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織花童話集Ⅱ  作者: 織花かおり


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2/4

2、最高だよ、サスケ。

我が家で飼っていた愛犬のサスケをモデルに書いたお話です。

実際のサスケは、臆病で人を噛んじゃうこともある子でしたが、心根は優しかったです。

サスケ、天国から読んでる~?

 雪江ちゃんにこの町で初めて友達ができた。

そのタカシ君にやきもちをやくほど僕は子供じゃないよ。

心から良かったと思っている。

雪江ちゃんは、とっても寂しがり屋なのに友達を作るのが下手だったからね。


 ピンポーン。

あっ、タカシ君が来た。

僕は、尻尾を振って、飛び上がって大歓迎する。でも、いつもタカシ君はへっぴり腰だ。そして、いつもかまってくれない。今日にいたっては目も合わせてくれなかった。

「いらっしゃい」

「おじゃまします。あのさ、雪江ちゃん。雪江ちゃんには悪いけれど、おれどうしても犬が苦手だなぁ」

雪江ちゃんの顔色がさっと変わった。

「でもサスケはかんだりしない良い子だよ」

「うん、わかっている。でも、サスケがいると遊びに来づらいなぁ」


 テレビの野球中継の音だけがいやに大きく聞こえた。


 僕は、タカシ君のわきをするっと抜けて外に飛び出した。

雪江ちゃんの邪魔にはなりたくない。

その気持ちだけで飛び出した。

外は、もう暗い。

お月様も雲に隠れてしまっている。

一体どこに行けばよいのだろう。


 僕は、捨て犬だった。

何も分からずに「寒いよ~。お腹すいたよ~」とクンクン泣いていた。

その日もこんな冷えた夜だった。

そこに塾帰りの雪江ちゃんが、たまたま通りかかったんだ。

段ボールの前に座って、僕をじっと見ていた。

めがねの奥の瞳が澄んでいて、とても優しそうで……。

だから僕は「あなたと一緒にいたい」とペロペロ手をなめた。


 雪江ちゃんは、僕を大事に抱えて家に連れ帰ってくれた。

それからはどんな時も一緒だったよ。

テストで失敗して僕を抱きしめながら泣いた時も、お母さんに怒られてしゅんと僕のお腹に顔をうずめた時も、タカシ君が初めて遊びに来た日の夜、一緒にハチャメチャにダンスした時もいつだって一緒だった。


 僕は、涙が出てきた。

雪江ちゃんに必要なのは、もう僕じゃない。これから大人になる雪江ちゃんには友達が必要だ。でもでも……。神様。僕雪江ちゃんと死ぬまで一緒にいたい。一緒にいたいんだ!そして、タカシ君とも仲良くなりたい!


 さっと冷たい風が吹いた。

かすかに知っている匂いがする。

浅いけれど、川が流れている場所に僕は来ていた。

僕は、はっとした。

そうだ。これだ!

僕は、寒さなどもろともせずに、川に入っていった。

 寒い。

秋とはいえ、川の中は震えがくるほど冷たかった。

でも、あきらめるものか!

じゃぶじゃぶじゃぶじゃぶ。

僕は、なんども顔を水に突っ込んで探した。

「死にそう」

そう思った。

でも、雪江ちゃんと暮らせないなら死んだのと同じだ。

そう思ったとき、タカシ君の匂いがぐっと近くにした。

そこに首を突っ込むと僕の鼻に固いものが当たった。

「あった!あったぞ!」


 「サスケ!」

大好きな声がした。

雪江ちゃんが、靴のまま川へ入ってくる。

タカシ君もじゃぶじゃぶ後からついてくる。

「サスケ、ごめん。ごめんね。急にいなくなっちゃいやだよう」

雪江ちゃんが泣いた。

タカシ君は、腰をへの字に曲げながら、僕らの様子を見ている。

「こんなに冷たくなって……」

雪江ちゃんは、濡れるのもかまわずに僕を抱っこした。

「あれ?サスケ。何をくわえているの?」

「あっ、これオレのボールだ。ほら、宝物にしていた山田選手のサインボール。この間なくしたろう?サスケ、探してくれたのか」

タカシ君は、僕をじっと見つめた。


 そして、鼻の穴をふくらませて言った。

「雪江ちゃん、おれ誓う。犬を好きになる。いや、サスケだけでも絶対かわいがれるようになってみせる!」

そして、見たこともないとびきりの笑顔を僕に見せてくれた。

「最高だぜ、サスケ」

「最高よ、サスケ」


 雪江ちゃんが僕にキスをした。

タカシ君がぶーぶー文句を言い始めた。

 

 なんだ。

タカシ君、やっぱり僕より子供なんだな。

よし、明日から雪江ちゃんの為にタカシ君をきたえよう。


 そして三人で歩く帰り道は、行き道とは違いお月さまに照らされぴかぴかに輝いていた。

まるで僕の心のように。    

おわり


お読みくださり、ありがとうございました。

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織花かおりの作品
新着更新順
総合ポイントが高い順
作成:コロン様
― 新着の感想 ―
[気になる点] というか、良かった点。 サスケ、まさか自殺?とドキドキ心配で気になっちゃいました(^^)が、よかったー、仲良くなろうとボール探していたんだね。キスからの上から目線、うけた! サスケ、…
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