ロング グッドバイ
【数週間後…。】
私は自転車立ちこぎで坂をクリアし朝霧の中を道場へと向かう。
出社前の1時間だけ朝活する日課になっていた。
警官だれもが使用できる道場に着く。
ロッカーで袴に着替え、
私は一人、演武を復習…。
手刀!
真空投げ!!
「型は上手くなりましたね♪」
その声に私が振り向くとサリーが同じく袴姿で、やってきた。
彼女に「そろそろ、実践といきますか…。」と言われ、
サリーと私は定位置に立つ。
私の頭に記憶が過る…。
……刑事課を去る時に初めてサシで警部に食事に誘われた…おめかしして店に…。
「ちゃんとしれば、それなりじゃない♪」と警部に言われ私は、
(…国立女子大の準ミスのキャリアが…( `д´))
と上から目線の、オベッカに少々ムッ!と思ったが
「恐縮でございます…。」と、あっけらかんと警部に述べた。
「まぁ今日は食べて飲んでちょーだい♪」と返され、コース料理が次から次へと運ばれてくるから私は手を休まずに、ひたすら食べていた。
「まだ、食べれる?」と聞かれ、
もちろんです!と言った私に薄い生ハム料理が出され、私は、それを食べ終わる頃、
警部が述べた。
「私の、おばあちゃんが単身、この国に来た移住者でね……おばあちゃん、前にいた国で、それは新卒の就職に懸けていたんだって…」
私は、話す警部の顔を見ていた。遠目から見ていても綺麗だったが側で見ていても、そうだった。
「おばあちゃん、朝、命運を絞った企業面接に、とっておきの香水を己にかけて電車に乗ったら駅を降りて『いざ、面接へ!』と意気込んだ、その時、皮膚に痒みが出てね……とても美しい容器に入った香水だったらしいの……ろくに試験もされていない香水だと誰も思わない……それは美しい容器に入った香水だった……おばあちゃん、痒みに耐えきれず皮膚科に直行……面接なんて、それどころじゃなくて……
だから、私と貴女が今宵、隣り合わせ……。」
私は何も話せなくて、グラスにも手を伸ばせなくて警部の話の続きを待った…。
「盗まれた貴金属は全て輸入された大手宝飾品ナスリー社製だった…。」
「え?」と驚く私に警部は私の瞳を見据えて言う。
「ダイヤは全て人工品……でも、それが何?
天然品と何が違うの?その区別に私たち自国の人々は何かの価値を問うと貴女、思う…?
ミーナさん、
生活安全課に移動しても警察は辞めないで…♪」
… …
…
あの夜、
私とサリーの二人きりの密室であった。
サリーが言う。
「カスです、クズです!先輩の旦那は、こんなことにしか生き甲斐を感じ得なかった!!」
私は机の上の貴金属を見て、己左手薬指の結婚指輪を見た。
小さな石が入っていた…
記憶を手繰り寄せる……ペアリングである彼の、それには石がなかった…。
そして目の前にある机の上に、彼の、それは無い…。
(彼は自身の指輪をここに置き、去ってはいない…!)
サリーの声がする。
「…先輩と、あたいが黙っていれば迷宮入りです…。」
澄んだ空気の中、私たちは向かい合っていた。
私は、サリーに聞く。
武道派の彼女に隙を作る…。
「…サリー、貴女、結婚しないの…?」
「柔道三段、剣道二段、合気道初段の、アタイより弱い男は、いりませぬ!!!」
うっ……!
静寂の中、私は初手を繰り出そうとする。
私と旦那の絆は特別である!と私は固くなに思っていた…それは決して嘘ではない……でも最近ふと思う……消えた旦那は私の何処が好きだったのだろうか…?、と…。
『 ……見果てぬ世界… …この広い広い世界の
… それは……どこか遠い港で一人の男が薬手の指輪を外し海に投げる…
「…あばよ!」と… … 』
(ハッ!!私は今サリーと向き合っていたんだった…!)
「キエーーーーー!!」と出せる目一杯の声を発した私に、「先輩、それ悲鳴じゃないっすか!
明らかに弱そうです!」とサリーが笑う。
道場の窓から私たちに朝日が差し込む…
この惑星では夜分、誰かがクタクタで眠りに就く時、
私たちの朝が始まっている……。
【オシマイ】




