あらすじ
あらすじです。
ニュースルクスで激動の約一年を終えて、おれは久しぶりに神山家──つまり、おれの義理の家族の家に帰った。家族と言っても元、だ。おれはもう縁を切ったつもりだ。というか、それ以前におれと神山家は家族と言うほど優しい付き合いじゃなかった。おれはここにいる約十一年間、義兄弟たちのサンドバッグだったし、孝正さんから息子扱いされたことなんてなかった。
まあ、それはいい。重要な話じゃないし。
とりあえず、おれの二年生の話が始まる前に、おさらいも兼ねて自己紹介をしよう。
おれはショート・アルマス。天使だ。それも飛びっきり特別な存在で、『神の子』と言われている。ジェット・アルマスとレベッカ・アルマスの間に生まれたおれは、二人の知り合いだった──おれも詳しくは知らない──孝正さんの家、神山家に人間として預けられた。
というのも、おれが生まれたとき、天使の世界──つまり天界では戦争の真っ只中だった。おれのお母さんの実の兄、ジェイソン・チェイン改め──悪魔ネームで──ケロヴロス率いる、堕天使と悪魔軍団対おれのお父さん率いる天使軍団の戦い。
天使側の主力は、お父さんとデルマート、それから途中で天使側に寝返った悪魔の王フェニーチャーだ。悪魔の王と言っても、フェニーチャーがめちゃくちゃ偉いわけじゃないとかなんとかで、おれもよくわからない。
悪魔側の主力は、ケラヴロスと同盟を結んだ悪魔達。ケラヴロスは史上最強の堕天使で、その力はルシファー(サタン)すら遥かに凌ぎ、死の稲妻なんて言われてらしい。
おれが生まれてすぐ、戦争は終わった。おれのお父さんがケラヴロスを倒したんだ。けど、奴の手下の報復でお父さんも死んだ。フェニーチャーも大ダメージを負って死ぬ間際だったらしい。
お父さんは生前、自分が死に、さらにフェニーチャーまで死にかけになったとき、フェニーチャーがおれの中に入るように約束していた。フェニーチャーはおれの体の中にいればとりあえず死なないし、奴ががいればおれは無事だ。
そうしておれは、悪魔を体に宿し、天使の力を封印して──天使の力を持ってると悪魔に襲われる──徹底的に安全を保証された状態で神山家に預けられた。
でもおれが十一のとき、とある悪魔に襲われた。
本来はそこで死ぬはずだったけど、おれの中にはフェニーチャーがいた。おれに危険が迫ったときフェニーチャーは目覚めるよう封印されていて、狙い通りおれはフェニーチャーの力で生き返り、奴はおれの体に住むことで力を回復する。つまり、おれは悪魔と契約を結んだんだ。
そう、全部お父さんの計算通りってわけだ。
おれの人間界での生活は退屈そのものだった。さっきも言った通り、義理の家族には嫌われてたし、友達もいなかった。
いやもちろん、全くいなかったわけじゃない。一人だけいた。それがノーマン。こいつは親がいない上、気が弱くていじめられてて、つまり嫌われ者のおれと相性が良かった。ただ、価値観はあまり合わなかった。ノーマンは、おれの大嫌いなクラスメイト、レーナのことが好きだった。
実は、ノーマンもレーナも天使だった。といってもノーマンは自覚なし。おれと同じで人間界に逃された天使だ。レーナはノーマンを迎えに来た。普通はそうする。だって、さっきも言ったけど、おれみたいに天使の力を封印してなきゃ、天使特有の臭いがする。
悪魔はそれを嗅ぎ分けることができて、天使を襲う。天界は天使だらけだから中々来ないけど、人間界なら好き勝手襲える。とくに、ノーマンみたく何も知らない子供はうってつけだった。
おれは何もわからないまま、予知夢を見たり色々大変だった。おれを追う悪魔にも襲われたけど、フェニーチャーとおれの僕──リゼフに助けられた。
おれはリゼフに連れられてノーマンとレーナに合流し、色々あってレーナとも友達になり、一緒にニュースルクスに向かった。
