ざまぁされるヒロインに転生してしまった
ちょっと思いついたので、勢いで書いてしまいました。粗削りです。
4/13 誤字を訂正致しました。
9/16 変更を加えました。
「アリーシャ・ドゥ・ミネルヴァ、貴様との婚約を今日この瞬間の限りを以て破棄する!」
声高く悪役令嬢との婚約を破棄しようとする王子の声が貴族学校の卒業パーティーに響いた。
その瞬間、私はおおよそ前世と呼ばれるであろう記憶を思い出した。そして、今の私が所謂お花畑ヒロインのエレイン・ドゥ・ヒューメル。平民上がりの子爵令嬢だ。
今、目の前に1人佇んでいるのは、この物語の主人公である悪役令嬢アリーシャ。そして、私の隣にいる、もとい無遠慮に抱きしめてくるのは、この国の第一王子トラバルトだ。
あ、ダメだ。この展開は駄目だ。
「何を仰っているのです?この婚約には、王家と我が公爵家が深く関わっております。殿下の一存で、どうこうできるものでは、ありませんわ。」
今度は、アリーシャの冷たい声が響く。
騒然とする周囲を放置したまま、二人は会話を進めていくが、私はそれどころでは無かった。小説における私の顛末を思い出して、内心どうしたものかと考えていた。
この後、トラバルト王子とアリーシャは婚約を破棄し、ヒロインである私と結婚する。
しかし、この第一王子はうだつの上がらないサラリーマンも真っ青な駄目王子。甘やかされて育ったせいか、本当に我儘。自分の思い通りにならなければ、すぐ癇癪起こすわ、権力を振りかざすわで、最終的には廃嫡されてどっかに幽閉される運命。
え?言ってることが若干分からないって?知ってるよ!混乱しているんだよ、許して!
一方、ヒロインの私はと言うと慣れないお妃教育に宮中生活、味方を失くし、心を病んで最終的には自殺すると言う未来が待っている。この味方を失くすという展開には、アリーシャがヒロインである私よりも上位の貴族として、貴族令嬢としての頭角を表すからである。
いや、元々そうなんだけど。王子とその取り巻きがね、贔屓するからそうなっていただけで。
うん、とりあえずこの未来は絶対に嫌だ。ていうか、王妃とか絶対無理。
「私は貴様のような、性根の腐った奴に未来の王妃は相応しくないと言っているんだ。」
「なぜわたくしが、“性根の腐った”などと言われなければならないのでしょうか。」
周りが、ザワザワと騒ぎだす。
確かに、アリーシャは日々の社交を始めとした授業やお妃教育を淡々とこなし、王子との婚約も家のためと割り切って受け入れている。でも、この王子も王子だ。アリーシャに歩み寄ることをするどころか、完璧に全てをこなす彼女に嫉妬や因縁をつけてばかりだった。今、現在進行形でそうなのだけど。
「お前の取り巻きが、エレインを虐めていた証言は取れているんだ!そして、それを指示していたのがお前だと!」
「事実無根ですわ。それに証言だけでは、十分な証拠とは言えません。」
ああ、それは幾度か記憶にあるな。婚約者のいる殿方との距離感がおかしいのではないかと伯爵家のご令嬢やアリーシャ様の取り巻きに結構いわれましたな。
田舎生まれ、田舎育ちの私は母を亡くして以来、孤児として生きていた。
ところがいきなり父だというヒューメル子爵とやらがやって来て引き取られるわ、義母義姉に虐められるわ、なんかいきなり貴族学校に放り込まれ、右も左も分からずに困っていた所を通りかかった王子御一行に助けて頂いた。その時はまさか王子とは思わず、普通に話してしまった。それが、まぁもう運の尽きというかなんというか。
もうさ、この王子。普通に話す私を気に入ったのか、付き纏ってくるようになった。おかげ様で、まともな女友達なんて出来ず、貴族のお姉様方には目をつけられる始末。
勿論、一度、言われてからは気をつけた。高位貴族のお姉様方に睨まれるのは嫌だもん。
エレイン的には、貴族なんて碌な人間じゃあないって知っているから。学んだことを活かして出来るだけ、弱小貴族らしく影で生きようと思っていた節もあるのだけど。
いや、そりゃあ王子に付き纏われたら無下に出来ないでしょ。それも、この傲慢王子は機嫌を損ねたら、どうなるか分からない。弱小貴族の私にとっては、あらゆる要求が命令と同然なのだから、逆らえる訳がない。
ええ、そのせいでお姉様方には、よく虐められましたね。常識の通じないアホの子だと。でも、出来ればこう言ってやりたかった。こんな傲慢王子を見て顔を赤らめる貴女方の方がよほど怖いって。
その状況を見て、王子は虐められていると思ったのだろう。誰の所為だと思ってんだ、誰の所為だと。
側近の皆さんは、私がいたら王子の機嫌がいいから咎めないし、見つけたら話しかけてくるし、むしろ王子の元へ連行して行くし。
「お前は、そうやってすぐに屁理屈をこねる。だから、性根が腐っているんだ!」
冤罪を人に擦り付けようとしている人が言うことか?
