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兄が絶世の美女と謳われた婚約者を捨てたので跡を代わりに継ぐことになったのですが、どう見ても婚約者はゴリマッチョな件について

作者: 鯛パニック

初投稿となります。

どうぞよろしくお願いします。

ー兄が駆け落ちしたと我が家に報告が入ってきたあの時の衝撃を超えるものと、これから先出会うことはないだろうと、そう思っていたんだ。ー




兄が侍女と恋仲になって、家を捨てたのが10年も前のこと

割と夢見がちな兄ではあったが、まさか真実の愛を見つけたとかのたまって駆け落ちするとは誰も思わなかった。

公衆の面前で婚約破棄とか言い出さなかっただけマシかもしれないが、それでも生まれた時から決まっていた婚約者も、家も捨てていくとは誰が想像できるか。


烈火の如く怒り狂った父や祖父の命令により、兄は病気になったと公表され、その裏では懸命な兄の捜索は行われた。

だが、まるで煙のように消失したかのように、数ヶ月後も兄は見つかることはなかった。


人攫いに攫われたか、いや死んだ可能性すらある。

父や祖父、そしてその側近達がそう噂をし始めるのはそう遅くはなかった。


そして兄の失踪から1年後


このまま見つかるかわからないものを探すよりは新しく後継を立てた方がいいだろうと話は纏まり


まだ遊び盛り真っ盛りの5歳だった私、フィンリー・ウィンチェスターはこの侯爵家の跡取りになることを命じられ

ー兄の元婚約者と婚約することになった。





「若様、エイヴェリー様がおいでになりました。」

ぼんやりと窓の外を眺めているとメイドのアディに声をかけられる。


身長175cmの服の上からでもわかる筋肉質な肉体、さらさらとしたチョコレートを思わせるような深い茶色の髪の下で、星の光を閉じ込めたような緑のアースアイが輝き、爽やかな顔立ちに色気を添えている。


だが、フィンリーの印象として皆があげるのは笑顔である。

楽しそうな時は微笑むように笑った、困った時も笑っていた、悲しい時も悲しそうに笑っていた、報告書が完成していない隊員に怒るときも笑っていた。


ずっと笑っている方、それが多くの者が抱くフィンリー・ウィンチェスターへの印象だった。





「ああ、いらっしゃったか。今行くよ。」


今日はエイヴェリー様との顔合わせの日


お会いするのは、9年ぶり。

兄上が駆け落ちして逃げた次の年・・・

私と彼女の婚約が確定し、顔合わせをして以来だ。


会わなさすぎた気もするが、私は訓練やら次期当主としての勉強や騎士団の隊長としての職務が忙しく、相手も他国に留学したりなんだりで顔を合わせる機会が中々作れなかったのだ。


一応、定期的な贈り物はするようにはしたし、手紙も出すようにはした。

季節のイベントごとによっての贈り物もするようにはした。


返ってくる手紙の内容はそっけないものばかりではあったが、一応は歩み寄ろうとしたという誠意は見せるようにしたし、婚約者として不適格、と言われるような不祥事も一切起こさないように心掛けたから問題はないと思いたい。



