017.5 初恋のあとしまつ
レイムダールの死後、ドロセアはルーンを抱え、ティルルと共にアジトを脱出した。
エルクの手下に包囲されている可能性も考えられたが、彼らの動きはそこまで早くなかったようだ。
ひとまずは二人の身の安全を確保するため、メーナやミーシャ同様に裏通りのアパートに連れて行く。
その道中、ティルルはずっとルーンの手を握っていた。
本当は抱えるのも自分がやりたかったらしいが、腕力の問題で泣く泣くドロセアに任せたようだ。
アパートに到着すると、ドロセアはルーンをベッドに寝かせる。
ティルルはそんな彼女に寄り添い、指を絡めながら呟いた。
「もっと早く、私がきちんと気持ちを伝えていれば、こんなことにはならなかったのかな……」
ドロセアはルーンという少女のことをよく知らない。
だが話を聞く限りでは、相当に自分に自信が無いというか、卑屈な少女のようだ。
見たところ、ティルルは十分すぎるほどにルーンに愛情を注いできたように思えるが――それでも足りなかったのだろう。
あるいは、トーマという“自分より優秀な存在”が近くにいたから、そうなってしまったのか。
「二人は幼馴染、なんだよね」
「ええ、昔から当たり前のようにずっと一緒にいたの。そしてこれからも……」
「当たり前すぎて、現状維持でもいいかなって思っちゃうのは仕方ないと思う」
「ドロセアさんもそういう経験が?」
「うん、私にも幼馴染がいるから」
苦笑いしながらドロセアは答えた。
ドロセアとリージェの関係に明確な名前は無い。
親友、姉妹、家族、幼馴染――そんな形容はできても、はっきりと恋人と呼べる関係でもなかった。
ただ漠然と、お互いに愛情は持っていて、生涯添い遂げたいと思っているだけで。
「あの子に対して好きって言葉はよく使うけど、それがどう好きなのか、何の好きなのか、明確にしたことは無かったかな」
「ルーンにはそれが必要だったのかな……」
「んー……どうだろ。ルーンさんって、ティルルさんとトーマさんのことお似合いだと思ったから、自分から身を引こうと思ったって部分もあるんじゃないかな」
「そんな気遣いしなくていいのに」
「きっとそれって、ティルルさんのこと好きすぎるから、そうなっちゃったんじゃないかと思う」
「好き……すぎる?」
「好きな人って、キラキラ輝いて見えるでしょ? 本当は手を伸ばせばすぐに独占できるぐらい近くにいるのに、高嶺の花だと錯覚してたんじゃないかな」
それを聞いたティルルは、うつむき加減でつぶやく。
「だとしたら……悪いのは私だよ。ルーンに良く見られたくて、見栄を張って立派な人間でいようとしたから」
誰だってかっこつけたくなることはある。
ドロセアがリージェの前でシールドを変形させて器用さをアピールしたように、好きな人の前では“できる”自分を見せたいものだ。
それは何も不自然なことではない。
だが不自然ではないからといって、必ずしもいい方向に働くわけでもないのである。
「本当の私はもっと欲にまみれた、身勝手な人間なのに。立派な夢なんて一つも持ってない。ただ、ルーンと触れあえればそれだけでいいの」
「それを伝えれば、きっと大丈夫だと思う」
「浅ましい女だと思われないかな……」
「好きな人に求められて嬉しくない人なんていないよ」
それはあくまでドロセアがそう思っているというだけではあるが、きっとティルルとルーンも同じだ。
誰がどう見ても両思いなのだから。
「ん、うぅん……」
そのとき、ルーンの声がした。
体をよじり、意識が戻ってきたようだ。
「ルーンっ!」
ティルルはルーンの手を両手で包み込む。
するとゆっくりと彼女の瞳が開いた。
「ティルル……? あれ、ここ、どこ……」
「私の部屋だよ」
「あなた、は……?」
「ドロセア・キャネシス。殺しの依頼を請け負った張本人」
ルーンは自分が出した依頼のことを思い出したのか、目を見開き、がばっと体を起こした。
「こ、ここ冒険者殺しの部屋なのっ!? あれ、というか私、確か魔物になって――ティルルを、傷つけ、て……」
「そこをドロセアさんが助けてくれたの」
「あなたが、助けてくれた?」