でも、とにかくアリーシャは何も悪くない。ここは、穏便に終わらせてその後、殿下とはおさらばしよう。
「殿下、わたしは大丈夫ですからもうお止めください。」
「こんなに心優しいエレインに1つも謝罪しないとは!」
ん~道理が通っているようでないな。問題の根源を否定すれば、引いてくれるか?
「アリーシャ様にいじめられた覚えなどございません。ですからっ、おやめください!」
「大丈夫だ、エレイン。そんなに怯えずとも、私が付いている。」
人の話を聞け!!
「そんなに彼女と一緒になりたいのでしたら、愛妾にお迎えになればよろしいでしょう。わたくし、それほど狭量ではございませんわ。」
「なんだと!」
もうさ、アリーシャのこの発言が色々と諦めてる感じがして、可哀想なんだよ!
きっと彼女は、このまま結婚しても幸せにはなれない。それは私も同じことなんだけど。
「私たちは真実の愛で結ばれているんだ。この絆は誰にも引き裂けない!」
何言ってんだコイツ。
アリーシャが言ったことの答えになってないし。
それに私、こんなこと言った記憶ない。誰の入れ知恵だよ。そんでもって、離して欲しい。苦しい。
どうしよう、アリーシャには幸せになって欲しい。でも私だってこんなアホと結婚して、心を病んでいくなんてごめんだ。中身は転生者でもお妃教育についていける訳ないし、そもそも魑魅魍魎なお貴族とやりあわないといけないお妃になりたくもない。
あぁぁぁぁぁぁ!!もうなんてタイミングが悪いの。
思い返してみれば、このヒロインは私が転生したせいか、常識くらいは持ち合わせていたらしい。なのに記憶が無いから、周りのいいように流されていた。
ええ、ええ、知ってますよ。頭の軽い奴を妃にしたら操りやすいだろうとかって考えてる人がそれとなーくいるんだろうって。それが、招いた結末ってねぇ。
「君さえいれば、それでいいんだ。」
耳元で王子が、そんな言葉を囁く。悪寒が背筋を走り抜けた。
「君からも、アリーシャに何か言ってやってくれ。」
そうだ。元はと言えばこのろくでなし王子が悪い。
じゃあ、本来断罪されるべきはコイツだけじゃないか。
下手をすれば、王族に対する不敬罪で罰されるかもしれない。でも、今はそれ以上にコイツと結婚なんてしたくない。
ざまぁされる側とはいえヒロインだろ、自分。この場にいる全員の同情を買えなくて、どうする?
ええい、ままよ!
「あの……私、愛妾なんて嫌です。」
「ほら、エレインもこう言っているじゃないか。」
さらに抱きしめる力を強くする王子の腕の中から私はなんとか抜け出した。
「それからっ!貴方様の妻になるのも嫌です。」
全員の視線が、アリーシャから私へと移されていくのが分かった。何て言うの?五感的な?
