012 解放
「ごめん」
ドロセアはテニュスに対し、一言そう謝った。
彼女はそれだけで全てを察したらしく、一瞬だけ険しい表情を見せた。
だがすぐに頬を緩める。
「お互い様だ、あたしもスィーゼから聞かされたこと隠してる」
「でも――くッ!?」
喋る間もなく、ジンと思しき魔物は攻撃を仕掛けてくる。
その強烈な一撃はやはりドロセアのシールド単体で防ぐことはできない。
威力を弱めることはできても、いくらかの衝撃が彼女を襲い、体勢を崩させる。
その間に二撃目がくれば終わりだ。
だから今度はシールドによる防御の後、剣で弾いた。
これならどうにか踏ん張ることができる。
しかし相手はヒットアンドアウェイ――一撃で仕留められなければすぐに退避する戦法を取っているため、今のところその姿を視認することすらできていない。
「喋ってる暇はねえ、今はとりあえず“スィーゼが悪い”で納得しとけ!」
「わかった――テニュス、正面!」
「しゃあぁああッ!」
気合の入った声と共に剣を振るうテニュス。
ガギィンッ! とドロセアの時よりも激しい音が鳴り響き、ジンの攻撃は弾かれた。
よろめくテニュスは「チッ」と舌打ちしたが、それは相手も同様らしい。
体勢を崩した際、わずかにドロセアはその姿を目撃した。
ボコボコと蠢く紫の肉に覆われた醜い肉体。
だが無秩序に膨張していたドロセアのときとは違い、一応は“意味のある形”をしていた。
「巨大な鎧……」
「そんな形してたのか?」
「うん、形はいびつだけど、鎧だったし剣も握ってた。あと私たちの二倍か三倍ぐらい大きい」
「腐っても騎士ってわけかよ、かっけえじゃねえか!」
「テニュス、また来るよ。左後ろ!」
「おうよッ!」
再び反応し、攻撃を防ぐテニュス。
「なあドロセア、さっきからなんでそっちだけジンの動きが見えてんだ? あたしなんかさっきようやく鎧の形をしてるってわかったぐらいなんだが」
「右目だよ。普通の目では見えないけど、魔力の流れを追えば攻撃したあとどこに身を潜めて、どこから迫ってくるか見えるから」
ジンは人間だった頃同様、風魔術による加速を多様している。
それゆえに、移動した後に流星の尾のように魔力の残滓が残るのだ。
それを追えばどこから攻撃してくるのか読める。
「じゃあ役割分担だな。ドロセアが見て、あたしが迎え撃つ!」
「うん、そして相手の動きが止まったら――テニュス、真上!」
「これは無理だ、避けろッ!」
二人は同時に後ろに飛んだ。
直後、落ちてきた刃が地面に突き刺さる。
異形の騎士は、今度はすぐには消えなかった。
ドロセアとテニュスの姿を確認してから跳躍し、距離を取る。
「いくらかっこよくても、元のジンのがよっぽどいいな」
「当然だよ。だから絶対に元の体に戻さないと」
「やれるのか、ドロセア」
「他人の体で試したことはないけど、方法は身に染み付いてる」
「なら任せたぜ!」
「右から来てる」
「おうよ!」
向きさえわかれば、その方角だけに意識を集中させることができる。
収束する感覚は、音速を越えたジンの動きの視認を可能にする。
「剣先がぶれてんぞ、らしくねえ」
冷静に相手の攻撃を弾いたテニュス。
即座にドロセアが動く。
「絡め取るッ!」
模倣術式が浮かび上がり、地面から木の根が飛び出しジンを絡め取る。
だが彼を拘束するには非力だ。
すぐに引きちぎられてしまうが、しかし生じた隙はゼロではない。
「その一瞬が――命取りだあぁぁッ!」
炎を纏った刃で斬りつけるテニュス。
