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久しぶりに投稿です

「いやー、私マジで命の恩人だね」

一応屋根のあるバス停に居るのにも関わらず、ゲリラ豪雨の中に傘も持たず直立していたレベルで水浸しの俺を見て、目の前の女はそういった。


「…加減って出来なかったのか」


思わず苦言がポロリと出たが、女は全く気にした様子もなく


「えー私熱中症の対処法なんて、大量の水を浴びせるしか知らないもん」


と、何の悪びれもなくそう言った。

確かに熱中症になって倒れていた俺が全面的に悪い。しかし、それにしたって服どころか、少し近くに置かれていた鞄まで、中に入っていた大事な書類が水浸しになるまで水を体感5分間かけ続けるのはやりすぎではないか。少しツッコミたくなる。…しかし、道で倒れていた見ず知らずの俺を放っておかず、対処までしてくれた文字道り命の恩人にこれ以上文句も言えない。


「それにしても、若い人は何では道端で倒れてたのー?あ、分かった失恋したんだ」

「何で熱中症の原因に、真っ先に思いつくのが失恋なんだよ!」

「失恋は若い人を狂わせるというじゃん」

「聞いたことねぇよ!!」


なんとも、調子が狂う女だと思った。大体俺を若い人と呼んでいるが、女は特徴的な青い目と整った顔立ちで大人っぽいが精々中学生程度にしか見えず、明らかに19歳の俺よりも若い。


「違えよ、俺は仕事の都合でにこの村に来たんだよ…。そしたらその、初めての遠出に仕事の緊張のせいで、昨日よく眠れなくて。しかもその…ここまで暑いとは知らなくて」

「要するに、体調不良+熱中症予防を怠った結果ということねー。若いねー」

グっ!

恥ずかしくて濁したのにも関わらず、年下にこうもはっきり言われると自業自得だが腹が立つ。しかし、グゥの音の出ないほどの正論に何もいえない。そんな俺を面白がるように女は言葉を続ける。


「それにしても、若い人は勤め人なんだー」

「見えないって良く言われるよ。」


実際、育ての親には大学に行けとうるさく言われた。しかし、どうしても中学の頃に命を救ってくれた虎さんという人物に恩返ししたかった俺は、高校を卒業したと同時にその人が働いている会社に就職した。


「いやー。こんな場所に来た理由が気になってさ。んで、その任された仕事ってどんな内容なの?」


女の何気ない質問に思わず一瞬口ごもる。口をモゴモゴと動かし、重い口を動かす。


「…書類を村長に渡すっていう大事な仕事だよ」


俺は、その大事な書類が入った中まで水浸しのカバンを見て、思わずため息を吐く。さっき万が一の希望にかけて書類を確認したが、想像道り書類のインクの文字は滲み、とても読めたものじゃない状態になっていた。俺の様子を見て何か察したのか、女は一切変わらない表情筋のまま「あちゃー」とつぶやく。

一応さっき会社に連絡しようとスマホを確認したが、微妙に安物で防水性能がないため電源すらつかないという悲惨な結果になってしまった。


「…しょうがねぇ、一旦会社に戻って正直に話すよ…」


幸いにも、本来の仕事の予定では俺は三日後にこの村に着く予定だった。しかし、時間に少しルーズな一面を持っていた俺は、念には念を入れて早くこの村に来たのだ。上司からの叱責は避けられないだろうが、今俺が出来る最善な行動はもうこれしかない。


「じゃあ、もう一回ここに来てくれるんだー」

「俺がこの仕事をクビにならなきゃなー…」


やけくそ気味にそう言うと、女は何がおかしいのかクスクスと笑い出す。


「大丈夫だよー。若い人は絶対にまたこの村にくるから」

「何でそんな断言できるんだよ」

すると女は、緩慢な動きで両手を合わせ、死んだ目のまま口端だけを上げこう言った。



「だって、神がそう言ってるもん」



ゾッ


何故かその女の様子に、背筋からドッと気持ちの悪い汗が大量にでた。

「な、なんだよお前神様とか信じてるのかよ…!」

「えー、いるよ」


理由も分からず震える声を誤魔化すため、思わず喧嘩腰の言葉が出る。



「若い人は信じてないのー?」

ミーンミーンとさっきまで全く気にしていなかったセミの鳴き声が、途端に神経を逆なでる耳障りな音に感じる。


「はっ!誰が神様なんて信じるかよ、そんのいるわけないだろう」

「えー、言いきちゃうの」


さっきまで調子が狂うが良い奴だと思っていた目の前の人間が、いきなり得体のしれない何かになった気味の悪さに、車酔いの様な気持ち悪さを感じる。しかしそんな俺に気づかず、女は言葉とは裏腹に気分を害した様子もなく、相変わらず感情が読めない薄ら笑いを顔にくっつけている。