「なん、だと?」
戸惑いと焦りが滲んだ王子の声が聞こえた。
「わたしは、先ほども言った通りアリーシャ様に嫌がらせをされた覚えはございません。殿下は何をもって嫌がらせと判断されたのですか?」
「教科書が破かれていたり、君の私物が隠されたりしたではないか!?」
ああ、そんなこともあったなぁ。
「どうしてアリーシャ様がそのようなことを行ったと言えるのですか。」
「それは、エレインと私の仲が良いことに嫉妬して、身分を笠に着て君に嫌がらせを指示したんだ。そういう証言も取れている。」
コイツ、本当に人の上に立つ人間なのか?
嫉妬とか、そういうのが分かっていたなら、どうして少しくらい誠実でいようとしなかった?
「あの日、アリーシャ様はご自身の教科書をわたしに見せてくださいました。」
教科書を忘れたと先生に怒られた私の隣に座って、そっと。
多分、アリーシャは自分の取り巻きが勝手にやったことだと思ったんだろう。
「そ、それは君を辱めるために……。」
「いいえ。本当にそのつもりでしたら、教科書を見せては頂けなかったでしょう。そればかりか、陰口を叩いて嘲笑していたとわたしは思います。しかし、アリーシャ様はそのようなことはされませんでした。」
「き、君は、アリーシャに口止めされてされているんだろ!」
「ありません。尤も、わたしを虐めるようアリーシャ様が指示したと、証言された方と同じく確証を得るのは難しいと思いますが。」
証言者として並んだ子息や令嬢の顔が強張った。
まーそうですよね。王子に取り込めるなら、いい機会だし。
「そんなわけない!」
半ば、癇癪をおこして私の言葉を真向から否定する王子。
さて、ここからはぶりっ子でなんとかするぞ。
「やっぱり、殿下はアリーシャ様のみではなく、わたしの言葉も信じてくださらないのですね。」
ドレスを両手で握りながら、軽く俯く。こうすることで、少し幼く見えてより可哀想に見えるであろう。
「わたし、ずっと怖かったのです。」
愛らしく、可憐な少女がポロポロと涙を零す。意外とこのヒロイン演技派かな。
「見て、しまったんです。殿下がアリーシャ様にお手をあげる瞬間を。」
「なっ……で、デタラメを言うな。」
デタラメは言っていない。直接見てはいないけれど、物語にそういう描写があったのだ。
私への虐めに関して、トラバルトがアリーシャに詰め寄った際に。王子は彼女に向かって、無いこと無いことをやったと一方的に言い募った。勿論、アリーシャは身に覚えが無いと言い張り、更には婚約者がいる者として、王族としての適切な距離を求めた彼女に対して、腹をたてて手をあげた。貴族学校の中でのことだから、私がうっかり見てしまったとしても何ら不自然はない。……無いはずだ。
その場は、第二王子の登場によって事なきを得るのだけど。
視線が集まったことを感じとったアリーシャは、トラバルト王子を見据えた。
「本当のことですわ。」
「……。」
アリーシャの静かな圧に押されて、押し黙る王子。人に濡れ衣とか着せる癖に、その程度か。
ある意味、幸運だったかも。お花畑なヒロインの私でも多少、言い負かすことができたということだ。
「それからは、わたしは殿下の言う通りにしておりました。何をされるか、分からなくて、怖くてっ。」
我ながら、被害妄想のひどい奴だと思うけど、こうでもしないとこの阿呆と結婚させられてしまう。
「エ、エレイン、何を今更!私に対して、嘘をついていたと言うのか!愛しているって言ってくれたではないか!?」
コヤツ、私はそんなこと言っとらん。
『ねえ、エレインも私のことを愛しているよね?』
『殿下がわたしのことをもっと大事にしてくださるのなら、考えてみるわ。』
と、濁した感じで王子の側近に言わされた記憶ならあるけど?
ていうか、我ながら悪女みたいなことやってる。そりゃ、ざまぁされても仕方ないのか?