後ろに飛ぶジンだったが、飛翔する刃は彼の肉体を傷つけた。
「効いた!」
確かにダメージは入った。
だがドロセアが接近し、シールドを使用するにはまだ浅い。
しかも――
「でもすぐに治ってる!」
「魔物特有の自己再生かよ、クソ!」
魔物化した人間は、人より遥かに早いペースで新陳代謝を行い、成長する。
傷の自己再生も例外ではなかった。
元々、ジンは常人よりも遥かに強靭な肉体を持っている。
そこからの魔物化だ――以前、ドロセアが戦った熊の魔物などとは比べ物にならない力の差がある。
「グオォォオオオオオオッ!」
傷つけられた怒りか、着地した途端に咆哮するジン。
周囲の空気がビリビリと振動し、真正面から受けたドロセアとテニュスの体がぶるりと震える。
「やべぇ、めちゃくちゃこえぇ」
「ジンさんが本気を出すとあんなことになっちゃうんだ」
「あいつの本気とはまた違ぇよ。知性が減った分、野生で補ってるって感じだ。剣術の腕も明らかに落ちてるが、魔物化したことによる身体能力の向上でそれを補ってやがる」
「それって、あの中にジンさんの意識があるっていう証拠だよね」
「だな。必ずあたしが動きを止めてみせる」
そんな会話を交わす二人の前で、ジンは行動パターンを変える。
先ほどまでのヒットアンドアウェイのやり方は、獲物――つまりは弱者を狩るための方法だった。
だが目の前の人間はそれでは狩りきれない。
狩りではなく、闘争なのだと理解する。
剣を握り、構え、腰を落とす。
彼の腕が、剣が、緑の術式を帯びる――
「あの構え……やべえ、ふっとばされるぞ!」
「風の魔術なら私がッ!」
振り下ろされる刃は風を帯び、その切っ先が地面を叩くと同時に空気が爆ぜる。
大地をえぐり、木々を根っこから吹き飛ばしながら、暴力的な風の奔流が解き放たれた。
ドロセアはテニュスの前に出てシールドを展開する。
(すごい魔力量……でも術式は単純だ。分解はしやすい!)
シールドの形状調整。
人間の使う魔術と違い、その魔力はまるで力ずくで結合させたようないびつさだったが、根っこにある理屈は同じだ。
この四ヶ月、マヴェリカと共にドロセアはあらゆる種類の魔力の形状を記憶し、その分解方法を編み出してきた。
魔力に乏しいドロセア。
そんな彼女が展開するシールドでも、S級相当の魔術を防ぎ、己が力へと変えられるように。
「耐えやがった……ジンの生み出す嵐を……!」
ドロセアの背後で驚くテニュス。
シールドで守られた二人の足元以外、周囲にあった森らしい地形は全て吹き飛ばされていた。
皮肉にも、戦いやすい開けたフィールドが生み出された形である。
「あたしも負けてらんねえなぁッ!」
ジンは獲物が無傷だと気づくと、すぐさま次の攻撃へと移っていた。
高速でドロセアとの距離を詰め、目の前で剣を振り上げる。
するとテニュスがそこに割り込み、ジンの攻撃を受け止めた。
斬撃を弾かれたジンは、素早く次撃を放つ。
慌ててテニュスは反応し、辛うじてガードした――が、明らかに最初よりも余裕が無い。
そう思っていると、すでにジンは次の攻撃へと移っていた。
(早えぇよ。剣のデカさはジンのが上だってのに、あたしの倍近くの速さで畳み掛けてきやがる!)
火属性の魔術により筋力を向上できるテニュスは、パワーだけなら魔物化したジンと同等に打ち合うことができた。
しかしジンは風属性の使い手――その真骨頂は“速度”にある。
パワーは同等でも、スピードは比べ物にならないぐらい彼の方が上だった。
(さすがに次は防ぎきれねえかッ!)
