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5 冒険者『見習い』(1)


・・・セレス領の町ノーレスに居ついて2年以上経った。


追っ手など来る気配もなく、平穏無事に過ごしている。無論、幼馴染みで転生仲間のはずの莉緒りおにも会えてない。

本当にどこにいるのやら・・・まあ考えてもしょうがない。生きていることだけはわかるから良いとしよう。

もしも莉緒が死んでたら僕も連鎖的に死ぬことになってるらしいからね。


それが悪魔さんとの契約だ。

僕と莉緒の命は繋がっていて、片方が死ぬともう片方も死ぬのだとか。


だから生きてると考えるのが妥当だろう。たぶん。


・・・でも、長いこと会っていないことで僕の中でも心境の変化があった。

本当に僕は彼女に会っていいのか、わからなくなってきているのだ。


最後の最後まで、そう死んだ後も、彼女は僕を恨んでいてもおかしくはなかったのだから・・・。

この世界では、別々の人生を歩むのも良いのではないかと、なんだかんだ思い始めていたのだ。


だから、最近は僕は莉緒のことを考えるのをやめている。


・・・ちなみに、僕の母であるハートさんの用事のたびに付き添って町の外に出て魔物を倒してEXPを稼ぎ、今や僕はLEV6になっている。そのためか魔物をいくら倒してもあまりEXPが稼げなくなりつつあった。


PWKの世界でもそうだったが、LEV差が大きくなるとEXPが稼げなくなり、10以上離れたらEXPは0になってしまう。

現状、LEV2の魔物を倒すとEXP2入る。LEV3の魔物ならEXP4ほど入ると言う状態だ。


ちなみに今のステータスがこれ。


***


NAM:ロキ

GEN:男

AGE:5歳

STS:健康

LEV:6

EXP:3021

HTP:520

STR:91

ATK:86

VIT:82

DEF:78

INT:124

RES:84

DEX:78

AGI:87

SKL:『言語理解』、『光明』、『鑑定』、『利き香草』

TTL:『禁忌の転生者』


***


正直、ノーレスの町の誰よりも強い自身がある。


実際、『鑑定』でひたすら町の人々のステータスを盗み見ているが、やっぱり強くてもLEV2だ。そして、LEV2も多くはないし、LEV表記のない人すなわちLEV0もいる。

20代でEXP0だって見かけるくらいだから、基本的にはみなLEVは低いという感じで、基本的にほぼ全てのステータスは低い。


そんな低いステータスでも魔物に出会わなければ生きていけるわけだからあまりステータスなんて関係ないのだろう。


僕のステータスはLEV6だけど、一般人でも強くてもステータスは5歳の僕の3分の1以下という感じだ。今まで見た強い人間だと僕を襲ってきた甲冑の男、ジョーという奴でさえ今の僕の半分以下くらいのステータスだったと思う。


ちなみに筋トレ効果もあるだろうけど、数週間で2桁前後の変動はある。長い目で見るとちょっとずつプラスになっている。



結構努力してきたがそんな僕も、そろそろ6歳になろうとしていた。


年齢がLEVを変えられないからタイムリミットも迫ってきている。


莉緒もLEVを順調に上げているのだろうけど・・・考えると不安になる。

ある日突然、なんの脈絡もなく死ぬことだってあり得るのだからね。


深く考えないほうがいいね。

生きてるのだからそれでいい。

でも、いったいどうやってEXPを手に入れているのかは不明だな。


EXPーBOMBを手に入れた可能性もあるが、そんな幸運があるとは思えない、悪魔さんの配慮の可能性もあるが、それなら僕にももう少し幸運を分けてくれてもよかったのでは?とか思ってしまう。


まあいいか。ちなみに、暦を確認したところ、今はメルア暦459年。

メルアというのは確か、PWKを作ったゲーム会社の名前だったっけ。安直ではあるけど。

それがそれがそのままついているところをみると、完全にこの世界はゲームだなと再確認する。


ちなみに僕がPWKを始めたのはメルア歴473年だった気がする。ずいぶん早く生まれたものだ。


すなわち結界魔王討伐が行われるのはもう少し後。でもギリギリ10歳を迎える頃だったと思う。

記憶に間違いがなければだけど。

これは幸いだった。


「ロキちゃ~ん。今日もアテンまでお願いしていいかしら~?」


感慨にふけっていると、優しく微笑みながらハートさんが現れた。

もはや幼さは感じさせない・・・というより妖艶な大人な感じがプンプンしている。前世で生きてたらこんな感じの人とそのうち仕事してたりしたのかなとか思ってしまう。前世でそのまま生きていれば僕は今のハートさんと同い年くらいなのだ。そんなこと、考えても仕方ないのだけどね。