「神はいるよー。例え若い人に対して何ら恩恵を与えなかったとしても、存在だけはしてるんだよ」

「…?」

宗教に関して何も詳しく知らない俺は女が何を言っているのか分からない。しかし、何故かたかが人間の一人でしかない俺が理解すべき領域ではないと本能が警鐘している。


「ねー、若い人は本当に…」


女が何かを言おうとしたその直後被せる様にブーという音が聞こえ、バスが到着したことに気が付いた。


「おっ!バス来たじゃねぇか!!じゃあな、水ありがとうよ!」


びしょ濡れの鞄を掴み、半場逃げる様にバスに乗り込む。バスの運転手は、全身ずぶぬれの俺に迷惑そうな顔をしたのかもしらないが、そんな事を気にしていられない程俺はみっともなく気が動転していた。


「…良い夢を、若い人」


背後でそう聞こえた瞬間、バスの扉が閉まった。


「はぁはぁ…」


特有の匂いと、エンジンの微弱に揺れを感じ逃げられたと感じた俺は力が抜け、ふらふらと移動し倒れる

ように椅子に座る。


「…なんなんだよあいつ、いきなり神様を信じるかなんて」


そんなの信じるわけないだろ。そう強く思うのに、なぜかあの女の目を思い出すとその考えが揺らぐ。

もしかしたら…神様は


「えーい!!やめやめ。寝不足が原因で変なこと考えてるんだよ」


強引に自分を納得させ、目をきつく閉じる。すると、昨日碌に寝れなかったのと熱中症の疲れが原因なのか、驚くほど速く自分の意識が沈んでいくのを感じた。

ーーーーーー


『はじ…、お前何でこ…所に居る…』

…誰だ、こいつ。

『あぁ、名前を言ってなかっ…。俺…名前は虎二だ、かっこいい名前…ー』

虎二…知らない名前だ。大体、こいつは何で産みの親でさえ気味悪がる、嫌われ者の自分に話しかけてきたのだろう。そう思うが、話返してもどうせ面倒な事になるので無視をする

『お前…名前は…て言うんだ?』




ーーーーー



「…夢か」

バスで座ったまま寝たせいだろう、体の節々に違和感がある。しかし、その痛みが自分の今いる所が現実だと教えてくれた。


「どんな夢だったけ…」


あまり覚えていない、しかし何故か錆びれた宝箱を開けた様な、懐かしさと哀愁が心に錘の様に残る。


「お客さーん、降りないの?」

「ああ悪い、今降りる!」


適当に近く置いていた鞄を手に取り、慌てて俺はバスから飛び降りた。

外に出ると、空は夕暮れに染まり始めていて、生暖かい不快な風が頬を撫でる


「夢なんて久しぶりに見たな…」


糞親に放置されていた時は、毎日の様に悪夢を良く見てうなされていた。しかし虎さんに救われてからその頻度は下がり、最後に今の会社に入る前日に見たのを皮切りに夢事態全く見ていなかった。何で今更…


『良い夢を若い人』


突如、あの声がフラッシュバックした。


「いやいや関係ないだろ!どうせ昨日の寝不足が原因だ」


自分の中で起きた理解できない考えを振り切るべく、俺は駅まで歩き始めた。

(どうしたんだよ俺、熱中症の後遺症でおかしくなったのか…それに命の恩人に感謝もしないで逃げちまうなんて)

今更ながらに、自分の愚かな行為に後悔が襲う。俺は神様なんて救われたことなんて一度もねぇから、全く信じていない。しかし、そんな理由はあの女の信仰を完全否定する理由にならない。


「…」

『目が覚めたんだねー』


俺が目を覚ました時、真っ先にあの女が言った心なしか少し柔らかい声を思い出す。


「…またあの村に行って、あの女に会おう」


仕事はほぼ確実に外れるだろうが、個人的に会いにいけばいいだけだ。その時、奮発して都会のお菓子でも土産でも持って行って謝ろう。許してくれるか分からないが、何もしないよりはマシだ。


