2、最高だよ、サスケ。
我が家で飼っていた愛犬のサスケをモデルに書いたお話です。
実際のサスケは、臆病で人を噛んじゃうこともある子でしたが、心根は優しかったです。
サスケ、天国から読んでる~?
雪江ちゃんにこの町で初めて友達ができた。
そのタカシ君にやきもちをやくほど僕は子供じゃないよ。
心から良かったと思っている。
雪江ちゃんは、とっても寂しがり屋なのに友達を作るのが下手だったからね。
ピンポーン。
あっ、タカシ君が来た。
僕は、尻尾を振って、飛び上がって大歓迎する。でも、いつもタカシ君はへっぴり腰だ。そして、いつもかまってくれない。今日にいたっては目も合わせてくれなかった。
「いらっしゃい」
「おじゃまします。あのさ、雪江ちゃん。雪江ちゃんには悪いけれど、おれどうしても犬が苦手だなぁ」
雪江ちゃんの顔色がさっと変わった。
「でもサスケはかんだりしない良い子だよ」
「うん、わかっている。でも、サスケがいると遊びに来づらいなぁ」
テレビの野球中継の音だけがいやに大きく聞こえた。
僕は、タカシ君のわきをするっと抜けて外に飛び出した。
雪江ちゃんの邪魔にはなりたくない。
その気持ちだけで飛び出した。
外は、もう暗い。
お月様も雲に隠れてしまっている。
一体どこに行けばよいのだろう。
僕は、捨て犬だった。
何も分からずに「寒いよ~。お腹すいたよ~」とクンクン泣いていた。
その日もこんな冷えた夜だった。
そこに塾帰りの雪江ちゃんが、たまたま通りかかったんだ。
段ボールの前に座って、僕をじっと見ていた。
めがねの奥の瞳が澄んでいて、とても優しそうで……。
だから僕は「あなたと一緒にいたい」とペロペロ手をなめた。
雪江ちゃんは、僕を大事に抱えて家に連れ帰ってくれた。
それからはどんな時も一緒だったよ。
テストで失敗して僕を抱きしめながら泣いた時も、お母さんに怒られてしゅんと僕のお腹に顔をうずめた時も、タカシ君が初めて遊びに来た日の夜、一緒にハチャメチャにダンスした時もいつだって一緒だった。
僕は、涙が出てきた。
雪江ちゃんに必要なのは、もう僕じゃない。これから大人になる雪江ちゃんには友達が必要だ。でもでも……。神様。僕雪江ちゃんと死ぬまで一緒にいたい。一緒にいたいんだ!そして、タカシ君とも仲良くなりたい!
さっと冷たい風が吹いた。
かすかに知っている匂いがする。
浅いけれど、川が流れている場所に僕は来ていた。
僕は、はっとした。
そうだ。これだ!
僕は、寒さなどもろともせずに、川に入っていった。
寒い。
秋とはいえ、川の中は震えがくるほど冷たかった。
でも、あきらめるものか!
じゃぶじゃぶじゃぶじゃぶ。
僕は、なんども顔を水に突っ込んで探した。
「死にそう」
そう思った。
でも、雪江ちゃんと暮らせないなら死んだのと同じだ。
そう思ったとき、タカシ君の匂いがぐっと近くにした。
そこに首を突っ込むと僕の鼻に固いものが当たった。
「あった!あったぞ!」
「サスケ!」
大好きな声がした。
雪江ちゃんが、靴のまま川へ入ってくる。
タカシ君もじゃぶじゃぶ後からついてくる。
「サスケ、ごめん。ごめんね。急にいなくなっちゃいやだよう」
雪江ちゃんが泣いた。
タカシ君は、腰をへの字に曲げながら、僕らの様子を見ている。
「こんなに冷たくなって……」
雪江ちゃんは、濡れるのもかまわずに僕を抱っこした。
「あれ?サスケ。何をくわえているの?」
「あっ、これオレのボールだ。ほら、宝物にしていた山田選手のサインボール。この間なくしたろう?サスケ、探してくれたのか」
タカシ君は、僕をじっと見つめた。
そして、鼻の穴をふくらませて言った。
「雪江ちゃん、おれ誓う。犬を好きになる。いや、サスケだけでも絶対かわいがれるようになってみせる!」
そして、見たこともないとびきりの笑顔を僕に見せてくれた。
「最高だぜ、サスケ」
「最高よ、サスケ」
雪江ちゃんが僕にキスをした。
タカシ君がぶーぶー文句を言い始めた。
なんだ。
タカシ君、やっぱり僕より子供なんだな。
よし、明日から雪江ちゃんの為にタカシ君をきたえよう。
そして三人で歩く帰り道は、行き道とは違いお月さまに照らされぴかぴかに輝いていた。
まるで僕の心のように。
おわり
お読みくださり、ありがとうございました。