とはいえ、緊張からか腹が痛い。

当たり前の話だがこの10年、婚約者以外の女性のエスコートなどしたこともなく、関わることも極端に少なかった、つまり、女性とこのようなお茶会などしたことがないのだ。


正直・・・、王の前での御前試合の方がまだマシだと思える程だ。





エイヴェリー・ウィリアムズ

ウィリアムズ子爵家の次女であり、文句の出しようもない非の打ち所がない才色兼備の美女と名高い淑女。

ちなみに何が起ころうと全く変わらぬ表情からつけられたあだ名ついたあだ名は『氷の君』。


そんな完璧淑女と名高い彼女と、顔はそこそこだが、勉学は最低レベル、剣も特出したところがないボンクラ兄貴がどうして婚約者となったのか。


国内有数の資産家ではあるがさらに上の家と繋がりたい子爵家と代々騎士団の剣の部隊長を務め、王からの信頼も厚いがあちこち直すところができた侯爵家

言ってしまえば政略結婚


異例な点としては、我々の領地に挟まるように存在している大河の治水工事を行うため

国益にも関わりかねないこれを問題なく進めるために、王家がこの結婚に一枚噛んでいるという点であろう。


だからこそ、兄の駆け落ちは我が家からすればとんでもなく恐ろしいことだった。

王家のメンツ丸潰しの行為、爵位返上とはいかなくとも、多額の賠償金を払いかねないこの行為。

そのため、行方不明の兄を連れ戻すのが難しいと判断した祖父と父は兄を病死として処理。


そうしてデビューも何も行っていなかった私を後継として宣言、と同時にエイヴェリー様の次の婚約者として決めた、というのおおよそ9年前のこととなる。


流石に10年近く前だと顔もうろ覚えだ。

女性にしては背の高い方だった気がする・・・程度のことしか覚えていない。


「一発目の印象が重要なんです。」

そうアディに言われ、この一週間でアディや家令のトーマスと話し合い考えた褒め言葉を頭の中で反芻する。



(雪原を思わせるが如く真っ白な肌、美しい絹糸のような金の髪に、深い海を思わせるようなサファイアの瞳、あとは・・・)


何度も同じような褒め言葉を頭の中で反芻しながら、待たせるわけにはいかないと彼女が待つ応接室へと急いだ。







「えーー、あの、その、今日は、その・・・いい天気ですね。」

絞り出した世間話を


「どうみても曇りだが。」

そっけなくそう返され、応接室内に沈黙が立ち込める。


考えた褒め言葉が何一つ使えやしない。

考えてきた質問は全て彼方へと吹っ飛んでいった。


目の前に座るは、小さなダイヤが沢山縫い付けられた女神にふさわしい光沢のある深い藍色のドレス。煌めく夜空を纏っているかに見えるその姿は見るもの全てを魅了するのだろう。


それを見に纏うのは身長2m超えている筋肉質の男性。


きめの細かい銅色の肌に、腰まで伸びたカラスの羽のように黒々とした髪、炎を思わせるような紅色の瞳、スッと通った鼻筋に、知性を感じさせながらも武骨さも感じる太めの眉と唇


ニコニコと笑っているフィンリーと対照的に眉間に皺を寄せ、大変機嫌が悪そうな

ーどこからどう見てもゴツい男性。

その筋肉質な逆三角形の肉体はゴリラを思わせるほどのもの。


ゴリラだな、綺麗か、綺麗か!?

いや、ゴリラは美しい、今のはゴリラに失礼だった。

素晴らしい筋肉質なプロポーションに、家族を思い闘う心意気、ゴリラというものはひどく美しいものだ。

いや違う、それは関係ない。



国1番と讃えられる噂と我が家に送られてきた絵画での見た目と、今現在目の前にいるエイヴェリー様の姿があまりに違いすぎるのだ。


絵画ではスレンダーな、まるで女神を彷彿とさせるようなプロポーションに雪原を思わせるような真っ白な肌、光の束を集めたかのような絹糸のように艶めく淡い金の髪に宝石のように輝くサファイアを思わせるような深い青色の瞳の女性だったはずだ。

それがどう描いたらああなるんだ!!!


「その、あのエイヴェリー様は・・・やや骨格がそのしっかりしてらっしゃる。」

「だからなんだ。関係ないことをウダウダと・・・。」


眉間にしわを寄せながら、淡々と、しかしその言葉の裏には怒りを僅かに感じさせた。

だめだ、これ以上言えることがない。

これ以上変に褒めればもっと機嫌が悪くなる。

というかどこが完璧な令嬢だ。

そもそも性別から違うじゃねえか。


あとはお二人で、と言われ両家の両親、メイド達は席を外し応接室には我々2人のみ。

正直泣きたい

地獄と名高い総団長の命をかけた24時間無人島サバイバル訓練の方がマシと思えるほどだ。


沈黙が辛いと本気で思う。頼む誰か緊急事態ですと飛び込んでこの状況をなんとかしてくれ。


・・・・もしや、エイヴェリー様、具合が悪くて代打に頼んだのか?

だったら、もう少し似せる努力をして欲しかった。

いや、メイド達も疑問に思え。違う人が来てますとか報告あげてくれ。


チラリと顔を伺えば

噂の氷のようだと言われる程に変わらぬ表情とは打って変わって、ぐつぐつと煮えたぎるマグマのような不満、怒りを隠そうともしない表情。


「何が言いたい。」

「いえ、あの、その・・・。」

だめだ、言いたい

なぜ女装してるのですかと、エイヴェリー様の代わりに来てるのですか?と

言えるわけがないがいいたい!!!