「まぁ。その前に書類について会社に報告しないとなー」


ついでに、社用のスマホについてもな…

重石二個、胴体に結びつけたつけたのかという程、俺の体は鈍い動きで会社の方角へと進んでいった…


「思ったより遅くなっちまった」


夕暮れに染まっていたはずの空は、今は手抜きみたいに黒一色だ。

しかし、目の前の決して大きくはない我が社のビルの窓から明かりが漏れ出ているため、人が全員帰った訳ではないと確信を持つ。


「普段なら、ブラックだなって悲しくなるんだけどなぁ」


今の状況では、逆にありがたい。

そう思い、俺は社員がいる部屋の前までエレベーターで移動し、ゆっくりとドアを開けた

そこには、お人よしの社長が疲れながらも笑って書類の山を対処しており、周りの部下たちはそんな社長に付き合ってやる気に満ちた表情で仕事に取り組んでいた

















はずだった


「へ…」


まず感じたのは、騒がしい日常とはかけ離れた痛いほどの静寂だった。その次に、複雑な赤色の大きな水だまりが目に映る。

そして…そして…その次は


糸が解けたマリオネットの様にダランと不自然な姿勢でピクリとも動かない、大量の人の形をした何かがあった。


「え、あれ…これなんだ?」


震える声で、そんな事を言った。本当は自分の目の前にあるモノたちが何なのかわかっていた。しかし、脳がその理解を拒んでいた。だって…だってもしこの大量の赤がそれだったら…目の前にあるこれらはした…


「うっぷ…!」


喉から吐しゃ物が込み上げてき、反射的の近くにあるごみ箱を探そうと右に視線を向けたその時、俺は机に、もたれかかった態勢になっている、あるものを見てしまった。

それは激しく抵抗したのだろう。

普段は綺麗にオールバックにした髪はぐしゃぐしゃになっており、スーツには細かい傷が無数に刻まれている。普段の毅然とした姿からは想像が出来ない程無残な姿は、普通なら誰なのかすぐに判断が出来ないだろう。

…しかし、一目見て俺はそれが誰なのかわかってしまった。


「とら…さん?」


その瞬間血を踏むのを気にせず俺は虎さんに駆け寄り、乱暴に肩を掴み何度もゆすった。


「虎さん…起きてくださいよ。ねぇ、ねぇ…!」


しかし、返事はない。それ所か虎さんの体は意思が一切ないように抵抗せず、あろうことかそのまま地面に倒れてしまいそうになってしまい、慌てて両肩を支えて態勢を整えた…


その瞬間、俺の中の何かが決壊した


「何で…どうして!!!?」


獣の様に吠えた


「俺、あんたに何の恩返しも出来てないんだよっー…!!」


何故、誰が誰がこんな事をした!!

突然自分に襲ってきた理不尽な不幸を受け入れられず、俺はただ溢れてくる涙で虎さんの体を濡らす。

虎さんの顔を覗き込むと、そこに俺をいつも見守る優しい顔ではなく、目を不自然にかっぴらき、半開きになった口から泡を吹きだした苦悩の表情で固まっている。


「…!」


それを見た瞬間一気にやるせない気持ちが溢れ、涙で歪んだ視界のな、か震えた手で虎さんの目を覆いそっと閉じた。

「なんで…どうしてなんだよ。俺、あんたにまだ恩返し出来てないのに…」



「誰か、誰か夢って言ってくれ…!!」











「うん夢だよ」







は?






グル


その瞬間俺の世界がひっくり返った


「…は?」


気が付くと、先ほどまで居たのコンクリート部屋とは真逆の、緑の空間が視界一杯に広がった。先ほどまで夜のビルの室内にいたのにも関わらず、原色の青色の空とサンサンと輝く太陽が見え、眩しさのあまり思わず目を閉じる。


「こ、ここは…?」

「よい夢を見たかい、若い人?」


いきなりの光景に何が起きたのか呑み込めず、口を開け間抜けな表情になる。


「あらー、若い人顔色が悪いけど大丈夫?」

ここは…夢なのか?

明らかに、場所どころか時間事態も違う。

(が、外国に来たのか…?いや、仮にそうだとしても何故一瞬意識を飛ばした隙に…まさか後ろに犯人が待ち伏していて襲われたのか…!!)


「はっ虎さんは!!?」


先ほどまで近くに居た虎さんがいない。その事に気が付き、慌てて周りを見渡す。しかし、やはり虎さん所か周りに居た同僚もおらず、意識を失ったうちに海外か何かに誘拐されたのかという滅茶苦茶な仮説が余計に信ぴょう性を増す。


「んー、こりゃ混乱してるなー。よし、もう一回夢を見よっか」


グル


近くに犯人がいるのではないかと立ち上がったその瞬間また意識が薄れ始め、気が付くとまた目の前に虎さんの死体がいた。


「は…?」


慌てて周りを見渡すと、同僚たちの血が部屋中にとび散った、先ほどまで俺が居た惨劇の部屋に間違いなかった。そのあまりの現象の連続に、先ほどの謎の光景は、悲しさのあまり気が狂った俺が見た幻覚だったのか…?

