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069 夢の続き

 



 ドロセアはルーンとティルルの暮らす家に担ぎ込まれた。


 ベッドに寝かされた彼女は、どうやら意識を失っているようだった。


 村の聖職者に治療をしてもらって二時間――ようやくドロセアが目を覚ます。


 彼女は虚ろな瞳でトーマやルーンを見ると、口を半開きにして「あ……」と声を出した。




「お、おはようございます。体は、痛くないですか?」


「ぅあ……あ……」


「あ、あのぉ……」


「崖から落ちて倒れていたからここに連れてきたんだ。よかったら名前を教えてくれないか」


「うぅ……ぅ……あー……」




 ドロセアはまともな言葉を発さずに天井に視線を向けると、そのまま黙り込んでしまった。


 ティルルが眉をひそめる。




「崖から落ちたときに頭を打ったんじゃない?」


「で、でも聖職者さんは、傷は全部、治したって……」


「脳にダメージがあっても、すぐに治癒魔術を受ければ後遺症は残らない。崖から落ちる前からこの状態だったんじゃないかな」


「じゃあ誰かがこの人を連れてきたってこと?」


「体に落下時の傷はあれど、爆発で焼けた痕はなかった。おそらく彼女は、あの爆発の前に落下したんだ」


「だ、誰かが、逃がすために、落とした……?」


「そこまでして守られなきゃいけない人なら、追う側も必死でしょう……」




 ふとティルルは窓の外に目を向けた。


 すると三人組の兵士が遠くを横切っていく。


 彼女はとっさに声を荒らげた。




「ルーン、トーマ、カーテンを閉めて!」


「な、なんで?」


「お願い、急いで」




 ただしルーンに直接頼むときだけはやたら声が柔らかい。


 カーテンが閉じると外からの明かりがなくなり、部屋が薄暗くなる。




「外に誰かいたのか」


「見覚えのない兵士が数人、王国軍の人間だとは思うけど」


「お、王国軍に追われてる、の?」


「でもなんだか、嫌な感じがしたの。目つきがただの兵士じゃないっていうか」


「……人に紛れた化物か」




 ぼそりとトーマが呟く。


 するとティルルはルーンに寄り添い、彼女を抱き寄せた。




「ティルル……?」


「私から離れないでね」


「う、うん、いつもそうしてる、けど。で、でも……」


「何?」


「トーマ、見てるけど……」


「見せつけるぐらいでちょうどいいでしょう」




 少し棘のある言い方をするティルル。


 トーマはため息をつく。




「前に言ったけど、別に僕は帰ってくるつもりじゃなかったんだ。帰郷するにしても、もう少しほとぼりが冷めてからにする予定だった」


「わ、私は、別に大丈夫だけど……」


「ルーンは平気でもティルルは違うだろう、僕のことを許せていないはずだ」


「言っておくけどほとぼりは冷めないから。あなたがルーンを傷つけたという事実は永遠に変わらない」


「まあ……僕が現実を見れていなかった代償なら、仕方ないことだろう」




 トーマは、ティルルは自分にこそふさわしいと考え、ルーンを貶していた。


 ティルルは最初からルーンしか見ておらず、彼女にかっこいいと思われるために善人を演じていた。


 そしてルーンは自分だけは蚊帳の外だと思い込んでいた――




(トーマとティルル、仲いいと思ってたんだけどな……)