「魔物になってたから人間に戻して、ティルルさんを治療して。あと薬で異常増殖した分の魔力も体内から取っ払っておいたから。今はもう元のD級魔術師相当の力しか残ってないと思うよ」
自分の手のひらを見ながら、開いたり閉じたりして力を確かめるルーン。
「確かに……何も残ってない……で、でも何で? 私、殺されるはずだったのに……」
「もうそんな馬鹿なことする必要ないの」
「ティルル……私、あなたに、ひどいこと……」
「ひどいことしたのは私も同じ」
「え? ええっ!?」
ティルルはルーンに抱きつくと、彼女をベッドの上に押し倒す。
「もっと早く、こうしてればよかった」
「あの、ティルル……?」
「あの場所で私が言ったこと覚えてる?」
「あ……うん。好き、って」
「ええ、愛してる」
「私なんかの……ことを。ティルルみたいな、素敵な女の子が……」
目をそらすルーン。
ティルルはそんな彼女の頬に手を当て、半ば強引に目を合わせる。
「私はルーンが好きなの。ルーン以外ありえないし、ルーン以外いらない。他にかっこいい人がいるとか、優れた人間がいるとか、どうでもいいのよ。ルーンだから。ルーンだけを、愛してる」
ルーンは、まるで見えない糸に縛られているかのように動けなくなっていた。
あるいは魅了されているのだろうか。
その熱く真っ直ぐな眼差しに。
「自信を持って。この世で私に愛されているのは、ルーンただ一人なんだから」
代わりの誰かなんていない。
ルーンがいないのなら、ティルルの愛もこの世に存在しない。
そういうものなのだ、と――ルーンは否が応でも理解させられた。
ティルルの愛情が、こんなにもピンポイントで、こんなにも重たいなんて。
ルーンは噛みしめる。
それを背負える自分の幸せを。
すると自然と言葉が口からこぼれた。
「私も……ティルルのこと、愛してる、よ」
普段なら恥ずかしくて言えないような言葉が、するりと。
ティルルは満足気に微笑むと、顔を近づける。
「ね、キスしよ?」
「へっ? あ、でも、ドロセアさんに見られ……ん、んむぅぅっ!?」
他人の目など気にせずに、二人の唇が合わさる。
まさかそこまでするとは思っていなかったドロセアの頬がぼふっと赤く染まる。
「あわ、あわわ……すご……」
恥ずかしがりながらも、しっかり見てしまうドロセア。
もちろん、されているルーンの顔も耳まで真っ赤だ。
「ぷはっ、待ってティルル、せめて二人きりの場所でっ」
「いいの、誰に見られたって。ルーンに触れられれば、それで」
「むぐぅっ!?」
ティルルの愛情はあまりに激しかった。
さすがに気まずくなったドロセアは、そっと立ち上がり――
「え、えっと……私、用事あるからでかけてくるね……? ご、ごゆっくりー……」
そう言って、泥棒のように足音を殺しながら部屋を後にした。
バタンッ、と扉が閉まると、ドロセアはそこに背中を預け、胸に手を当て「ふぅー」と息を吐き出す。
「キスって、あんな風になるんだ」
涼しい風が頬を撫でるも、悶々とした火照りはなかなか出て行ってくれない。
熱を帯びた脳が、よからぬ妄想を誘発させる。
思い浮かべるのは記憶よりも少し大人びたリージェの姿だ。
『お姉ちゃん……』
服をはだけさせた彼女は、頬を赤らめながらドロセアに顔を近づけ唇が触れ――そうになったところで、彼女はぶんぶんと顔を左右に振り煩悩を振り払う。
「いやいや、まだそんな関係じゃないんだからっ! 助けてもないのに早まらないのっ! そういうのは助けてからっ!」
助けたらするのか、という疑問が浮かびかけたが、またよからぬ妄想に発展しそうだったので気合で抑え込む。
そして数回の深呼吸で気持ちを整えた。
「とりあえず……トーマさんに結果を伝えてくるかなぁ」
◇◇◇
トーマの宿まで戻ってきたドロセア。
彼の部屋の前には、床に座り込む修道女の姿があった。
「ラパーパ、ここにいたんだ」
「見張り……って言うと語弊がありますけど、念のためデス」
その律儀さに感心しつつ、ドロセアは彼女とともにトーマの部屋に入った。
彼はテーブルに突っ伏していた。
ドロセアたちが出て言ってから、ずっとそうしているのだろうか。
ドロセアは向かいの椅子に座ると、彼に声をかける。
