013 代償
マヴェリカとリージェは、王都から数キロメートル南の上空にて戦闘を継続していた。
リージェは息を切らし、服もボロボロの状態で魔術を繰り出す。
「いい加減に……死んでください!」
空中に浮かび上がる白い術式。
そこから放たれるのは、小細工なし――威力に特化した光の帯だ。
対するマヴェリカは涼しい顔で、己の目の前に氷の塊を浮かべる。
「単純すぎるんだ、無駄だって言ってるだろう」
光は氷を溶かすも、発生した蒸気により拡散し威力を失ってしまう。
さらに閉ざされた視界の向こうから無数のきらめく宝石塊がリージェに向かって射出される。
極限まで硬度を高めた土属性の魔術だ、光線を当てても一瞬では溶けない。
舌打ちしながら避けるリージェだったが、回避は間に合わず、肉体の右半分が弾けとんだ。
だがすぐに回復魔術で傷は癒える。
「まったくしぶとさだけは一級品だね」
「わたしには無限に等しい魔力があります。いくら殺そうとしても無理です」
「決め手に欠けるのは否定しようのない事実だね。かれこれ何時間やりあってるんだい、私たちは」
「気づけば王都があんなに遠くになる程度は長い戦いになりました」
リージェは気づいていないようだが、それは意図的にマヴェリカが戦場をずらしただけだ。
王都での混乱に関してはもはや手遅れだが、被害を増やさないという意味では移動するのは正しい。
「いい加減に話しなよ、ジンがどこにいるのか」
「ふふっ、だから勝ったら教えてあげるって言ってるじゃないですか」
息を切らしながらも挑発的な言動を止めないリージェ。
しかしその生意気な発言に見合っただけの力を持っている。
(光属性の魔術は特殊だ。光の精霊が使う言語が他の精霊と大幅に異なるのが原因だけど、使うには生まれついての才能が必要になる)
リージェの放つ拡散する光線をひらりと躱しながら、マヴェリカは考える。
(仮にその才能を持ち、かつ常人離れした魔力の持ち主が誕生したら――あいつらはその可能性をずっと探っていた)
相手の攻撃を切り抜けた魔女は、今度は炎でリージェの肉体を焼き尽くした。
だが彼女は焼かれながらも治癒魔術により命を繋ぎ、そして次の瞬間には無傷で復活している。
(そしてリージェが見つかった。あいつらにとっては悲願だったはずだ、そして実際にリージェは期待された以上の結果を出してる)
何度潰しても、何度引き裂いても、何度ねじ切っても、リージェは死なない。
これこそ神の加護だと言わんばかりに肉体を再生し、蘇る。
「あんた、“簒奪者”を名乗ったらしいね」
攻撃の手を止め、マヴェリカが問いかけると、リージェは嬉しそうに答える。
「ええ、実際にそうですから」
「エレインに会ったのかい」
「賢者様に? どうやって? あのお方はもう粒子になって世界中に散らばってしまったのに」
「……なるほど、あんたをそう呼んだのは信仰者の方かい」
「“簒奪者”が何なのか知ってるような口ぶりですね」
「ああ、もし私が思った通りの意味の言葉なら、あんたはおーばーらいたーとやらじゃない」
マヴェリカの挑発に、リージェの頬がぴくりと震える。
「連中がリージェ・ディオニクスを前線に出すわけが無いじゃないか、その時点で偽物なんだよ。もっと言えば、あんたは下品だ。貴族で、お嬢様で、身近な人から無条件の愛を受けて――そんな人間が下品に育つわけないだろう」
リージェは片目を細め、チンピラのような表情でマヴェリカを睨んだ。
「黙りなさいッ!」
ついには怒りに任せてレーザーを放ち、マヴェリカを引き裂こうとする。
だが氷の鏡に向きを逸らされ避けられてしまった。
「あんたは聖女の血を飲まされたが、ギリギリのところで化物にはならなかった。でも顔が崩れちまったんだろうねえ、おそらくあんたのその顔は後から調整されたものだ」