 なんだかんだ、幼馴染三人の関係はそれでバランスが取れていたのだ。


 だがティルルとルーンが結ばれた結果、ティルルは善人の皮を被る必要がなくなり、トーマは幻想を打ち砕かれ自尊心を粉々にされた。


 結果として、以前より尖ったティルルと、丸くなったトーマが残ったのである。


 二人の間に流れる気まずい空気に挟まれるルーン。


 それをティルルの暖かさで中和しつつ、静かに時間は過ぎていく。


 やはりドロセアは一言も喋らず、ぼーっとしたままだ。


 すると、誰かが玄関のドアを叩いた。




「こんなときに来客?」


「僕が出る」


「き、気をつけてね、トーマ」




 率先して立ち上がるトーマ。


 ここはティルルとルーンの家なのだが、まあ幼馴染が出ても違和感は無いだろう。


 彼が玄関を開くと、そこにはおじいさんと、彼に引き連れられた村人数人がいた。




「おお、トーマか」


「村長……他の人まで引き連れて、何かあったんですか」


「王国軍から連絡があってな、どうやらこの村に王族暗殺を企てた恐ろしい女が迷い込んだらしい」


「それは大変ですね」




 初めて聞いたかのように、しかし大げさな演技になりすぎないよう、淡白な反応をするトーマ。




「そこで村を回っておるのだ。ここは無事か? ルーンとティルルはどうしておる?」


「二人なら――」




 そう言うと、ルーンとティルルが後ろにひょっこりと顔を出す。




「見てのとおり、元気ですよ」


「それは何よりだ。しかし念のために中を見せてもらってもよいか?」


「……どうしてですか?」


「中に隠れておるかもしれんだろう」


「なぜ僕らが凶悪な暗殺者をかくまような真似をすると?」


「忍び込み、身を隠しておるかもしれん」


「だったら僕らが家の中を探します」


「なぜ入るのを拒む」


「久しぶりの幼馴染の再会なんです。積もる話もあります、水を差されたくないんですよ」




 それらしい理由を説明すると、しぶしぶではあるが、村長は納得したようだ。




「……そうか、わかった」




 そう言って、村人たちと共に家の前を離れていった。


 トーマが戻ってくると、ルーンは不安そうに尋ねる。




「トーマ、い、いまのって……」


「ああ、この子のことだろう。だが――」


「この状態で暗殺できるわけがないわね」




 つまり村長の言う恐ろしい女というのは、兵士が彼に伝えた嘘だ。


 ティルルはドロセアの顔を見るたびに、記憶の引き出しが、何かに引っかかって開かないような――そんな気持ち悪さを感じていた。




「何より、この女の子が“狙われている”という状況自体がなぜか奇妙に思えるの」


「見るからに、いい人……だもんね、会ったことないけど。いや、あるのかな。な、なんだか、覚えてるような……」


「おそらく会ったことはある、僕ら全員が」




 記憶には無いのに、会っている。


 おかしな話ではあるが、三人全員がそう感じている。




「けど名前すらも思い出せない。おそらく僕らを救ってくれたはずなのに」


「そこまでわかってるなら細かいことはいいじゃない。私たちは彼女の味方をするってことで」


「そ、そうだね。少なくとも……こ、この状態で暗殺者なわけ、ないんだし」


「だとすると王国軍はなぜ――」




 そのとき、会話を遮るように外から「きゃあぁぁぁあああっ!」という女性の叫び声が響いた。




「こ、今度は何っ!?」




 怯えるルーン。


 トーマは立ち上がり、カーテンの隙間から外の様子を伺う。




「馬鹿な……なぜ、あれが……」


「ねえ、あれ村長じゃないの? 村長が真っ二つになって、中から腕みたいな化物が出てきて……ッ!」




 一緒に外を見たティルルも動揺を隠せない。




「ひっ……人が、殺されて……それに、家も壊してる……っ」


「彼女かもしれない……」


「へっ?」


「全ての家を回っても見つからなかったから、痺れを切らして実力行使に出たんだ!」




「二人とも、その人を連れて外に出るぞ!」


「私とトーマで対抗できないの?」


