077 肉の玩具を組み立てて遊ぶ
一つ目の裂け目を塞いだミダスはその直後、別の村に助けを求められ、そちらの裂け目も塞ぐことになった。
アーレムは真逆の、面積の大半を畑が占める村――そのど真ん中に、新たな侵略者の侵入口が生じている。
ミダスは大型侵略者の腕の前に立つと、守護者を呼び出す。
「ゴルディオス、仕事だ」
ずしんと大地を揺らし現れたのは、ひと目見ただけでミダスの守護者だと分かる黄金まみれの巨人であった。
降り注ぐ陽の光を反射し、まばゆいほどに光り輝くその鎧は、まるでかつてのアーレムの栄華を凝縮したかのようだ。
一方で鎧は分厚く、重装であり、機動力を売りにしているようには見えない。
また、現時点では武器らしきものも見えず、どう戦うのかは見た目ではわからないのが、一種の特徴である。
ゴルディオスは裂け目の前に立つと、両手をそこにかざした。
『かわいそうだが腕もろとも黄金に変わってもらうぜ』
手のひらから放たれる光。
それに触れた瞬間、裂け目から出ていた侵略者の腕や、裂け目そのものが黄金へと変わっていく。
黄金神の威光――それはゴルディオスの最も特徴的な武装と言えよう。
相手を破壊するのではなく、黄金に変えて動きを封じる。
一定時間浴び続けると、内部まで黄金は侵食していき、最終的には死に至る。
『こんだけ簡単に金に変えられちまうと、ありがたみも価値も薄れるな……』
黄金を作り出していた人間が言えたことではない。
だが、以前のミダスコインと異なり、これは明確な“攻撃手段”である。
大量の敵を相手にする場合、どうしてもそれだけ大量の黄金を生み出さざるを得ない。
金価格の暴落もやむなしである。
『いやいいことなのか? 俺の作った黄金が世界中で使われるってのは』
裂け目を封じていると、どうしても暇なので独り言が増える。
村の人間が話し相手にでもなってくれればいいのだが、なんだかんだ守護者の近くにいるのは怖いらしく、遠巻きに見ているばかりだ。
『こんなにかっこいいのによお。ガキの一人でも目をキラキラ輝かせて纏わりついてこないもんかねぇ』
うざったいぐらいに興味を示す子供も、今のこの退屈さを紛らわすなら悪くない。
そう思っていたミダスの元に――二名の村人が近づいてくる。
しかし残念ながら子供ではなかった。
『……ああ、猛烈に嫌な予感がするな』
ミダスの予感は直後に的中する。
ゴルディオスに近づく途中で左右に裂けたのだ。
他の村人たちから悲鳴があがる。
裂けた体から生えた腕を器用に使い、侵略者はミダスに接近してくる。
『ほら出たよ。だがその程度の数じゃ――』
黄金神の威光を侵略者に向けようとした瞬間、敵の体が光に包まれた。
ミダスの目の前に、一応は人間の形をした、しかし左右の手足、頭部、胴体の大きさがいびつな、守護者のような何かが現れる。
『侵略者が守護者を使うだと!?』
一体はねじ曲がった剣、もう一体は枝分かれした鈍器のような武器を手に、ゴルディオスに飛びかかる。
ミダスは裂け目の封印を中断し、後ろに飛びながら迎え撃つ。
『気持ち悪ぃ見た目しやがって。アタランテ、ヒッポメネス!』
手首が開き、そこからガコンッ! と拳銃が現れる。
彼はそれを握ると同時に引き金を引いた。
放たれた黄金の銃弾は敵に命中すると、体内に潜り込み、そこから黄金へと変えてゆく。
『一撃じゃ沈まねえか』
中型侵略者程度なら、軽く光を当てれば終わる。
だが守護者を纏った侵略者は、銃弾を体内に沈ませても、せいぜい当たった部分の周囲を黄金化させる程度のダメージしかない。
突き出された剣を首を曲げて避け、続けて振り下ろされた鈍器を銃で受け止める。
ガゴォンッ! と重量級の音が鳴り響き、ゴルディオスの足ごと地面が沈んだ。
『ぐぅっ、しかも威力はいっちょ前かよ! どうなってやがるッ!』
◇◇◇
王国西部、王都からほど近い街に発生した裂け目は、石畳の大通りのど真ん中を陣取っていた。
当初、裂け目から現れた腕は通行人数十人を引き裂き、さらには周囲にあった三階建てのアパートメントも破壊。