「黙れと言っているんです!」
怒りに任せマヴェリカに接近したリージェは、ジンを貫いた手刀で襲いかかる。
しかし風を纏う魔女はひらりと回避し、さらに聖女の後頭部を氷の槍で刺し貫いた。
リージェは再び再生――ギギギとぎこちない動きで首を回し、殺意に満ちた瞳をマヴェリカに向ける。
「たとえば元の醜い顔を完全に潰して、それを魔術で治療する。そのとき、魔術師がちょっとした細工をすることで元の顔とは違う形になったりするんだよ」
「わたしはリージェです、それ以外の何者でもありませんッ!」
「その駄々をこねるような言い方……あんたひょっとして、実験に使われたスラムの子供か孤児院の――」
「黙れよぉおおおおッ!」
リージェの周囲に無数の術式が浮かび上がり、その全てから一斉に光線が放たれる。
光線は空や大地を薙ぎ払い、一帯を焼き尽くした。
どれだけ派手に攻撃しようとも、マヴェリカは踊るようにそれを避け無傷だったが。
魔術の腕というよりも、数時間に及ぶ戦闘ですっかりリージェの癖を読み切っているのだ。
「のらりくらりと目障りな! わたしはリージェである限り恵まれた人生を送ることができる。奪わせません、あなたのような、誰かもわからない胡散臭い魔女などにはッ!」
「憐れだね、あんたはおーばーらいたーなんかじゃないってのに」
「でたらめをッ! あの方は言ってくれた、わたしは“選ばれし者”だと!」
「魔物化するはずなのに人としての理性と姿を保ったままの人間……そう定義するなら、あんたは魔物化してる。違うかい?」
「節穴女がぁッ!」
喉をからしてリージェは叫ぶ。
もはやそれは図星と自白しているようなものだった。
「どこが!? この姿のどこが魔物だというんですか! どこからどう見ても、頭のてっぺんからつま先まで完璧に! 完全に! リージェ・ディオニクスではありませんか!」
「私は魔物化した人間を何度か見たことがある。そして戦いの中で、あんたの体の断面も見てきた。それで気づいたのさ」
「何を!?」
「本来の人間の肉体の上に、薄っすらと魔物の肉の“層”が被せてあるんだよ」
リージェを模した誰かは、何かを隠すように両手で顔を覆った。
指の隙間から、見開いた瞳がぎょろりとマヴェリカを凝視している。
「あんたは聖女の血によって、人間の原型を留める程度に魔物化した。けどおそらく顔は潰れちまってたはずだ、そこに治癒魔術による顔面の再構成を施し、リージェとまったく同じ顔を生み出した」
いつの間にかリージェの攻撃の手は止まっていた。
これ幸いと、マヴェリカは言葉の刃を畳み掛ける。
「主流派の人間は聖女を象徴として使いたい。なのに改革派ばかりが聖女を独占している、しかも使おうにもずっと眠ったままだ。そこで、あんたみたいな偽物が必要になったわけだねえ」
「わたしは本物だと言っているでしょう! 本物だからこそ、こんな力がぁッ!」
偽物の肉体に白い術式が浮かび上がる。
光の魔術は傷の治癒も可能だが、肉体を活性化させることで火属性や風属性のように身体能力を引き上げることもできる。
だが、それは決して“聖女”のアイデンティティではないのだ。
「気づいてるかい? 私、さっきから何回かあんたの血を飲んでるんだよ。でも魔物になりやしない」
「そ、それは……たまたま……」
「ジンを魔物に変えたとき、あんたは自分の血を使ったかい? 覚えてるはずだよねえ」
「違う、違う、わたしは本物のリージェなんです……本物だから、裕福で、恵まれた人生を……!」
「繰り返しになるけど、憐れだねえ」
「憐れなのはあなたです! この際ですから教えてあげます、ジンの行き先。彼、逃げたんですよ。自分で檻をぶち壊してどこか遠くに。どこに行ったと思います?」
反撃と言わんばかりに、ついに自らジンの名前を口にする。