「ティルルもルーンも助かったよ」
トーマはゆっくりと顔をあげた。
「本当なのか……?」
「今は安全な場所で休んでる」
「そうか……それは、よかった……本当に、よかった……!」
彼の目に涙が浮かび、声が震える。
ラパーパは説教でもしてやろうか、という気持ちで前のめりになっていたが、その涙を前に踏みとどまったようだ。
なんだかんだで、幼い頃から一緒に過ごしてきた幼馴染のことは心配だったのだろう。
それに実際のところ、彼には解決できる事件ではなかったのだ。
その無力さを理解してしまったことも、トーマを自暴自棄にさせる必要の要因だったのかもしれない。
「だけど……ルーンは、どうなんだ。殺してほしいという依頼が出ていたんだろう?」
「あれはルーンさん本人が出したものだった」
「本人が!?」
「どういうことデス? 自分から殺してほしいってドロセアさんに頼んだってことですか?」
「彼女はティルルさんとトーマさんをお似合いの二人だと思ってた。ずっと、自分のことを邪魔だと思ってたんじゃないかな」
「そんな馬鹿な……だったら離れればいいだけだろう!?」
「それができないぐらい、ルーンさんもティルルさんのこと好きだったんだと思うよ」
ルーンは、ティルルとトーマを“お似合いの二人”だと考え、認めていた。
だが同時に、仮に二人がそういう関係になったとき――自分は耐えられないであろうことも理解していたのだろう。
「なんだよそれ……どれだけの愛情があればそこまでできるんだ。最初から、僕に勝ち目なんてなかったんだな……」
ティルルに負けないぐらい強く深い、ルーンの想い。
それを痛感した今、それが三角関係と呼べるものですらなかったことを、トーマは知ってしまった。
「主役のつもりでいたのに、ただの脇役だったんだ……」
うなだれ、机の木目を見つめたまま動かなくなるトーマ。
ドロセアは、彼にかける言葉が見つからなかった。
しばらくの沈黙のあと、トーマは口を開く。
「すまない、しばらく放っておいてくれないか」
「……わかった」
やはりラパーパは不満げだったが、彼女もこの状況に適した言葉を見つけられなかったのだろう。
しぶしぶといった表情ではあるものの、あっさりとドロセアと一緒に退室した。
「これでよかったんデス?」
「謝るにしても、落ち着いてからの方がいいよ」
「むぅ……それは確かに」
何らかの形でけじめをつける必要があることは、トーマもわかっているはずだ。
ドロセアはひとまず、時が彼らの心を落ち着けるのを待つことにした。
◇◇◇
二日後、ドロセアの暮らすアパートの廊下にて――ティルルはとある部屋の前に立ち、少しふてくされていた。
「どうして私だけ入れないの?」
彼女の視線の先には扉があった。
その中では現在、トーマとルーンが二人きりで言葉を交わしている。
「トーマさんがそうしたいんだって」
「トーマとルーン、二人で話して大丈夫なのかな」
ひょっとすると、以前はトーマがルーンを責めるような場面もあったのかもしれない。
A級とD級という、魔術師としてはあまりに大きすぎる才能の差――一緒に冒険者として活動するルーンが、トーマやティルルの足を引っ張っていたのは紛れもない事実なのだから。
しかし、今日はそんなことをするために場を設けたのではないはずだ。
「問題ないよ。もう誰も、言葉で自分を着飾る必要なんて無いんだから」
ティルルがルーンの前で“かっこいい自分”を見せようとしていたように。
ルーンは必要以上に“劣った自分”を身にまとい、トーマは“優れた自分”であろうとした。
本来の姿とは違う自分で積み重ねた人間関係が、歪んで、傾いて、倒れてしまったのが今回の一件。
だがそんなものが必要なくなった今、ルーンとトーマはただの幼馴染として接することができる。
ティルルが不安がるようなことなど何も起きないはずだった。
「じー……」
ふと、そんな声が聞こえた。
声の方に視線を向けると、ドロセアとティルルの姿を、扉の隙間から見つめる瞳が二つ――メーナとミーシャだ。
「暇なの?」
ドロセアが尋ねると、二人はこくりとうなずいた。