ニュースルクスは天使の学校。校長はデルマートだ。十一歳から十九歳までの九年間通う。レーナの話じゃ、数ある学校の中でも屈指の名門らしい。というか、普通の学校は人間界と大して変わらなくて、天使の持つ力『天術』や天使の発するオーラ『天啓』を纏った格闘術を教える学校はかなり少ない。ニュースルクスはその中でも特別な名門なんだ。
ニュースルクスは楽しかった。新しくできた友達のジャックとチェイミーは悪知恵が働いて頭が良くて最高だ。おれたち三人は『SJC悪戯同盟』を結んだ。SJCはショート、ジャック、チェイミーの頭文字だ。
けどもちろん、楽しいばかりじゃなかった。
大きいのはポールの存在だ。ポールはレーナの幼馴染で、レーナはポールが好きだった。ノーマンがレーナに惚れてるのを知ってるおれは当然応援しようとしたけど、当の本人はポールと仲良くしてまるで諦めたみたいだった。
そしておれは、二人がポールに取られたみたいで嫉妬した。おまけにおれは落ちこぼれだった。詳しくは長くなるから言わないけど、強大な力を持ってるからこそ無意識のうちに力をセーブしてしまって、天使の力が使えなかった。
一方ポールは何もかも完璧な奴で人気者で、落ちこぼれと馬鹿にされてばかりだったおれは、悔しくてムカついて、ますます嫌いなった。
そうそう。ここからが大事。
おれ達はSJC悪戯同盟の活躍によって、だんだん人気者になっていった。けど、その代わりポールのお友達との敵対はどんどんひどくなっていって、ノーマン達とはほとんど喋らなくなった。
そんなときだった。あのケロヴロスがもうすぐ復活して、ニュースルクス襲撃計画を知ったのは。
おれは復活阻止のためジャック、チェイミーと一緒に冒険の旅に出た。世界最強の剣使い、エル・シッドとの戦い。エル・シッドはおれと同じ『神の子』で、天界の五大秘宝の一つ、ミカエルの剣、知性を使ってめちゃくちゃ強敵だった。
ケラヴロスとその部下との戦い。フェニーチャーと共におれの中に封印されてたお母さんのおかげで、なんとか封印することができた。
そうしておれ達は、何度も死ぬ目にあいながらなんとか冒険の旅を終えることができた。
けど、本当に辛い戦いはこれからだった。
ニュースルクスにはお母さんが封印したケラヴロスの心臓がある。これがある限り、ケラヴロスは完全には殺せないし、逆にケラヴロスが心臓を手に入れれば簡単に復活してしまう。
ケラヴロスの手下達はその心臓を手に入れるためにニュースルクスに攻め込んできた。いきなりで応援も呼ばないから、おれ達は自分達の手で学校を守ることになった。
みんなが戦う中、おれは心臓の封印場所を突き止めそこに向かった。全てが順調なはずだった。けど……学校には裏切り者がいた。
裏切り者はおれの僕のリゼフだった。
リゼフは悪魔と契約することで堕天使となって強大な力を得た。本当にめちゃくちゃ強くて、おれは死にそうだった。
そこを助けてくれたのがフェニーチャーだ。二人はほとんど互角だったけど、最後にはフェニーチャーが勝った。心臓も破壊できた。
……その代わり、フェニーチャーは命の炎を燃やして死んだ。
そしてもっと悪いニュースもある。裏切り者は一人じゃなかった。
悪魔対学校の戦いは、学校側の方が優勢だった。もう少しで追い返せるってとこで、ついに裏切り者が本性を表した。
裏切り者はポールだった。
ポールは、ケラヴロスの実の息子、つまりおれの従兄弟だった。
というか、裏切り者はポールだけじゃない。あいつは学校にいる間、みんなの人気者になり、手当たり次第仲間になるように勧誘してた。結果、生徒の三分の一が悪魔側に寝返った。
それでもなんとか追い払って、結果的にはおれ達の勝利で終わったけど、気持ちの悪い勝利だった。
もちろん悪いことだけじゃない。おれはノーマン達と仲直りできたんだ。ジャックやチェイミーは二人に興味なさそうだったけど。
そして、おれの天使生活一年目は終わりを告げた。