マヴェリカはその答えに心当たりがあった。
だが今からジンを追ったとて、ここからではとてもじゃないが間に合わない。
わずかに不安に曇るマヴェリカを見て、リージェは勝ち誇り笑った。
「あっははははっ、やっぱり彼の関係者でしたか! 疾風のジンが向かった先は、静養中のスィーゼ・イーゴーか、はたまた行方をくらましているテニュス・メリオミャーマか。今ごろどちらか一方はあの化物に滅多刺しにされてくたばってるんじゃないですかあ!?」
もはやその表情はリージェのものではない。
貧しい暮らしから脱するために聖女を求めた、欲にまみれた一人の人間である。
種明かしが済んだのなら、マヴェリカは茶番に付き合う必要はない。
「そうかい、やっと聞かせてもらえたよ。あっちに行ってるなら王都で油を売ってる場合じゃないね」
「向かうつもりですか? かれこれ数時間も私を倒せていないくせに!」
「決め手に欠けてたからね。今から切り札を使わせてもらうよ」
「何をしようともっ、わたしの光の魔術があれば不死身です!」
性懲りもなく光線を放つリージェ。
それを避けるマヴェリカだったが――今回は少し違った。
完全に避けきらず、肩とふくらはぎがえぐれる。
なおも彼女は減速せずに前進し、リージェとの距離を詰めた。
「……え?」
そしてその小さな体を抱きしめる。
「気持ち悪いっ、離れなさいッ!」
光を放って焼き尽くそうとするリージェだったが、それより先にマヴェリカの肉体が熱を帯びる。
正常な体温を遥かに越え、触れるだけで火傷して爛れるほどの高温に。
なおもマヴェリカは温度を上げ続け、ついには自分の体も溶け始めてしまった。
だが、それでも彼女は笑っている。
「まさかあなた、わたしを道連れに――」
気づいたときには、もう遅かった。
臨界点を越えたマヴェリカの体全体に赤い術式が浮かび上がり、体内に存在する全ての魔力が“破壊”へと変換される。
そして、爆発。
さながら数百メートル規模の丸い爆炎が空中に浮かび、それを目撃した王都の民は『太陽が一つ増えたかと思った』と語る。
言うまでもなく、マヴェリカとリージェの死体は回収できなかった。
◇◇◇
「ぐ、う、ぐがあぁぁああああああッ!」
木々が焼かれ、なぎ倒された森の成れの果てに、ドロセアの叫びが響く。
紫色に変色し膨張した彼女の腕は、その意思に関係なくひとりでに動いていた。
『ゆるしません……ドロセアお姉ちゃんを傷つけるやつは……絶対にゆるしません!』
そこからドロセアが感じた感情は、怒り。
それどころか声のようなものまで聞こえてくる。
やはり彼女の体内にあるリージェの魔力と、リージェ本人は何らかの方法で繋がっているのだろう。
あるいは、リージェも夢の中でこの戦いを見ているのだろうか。
『魔物め、死んでしまえ、死んでしまえぇっ!』
「グゥオオオオオオオッ!」
剣を振り上げたジンが彼女に迫る。
ドロセアが斬りつけられそうになると、腕は勝手に動いて異形の騎士を弾き飛ばした。
距離が離れると、腕の周囲に無数の白い術式が浮かぶ。
そこから放たれたのは、リージェの偽物が放っていたのと同種の光の帯――
『あの魔物は絶対に殺します! わたしがお姉ちゃんを守るんです!』
「あ、がああぁぁああああああッ!」
体内でリージェの魔力が動き回るたび、ドロセアの脳を激しい痛みが襲った。
元々魔術を使えない人間が、強引に術式を生み出しているのだ。
脳の処理能力の限界を越え、焼き切れようとしているのだろう。
しかし放たれた光線は十分すぎる威力を誇っている。
着地し、剣を構えたジンは刃でそれを防ごうとしたが、あっさりと貫通してしまう。
さらに動き回る光線は、敵の肉体をバラバラに切断した。
(まずい……ッ、ジンさんの体を傷つけたら……!)