そのせいでアンタムの操る守護者の周囲には、瓦礫や血が散乱していた。
そんな惨劇の上に立つ灰色の鎧は、守護者ラトナという。
ベースの色こそ地味に見えるが、羽織ったマントは赤く、また体の各部に様々な色の宝石が埋め込まれており、しっかりアンタムらしい派手さも備えていた。
その宝石のうちの一つ――透明のダイヤモンドが裂け目の前に浮かび、押し返すように侵略者の侵入を拒んでいる。
『あと一息だし……まだ出現したばっかりだったから早く終わったのかな』
実を言うと、この街で発生した裂け目はこれが二個目だった。
人口の多い街だ、それだけ多くの侵略者が潜んでいるということだろう。
だがそれを抜きにしても、明らかに発生頻度が上がっている。
(大人しくついていくとは言ったけど、それで状況が好転するとは思えないんだよねー)
彼女は包囲している兵士たちに対し、これが終われば大人しく捕まってやると伝えている。
だが見守る兵士たちにも葛藤はある。
国王クロド曰く、アンタムは侵略者の手の者らしいが、だったらなぜ守護者を使えて、こうして裂け目を閉じているのか。
敵だというのなら、やるべきことはこの街で暴れ、虐殺することではないのか。
しかし同時に、兵たちにクロドを裏切る理由もない。
国王と、追われる身となった騎士団長、どちらを選ぶか――それで騎士団長の方を選ぶのは、王魔騎士団の一部の人間ぐらいだろう。
もっとも、その一部の人間が、兵士の中に混ざっているのだが。
騎士団の失態の責任は騎士団が取る。
そう息巻いて王都を出た二人の騎士だったが、いざアンタムの前に来ると決意は揺らぐ。
「本当に団長を捕まえるのが正しいのかな……」
「今さら何をおっしゃってるんですか。陛下の命令です、それに従うのが騎士の役目」
「でも……何かがおかしいって、気づいてるじゃない」
一方の騎士がそう指摘すると、もう一方の生真面目そうな女性は眉間にしわを寄せる。
「最初に言ったのはあなたでしょう、『王魔騎士団はこんなに少ない人数だったか』って」
「それは……」
数十名の団員がいるはずの王魔騎士団。
しかし彼女たちがどう思い出そうとしても、浮かぶ顔や名前は十名に満たない。
もちろん騎士たちはクロドの正体を知らないため、何が起きているのかはわからないが、しかし異常事態が起きていることだけはわかる。
彼女たちがそんな会話を交わしていると、背後から足音が近づいてきた。
振り返ると、二名の住民が駆け足でラトナに向かっているではないか。
「野次馬かな。すいません、ここから先は危険ですので」
「危ないッ!」
止めようとした騎士にもうひとりの騎士が飛びかかり、押し倒すように地面に転がった。
その直後、近づいてきた住民の体が裂け、さらには守護者がその場に現れる。
「侵略者? 守護者!? どっちなのこれ!?」
「狙いはおそらく団長です、私たちで止めましょうッ!」
「う、うんっ!」
ラトナに襲いかかろうとする侵略者。
それを止めるべく、二人の騎士も守護者を呼び出し、それぞれ巨大な剣で斬り掛かった。
わざわざ王魔騎士団の人間がアンタムを捕らえに来たのは、この二人が守護者を使えるからに他ならない。
アンタムは自ら投降すると言ったが、仮に彼女が本当に侵略者ならその言葉は信用できない。
ならば守護者には守護者を――そんな理由で派遣されたのである。
まさかそのアンタムを守るために戦う羽目になるとは、思ってもいなかったが。
『ちょ、なになに急に! あんたら大丈夫!?』
『はいっ、大丈夫です団長ッ!』
『私たちが守ります、団長はそのまま続けてください』
『それはいーけどさぁ……』
侵略者の使う歪な守護者を見た瞬間、アンタムは言いしれぬ不快感を覚えた。
それは対峙する騎士たちも同様である。
『ねえこいつら、やたら気持ち悪くない?』
『侵略者自体がそうでしょう』
『そうじゃなくて! 生理的にって言うか、体の奥底から気味の悪さが込み上げてくるっていうか』
『無駄口を叩いてないで戦いなさい』
一方は困惑し、もう一方はあくまで冷静に対処する。