いくら家族水入らずで過ごせているとはいえ、あの狭い部屋に閉じこもっていれば退屈にもなるというものだ。
ドロセアは姉妹を招き、ティルルも交えた四人で、他愛もない話でルーンたちが出てくるまでの時間を潰すことにした。
◇◇◇
「すまなかったっ!」
ごつんっ、とテーブルに額をぶつけるほどの勢いで頭を下げるトーマ。
真正面に座るルーンは、あわあわと困惑している。
「か、顔を上げてよトーマっ! 私こそ、馬鹿なことしてごめん……すごく、迷惑をかけたと思う」
「いや違う、僕が何もかも間違っていたんだ。自分の欲のためにルーンを追い詰めてしまった……」
罪悪感と罪悪感の譲り合いで、なかなか話が進まない。
「間違ってなんかないよ。一人で劣等感こじらせて死のうとするなんて、馬鹿だもん。しかもあのときは、本気でそうするしかないって思い込んでた……」
「ルーンは……僕とティルルがお似合いだなんて、本気で思ってたのか?」
「うん、私なんかよりトーマの方がずっとティルルを幸せにできるんだって思ってた。だって、トーマって誰にだって親切で、正義感が強くて、勇敢で、かっこよくて」
ルーンは指を折ってトーマの優れた点を数えながら語る。
「頭もいいし、運動神経もよくて、もちろん魔術だってできて――」
だがトーマはそんな彼女の手をそっとつかみ、止めさせた。
「……やめてくれ、買いかぶり過ぎだ」
「そんなことないよ! それでいていつだって一生懸命で……努力、できる人だから。私なんかとは……比べ物にはならないって、今だって思ってる」
本心からそう褒め称えるルーン。
一方でトーマは「違うんだ、そんなんじゃない」と言い聞かせるように首を横に振る。
「俺は、必要以上にルーンのことを貶めてきた。自分が優れていて、君は劣っていると、まるで暗示のように言い聞かせてきたんだよ」
「トーマのせいなんかじゃないよ」
「違うんだっ!」
「仮にトーマがそうしなかったとしても、私の周りの人にも……似たようなことを言う人は、いたから」
トーマの動きが止まる。
優秀な二人と、劣った一人。
三人並んで歩いていれば、余計な言葉を囁く者は必ず現れる。
「それにね、今はもう“私なんか”とは思ってないんだ。だってティルルが――あ、いや、トーマの前でこんなこと話すの……よくないかもしれないけど……」
「聞かせてくれ」
「……いいの?」
「けじめが必要なんだ」
「ん……わかった」
言ってしまえば、それは惚気だ。
それを失恋したトーマの目の前で話すのはあまりにも残酷だったが、恋が失われたことをよりはっきりとした形で感じたかった彼は、自らそれを望んだ。
「ティルルが必要としてるのは、そんな私なんだ、ってわかったの。客観的に見て素敵とかじゃなくて、私っていう個人を、ずっと見ててくれてたんだよ」
「ああ……そうだろうな。僕も冷静になって考えたんだ。果たしてティルルは、一度だって僕の方を見てくれたことがあったか、と」
自嘲ぎみに笑いながら、トーマは言った。
「悩むまでもなかった。ゼロだよ、ゼロ」
「そんなはずないっ!」
即座に否定するルーンだったが、トーマはなおも自虐的に笑いながら言葉を続ける。
「あるのさ。三人で幼馴染だと言うけど、ティルルから見れば本命のルーンとおまけの僕、という扱いだったんだろうね」
「そんなことない、トーマは……大切な幼馴染だよ。卑屈にならないでほしいな」
「ありがとうルーン。けどこれは卑屈なんかじゃないんだ。理由もはっきりとわかってる。僕は昔からずっとティルルが好きだった。そしてそんな彼女を振り向かせるために――何をやったと思う?」
「じ、自分を磨いた?」
「それもあるけれど、僕は……ティルルとルーンを引き離すことに必死になってしまったんだよ」
それが、一人で部屋に籠もって考え、導き出した彼の結論だった。
「ティルルには、いかにルーンより僕のほうが優れているかを語った。ルーンには、いかに自分がティルルにふさわしくないかを伝えた。ああ、なんておろかで醜い行為だろうか。ティルルが、ルーンの悪口を言う僕のことを好きになるわけがないじゃないか。そして逆に、ルーンには“僕が優れていてルーンは劣っている”という意識を植え付けてしまった」