ドロセアは辛うじて残る自我でシールドを展開、右腕の一部から魔力を奪うことでリージェの力を削ぐ。
そして四肢を切断され、地面に転がったジンに駆け寄った。
(う、ぐ……薬を飲まされたときと、ぜんぜん違う……ッ! 気を抜いたら、すぐに意識が、もっていかれ、て……!)
走りながら、彼女は少し前にマヴェリカと交わした会話を思い出していた。
『どうしてあの力を使っちゃいけないんですか? 右腕を魔物に変えても、裏返したシールドで元に戻せると思います』
『外部から薬を与えられるのと、自分の意思で聖女の魔力を呼び起こすのでは事情が違う。そもそも何が起きるかわからない上に、本人に抵抗の意思がなければ侵食の速度は薬のときの比じゃない』
『薬のときはまるっきり別の現象ってことですか』
『そもそも、あのときドロセアが自分の意識を取り戻せたのも奇跡みたいなものなんだ。同じ現象だとしても、奇跡は二度も起きないだろう』
『そう、ですね……』
『完全な化物になりたくないんなら、地道にやることだね。大丈夫、あんたならやれるさ。一番近くで見てる私が保証するよ』
師匠の言うとおりだ。
こんなもの使うべきじゃない。
人間が扱える範疇を越えている。
ジンの前までやってきたドロセアは、まず再生しようとしている脚部に魔力障壁を展開。
魔物の肉から魔力を奪うことで枯れさせ、まずは騎士の動きを封じる。
(ジンさんは頭を貫かれてる、でも魔物の肉体と一体化してるおかげで死んではいない。テニュスもそう長くはもたないけど、まだ命は残ってる。息さえあれば、リージェの治癒魔術を使って癒せるはず)
問題は、治癒魔術を使えるかどうかの部分だが。
(使い方はわかんないけど、光の魔術を扱う条件が才能だって言うんなら、私の中に流れるリージェの魔力にだってやれるはず! ううん、絶対にやってみせるッ!)
これ以上、リージェの魔力を活性化されると意識を維持するのは難しそうだ。
だが死ぬわけではない。
生きてさえいればどうにかなる――そう信じて今のドロセアは動いていた。
死ねば終わりだ。
それだけは、間違いないことなのだから。
「お願いリージェ……みんな、私の大切な友達なの。このまま死なせたくないのッ!」
助けるべき相手に助けを求めるのはおかしなことだとわかっている。
だが、今はそれ以外に方法がない。
すると頭の中に声が響く。
『お姉ちゃん……悲しませたくない……お姉ちゃんを、助ける……!』
強い決意を帯びたリージェの声。
それを聞いた直後――
「い、ぎいぃいいいッ!」
今までで一番の頭痛がやってきた。
まるで無数の針を頭に突き刺して頭蓋骨を貫いたような。
あるいは脳の真ん中で風船を膨らましてギチギチに圧迫したような。
だらだらと冷や汗が流れ、体が冷たくなってしまうような痛み。
さらに、右腕がまたしても勝手に動く。
天に向けて高らかに掲げられる。
そして再び白い術式が展開された。
しかしその形状は光線のときとは全く異なる。
治癒魔術の術式であった。
「頭が、破裂、する……! が、がひゅっ、ぎ……ぐ、ぎぃああぁぁぁぁあああああああッ!」
叫んでも術式は止まらない。
痛いし苦しいが、ドロセアが望んだ通りに事は進んでいるのだ。
(痛い、苦しい、頭も目の前も真っ白だ。でも、今までで一番近くにリージェを感じる気がする)
愛おしい人へ心の中で礼を告げる。
(ありがとう……助けてくれて……)
やがてドロセアの意識はホワイトアウトし、ものを考えることすらできなくなった。
◇◇◇
目を覚ましたテニュスは、ガバッと上体を起こした。
そして眼前に誰かが立っているのに気づき、その名を呼ぶ。
「ドロセアっ!?」
しかし返ってきたのは、野太い男の声だった。
「私だ」
険しい表情のジンが、テニュスを見下ろしている。
「な……ジ、ジン? 本当にジンなのか!?」