「無理だ、S級魔術師でも生身では敵わない!」




 トーマとティルルはA級魔術師だ。


 人間の範疇であれば十分にエリートなのだが、侵略者相手となると等級などほぼ意味をなさない。


 トーマはドロセアを抱え、ティルルやルーンと共に裏口から外に飛び出した。




 ◇◇◇




 三人はドロセアを連れて村から離れていく。




「はぁ、はぁ……村から、火が……悲鳴が……っ」




 ルーンは息を切らしながら、泣きそうな顔で言った。


 ティルルがそんな彼女を励ますように手をぎゅっと握る。


 一方で二人に比べるとトーマは落ち着いていた。




「ひとまず追っては来てないみたいだ。問題は、これからどこへ逃げるかだけど」


「警戒を緩めないで、嫌な気配が近くにあるわ」




 ティルルがそう警告した直後、茂みがわずかに揺れる。




「右ッ!」




 飛び出してきたのは、村を襲った腕の化物だ。


 三人は散り散りになりながらその襲撃を回避する。




「ティルル、合わせろッ!」




 そしてトーマとティルルは同時に魔術を放つ。


 しかし、侵略者の動きは止まることすらなかった。




「ほ、本当に、二人の魔術も……効いてない!?」




 怯えるルーン。


 すると腕の化物はそんな彼女に標的を定め――飛びかかる。




「ルーンッ!」




 とっさにルーンをかばうティルル。




「だめ、ティルルっ!」




 叫ぶルーン。


 二人は死を覚悟し、ぎゅっと目をつぶった。


 ズドン、と――まるで砲撃のような音が鳴り響く。


 横から、守護者を纏った強烈な膝蹴りを受けた侵略者は、肉片を撒き散らしながら宙を舞った。




「間一髪。いつもこういうタイミングで出てこれるといいんだけどねえ」




 マヴェリカは赤い髪をなびかせながら言った。


 呆然とするルーンとティルル。




「……魔女、か?」




 トーマはマヴェリカのその出で立ちから、思わずそう口走る。


 彼女は笑ってその疑問に答えた。




「前はそうだったが、今はただの正義の味方だよ。あんたたちにギフトを持ってきた」




「ギフト……?」と首を傾げるトーマ。


 聞いていた少女たちにも意味はわからなかったが、ひとまずルーンとティルルは彼女に頭を下げた。




「あ、ありがとう、ございます」


「あなたのおかげで助かったわ」


「大したことはしてないさ。でも、まっとうに人を助ける感謝される……長らくそんな当然のこともやってなかった気がするねえ。仕方ないか、魔女だったんだから」




 己の行いを反省しつつ、マヴェリカは少し寂しげに、地面に転がるドロセアを見た。


 トーマに抱えられていた彼女は、侵略者に襲われた際に投げ出されたようだ。


 そして地面に落ちたまま、虚空を見上げて微動だにしない。


 マヴェリカは「今はどうしようもないか」と呟くと、今度は品定めをするように三人を見比べる。




「んー、見たところ、そこの少年とそっちの少女がA級魔術師ってとこかな。実戦経験が多い方はどっちだい」




 意図を測りかねながらも、トーマが手を上げた。




「おそらく、僕の方だと思うが」


「じゃああんたで試そうか」




 マヴェリカはトーマの目の前まで移動する。




「何をするつもりだ?」


「力、ほしくない?」


「ほしいが、怪しげな薬に頼るつもりはないぞ」




 ルーンの悲劇を繰り返すつもりはない。


 もちろん、マヴェリカにもそのつもりはなかった。




「そんなもんじゃないよ。簡単に言うと、圧縮した魔術の知識を一気に植え付けるだけさ。諸事情で生身の人間に試さないといけなくてね」


「……あ、怪しすぎるよ、トーマ」




 ルーンが警戒するのも当然である。


 しかし、マヴェリカが強力な力で自分たちを助けてくれたのもまた事実だ。


 一瞬だけ彼女の脚部が鎧に包まれているのが見えたが、トーマはそれが守護者と呼ばれる力だと知っている。




「本当に強くなれるんだな? 化物にもならず、副作用もなく」


「少し頭は痛む、その時だけね」