だが冷静な彼女もまた、違和感を覚えていた。
しかしそんなことを考えている余裕はない。
『こいつら私たちと互角……』
『王魔騎士団は戦闘専門ではありません、仕方の無いこと』
『……?』
『よそ見はしないでください』
『違うの。あっちからも来る!』
別方向に出現する新手の守護者。
それも今度は三体。
『団長ッ!』
『ちぃっ、こっちの相手で手一杯だというのに……!』
『しゃーない、一時的に中断してあーしも戦いを――』
アンタムは裂け目を塞ぐ手を止め、戦闘に参加しようとしたが――そのとき、敵と彼女の間に割り込むように、赤い騎士が現れる。
『あんたはそっちに専念してな、アンタムッ!』
『こっちはワタシたちがどーにかします!』
『テニュス、ラパーパっ! 最高のタイミングだよ、マジで助かる!』
アンタムの声が跳ねる。
オグダードは容赦なく向かってくる守護者に剣を振るった。
『うおりゃぁぁぁああッ!』
『後方から援護します、テニュス様っ!』
圧倒的な火力を誇る炎の剣は敵のシールドを溶かし、一刀両断する。
そんな彼女を両側から挟み撃ちにしようとする侵略者だったが、守護者ジュノーの自動迎撃魔装ガニメデが命中し、それを妨害した。
よろめく歪んだ侵略者。
『もらったぁぁあッ!』
その隙にテニュスが両側の二体を真っ二つに斬る。
『最高のコンビネーションだ。なあラパーパ』
『はい、最高デス!』
アンタムの部下二人も、ほぼ同時に敵を撃破していた。
一瞬にして五体もの守護者が片付く。
テニュスとラパーパはともかく、騎士たちの方はまだ守護者を使い慣れていないため、最高のパフォーマンスを発揮できたわけではない。
それでも有利に戦いを進められたということは、中型侵略者の纏う鎧は、普通の人間が扱う守護者よりも劣るということだ。
だがそれでも、ただ中型侵略者が纏わりつくよりは脅威である。
『落ち着いたみたいだね。あんがと、四人とも。でもテニュスたちはなんでここにいんの?』
『スィーゼと別れたあと、ラパーパと合流してここに来たんだ。一緒に動いた方がいいと思ってな』
『そしたらアンタム様がさっきのに襲われててびっくりしました。中身は侵略者みたいですけど、なんなんデス?』
『あーしにもわかんない、急に出てきたから。そっちの二人はどう? 何か見た?』
話を振られた騎士二人も、戸惑いながら答える。
『いきなり街の人が走ってきたと思ったら、いきなり体が裂けて、さらにいきなり守護者が出てきたんですよぉ!』
『でもさっきの守護者の姿……気味が悪かったですけど、既視感もありましたね』
落ち着いた声でそう語る騎士に対し、アンタムは頷く。
『そーそー、どっかで見たことある気がするんだよね』
『はいはい、私もですっ!』
既視感を覚えたのは王魔騎士団の三人。
一方でテニュスとラパーパは首を傾げていた。
『そんな感じしたか?』
『いえ、ワタシはさっぱりデス……』
『第一、何で今になって侵略者のやつらが守護者なんて使い出したんだ。使えるんならもっと前からそうしてりゃいいだろうに』
騎士団の人間とそれ以外で何が違うのか――違和感を覚えつつも、テニュスの疑問に答えるアンタム。
『そこも不思議なんだよねー。あーしが思うに、侵略者に守護者は使えないと思ってたんだけど』
『そうなんデス?』
『前にもらったサンプルで色々実験したんだけどさ、あーしの見立てでは、侵略者って意思を持ってないんじゃないかと思ってんの。なんつーか、統一した一つの意思に動かされてる、みたいな』
『本体がいて、そいつが操ってるってことか』
『まーそんな感じ。だとするとさ、“防衛本能の具現化”である守護者を使えない理由もわかるじゃん?』
『個々に意識がないなら、自分を守りたいという気持ちも無いってことデスか』
『噛み砕いた説明さんきゅ。そーゆーこと』
『でも今は使えたわけだろ』
『そう、今のタイミングで使えるよーになったのは、侵略者の親玉が何かやったからじゃないのー? ってコト』
そんなことをできる人間は一人しかいない。