ダメだ、ダメだ。これからそれを回避しようってのに。もうひとふんばりだ。
「殿下の仰る真実の愛は、貴方様の理想です。以前のわたしのように気安い仲でいられる存在が、珍しく嬉しかっただけでしょう。わたしはこの3年間、貴族学校でマナーや貴族として必要な教養を学ばせて頂きました。そして、理解したのです。貴方は、わたしに貴族らしくあることを否定し、理想を押し付けていただけに過ぎません。それに、以前からアリーシャ様の言動は、殿下の間違っていることを正そうとするものでした。」
私がアリーシャの方を振り向けば、静かに扇を広げて下を向いた。
あれ、なんか間違えちゃったかな。
「……エレインも、アリーシャの肩を持つのか?」
おっと、なんか面倒くさそうな台詞だな。
「そうとは言っておりません。わたしは、殿下の行いがおかしいと言っているのです。」
ずっと、この騒ぎによってザワザワとしていた会場が、しん、と静まりかえった。
あ、しまった。勢いでうっかり口が滑った。ハッキリ言ってしまった。わたしのバカ、このポンコツ頭。
「なんだって?」
トラバルト王子の顔が真っ赤に染まり、ワナワナと震えている。
「結局、エレインも私のことを見下していたんだな!」
「ですからっ、話を!」
いや、確かに間違ってないけど。こんなのが国王なったら、国外逃亡してやろうとか思ってたけど!
「嘘だっ!嘘だと言えっ!」
王子に両肩を掴まれて、前後に揺さぶられる。その勢いで、後ろに飛ばされた。
「あっ!」
周囲の人が息をのんだのが分かった。
その先にあるのは、石造りの床。
あ、オワッタ。頭を打って終わるのね、今世も。
うん?今世も?あ、そっか私は車に轢かれた後、その先にあった電柱で強く頭を打って……。
前世の死に際を走馬灯のように、ぼんやりと思い出していたら固いものに着地した。
「ぶフェッ……。」
あれ、思ったより痛くない?痛いけど。
「大丈夫か、エレイン嬢。」
私の上で、声がした。あれ?生きてる?
「あ、はい。」
薄ら目を開けると、そこにはよく見知った顔があった。確か、コイツは……そうだ。宰相の息子アードルフ!苗字は忘れたけど、ヤバい奴!
うわぁ、よりによって。この人、今は第一王子の側近だけど未来でトラバルトを廃嫡に追い込むんだった!
「あ、わ、アードルフ。私は何も?ただ、揺さぶっただけで!何もしていない!勝手に、エレインが倒れたんだっ!」
混乱している王子は私に向かって人差し指をさす。
「揺さぶっただけ?私が彼女を受け止めなれば、危うく柱で頭を打つ所でした。殿下、貴方様は彼女と結婚し、国を豊かに導くと仰いました。しかしながら、この有様はどういうことでしょうか。」
「あっ、そ、それは……。」
そうだった。この王子、一応王族だから、やれば出来るタイプだった。欲しいものを得るために頑張らせる。子供の扱い方としてはよくあることだ。でも、私は誰かの玩具になんてなりたくなんてない。
「一歩間違えれば、エレイン嬢はかえらぬ人になっていたかもしれないのですよ!」
「ヒッ、ウッ……!」
王子の目尻に涙が浮かぶ。
嘘だろ、コイツ泣くの?私の方が泣きたいんだけど。
そう思っていたら、アードルフは私をゆっくり支え立たせてくれた。
「申し訳ありません。エレイン嬢、貴女にも多大なるご迷惑をお掛けしました。」
「へ、いえ、わたしの方がご迷惑を。痛かったのではありませんか?」
「いえ、これくらい何ともありません。」
アードルフは、私に小さく礼をすると王子に向き直った。
「トラバルト殿下、貴方はご自分でなさったことの責任を負うべきです。」
「アードルフ、どうしたらっ。……ウゥッ。」
もう泣きじゃくっている王子にアードルフは何も言わず、会場に響き渡る声で言った。
「皆様、折角の卒業パーティですのに、大変ご迷惑をおかけしました。我々は、これより王城へ向かいますので、後はごゆっくりお楽しみください。」
「……終わった。」
良かった。ほんと、心を病んで死ぬ以前に別の死に方をするかもしれなかった。でも、とりあえず王子絡みによる死は回避した。
なーんて、1人ホッとしていると見覚えのあるお姉様方が、いっぱいやって来た。
