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024-1 恋する乙女は王都を壊滅させるか

 



 なおも自室にてジンとドロセアは情報交換と、今後の身の振り方について考えていた。


 すると誰かがドアをノックする。


 ドロセアが扉を開くと、そこにはラパーパが立っており――




「あ、上がっても大丈夫、デス?」




 おそらく街の人々の治療で疲れているのだろう。


 と思ったのだが、それにしたって様子がおかしい。


 疲れというよりは、ガチガチに緊張しているように見えた。


 不思議に思い彼女の背後に目を向けてみると、そこにはフード付きのローブを纏った髭面の男が、護衛を引き連れて立っていた。




「問題ないけど……何でサージスさんが一緒なの?」




 ドロセアが首をかしげると、ラパーパは頬を引きつらせ、サージスは「ふっ」と微笑んだ。




 ◇◇◇




 ひとまずサージスを部屋に入れたドロセア。


 護衛たちが入れるほど広くはないので、彼らは外で待つらしい。


 するとラパーパは隙を見てドロセアの手を引き、その護衛からも離れた物陰に移動した。




「何でサージス様が来てるんデス!?」


「主流派やクロド王子と手を組むことになったから」


「さらっとすごいことを言われたんですが……」




 ラパーパからしてみれば、教皇代理であるサージスは最上位の上司、天上の存在である。


 一緒にいるだけで血の気が引いてしまうのも仕方のないことだ。




「でもドロセアさんって私が思ってるよりすごい人ですからね。考えてみればありえない話ではないデス」


「そんなことないよ」


「自分の知り合いの顔を思い浮かべても同じこと言えマス!?」




 聖女に複数名の騎士、王族とも縁の深い魔女と教皇代理に第一王子――確かにただの平民であるドロセアが言葉を交わせるような相手ではない。


 ドロセアは顎に手を当て、訝しむような表情で言った。




「えらい人ばっかりだ」


「そうデスよ!」


「リージェを助けたいだけなのに、思えばすごいところに来ちゃったね」


「そこらの権力者より権力者なんデスからね」


「まあ私自身の力って感じはしないけど。それよりラパーパは何の用事でここに来たの?」


「ああ、それは……」




 ふいにラパーパの表情が曇る。




「怪我人の治療も一段落したので、一応、確認をと思って……」


「……もしかしてレグナスさんの?」




 ドロセアに思い当たるのはそれぐらいしかなかった。


 ラパーパは頷く。




「たぶん、最後に話した人間はワタシだと思うんデス。それで責任を感じてるってわけでもないんですけど……何か形見とかあれば、家族に渡せるなと思って」


「残念だけど、死体らしきものは残ってなかったよ」


「……そう、デスか。ちなみにそれって、見つからなかったんです? それとも――」


「聞きたい?」


「聞いておきたい、デス」




 良くない結果だとわかっていても、聞かずにはいられない。


 するとドロセアは懐から布に包まれた何かを取り出した。




「人間の体を卵みたいな形に変形させて、その中からあの化物は飛び出してきたみたい」


「じゃあこれが、その卵の欠片……デスか。魔物以上に、人間の原型なんて残ってないですね」


「そうだね。完全に繁殖のための道具としか見てない感じがした」


「見せてくれてありがとう……ござい、マス」




 ラパーパはそう言って軽く頭を下げたが、まだ納得はできていないようだ。


 というよりは、“死の実感”が湧かないのだろう。


 せめて死体があれば同期の死を受け入れ、悲しむこともできるのだが。




「あんなのが出てきて、他にも化物がいて……王国は、どうなっちゃうんでしょうね」


「近いうちに大きな事件が起きるのは間違いないと思うよ」


「……」


「ごめん、不安を煽るようなこと言って」


「そんなことないデス! ドロセアさんが言うんなら事実だと思いますし。それに……だったら、せめて近くにいる人には王都を離れてもらうとか、そういうこともできますから」


「そうだね、とりあえず王子たちのいざこざが収まるまでは離れたほうがいいのかもしれない」


「ワタシは残りますけど」


「修道女だから?」




 ラパーパは誰に命じられるでもなく、先ほどの化物との戦闘で怪我をした人々の治療をしていた。


 当たり前のように、それが自分の役目なのだと。




「責任感なんてそんな大したものはありません。信仰心で動いてるつもりも。でも、色んな人を治療しているうちに、放っておけなくなっちゃったんデス。ワタシには力があるんだから、できる限り助けないとって」


「えらいねえ」


「もしかしたら、ドロセアさんもそういう意味で放っておけなかったのかもしれません。危うかったですから」


「……かもしれない」


「でも、今はずいぶんと心が健全になったように思えます」




 奇跡の村で見た光景の真実や、マヴェリカの生存を知ったから、というのも大きい。


 しかし絶望のどん底で明るいものを見せてくれたのは、間違いなくラパーパだった。




「おかげさまでね。ラパーパみたいな友達ができたおかげだよ、ありがとう」




 ドロセアが真っ直ぐに目を見ながらそう言って微笑むと、ラパーパの頬がほんのり赤くなる。




「そうやってテニュス様のことも無自覚に口説いたんデス?」




 なぜかジト目で睨むラパーパ。


 ドロセアとしては、素直にお礼を言っただけなのだが。




「人聞き悪いなあ……」


「好きになってしまったのは仕方ないことデス、なのでワタシはドロセアさんのそのやり方を真似しようと思ってます」


「テニュスには優しく支えてくれる人が必要だと思うから、そうしてあげてほしい」




 どこか悲しげにそう呟くドロセアに、ラパーパは顔を近づけ訝しむ。




「もしかして、テニュス様について何か隠してません?」


「別にそんなんじゃないよ」


「でも後ろめたさを感じてる顔をしてます」


「それはある」




 そう断言するドロセア。


 ラパーパは、後ろめたいことなのにはっきりと言い切るその矛盾に困惑する。




「たぶん、私はテニュスにひどいことをすると思う。立場上、私にはその傷を癒やすことはできないから。ラパーパ、できるだけテニュスの側にいてあげて」


「嫌な予感がする言い方デス」


「私だって言いたくないけど、きっとそうなる気がするから」




 果たして魔女がそこまで望んだかはわからない。


 だが、盤面上での自分とテニュスの位置を見れば、その結末がどうなるかは想像できる。




「でしたら、ワタシはできる限りの備えをするだけデス。とりあえず親しい子に王都から離れたほうがいいって伝えてこようと思います」


「うん、頑張って」


「ドロセアさんこそ、何が起きるか知りませんけど、頑張ってくださいね。それで色々落ち着いたら、友達として遊びに行きましょう。今さらですけど、王都の美味しいお店とか案内しますよ」


「そういえば、王都に来るの初めてなのに全然観光とかしてなかったかも」


「それは案内しがいがありマス。楽しみにしててくださいねっ」




 ラパーパは手を振りながら、アパートを去っていった。


 友達には、できれば幸せになってほしい。


 ドロセアは当たり前のようにそう思う。


 しかしそんなささやかな願いすらも叶わないほど、人間関係というのは複雑で。




「みんな、うまくいくといいのに」




 それでもドロセアはリージェに向かって一直線に進むことしかできないから。


 薄情だとは思いつつも、祈ることしかできなかった。




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