テニュスがその名をつぶやく。
『クロドか……』
アンタムは守護者の中で一人、強く拳を握りしめた。
すると騎士のうちの一人が、恐る恐る彼女に尋ねる。
『あのぉ、団長。一つ聞いてもいいでしょうか?』
『ん、どしたー?』
『王魔騎士団って、五人よりも……たくさんいましたよね』
『あはは、なにそれ。あったりまえじゃん、何十人もいるに決まって――』
馬鹿げた質問だ。
そう思い笑ってみせたが、すぐにアンタムの表情は固まる。
団長なのだから、当然騎士団全員の名前や顔、性格や経歴などを記憶しているわけだが――思い出せない。
“覚えている”という記憶は残っているのに、肝心の情報部分が抜け落ちている。
アンタムはその感覚に覚えがあった。
『……ウソでしょ』
食われて、消された。
『あいつ……クロドのやつ、そんな馬鹿なこと……ッ!』
やるとしたらクロド以外にいない。
今だって、弟同然の存在がそんなことをしたとは思いたくないが――だがもはや否定できる段階にない。
それでも今までは一線を越えていなかったように思える。
そうやってクロドのことを考えていると、そこにも一つ、どうしても見過ごせない違和感があった。
『あれ? そもそもあいつが国王っておかしくない? だって王位継承権を争ってて、つまりあと一人以上はいたはずで……どうなってんの? あれ? おかしいとこばっかだ。だって、クロドが二人いないとあのタイミングで一緒に遊ぶのは無理だし、てか年齢もおかしいし……何、これ。何か、めちゃくちゃ大事な何かが、抜け落ちて、上書きされてるみたい……!』
両手で頭を抱え、力を込めた手のひらが髪の毛をくしゃりと乱す。
けれどそれ以上に、記憶の方はぐちゃぐちゃだ。
あえて見ようとしなければ違和感に気づかない。
けれど直視すると、まるっきり場所の違うピースをはめ込まれたパズルのように、矛盾だらけのグロテスクなコラージュが姿を現す。
そこをどれだけ探し続けても、カインの名は見つからないが。
『少し冷静になれよ、アンタム。守護者がブレてる、裂け目から出てきちまうぞ』
冷たいと思いながらも、テニュスはそう声をかけた。
『っ……わかってる。頭では、そうだってわかってても……ッ!』
そのおかげで多少は持ち直したが、それでもテニュスの心は乱れたままだ。
いっそ彼女を休ませて、ラパーパに変わってもらうかとも思ったが――
『また出てきたみたいですね』
そんな落ち着いた騎士の声を聞き、それも無理だとテニュスは悟る。
『わわ、こっちもまたデス!』
騎士たちの方だけでなく、先ほどテニュスが倒したはずの守護者も再び立ち上がった。
『同じに見えるが、ありゃ別物だな』
『どういうことですか?』
アンタムは苦しげに、絞り出すように言った。
『奪った防衛本能の……再利用ってわけ……!』
◇◇◇
その頃、王都ではクロドの元に一人の騎士が連れてこられていた。
「陛下、連れてまいりました」
「ご苦労、下がれ」
「はっ」
従者が下がり、室内にはクロドと騎士だけになる。
王は笑みを浮かべ、ひざまずく兵に優しく声をかけた。
「守護者を習得したそうだな、よくやった」
「お褒めいただき光栄です」
「王国を守るためにその力を振るってくれるな」
「はっ、この身が擦り切れるまで王国のために戦う覚悟で――」
クロドの背後が歪む。
粘液を垂らす、侵略者の口が現れる。
「ならこの場ですり潰してやろう」
「へい……か? あ、うわぁぁああああっ!」
叫びと共に、存在ごと食われる騎士。
侵略者は脈動し、ぐちゅ、ぶちゅっ、と咀嚼する。
その存在を味わいながら、クロドは足を組みつぶやく。
「総量自体は五人分でいいが、パーツが足りないな。守護者を一体作り上げるには、やはり十人は食う必要がある。その後の組み立ても面倒だな」
アンタムの予想通り、侵略者には人間の持つ防衛本能と同質のものが存在しない。
ゆえに、ドロセアを食ってもクロドは守護者を生み出すことができなかった。
そこで、彼は王魔騎士団の団員を中心に、守護者を習得した者を食らい、その存在質の中から防衛本能にあたる部分を抽出することにしたのだ。