「エレインさん、私達!何も知らなくてっ!ごめんなさい。」
「本当に、何事もなくて良かったわ。」
そう言いながら、少し涙目になって謝罪をする皆様を見て、私はどっと疲れを感じた。
なんなんだ。ほんと、どいつもコイツも手のひらを返して。いや、私が1番最初に返したか。
「皆さん。エレインさんの顔色があまりよろしくなくてよ。もしかしたら、怪我をしているかもしれないから、わたくしが保健室へ連れて行くわ。」
そこへやって来たのは、アリーシャだ。
「えっ、わたしは何も!お気になさらず!」
ほんと、ちょっと頭の頂点が痛いなとか思うけど、ほんとそれだけ。
しかし、周りのお姉さま方の反応は、思いのほかだった。
「そうね、万が一のこともあるもの!」
「見てもらってきた方がいいわ。」
「え、ええ?」
なんだか、あれよあれよと会場の出口へと追いやられてしまった。
「皆さんが、あまり騒がしくすると頭に響いてしまうかもしれませんわ。わたくしが、連れて行くわ。」
「分かりましたわ。」
「え、えっ、ええっ!」
そんなこんなで、アリーシャに手を引かれて、廊下へと出て保健室の方向へと行く。
アリーシャがわたしの手を引いて、一歩前を歩いているけれど、なんというかものすごく気まずい。
どうしたものかと考えていると、アリーシャがふと立ち止まった。必然的にわたしも立ち止まる。
「ねえ、エレインさん。」
「はい。」
彼女が、振り向いた拍子に繋いでいた手を離した。背の高いアリーシャに見下ろされる構図になるのだけど、威圧感や嫌な感じは特にしなかった。そして、彼女はとても美人だった。
「わたくし、貴女に嫌われていると思っていたの。でも、貴女にとって恐ろしいものは、わたくしではなくトラバルト殿下だったのね。わたくしが、もっとしっかりしていれば良かったと思ったの。そうしたら、貴女も大変な思いをしなくて済んだでしょう?だから、その、ごめんなさいね。」
切なげな雰囲気で、微笑みかけてくれる女神のようなお方にわたしまで、切なくなってしまう。
そりゃ、婚約者が他の女性に入れ込んでいたら、目の敵にしてもおかしな話ではない。いや、それで普通。それに、アリーシャは王子との関係を良くしようと、彼女なりに努力してきたのだ。わたしに謝ってもらう筋合いなんてない。
「いえ、いいえ。今まで、周囲に流されてしまっていたわたしの落ち度ですから、どうかお気になさらないでください。それに謝るのは、わたしの方です。申し訳ありません。」
貴族における最上の礼をすると、静かな笑い声が降ってきた。
「ふ、ふふっ……。」
さすが生粋の貴族令嬢だ。笑い方もお上品。なんというか、どこか吹っ切れた顔をしている気もする。
「貴女って不思議な人ね。殿下が気に入ってしまうのも、分からなくないわ。」
「え?」
「それから、お礼を言いたかったの。さっき、貴女が言いたいこと全部言ってくれたから、スッキリしたわ。」
「え、えっと、それは。」
それは、わたしが王子と結婚したくなかっただけであってアリーシャのためではない。
でも、これはこれである意味良かったのかもしれない。あの王子にアリーシャは、勿体ない。
「エレインさん、よかったらわたくしのお友達になってくださらない?」
「……よろしいのですか。」
「ええ。」
少し悩んだ。もしかしたら、いつか今までのことを一蹴して、突っぱねられるかもしれない。でも、彼女の近くにいれば死にはしないかもしれない。
私は差し出されたアリーシャの手を取った。
その後、トラバルト王子が廃嫡になったこと。それから、それに伴ってアリーシャとの婚約も白紙になったというのを噂で聞いた。
貴族学校の寮のベッドの上で同室の子が話しているのを聞きながら、ふと物語の内容を思い返す。
あれ?アリーシャは最後、第二王子と結婚してたんだけど、間でなんかあったっけ?でも、まあいっか。あの王子との結婚を回避したし。
あとは、実家かなぁ。さっさとお暇するのが吉よね。
そんな風にこの先のことを考えていたら、同室の子に呼ばれた。
「エレイン、先生が呼んでいるわよ。」
「あ、ありがとう。」
何事だろうと思い、ベッドから立ち上がってドアへ向かった。
お粗末様でした。