ジンの放つ薙ぎ払いがテニュスを襲う。
そこに今度は、ドロセアが割り込んだ。
剣を両手持ちに切り替え、模倣術式で腕力を強化し、辛うじて魔物の刃を受け止める。
「大丈夫かドロセア!」
「テニュスよりは弱くても、私だってッ!」
ジンが繰り出す怒涛の連撃を、テニュスとドロセアは二人がかりで受け止める。
その激しい攻防は、もはや刃の動きを視認できないほどで、空中で火花だけが飛び散っているようにも見えた。
しかしそれでも、二人はじわじわと後退していく。
(ドロセアはさっき喰ったジンの魔力を使ってどうにか持ちこたえてる。けどそれは無限じゃねえ、このままじゃジリ貧だ!)
ドロセアは幾度となくテニュスと手合わせしたことで、かなりの精度で筋力増強の魔術を模倣できている。
しかし模倣魔術はどうしてもオリジナルより劣化してしまうもの。
そこを補うために、大量の魔力を消費するという方法も取れるが、それではガス欠が早まるだけ。
加えて、ドロセアとテニュスの間には生まれついての“剣術の才能”に大きな差がある。
たとえオリジナルであるテニュスと同レベルの魔術を使えたとしても、同じだけの強さを手に入れられるわけではないのだ。
つまりこのままでは、ドロセアが先に殺されてしまうだろう。
そうなる前に、どうにかしてジンの動きを止める必要があった。
(今のジンの剣には“心”と“技”が欠けてる。確かに野生や暴力性では普段のあいつを遥かに越えてるが、経験上、この手の相手は――)
これは普段のジンには絶対に通用しない拙い手だ。
それでも、
(絡め手に弱いッ!)
こみ上げる殺意に身を任せ、欲望のまま剣を振り続けるこの魔物相手ならば、足払いなんて原始的な手も一度きりの切り札になり得る。
テニュスは相手の体重がかかった足を蹴りつけ、バランスを崩す。
もちろんすぐに体勢を持ち直す。
生じた隙はせいぜい剣一振り分程度。
だがそれでも十分すぎるほどだ。
「ドロセア、行けぇッ!」
テニュスがそう叫ぶよりも早く、ドロセアは前に踏み込んでいた。
手を伸ばし、ジンの右手に触れシールドを発動する。
だがそのとき、彼の肉体がボコッと変形した。
体内から三本目の腕が出現し、ドロセアの腕を掴んだのである。
その握力は一瞬で骨をへし折ってしまうほどで、彼女は痛みに顔を歪めた。
さらにジンは力ずくでドロセアの体を放り投げる。
「そうは……させるかあぁぁあッ!」
しかしドロセアはジンから離れなかった。
シールドを手錠のような形状に変え、自分の折れた腕とジンの腕を繋ぎ合わせたのだ。
もちろん強烈な痛みが走ったが、痛み程度なら歯を食いしばればどうとでも我慢できる。
そもそも痛みで言えばエルクに痛めつけられたときや、魔物化したときの方がひどかったのだから。
そして今度こそジンの利き腕に触れ、魔力にのみ干渉するシールドにより、相手の体内に魔力の存在しない部位を生み出した。
魔物の肉体は魔力が存在しなければ維持できない。
瞬く間にジンの腕は力を失い、色も失せ、崩れ落ちていく。
「グゥオオオォオオオオッ!」
それは魔物にとって許しがたい苦痛だったのか、再びドロセアはジンに投げられる。
今度はシールドを使う余裕もなく、吹き飛ばされてしまった。
するとテニュスが落下地点に先回りし、両腕で受け止めてくれる。
「いい仕事だ、ドロセア」
そう言ってぐっと親指を立てるテニュス。
ドロセアは額に汗を浮かべながらも、笑みを浮かべ親指を立て返した。
「グウゥゥ……グアァァァアアアッ!」
だが、まだジンは魔物化から開放されたわけではない。
テニュスの腕から降りたドロセアは、折れた腕も使い剣を構える。
「大丈夫なのか!? 折れてんだろ、それ」
「シールドで保護すれば動かせる」