しかし“防衛本能が何なのか”が理解できないため、経験則によって“だいたいこのあたり”と雑に目処を付けて取り出すしかなかった。
その結果として、人間一人から取り出せる防衛本能はおよそ0.2人分。
また、腕を構成するパーツだけ、脚を構成するパーツだけが抽出されたりと、五人分の存在質を取り込んだところで、守護者が一体できるわけではない。
そのため、守護者を習得した順に片っ端から王魔騎士団の人間を食っている――それがクロドの現状だった。
結果として、王魔騎士団はその大部分が消滅し、この世から失われる結果となったのである。
元は王牙騎士団に対しても同じことをする予定だったため、彼らが“リージェの追跡”という名目でクロドの元を離れたのは想定外ではあった。
「もう少し人という生き物を理解できれば効率もよくなるのだろうが……」
ドロセアを食らうまでのクロドは、矛盾が出ることを嫌って、あまりその力を発揮してこなかった。
もっと前から積極的に食らい、この世界の人類の存在質について深く知っていれば、より効率よく防衛本能だけを取り出せたかもしれない。
だが、以前のクロドはまだ“希望”を持っていた。
そういった方法があると知っていても、行動には移さなかっただろう。
「無駄な仮定か。それにこの感傷もじきに消える、この世界と共に」
その後、王都に残った王魔騎士団がほどなくして全滅したことは想像に難くない。
◇◇◇
裂け目の封鎖を妨害されたミダスは、なおも侵略者との戦闘を続けていた。
『クソが、何度倒しても湧いてきやがる。キリがねえぞ!』
銃を手に、距離を取って弾丸を打ち込んでいく。
さほど戦闘能力は高くなく、距離さえ保てば問題なく倒せるのだが、倒しても倒してもすぐに次が現れるのが問題だった。
(どういうことだ? 黄金に変えて完全に息の根を止めたってのに、どうやって再生してきてる)
完全に破壊するのではなく、守護者を黄金の彫像に変えて撃破する。
つまり黄金となった守護者は、何体も残っているのだ。
だというのに、守護者を纏った侵略者は、倒した傍から次から次へと現れる。
ミダスは知るよしもないが、現れた守護者を倒してもキリが無いのは仕方のないことだった。
“守護者の素”となる防衛本能はクロドが持っている。
それを遠隔で中型侵略者に与え、ツギハギの守護者となり戦わせる――つまり、クロドを倒さない限り弾切れなど起きるはずがないのだ。
『これじゃあ裂け目を塞ぐことすら――』
思うように動けないミダスの頭上を、巨大な影が通り過ぎる。
『シセリーか!?』
思わず声をあげるミダスだったがその直後、影の主は目の前に着地した。
『いや――お前は!』
『あくまで試運転のために来ただけです、味方ではないですからね!』
やけにのっぺりとした、“無個性”を具現化したような守護者から聞こえてきたのは、リージェの声だった。
『リージェ……ならドロセアも一緒なのかよ』
ドロセアはそれに答えることなく、目の前の敵をにらみつける。
相手は即座にミダスからドロセアの守護者に標的を移し、剣を振り上げ襲いかかってきた。
するとドロセアは白い腕を前に突き出す。
その手のひらに黄金の球体が現れ、まばゆい光を放射した。
光に触れた敵の両腕関節部が黄金へと変わり、振り上げた剣を振り下ろせなくなる。
『はっ、さっそく俺の魔術をパクってやがる』
そうミダスが言っている間にも、動きを止められた侵略者の腹部に氷の槍が突き刺さっていた。
それはアンターテの魔術にそっくりである。
『私はどこにもいない』
己の虚無さを知っている。
リージェと再会して、余計にそれを知った。
前はそれが寂しさなのか、虚しさなのかもわからなかったけど、今は痛い。苦しい。
だがその代わり、得られたものもある。
『だから、何にでもなれる』
まだ動こうとする敵守護者を、上腕から引き抜いた刀で串刺しにした。
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