「なら頼む」




 するとマヴェリカはトーマの頭に手を当てた。


 魔女の手の甲に術式が浮かび上がり、まるで何らかの力が彼の脳内に注がれるかのように、光が流れた。


 途端にトーマは苦しみだす。




「――っ、ぐ……う、ぁ……」


「トーマぁっ!」




 涙声のルーンが叫んだ。


 トーマはさらに膝を付き、頭を抱えて悶える。




「お、ごぉおお……げほっ、おえぇぇっ……!」




 ついには嘔吐してしまった。


 耐え難い苦痛に襲われながら、トーマは薄目でマヴェリカをにらみつける。




「な、なにが、少し……だ。頭が、割れそう、だ……ッ」


「A級魔術師でこの反動、まだ圧縮が甘かったか。ごめんね、実験段階でさ。てかひょっとすると、等級低い子のが反動弱かったかも」




 そんな無責任な言葉を発した次の瞬間、今までで一番の痛みがトーマの頭を埋め尽くした。




「ぐああぁぁぁあああっ!」




 のけぞり、絶叫する。




「ちょっと、本当に大丈夫なの、トーマ」




 さすがのティルルも、彼の身を案じるほど壮絶な姿だった。


 だがそれが過ぎると、頭痛は徐々に収まっていく。


 肩を上下させながら呼吸を整えると、ようやくトーマは動けるまで回復したようだ。


 マヴェリカが差し伸べた手を掴み、しっかりと両足に力を込め立ち上がる。




「はぁ……はぁ……あぁ、これ、は……」




 そして、自らの思考内に、これまで存在しなかった知識があることに気づく。


 胡散臭いとは思っていたが――魔女の魔術は本物だった。


 トーマの方ばかりに気を取られていたが、ふとルーンは村の方を見た。


 すると丘へ向かう坂道を、腕の化物がずるずると裂けた人体を引きずりながら迫ってきている。




「ティルル、あれ! 大群がこっち来てる!」


「まずいわ……トーマ、動ける?」


「動ける、だけじゃない」


「ああ、倒せるはずだ。やってみな、少年」




 言われるがまま、植え付けられた守護者の技術を実行へ移すトーマ。




「僕に戦う力を――守護者アポロン!」




 現れた黄色の騎士が、ずしんと大地を揺るがす。




「トーマが……よ、鎧になっちゃった……」


「これが、噂の守護者(ガーディアン)ってやつなの!?」




 その左手首に収納されたリムが金属音を鳴らしながら左右に展開されると、魔術で作られた弦が浮かび上がる。


 右手に握った魔術の矢をつがえ、狙うは丘を駆け上る侵略者たち。


 そして射出――


 枝分かれした矢は侵略者を貫き、たった一射で敵の大群を壊滅状態に追いやった。


 先ほどまであれだけ恐れていた中型侵略者も、守護者の前ではもはや相手にならないのだ。


 マヴェリカはドロセアを抱えると、アポロンの近くでへたり込む二人の近くに置いた。


 そしてしゃがみ込み、ルーンとティルルに優しく声をかける。




「そこの二人、おそらく近いうちに誰かがその女の子を預かりにくる」


「こ、この人を?」


「まあ相当に怪しい男だけど、信用はできる。この子を連れてる限り、あんたたちが狙われて危険だからね。安心して渡しな」


「あなたは……この人の、知り合いなの?」


「私の弟子だよ、おそらく」


「おそらくって……」


「悲しいかな名前も思い出せないのさ、侵略者に食われる恐ろしさを身をもって体験してるよ。一番怖いのは、この子だろうけど」




 そう言って、仰向けになったドロセアの額を軽く撫でた。


 わずかだが視線が動き、マヴェリカの方を見つめる。


 彼女もおそらく、それが誰なのかはわかっていないだろうが――マヴェリカは慈しむように微笑んだ。




 ◇◇◇




 侵略者との戦いをトーマに任せ、マヴェリカは村を離れ現在の拠点へと帰る。


 その帰り道、彼女の目の前に二人組が立ちはだかった。




「……ん?」




 首を傾げるマヴェリカ。


 片方はまだ幼い白髪の少女、そしてもう片方は二十代前半ぐらいの黒髪の女性――




「おやおや、イナギとアンターテか。思いの外嗅ぎつけるのが早かったじゃないか」