「あぁー、そのぉ。」

これ以上の褒め言葉を思いつけるわけもなく、

だが何故似ても似つかぬ貴方がエイヴェリー様の代わりにいるのかを聞くことも叶わず

うー、あーと声を上げながら顔を上げれば、不機嫌そうな目とかち合う。

その血の色にも太陽が沈む夕方の空にも似たような、紅色の瞳


ーーああ、美しいな


「美しい、夕暮れのような赤い瞳なんだな、と。」

ボロッと口から思ったことがこぼれ落ちるように

あ、と思ったが既に遅く、口から出た言葉は取り消せない。


青い瞳のはずなのに、紅い瞳と褒められてしまった。

しまった、どう弁明すればいいと、己の貼り付けた笑顔の裏で焦る。


だが、エイヴェリーの表情は先ほどの酷く機嫌の悪そうなものから一転

驚愕に染まった表情へと変化する。


「俺の、姿が見えるのか。」


「は?」








男の筈なのに女にしか見られない、女としか認識されない。

生まれた時から自分はそういうものであった。


己が男だと叫んでも、誰にもその言葉は届かない。

己の体に合わせたドレスを作ろうと、布の使用量ですら認識の阻害が起きる

己が食器を割ろうとも、何をしようとマナーは完璧なものとして写る



誰も本当の姿、声なんか届かなかった

話し方も、振る舞いも非の付け所などない完璧なお嬢様。


誰にも届かぬというのであれば、諦めるしかあるまい。

争っても無駄なのだと、そう思わざるを得まい。


どんな言葉遣いをしようと、どんな行動を取ろうとも自動的に完璧な淑女へと変換される、と。


ーあまりに美しい完璧なお嬢様


でも、それは俺ではない。

俺じゃない誰か(エイヴェリー)の姿のみを見られ続け、俺の心は段々と擦り減っていく。

そのうち無気力になってしまい、行動することすら嫌になっていった。


婚約相手が考えなしの馬鹿男であったことには心底反吐が出そうだとは思ったが、それでも破棄しようとも、改善させようとする気も出なかった。


婚約相手である男が病死したとの報告が入り、ウィンチェスター家の末っ子と婚約を結び直したあの日ですらどうだってよかった。

年増、行き遅れと噂されるのを防ぐために異国への留学に出された時も、凍りついた俺の心が動くことはなかった。


今日の顔合わせだって面倒で、早く終われとばかり思っていた。



だから応接室に入るなり信じられないものをるような物をみる目をむけてきた、目の前に座るヘラヘラ笑う見合い相手が

ーまさか己の本当の姿を見ることができるなんて想像できただろうか。



「魔法、みたいですね。そんな絵本のような、空想のようなことが本当に存在しているとは。」

「こんなものが魔法なわけがあるか・・・、呪いだ。」

忌々しそうに舌打ちすれば、「ああ確かに。」なんてヘラヘラと笑う目の前の男、フィンリーへの苛立ちが湧く。


「解くことは、出来なかったんですよね。」

「できていたなら、こんな状況になっているわけないだろう。」

「ああ、確かにそれはそうですね。・・・解きたいのであれば結婚後にでもウチのツテでそういった本を取り扱っている所と連絡を取ってみますか。」

目の前の男は冷めた紅茶を啜りながら結婚後の話を、何気ない提案のようにはしてきたことに驚愕を隠せない。


「このまま婚約を続ける気か?

同情か?こんなデカい男と同衾する気か?

ーあんた男色家だったのか?」

いや、本当はわかっていた。

王家が関わるこの婚約を、破棄などできるはずも無い。

だから婚約を破棄するという選択肢がこの目の前にいる男に存在していないのはわかりきっていたことではあったが、生まれ持った皮肉屋で、猜疑心が強い己の一面が黙っていられなかったのだ。


別に馬鹿にしたいわけでもない、どんな性別を好きになるものその人間の自由だ。

だが、貴族としては別だ。


だから気になった。

別の女に孕ませるつもりなのか、愛人でも持つつもりなのかと。

それとも純粋に男色家なのかと


睨みながらそう聞けば


「いえ、私の本来の性別女なので、そもそも男色家もクソもありませんが・・・。」

あ、言ったら不味かったかな。

なんて他人事のように呟きながらフィンリーは冷めた紅茶を啜る。


「は?」

想定していなかった返答に目を見開き驚愕の声が漏れ出てしまう。


「ああ、そんなビックリした、呆けた表情もできるんですね。」

フィンリーはそう呟くと、残りの紅茶を一息に飲み干したのだった。



ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

一旦はここで終了です。

半端な終わりとなってしまい申し訳ありません。

アイディアが湧いたら連載にするかもしれません。

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