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019-4

 




 その頃、ジンとドロセアは手分けして王都内のエルクのアジトを潰して回っていた。




「ま、待て、許してくれ、俺はゼッツから女をやる代わりにここにいてほしいと――うわあぁぁあああっ!」




 ドロセアの剣がエルクの手下の男を切り裂く。


 彼女はアジトに捕らえられていた女性たちを解放すると、ため息をついた。




「ここにも本人はいない、かぁ」




 かれこれ二日、休みなくエルクを追い続けているのだが、一向に発見することができない。


 ドロセアが建物から出たところに、ジンも合流した。




「ジンさん、どうでしたか?」




 彼は無言で首を振る。




「そうですか……思った以上にすばしっこいですね」


「教会から見捨てられたことで腹をくくったらしいな。そこら中に影武者を置いて私たちを撹乱している」


「確かに、行く先々にエルクの手下はいますからね」




 人はいる、しかしエルクだけはいない。


 軽く尋問してみると、手下たちは口を揃えて『ゼッツさんがここにいるフリをしろと命令された』と言っていた。


 つまり支配力を犠牲にしてまで自己保身に走ったということだろう。




「でもそこまで必死に逃げるってことは、教会も積極的にエルクの命を狙ってるってことですかね。今まで手を組んでたのに、そうまでして潰そうとする理由が見当たらないんですが」


「だが実際、騎士団は動いているようだぞ」


「何か掴んだんですか?」


「ムル爺に頼んで情報収集をしてもらっているが、騎士が同様にゼッツの居場所を探るために聞き込みをしている姿を見かけたらしい」


「テニュスはレグナスの捜索を王導騎士団に頼むって言ってましたから、同時に彼らが動いているのかも――」


「いや、それが……動いているのは王牙騎士団だそうだ」


「テニュス自身が!?」




 エルクの捜索はドロセアたちやると話していたはずだ。


 上から命令が出たのか、はたまたドロセアたちを手助けするつもりなのか。




「どうして私たちに相談してくれなかったんだろう」


「……」


「ジンさん、何か気になることでも?」


「テニュスが言っていただろう、王牙騎士団が解体されるかもしれないと」


「ああ、神導騎士団に……ってまさか!」


「すでにそうなっているのだとしたら、教会側の尖兵として騎士が差し向けられた可能性はある」


「確かに王牙騎士団の騎士が断りにくい仕事ではありますけど……」


「何にせよ、私たちでエルクを捕まえれば済むことだ」


「そうですね。もうエルクが隠れられる場所はそんなに残ってません、急ぎましょう」




 再び二手に別れ、捜索をはじめるドロセアたち。


 だがどんなに探しても、エルクの行方を掴むことはできなかった――




 ◇◇◇




 その日の深夜、ひとまずラパーパの様子を見にドロセアはアパートまで戻ってきた。


 レグナスがラパーパに執着していたことを考えると、彼女目的にここを襲撃する可能性もゼロではないと考えたからだ。


 もちろんドロセアがいない間も、ムル爺の手の人間がアパートの護衛は行っている。


 ラパーパだけでなく、メーナやミーシャ、ティルル、ルーンもいるのだから重要な役割だ。


 部屋に顔を出すと、ラパーパはドロセアのベッドで熟睡しているようだった。


 誰かが訪れた形跡も無い。


 ひとまず安心して、再びエルク捜索に戻ろうとしたところで――ドロセアは偶然にも、例の掲示板の前を通りがかった。


 すると依頼が増えているではないか。


 タイミングが悪いので、すぐに取り掛かることはできないが、とりあえず目は通しておく。




『依頼内容:俺の命を狙う連中の全滅 報酬:リージェ救出 依頼人:エルク・セントリクス』




 そこに記されていたのは――想像だにしない内容だった。




「エルク……どうしてあいつが依頼なんて!」




 エルクの名を使っている時点で、それは明らかにドロセアに宛てたものだ。




「誘われてる? 罠? でも待ち伏せにしたって、私がこの掲示板をいつ見るかなんてわからないのに……不確定すぎる」




 エルク本人がムル爺の支配が及ぶエリアに足を踏み入れれば、一発でバレる。


 手下が暴れてもすぐに気づかれ、鎮圧されるだろう。


 だが依頼を書き込むだけなら、そこらの浮浪者にでも頼めば区別はつかない。


 問題は、そうまでしたエルクの意図だ。




「乗るか……無視するか……」




 考え込んでいると、ちょうどそこにジンがやってくる。




「どうした、そんなところで立ち止まって」




 掲示板の前は比較的開けた場所だ。


 どうやら遠くからドロセアの姿を発見し、気になったので声をかけにきたらしい。




「ジンさん、これどう思い……ってどうしたんですか、その傷!」




 あたりが暗いので薄っすらとしか見えないが、ジンの肩には切り傷があった。


 彼に傷を付けられるのはかなりの手練だけだ。




「鎧に軽く傷がついただけだ、問題はない」


「エルクの手下にやり手が残ってたんですか?」


「いや……騎士にやられた」


「騎士が!? そんな、王牙騎士団がジンさんに危害を加えるなんてありえるんですか?」


「顔は隠しているし、名前はストームで通っている。気づかなくても仕方ないだろう」


「だとしても――」




 ジンから戦いを仕掛けたとは思えない。


 それに、同じエルクを探している人間に攻撃する必要が無い。




「私たちにエルクの身柄を確保されるとまずいから、先に消そうとしてる……?」


「口封じの側面はあるだろうな。それで、この依頼だが」


「ああ……どう思いますか? 間違いなく罠だとは思うんです、でも……あえて乗るのもありなのかな、って」


「確かに、私たちに敵意を持った騎士が動き出した今、エルクの行方を探るのは困難だ。多少のリスクは承知の上で向かうべきか」


「ジンさんはエルクに気づかれない距離で待機しててください」


「ああ、罠の気配を探りつつ、いつでも助けに入れるようにしておこう。他の連中にも声をかけておくか」


「お願いします」




 万全の準備を整え、ドロセアは掲示板に記されたエルクとの待ち合わせ場所に向かう。




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