ルーンはトーマを励ますし、褒め称えてくれる。
それは彼の過ちの具現化。
ティルルを独占するために遠ざけようとしたルーンだけがトーマのことを見ていてくれたという、救われない、噛み合わない現実だ。
「元凶は僕だ。ようやく……それを理解することができた」
「トーマ……でもトーマが素敵な人なのは、私は……し、知ってるから」
だが一方で、ルーンが本心からそう言ってくれていることも、トーマは理解していた。
彼女は優しい。
他者の幸せのため、自分の命を投げ出せるほどに。
きっとそういうところに、ティルルは惚れたんだろう。
「ありがとう、ルーン」
「ど、どういたし、まして」
「ところで、これから二人はどうするんだ?」
「えっと……冒険者を、やめて……故郷に戻ろうかって話をしてる」
「そうか」
「トーマはどうするの?」
「僕は王都に残るよ」
迷いなく、そう言い切るトーマ。
「そして今度こそ、下心無しに誰かを救える立派な冒険者になる」
彼の心は、いつになく晴れやかだった。
まだ傷はあるが、それも夢の道程でいずれ消えるだろう。
「そっか……離れ離れに……なるんだね……」
「寂しいのか?」
「だって、幼馴染だもん」
「ふ、そうだな、幼馴染だもんな。今より少し立派な自分になれたと思ったら、僕からルーンに手紙を送るよ」
「うん……待ってる」
こうして、二人は笑顔で会話を終えた。
トーマは部屋から出ると、ティルルやメーナ、ミーシャと共に待っていたドロセアに頭を下げる。
「ドロセアさん、この場を用意してくれてありがとう」
「もういいの? ティルルさんと話さなくていい?」
「二人の幸せな時間をこれ以上は邪魔できないよ」
ルーンはさっそくティルルに捕獲されており、熱烈なハグを受けていた。
◇◇◇
話を終えると、トーマは宿へと戻り、ティルルとルーンは故郷に戻る準備ができるまでの間、このアパートの部屋で過ごすことになった。
二人を部屋に案内したあと、自分の部屋に戻ろうとすると途中でラパーパに遭遇する。
「もう終わっちゃいましたか」
「あれ、ラパーパも来てたんだ」
「気になるじゃないですか、最後どうなったのか」
「野次馬だ」
「修道女としてのメンタルケアの一環です。トーマさんもティルルさんも、私の元へやってきた悩める子羊なんですよ?」
「口が達者だなあ」
「でもよかったじゃないですか、丸く収まったみたいで」
「結果的にはこれでよかったのかなって感じはするけど……」
「何か問題があるんです?」
ドロセアは遠くをみながら、しみじみと言った。
「好きって気持ちも、こじれるとああいうことになるんだなって」
するとラパーパはいじわるそうな顔でドロセアを脅す。
「そのうちドロセアさんも巻き込まれるかもしれませんよぉ?」
「私はリージェ一筋だから」
「でもドロセアさんが誰かに惚れられる可能性もあるわけじゃないですか」
「それは……」
「ドロセアさんって普段はそこらにいる町娘ーって感じですけど、決めるときは決めるタイプですからね。ギャップにやられる人もいるんじゃないですかぁ?」
「自分のことそんな風に思ったことないよ」
「自覚が無いのは危険ですねぇ」
そんな話をしていると、またしても隣の部屋から姉妹がひょっこり顔を出す。
「実は私もそう思ってたんだよねー」
「わかるわ、私たちを助けに来たときなんてヒーローみたいなかっこよさだったもの」
便乗してくるメーナとミーシャの野次馬姉妹。
「少し闇がありそうなところもいいと思う」
「影のある表情ってきゅんと来るわよね」
「お二人とも、話がわかるみたいですねぇ。どうです、このままドロセアさんを囲んでお茶でも」
そんな二人とラパーパが出会ったとき、井戸端会議の化学反応が起きてしまう。
話題の中心にいるにもかかわらず、蚊帳の外になってしまったドロセアは――
「勘弁してぇ……」
戦闘時とのギャップを感じさせる弱々しさでそう嘆くのだった。
体調崩していて更新が滞ってました。
治ったので再開します、よろしくお願いします。
面白いと思っていただけたら、↓の☆マークから評価を入れていただけると嬉しいです。
ブックマーク登録も励みになります!