 二人が生きて目の前に現れたことに、驚きもしない。


 その反応に、むしろイナギとアンターテの方が訝しんだ。




「目当てはわかってるよ、肉体崩壊までのタイムリミットを伸ばしに来たんだろう?」


「どうしてそれを……」


「エレインがパクったのは私の魔術だ、私が気づかないわけがない。さ、付いてきな。お望み通り救ってあげるよ、今の私は正義の味方だからねえ」




 マヴェリカは、まるで何かの呪縛から解き放たれたかのように浮かれた様子で、二人を先導し自らの家へと導く。


 イナギとアンターテは見つめ合い、視線で『ついていって大丈夫かな』と相談したが――今の彼女たちを救う術を持っているのはマヴェリカだけだ。


 不安を胸に、森の奥へ進む彼女の後ろ姿を追うのだった。




 ◇◇◇




 それからしばらくして、侵略者に襲われた村での戦いは終わった。


 守護者を解除したトーマに、ルーンが駆け寄る。




「す、すごいよトーマっ、本当に全部倒して……倒し、て……」




 最初こそ嬉しそうだったが、漂う死臭と倒れる村人の亡骸が視界に入り、トーンダウンしていく。


 生存者がそれなりにいる時点で王都よりはマシな惨状だが、しかし惨劇に違いはない。


 ある程度は慣れたと思っていたトーマも、見知った顔が死んで――あるいは裂けて(・・・)いると、悲しみと吐き気が込み上げてくる。




「思ったよりも多く、この村にも潜んでいたんだな」


「でも半分以上は王国軍から派遣された兵士みたいね」


「や、やっぱり……あの人を追ってるの、って……」


「侵略者側なんだろうな」




 しかも、兵士を動かせる立場の人間に、侵略者が混ざっている。


 その現実を前に、ティルルでさえも暗澹たる気分になっていた。




「危ないからって、お、王都を離れたのに……こ、ここも、もう……」


「きっとこの世界に安全な場所なんてないんだ。侵略者との戦いが終わらない限り」




 王都やこの村以外にも、人間のフリをした侵略者はいくらでもいる。


 疑心暗鬼は人の心を荒ませるだろう。


 完全に侵略者を滅ぼし尽くすまで――トーマの言う通り、この世に安全な場所は無い。


 三人をどんよりとした空気が包む中、そんな空気を読まずに近づいてくる男の姿があった。


 胸元が開いた服から見える、日に焼けた黒い肌。


 その肌によく映える黄金のアクセサリーの数々。


 いかにもな成金趣味に見えるが、しかしそんな大げさすぎる黄金色すら着こなしているようにも見える、不思議なカリスマ感。


 明らかに、こんな田舎村には似つかわしくない人間だ。




「参ったな、遅れを取っちまったか」


「誰っ!?」




 よほどティルルは嫌いなタイプだったらしく、ルーンを抱き寄せ大きな声で威嚇する。




「おぉっとそう警戒しないでくれよ――ん? 何だ、そこにいるんじゃねえか」




 男の視線は、布の上に横たわるドロセアに向けられた。


 ルーンはおずおずと彼に声をかける。




「こ、この人を、預かりにきたん……です、か?」


「話が早いな、上司に連れてこいって頼まれてな」




 つまり、彼こそがマヴェリカの言っていた、ドロセアを預かりに来る人間、ということだ。


 確かに魔女も胡散臭いやつが来るとは言っていたし、それでも信用できるとは聞いているが――




「まずは名前を聞かせてくれないか」




 それでもなお胡散臭く見えるので、トーマはまず名前を聞くことにした。


 すると男はあっさりと、正直に答える。




「オーケイ。俺の名はミダス・ルービン、怪しい者ではない――とは言いきれないが、全人類の味方だよ」




 全人類の味方――その言葉でさらに胡散臭さを倍増させながら、ミダスは微笑み、輝く金色の歯を見せつけた。





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[気になる点] なんか色々返り咲いて来た?!
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