「ああ、どうやら生き延びてしまったらしい」
「ジン……よかった……よがっだあぁぁぁああっ!」
テニュスは勢いよく立ち上がると、目に涙を浮かべながらジンに抱きついた。
彼はわずかにだが嬉しそうに頬をほころばせる。
だがすぐにその表情は再び曇ってしまった。
しばし胸に顔を埋めていたテニュスだったが、ジンが暗い顔をしていることに気づき首を傾げる。
「あれ? でもドロセアはどうしたんだ? てかあたしの傷、何で完全に塞がってるんだよ、完全に死んだと思ったのに。誰かが魔術で治してくれたってのか……?」
「ドロセアだよ」
今度は女の声が聞こえてくる。
テニュスがそちらに視線を向けると、そこには赤髪の魔女が立っていた。
「マヴェリカ! いつ返ってきて……は?」
しかし彼女の視線は、自然とマヴェリカの奥にある物体に向けられる。
「な、なんだよその、紫色のぶよぶよは」
それは人の倍ほどの高さのある、血管の浮き出た肉の塊だった。
マヴェリカはそのぬるりとした表面に手を当て、テニュスとは視線を合わせずに答えた。
「……ドロセアさ」
こてん、とテニュスの首が傾く。
理解できない、という様子だった。
「な、何、言ってんだよ。そうか、魔物に呑み込まれたんだな!? だったら腹ん中から引きずり出してやらないとっ!」
「これがドロセア自身だって言ってるんだよ」
マヴェリカは誤魔化したり、ぼかすこともなく、はっきりとそう言いきる。
まるで逃げ場を塞ぐかのように。
「あんたたちのこと救うために、自分の中に混ざった聖女の血――というか魔力を活性化させたのさ。けど一度活性化させると止めるのは困難だ。暴走状態になり、体内で異常増殖を繰り返し、やがて完全に人間を魔物化させてしまう」
事の顛末を聞いたテニュスは呆然と立ち尽くしている。
「そんな……あたしらを助けるために、ドロセアが……こんな……っ!」
体から力が抜け、膝を付き、項垂れる。
するとその傍らに立つジンが呟いた。
「私のミスだ」
「いいや。あたしが、もっと油断せずにしっかりしてればっ!」
「誰のせいでもないさ」
「でもッ!」
責任を追及したい気分はマヴェリカにも理解できた。
彼女とて『自分のせいだ』と言っておきたい。
だがそうしたところでドロセアが聞くわけでもない、ただの自己満足だ。
「責任感じて自己満足してる暇があったら手伝いな」
そう言って、水で作った網のようなものを魔物化したドロセアに被せるマヴェリカ。
そしてずるずると引きずり始めた。
「運ぶのか……? どこに?」
「私の家だよ」
「ど、どうするんだよ」
「んなもん治すに決まってるだろう」
最も優れたシールド技術を持つ人間はここにはいない。
それでも、マヴェリカに諦めるつもりはなかった。
「ドロセアのときにデータは取ってる。理論上、私にだって魔物化した人間を元に戻すことができるはずなんだ」
シールドは誰にだって使える。
精密制御だって、才能ではなく訓練次第なのだ。
無論、それを聞いてテニュスが黙っているわけもなく――
「あたしも手伝う。絶対に戻さないと、ドロセアが犠牲になって終わるなんて嘘だッ!」
マヴェリカと共に、ドロセアを押して移動させる。
するとマヴェリカは、明らかに沈んだ様子でそれを見つめていたジンに声をかけた。
「ジンも手伝いな、落ち込むのは後回しだ! 失われた命はもう戻らないけど、救える命がここにあるんだよッ!」
その言葉に目を覚ましたジン。
「……ああ、そうだな。マヴェリカさんの言うとおりだ」
テニュスの隣に立ち、腕力で質量が何倍にも増したドロセアを動かす。
「やってみせるさ、どれだけ時間がかかろうとも……!」
両足に力を込め、前へと進みながら、マヴェリカは一人そう誓うのだった。
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