1、ありがとう、おばさん、だいすきだよ。
昨日亡くなった大好きな伯母に捧げます。
ある日、おばさんがしんだ。ぼくひとりをおいて。
朝。いつものおいしいフレンチトーストとココアがない。
ぼくは、かってあったシリアルを食べたようとしたけれど。とてもたべられなかった。
昼。学校へいっても、悲しくなる。
ともだちみんなには家族がいてくれる。
おばさん、どうしてしんじゃったんだよ?
夜。だんだんやみが深くなるにつれ、こころぼそくなった。
ほんとうにひとりぼっちなんだ。
ぼくは朝、ベッドからでなくなった。
学校にも行かなくなった。
夜も目が冴えて、眠れなくなった。
おばさん、ゆうれいでもいいから、あいにきてよ。
ぼくを抱きしめてよ。
赤ちゃんのころ、とうさんとかあさんがしんで……。
それでもわたしがいるっていっていたじゃないか!
ずっとかぞくだよっていったじゃないか!
嘘はきらいなはずだろう?
なら、ぼくをひとりにしないで。
おばさんに会えないなら、ぼくもうしんでもいいや。
ぼくは朝、やっぱりベッドから出ず、何もたべない。
昼。水まで飲めなくなった。
夜。泣いてばかりいるようになった。
とんとんとん。
ドアノッカーがなって。がちゃりとドアが開いた。
あたまがぼーとして、どろぼうかもなんて、ただぼんやりしていた。
ベッドへ寝ていると、キッチンからよいにおいがする。
これ、このかおり……。
おばさんのそら豆のスープだ!
おばさん!
おばさん!
おばさん!
やっぱりしんでなんていなかったの?
となりのジェシカおばさんだった。
ぼくは、へなへなとすわりこんだ。
「これ、食べて。学校のみんなもしんぱいしているよ」
「いらない」
ぼくは、おばさんがいないなら、しぬことにきめたから。
「だめよ。こんなによわよわしくなって……。いいから、たべなさい」
「いやだ!」
「これ、だいこうぶつでしょう?」
「ぼくがたべたいのは、おばさんのそら豆のスープだ!」
ジェシカおばさんは、ちからなくわらった。
「アンジェリカがいなくなって、わたしもかなしい」
そして、ポロリと涙をながした。
「さみしいのは、あんただけじゃあない」
ぼくは、ジェシカおばさんが帰ったあと、豆スープを一口だけ飲むことにした。
そうジェシカおばさんのなみだのりょうだけ。
「―――っ、この味!」
それは、おばさんの味と全く同じだった。
ぼくはむちゅうですすった。
そういえば、おばさん、ジェシカおばさんにこのスープの作り方をおしえていたっけ。
部屋には、たくさんのドライフラワーがある。
おばさんがなくなるちょくぜんまで、つくっていたユリもある。
たしか向かいの通りの花屋さんが
「アンジェリカさんは、花のたましいを大切にする。アンジェリカさんにうった花は、長くもつし、つくったドライフラワーもかがやいている」
って、いってたな。
ぼくは、ソファにすわった。
このクッション、おばさんのおきにいりで、おばさんがよくだいてねていたなぁ。
山のおじさんも遊びに来た帰りに、「山の木や花の刺繍がいかす」って、ねだって一個もちかえったんだ。
あの時計、おばさんと時計屋のおじさんで、どこにかけるかでもめていたなぁ。
おばさんは、ねぼすけのぼくからよくみえるいちに、とけいやのおじさんは、とけいのもようがすばらしいから、お客さんからよくみえるいちにって、ゆずらなくって。
けっきょくじゃんけんで決めて、みんなでわらったんだっけ。
この絵は、ぼくが絵をならってから、はじめておばさんに送った絵だ。
「おばさんだよ」っていったら、なにもいわずにかべにはったから、気に入らないのかなっておもっていたら、あとから絵の先生に
「おばさん、うれしくって町中でじまんしていたぞ。わたしにも何度もお礼をいっていたよ。すてきなおばさんだな」
って、おしえてもらったんだ。
てれやのおばさんらしいや。
あっこの本、ジェーンばあさんから借りたやつ。
そのしるしがはってあるところをみた。
「こどもより、たいせつなものはない」
めがしらがあつくなった。
かあさんの写真をみせながら、
「あなたのかあさんは、わたしのいもうとのこの人。だから、わたしをむりにかあさんとおもうことはないし、よぶひつようもない」
とごうかいにわらったおばさん。
そして、かあさんのはなしやとうさんのことをききあきるほど、はなしてくれた。
ぼくのまわりには、いくつものおばさんがいた。
そして、ぼくにかならずだれかをおもいおこさせた。
ぼくはそのよる、おばさんのベッドに入ってねむった。
おばさんのにおいがして、ぼくはおちついた。
かなしくもあったけれど、ぼくはジェシカおばさんとおばさんの話をしたくなった。
ぼくの知らないおばさんの話をきけるかもしれない。
そうさ。
あす、ぼくはジェシカおばさんとおばさんの話をするんだ!
そして、おばさん直伝のそら豆のスープを教えてもらううんだ!
いろいろなおばさんを知っている人と話をしよう。
おばさん、ぼくはおばさんがだいすきだよ。
おばさんを大好きな人がほかにもたくさんいるから、話をしてみるよ。
童話のようにゆうれいになってでてきてはくれないだろうから、ぼくからたくさんのおばさんに会いに行くよ。
ある日、おばさんがしんだ。ぼくひとりをのこして。
おばさんからあみものを教わっていたサリーと大の親友になるのは、すこし未来の話だ。
おばさんがしんだ。でも、ありあまるほどの宝物も残してくれた。
ありがとう、おばさん、だいすきだよ。ほんとうにほんとうに、だいすきだよ。ありがとう。
おわり
最後までお読みくださり、ありがとうございました!