「無理すんなよ」
「それは無理かもね」
猛スピードで突進してくるジン。
振り下ろされた刃を、再びテニュスが受け止め弾く。
先ほどまでなら、その直後に凄まじい速度で二発目が来たものだが――
「隙だらけだよっ!」
ドロセアの剣がジンの脇腹を引き裂く。
彼女に斬られた部位は魔力喪失により再生しない。
苛立たしげにドロセアに斬りつけるジンだったが、その間にテニュスが攻撃を仕掛ける。
「はっ、明らかに弱くなってんじゃねえか」
「押し切ろう、テニュス!」
二人は連携でジンを翻弄しながら、その肉体を切り刻んでいく。
ドロセアには、その体内に埋まってしまっている人間の肉体が見えていた。
そこまで傷が到達しなければ、いくら斬りつけても問題は無いのだ。
「ジンの顔が見えたっ!」
テニュスが胸部を斬りつけた直後、開いた傷の奥に一瞬だがジンの顔が見えた。
傷はすぐに埋まってしまったが、そこに向けて呼びかけるように彼女は声を上げる。
「おいジン、そんな下らねえもんに負けてんじゃねえよ!」
続けてドロセアも大声をあげた。
「ジンさん、意識をしっかり持てば肉体の主導権は取り戻せるはずです、気を強く持ってください!」
「ドロセアみたいな女の子でもやり遂げたんだぞ!? 王牙騎士団の団長がその体たらくでいいってのかよォ!」
励ましと、煽りと――ずいぶんと差のある言葉をかけつづけていると、少しずつ魔物の動きは鈍ってきた。
二人は顔を見合わせ笑い合う。
効果はあったのだ。
やがて、ついに魔物は膝を折って攻撃の手を止めた。
「ふうぅ……魔物の意識をジンの意識が上回ったみてえだな」
「肉を剥がすほどに魔物の意思は弱まってくはずだから、最初よりはかなりジンさんの意識もはっきりしてきたと思う」
「あとはジン次第ってこったろ? ったく、とっとと目ぇ覚ませってんだ。どんだけ心配させりゃ気が済むんだか」
テニュスが愚痴っぽくそう言うと、魔物の胸のあたりから声が聞こえてきた。
「うる……さい、ぞ……」
魔物の鳴き声とは違う、理性のある人間の声だ。
「ジン!」
「ジンさん!」
二人は歓喜し、同時に名前を呼ぶ。
先ほどまでは小言を言っていたテニュスも、満面の笑みを浮かべていた。
「ぐ……が、ぁ……ぜんぶ、聞こえている。これ、でも……傷ついて、いる、からな……」
「はっ、冗談言う余裕があるなら大丈夫だろ」
「すぐに残りの魔物のた部分を取り除きますから、じっとしててください」
ここまで来れば、安心して触れて作業が出来そうだ。
ドロセアはまず、魔物の胸部に触れ肉を削ぎ落とす。
すると奥にあるジンの顔が見えてきた。
これで呼吸と会話がしやすくなるはずだ。
テニュスはジンの前に立つ。
「あたし……騎士団が全滅したって聞いて、本当に世界が終わったような気分だったんだよ。勝手にマヴェリカのところに預けておいて、その間に勝手に死のうとしてるんじゃねえよ」
「……すまな、かったな」
テニュスの目には涙が浮かんでいる。
近くにドロセアとマヴェリカがいたおかげで、想像よりも随分と落ち着いていたが、それも無理をしていた部分はあるのかもしれない。
ドロセアは二人の再会にほっこりしながら作業を続ける。
そのとき、少し離れた、まだ木々の残っている場所から声が響いた。
「あいつが……あいつがみんなを。絶対に、許さないんだからぁぁああッ!」
おそらくはジンと遭遇してしまった冒険者の生き残りだろう。
ドロセアが視線を向けたとき、すでに術式は発動していた。
色は青――生み出されたのは氷の槍。
鋭く尖ったそれは勢いよく射出されると、背中からジンに突き刺さった。
それは魔物の肉を貫通し、その内側に埋もれた人体にまで到達する。
後頭部を穿ち、脳内を穿孔して額から飛び出す。
