口には出さない。
そもそも、この勇者が死んだ理由は「歩きながら川に映る自分に見惚れてたら、崖から足を踏み外した」という、救いようのないマヌケなものだった。
「勇者様。当教会の蘇生は、生命の維持を最優先としております。美容形成的なアフターケアをご希望であれば、別途全回復の料金が必要となります」
「はあ!?勇者様をなんだと思ってるんだ!俺たちは魔王を倒しに来てやってんだぞ!世界の救世主だぞ!その救世主に対して、事務的な対応ばっかりしやがって!大体、蘇生代『全財産の半分』って何だよ!俺、昨日カジノで一等当てたばっかりなんだぞ?数千万ゴールドだぞ?その半分を持っていくのか?泥棒だ!独占禁止法で訴えてやる!」
彼らが吐き出す言葉の1つ1つを聞いてる暇はない。
魔王は1人だが、勇者(笑)はごまんといるのだから。
「次の方、お待たせしておりますので。……お引き取りを」
「おい、無視すんなよ!神の代理人がそんな態度でいいのかよ!呪ってやるからな、このクソ神父!」
(お前程度の呪いならすぐ解呪できる。やれるものならどうぞ)
もちろん口には出さない。
勇者は悪態をつきながら、礼拝堂の床に痰を吐いて去っていった。
感謝。そんな言葉、20年1度も聞いていない。
今の勇者たちは「ギフト」を神からもらった転移者ばかりだ。
自分たちがこの世界の主役だと信じて疑わず、神父は自分たちのリスタートを助ける仕組み程度にしか思っていない。
死んでもどうにかなると思ってないと信じたい。
次に来たのは、ドラゴンのブレスで丸焦げになった勇者のパーティだった。
担ぎ込まれた「黒焦げの炭」を前にして、リーダーらしき男が面倒そうに鼻をすすりながら言った。
「あー、神父さん、これ、なんとかして。生き返らせるだけでいいから。あと、ついでに装備の焦げも取れる? これ、期間限定の限定装備なんだよね。焦げたままじゃ、自慢ができないんだわ」
「当方はクリーニング屋ではありません。……はい、アーメン」
(期間限定か何か知らないが、それより普通の装備の方が強いのに…)
もちろん口には出さない。
眩い光が礼拝堂を包み、黒焦げの肉がみるみる再生していく。焦げ付いた皮膚が剥がれ落ち、新しい細胞が構成される際の嫌な音が響く。
私の魔力は、すでに感覚を伴わないほど正確に、事務的に、肉体を再構成するようになっていた。
「おー、生き返ったー。あ、サンキュ。あ、あとさ、俺の次のレベルまであとどれくらい? 一応確認しとこうかなって。ほら、モチベーション大事じゃん?」
「……38,521です」
「うわ、遠っ!マジで?やる気なくすわー。あーあ、もっとサクッとレベル上げられる裏技とかないの? 神父なんだから、神様に言って経験値2倍キャンペーンとかやってよ。不公平だろ、この世界ぃー」
(誰に対しての不公平なんだろう……?)
なんてもちろん口には出さない。
私は答えずに無言で杖を突き立て、次の教会の座標をセットした。
行かなければならない。
あそこには、泥酔して川に飛び込み、溺死した勇者(笑)の死体が3体待っている。
転移の暗闇の中で、私の脳がふと冷静になった。
(……あいつら、1回もちゃんと感謝してくれたことなくないか?)