そう無理矢理自分を納得させようとしたが、その考えはすぐに打ち砕かれた


「あちゃー、これは大胆にしんでおりますな」

何と、横から突如として小柄な人物が俺と虎さんの間に入り込み、あろう事か動かない豹さんの体をいきなり無遠慮に触り始めたのだ。


「虎さんに触るな!!」


その瞬間、今まで生きてきた中で味わったことがないような激情に駆られ、思わず自分より大幅に小柄な相手の胸倉を掴み無理矢理豹さんから引き剝がす。


「あ、良かった。なんも反応しないから死んだかと思ったよー」


しかし、相手は怯えもせず余裕の態度を崩さない。その態度の不自然さに、ようやく俺は冷静に相手の顔をまじかに見ることができた。


「お前…あの村の女か…?」


不自然な程綺麗な青い目に、人形の様に整った顔。

いま自分が胸倉を掴んでいる相手は、間違いなくあの村で会った命の恩人であるあの女だった。


「な、なんでお前がここに…」


あり得ない、間違いなくあのバスに乗った時、この女は外にいた。そもそも、何故この女は此処に居るんだ。


「あはは、嫌だなー。私が住んでる村なら私が居るのは当たり前じゃん」


相変わらず、口角を少し上げているだけの目は完全に死んだままな不自然な笑顔だ。しかし、そんな女の言葉は滅茶苦茶だった。


「お前の村って…ここは俺の会社だ」

「ううん、ここは夢だよ」


その証拠にと、女はどこから持ってきたのか、いきなり女の手程の大きさの石を、俺の左足ちょうどに落としてきた。


「いっ!!?」


そのあまりの衝撃に、思わず女の胸倉を掴んでいた手を放してしまう。

「な、なにするんだよ!!」

「大丈夫大丈夫。痛いのはあくまで若い人の思い込みだよ」


んな訳がないと叫ぼうとしたが、自分の体に衝撃はきたが、想定していた痛みは襲ってこない事に気がついた。


「ね、痛くないでしょ。」

「はっ!なんなんあだよ…これ!」


状況をすぐに飲み込めなかった俺は、自分の腹を思いっきり殴る。

…しかし痛みはいつまでたってもこず、鈍い衝撃を感じるレベルだ。


「現実の若い人の体は今も村のバス停で眠ってるんだから、ここでの傷は偽物でしかないよ」

「な…、な」

「あっでも、腕とか脚とか切ったら流石にショックが強すぎて、幻肢痛とかなんかでちょっと痛いよ。」


試してみる?


女は、世間話をする様なトーンで残酷な事を言った。

そのあまりのギャップと、整合性の取れない内容の言葉の羅列に俺は大いに困惑する。

ここは夢…?じゃあさっきのあの空間は現実で。そんでもって今は夢でだから…


「現実の虎さんは…死んでいない…?」


その結論は、一筋の救いの光だった。

そんな俺の言葉に対しての女の返答は、半分は俺の求めているものだった。だが半分は違った


「そうだよ。若い人の恩人はまだ死んでない。」

「まだ…まだってどういう意味だよ?」


その含みのある言葉が、妙に引っかかた。


「言葉のとうりだよ、若い人の恩人はこのままいけば確実に死ぬ。それは今のままだと決定した未来だよ」


サラリと、またもや女とんでもない爆弾発言をかましてきた。


「な、なんでだよ…!!」


虎さんも会社の同僚たちも誰も死んでいないと安堵しかけた俺は、その言葉に頭が金槌に打たれた様な衝撃が走る。


「でも大丈夫ー。私が全員助けてみんな幸せー幸せーにするから」

追撃の言葉に、さらに謎が深まる。

「あー!もうなんだよお前!」


短時間しか関わっていないが、この女の言葉にイチイチ反応してもキリがないと悟る。今からどんな返答が来ても絶対に驚いてやるもんか。そう身構えていたが…


「私は若い人救いにきた神だよー」


そんな俺を嘲笑うかの様に、女の返答は俺の想定をはるかに超えた返事が返ってきたのだった…
















誤字脱字があったら是非ともご報告を!

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