テニュスは、目の前でジンの頭部が破壊され、目がぐるんと上を向くのを目撃していた。
「……ジ、ジン?」
現実を受け入れきれず、テニュスの頭は真っ白になる。
人間の意識が失われたことで、再びその肉体の主導権は魔物へと戻り――
「ぐ、うぉ……あ……グガアァァァアアアアアッ!」
剣が、テニュスの腹を刺し貫く。
さらにジンは柄を九十度ぐちゅりと回し、そのまま真横に振り払った。
「あ――」
桜のように肉が舞い散る。
テニュスは刺された腹部から脇腹にかけてを一気にえぐられ、腹にぽっかりと穴を空け横に倒れる。
なにもかも、ドロセアが見たときには手遅れだった。
「テニュスぅぅぅぅっ!」
彼女は叫び、テニュスにかけよる。
「テニュス、テニュスッ!」
「ぉ……ぇ……あ……」
呼びかけても、彼女は虚ろな目をするばかりで、もはやはっきりと言葉を発することすらできない。
一方、ジンは自分に攻撃を仕掛けてきた女冒険者に、軽く一跳躍で接近。
「ひ、ひっ、来るなあぁぁあッ!」
怯える女に向け剣を振り下ろし、ぶちゅんっと叩き潰した。
確かめるまでもなく即死である。
その間も、ドロセアはシールドを使って必死にテニュスの止血を試みていたが、当然次の標的になるのは彼女自身である。
背後から迫る殺気に、反射的にシールドを発動しガードする。
「ひ、ぐうぅぅっ!」
だがただのシールドでは衝撃を殺しきれず、ふっとばされ土の上を転がるドロセア。
なおも追撃の刃が頭上より振り下ろされた。
四つん這いになりながら彼女はなおも逃げる。
「あと少し……づっ、はあ、あと少しでうまくいきそうだったのに……っ!」
過去を悔やんでも意味は無い。
このまま何もしなければ、全員死んで終わるだけ。
そんなこと、ドロセアにだってわかっている。
(私にジンさんに勝てる力なんて無い、かといってあの速度の相手から逃げきるなんて不可能だ)
現に今、防御に徹しても、吹き飛ばされて、転がって、木に叩きつけられて。
ただでさえ折れた腕の骨が痛むのに、傷は増える一方だ。
『二度とそれは使っちゃいけないよ、いいね?』
ふいに、マヴェリカのそんな言葉を思い出す。
そう、もはやドロセアに取れる手段は、それ以外に残されていないのだ。
(ごめんなさい師匠、私――約束破ります)
皮肉にも魔術の鍛錬を積んだことで、発動までの手際の良さは格段に向上していた。
軽く意識を集中させるだけで、体内に存在する“聖女の魔力”が選別される。
無論、普通の人間にそのようなことはできない。
右目で己の体内の魔力の流れを把握できるからこそできる芸当だ。
そして右腕に聖女の魔力が集まると、内側からボコッと何かが這い出てくる。
そのとき、背後からジンが迫っていた。
彼は強く地面を蹴り、高速で突撃し、ドロセアの頭に向かって刺突を放つ。
しかし命中の直前、ドロセアは振り返ると、右手でその攻撃を受け止めた。
「グォ、オ?」
最初は素手に見えた。
しかしすぐに化けの皮が剥がれて、内側から正体が現れる。
魔物だ。
紫色に変色した、醜く蠢く異形の肉が、これまた異形の肉で作られた剣を受け止めたのである。
「助けてって言われてるのに、私が助けを求めるのはおかしいけど……!」
ドロセアはさらに、右腕に集まった“異形の魔力”に向けて祈り、願った。
「お願い。力を貸してリージェッ!」
その声に反応したのか、はたまたただの暴走か――
途端に異形の腕は異常な増殖をはじめ、ジンの巨体を突き飛ばす。
なおもリージェの魔力は膨れ上がっていく。
「まだ……行ける。まだ、戻れる……ッ!」
ドロセアの意識を削りながら。
面白いと思っていただけたら、↓の☆マークから評価を入れていただけると嬉しいです。
ブックマーク登録も励みになります!