私は一体、何のためにこの過酷なワンオペを続けているのだろうか。
私がどれだけ有能な(?)勇者(笑)を蘇生させ、万全の状態で戦場へ送り出そうと、あいつらは一向に魔王を倒さない。
「魔王、強く設定されすぎじゃね?」
「クソゲーだわ」
と適当な言い訳を並べては、夜の街で酒を飲み、ギャンブルに興じ、そしてまたマヌケな死に方をして戻ってくる。
あいつらが魔王を倒さないから、魔王軍が調子に乗る。
魔王軍が調子に乗るから、神父が狩られる。
神父が狩られたから、私の仕事が倍増した。
「……父上。もう、いいよね。俺、十分にやったよね。これ以上やったら、俺は人を呪い殺す魔族になってしまいそうだ」
一筋の涙が私の頬を伝って落ちた。
その時、俺は何かに導かれるように、自分自身のステータスを確認した。
他人のために、何十万回と使い続けてきた「次レベルまでの経験値閲覧」のスキル。
それを、初めて自分自身の魂に向ける。
【アルヴィン・クロス:35歳】
【次レベルまでの必要経験値:】
(なんだろう?今まで数字が出ないなんてなかったのに)
もう一度やってみた。
【次レベルまでの必要経験値:】
【0】
「………………」
頭が真っ白になった。
カンスト。
レベル上限。
もはやこれ以上、上が存在しない絶対的な領域。
20年間、世界中の勇者を生き返らせ続け、数え切れないほどの呪いと毒をその身で消し去り、世界中を誰よりも転移魔法で飛び回り、莫大な魔力を「ワンオペの事務作業」として回し続けてきた結果――私は、剣一本振ることなく、世界最強の存在に成り果てていた。
「……あ、これ、俺が魔王倒したほうが100倍早いわ……」
口から言葉が出ていた。
「……ふざけるなよ」
理不尽な業務を終わらせる最も合理的で、かつ唯一の解決策。
それは、業務を発生させている元凶を物理的に破壊することだった。
俺は、次の拠点へ行くはずだった《転移魔法》の座標を、その場で書き換えた。
向かう先は、勇者たちが「数ヶ月の過酷な旅路の果て」に辿り着くとされている、世界の果て。
1日に20拠点を、数メートルの狂いもなく20年もハシゴし続けた私の空間転移は、もはや神の瞬きよりも速く、正確だった。
俺にとって、世界の端から端まで移動することは、地図で距離を測るより簡単だった。
魔王城、玉座の間。
そこには、まさに今、世界を滅ぼさんとする禍々しいオーラを放つ魔王がいた。
魔王が、これから始まるであろう「勇者との最終決戦」に備えてポーズを決めていた、そのわずか数センチ横に。
俺は、羽のような気軽さで降り立った。
「……」
(……気づいてない?)
「……」
「……」
「ッコホン」
咳払いをしてみる。
「っっっ!!っっんきっ!!」
「貴様……何者だ!」
魔王の声が裏返っていた。
「貴様!勇者の気配ではないな!」
立ち上がった魔王が、世界を揺るがすほどの魔力障壁を展開する。
だが、俺の表情は変わらない。
きっと俺はただの35歳の疲れ切ったサービス業従事者のような虚無を湛えた顔をしていただろう。
「あー。すみません。ただのワンオペ神父です。これ以上、あなたたちのせいで働きたくないので、とりあえず平和にさせていただきますね」
魔王が咆哮とともに放った漆黒の破壊魔法
魔王の放った漆黒の業火が、空間ごと歪ませながら迫った。
触れたもの全てを呪い、腐敗させ、存在を削り取る魔法だった。
だが
俺はすぐさま異常回復呪文を唱えた。
俺はそれを、いつも通り処理した。
指先で払うでもなく、詠唱するでもなく。
ただ“いつもの手順”で、雑に消した。
空間に残っていたはずの呪いの残滓すら、跡形もなく消えていた。
「……なにを、した……?」
「処理ですよ。毎日やってますから」
魔王の表情が、再び崩れた。
「ふざけるなッ!!」
次の瞬間、数百、数千の呪詛が重なった複合魔法が叩き込まれる。
毒。呪い。精神侵食。時間遅延。
勇者なら一瞬で発狂して死ぬ代物。
だが。
「……だから、雑なんですよ」
俺は一歩も動かず、それらを分解していく。
構造が単純すぎる。
効率が悪い。
無駄が多い。
こんなものを“必殺技”と呼ぶのか。
「なぜだ……なぜ効かん!!」
「毎日、もっとひどいのを何百件も処理してるんで」
右手を上げる。
「ファイヤーボール」
ただの初級魔法。
(そういえば杖忘れてきたな。まぁいいか。)
放たれたのは、魔法学校の初日に習うような、最底辺の初級魔法。
だが、レベル上限を突破した魔力が込められたその熱球は、もはや「火」という概念を超えていた。
「ぐ、あああああッ!?な、なんだこの威力は……!ありえない、ありえないぞ! 貴様、どこで、どんな地獄で修行を積んだのだ!こんな魔法を使う勇者なんて今までいなかった!いや、今後も現れるはずがない!!」
魔王が血を吐きながら問う。
俺は冷めた目で、崩れゆく敵を見下ろした。
その目は、かつての俺のような「優しい少年」の目ではなく、理不尽な要求を淡々と捌き続ける、磨り減ったそんな目だったと思う。
「教会の窓口と、多拠点ワンオペの現場ですよ。……あ、お疲れ様でした。領収書代わりに、その首、いただいていきますね」
魔王の首をずた袋にしまっていると、大きなどびらが重たい悲鳴をあげて開いた。
黄金色に輝く聖剣(笑)を持った、ボロボロの勇者(笑)とその仲間たち、いわゆる『勇者(笑)パーティー』だった。
「……んっ?あんたは神父か?助かった。ちょうど猛毒と呪いと速度低下をもらってたんだ。全回復してくれ!」
(また、えらそーに…)
勇者(笑)が首のない魔王の身体を見た。
「……」
2度、3度首を振った。
「えっ?!……そ、それは……魔王か……?」
「ええ。魔王だったものですね」
「えっ?!お、お前が?!」
「えぇ。思ったより強かったみたいです。俺」
「俺…?お前、前は私って……。そ、そんなことより、どうしてくれるんだ!!俺が伝説になる予定だったのに!!神父が魔王を倒すなんて越権行為だ!!どうせ卑怯なチートでもつかっっ」
俺は唱えた
「ファイヤーボール」
かなり出力は抑えた。
でも勇者(笑)まる焦げになっていた。
「ひっ!!う、うそっ……」
勇者(笑)のパーティーの魔法使いがヘナヘナと腰を折った。
「うるさいな。わかったよ。はいはい。アーメン」
瞬時に勇者(笑)の肉体が蘇る。
「……?……ここは……?」
勇者(笑)はアホな顔していた。
そしてハッとして、
「お、お前!なんてことをっ!勇者様だぞっ!なにをしたかわかっ」
「ファイヤーボール」
勇者(笑)はまた消し炭になった。
「アーメン」
「……なんで、助けてくれないんだよ……」
震える声だった。
初めて、“勇者”じゃない声を出していた。
「……今までは、勝手に助かってただけですよ」
「やっと静かになりましたね。あなたでは魔王と戦っても伝説にはなれなかった。ただの『不甲斐ない肉の塊』になるだけです。ついでにその剣……聖剣でしたっけ?レプリカですよ」
それだけ残して俺は転移魔法を唱えた。
そのまま世界約40箇所の教会すべてに《転移魔法》で移動した。
全ての掲示板に、あらかじめ用意しておいた、1文字の迷いもない貼り紙を出していく。
【廃業のご挨拶】
諸般の事情(主に勇者のマナー低下とワンオペの限界)により、本日をもちまして全教会の神父業務を終了いたします。
追伸:
魔王はとりあえず処理しておきました。もう世界は平和ですので、安心して暮らしてください。
今後は「不甲斐ない死に方」をしても誰も蘇生業務をしてくれませんし、治療もしません。
ご自身の「パラメータ」と相談しながら、せいぜい健康第一で自己責任で生きてください。
アルヴィン・クロス 拝
翌日、世界は平和の到来を喜ぶよりも先に、未曾有のパニックに陥ったらしい。
「神父がいない! 猛毒が治せないぞ!」
「蘇生代はいくらでも払う!金貨100万枚だ! 頼む、戻ってきてくれ!」
王族や勇者たちが血眼になって捜索を開始したが、俺の座標を追える者は、この世に1人も存在しなかった。
俺はすでに、自分を「神父」として認識させるすべての魔法的な繋がりを、自らの手で切断していた。
当の俺は、東の果ての、地図にも載っていない小さな温泉地にいた。
20年分の蘇生費用――勇者たちの「全財産の半分」を積み上げ続けたその資産は、もはや一つの国家を余裕で買えるほどに膨れ上がっている。
金など、もうどうでもよかった。
俺が欲しかったのは、札束の山ではなく、ただの「静寂」だった。
湯船から立ち上る湯気を眺めながら、縁側に寝転がった。
頬を撫でる風が、驚くほど涼しい。
もう、耳元で「高い」「遅い」「なんとかしろ」と喚き散らす勇者(笑)の汚い声は聞こえない。
次に何をすべきか、誰に指図されることもない。
「……ああ、これが平和な昼寝か。最高ですね」
20年間自分を縛り付けた役割を脳裏から消し去った。
魔王のいなくなった世界で、俺が手に入れたのは、ただの休日だった。
それは、どんな魔法よりも、どんな伝説の剣よりも、彼がずっと欲しかったものだった。
俺は静かに目を閉じ、そのまま深い、深い眠りに落ちていった。
それはとても平和な、ただの午後だった。
俺がいなくなったあとの世界で、勇者(笑)たちは絶望していたようだ。
誰もいない礼拝堂で、「不甲斐ない」と言ってくれる者さえいない静寂の中、彼らは初めて気づいたのだ。
自分たちがどれだけ、1人の犠牲の上に胡座をかいていたのかを。
だが、俺はそんなことにはもう興味がなかった。
俺は夢を見ていた。
15歳のあの日、父と一緒に笑いながら歩いた、あの光り輝く草原を。
そこには、クレーマーも、魔王も、ワンオペも、何もない。
ただ、優しい父の「ありがとう」という声だけが、いつまでも響いていた。
「次は嫁でも探すかなー」
どこかの教会。
祭壇の上で、ひとりの勇者が息を引き取った。
「おい……神父は……?」
誰も答えない。
血の匂いだけが残る礼拝堂。
数分後。
その身体は、ただの“物体”になった。
もう、誰も「アーメン」と言ってくれない。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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反応があれば、この後の世界も書こうと思っています。