ちなみにアテンというのは隣町だ。ノーレスから片道約1時間半ほどかかるが、もう僕からしてみれば余裕だ。


「大丈夫だよ。任せて」


今日はハートさんの仕事の都合で他の町に向けての資料受け渡しをすることになっている。僕は手伝いで町の外に出るのだ。


「パン屋さんの仕事なのに隣町まで資料を届けるなんて~ママはロキちゃんいなかったらこの仕事できないわ~」


「僕もちょうど良い運動になるし気にしないで」


むしろEXPゲットのチャンスなのでありがたいのだ。

ただ、狩りつくしてしまうと出てこなくなってしまうため、適度に狩っている。魔物だって生き物だからね。

ゲームという感覚でいると痛い目を見るよね。


そもそもPWKでも、初期では狩場がすぐに枯渇して狩場争いがあったらしいのだから、狩り尽くすのはよくないだろう。


それにしても、隣町まで資料を届けるというのは意味不明なのだけれど、仕事がなかなか見つからなかったハートさんがやっと見つけた仕事のため、やめるわけにもいかないということもある。ハートさんも全く不審に思っていないので、あまり僕も特に気にしてなかったけどさ。


ハートさんの勤める会社『ヤークルスブレッド』は何の変哲もない町のパン屋さんなのだけれど、この世界では珍しいことにチェーン店と言って良いのかわからないが、本社とノーレスで計2店舗あるのだ。


ちなみに、いつも資料と称して、実は売上金を週に1回か隔週に1回程度ケースに入れて届けているのだ。こっそり何回か中身を見たので間違いない。


ハートさんは天然なのか、中身を本気で資料だと思って運んでいる。


女性になんでそんな仕事を任せているのかという感じなのだが、誰も気がつかないだろうということで任せてるのだろうな。


でも、ハートさんみたいな見た目の人が1人で外で出歩いていたら普通に盗賊とか人攫いに出会ってしまいそうなところであるが、まあ出たところで基本的に僕の敵ではないので問題はない。

けど、僕が居なかったら正直言って大問題だろと思ってしまう。


それにしても非情で過酷な世界って怖いわ。

女の子に治安の悪いところで現金輸送させるとか、社会に出たことはないけどきっと日本だったらありえないよな。この世界ではそういう配慮的なところが全然ないもん。


とはいえ、毎日ハートさんを迎えに行くけど他の店員もみんな非力そうなので、誰が現金輸送を行っても同じというのもあるかもしれない。


ちなみになんで毎日迎えに行くかというと、ハートさんがいなくなると身分証明書を持つ人がいなくなるため、僕はかなりやばい状態になるからだ。

身分証明書なしに町の外に出たら最後、町の中には入れないしね。


まあそれを差し引いたとしても育ててくれている恩もあるので、必ず毎日仕事場まで迎えに行くのだ。

その時に店員を見るわけだけど、みんな割と疲れてる感じがした。


チェーン店てのは大変なんだなぁ、きっとノルマがあるんだろうと思って、ハートさんに聞いてみたら、にこっと微笑んで「そうね~大変みたいよ~?私はのんびりやらせてもらってるけど~」ということだった。もしかしたらハートさんはおっとりした感じで、仕事が他の人に回っているのかもしれない。


そう考えると、隣町に売上金を運ぶ仕事は総合的にみてトントンなのかもしれないと思えてきたので僕はヤークルスブレッドに恨みはない。


外に出るきっかけにもなるしね。


結局のところ、僕が一緒だからかハートさんがナンパされることもなく町の間を行き来できている。子連れを口説くような輩にはまだお目にかかっていないだけ治安は適度に良いのかもしれない。


というか、近道と称して、兵士や冒険者が巡回する正規の道をほとんど通っていないせいもあるのだけどね。魔物以外の生き物に出会ったことがない。

いや、MGPがないから動物なのか?いや、あんな凶暴で人のことを好んで襲ってくる生き物が普通の動物であっていいわけがないか。

ということで動物というよりかは魔物と認識することにした。



そして今日も魔物が現れた。


目の前にはスモールアントという名前のくせに僕の体と同じくらいある魔物が10体ほど現れている。

LEV1が9、LEV2が1体か。よく出るタイプの魔物だ。それに虫系はすぐに増えるのでEXP稼ぎにはちょうど良いのだ。ここにいる程度なら全滅させても問題ないだろう。


「あらあら~魔物さんね~」


ハートさんはおっとり口調で僕の後ろに隠れる。

普通に考えたら非情な光景かもしれないが、これが適切な対応だ。


ハートさんはギュッと目をつぶって耳を塞いでいる。


僕は剣を1本片手で持ちスモールアントより早く攻撃を仕掛ける。

先手必勝とはよく言ったものだ。

僕は基本的によく知っている相手には後手に回る戦い方はしない。さっさと叩き切って終わりである。


実際3分くらいで全滅まで追いやった。


EXPは11か。良い出だしだ。


魔物を殺すというのも、最初の頃はほんの少し抵抗があった。でもやっぱりゲームみたいな感覚があるせいかあまり罪悪感とかはない。これが人間を殺せって言われると、正直できる自信がない。でもいつかは大量に人を殺さないといけない・・・そうじゃないと莉緒と僕は死後に大変なことになる。


今は考えないでおこう・・・踏ん切りがいつまで経ってもつかないんだよなあ。


その後も何匹か魔物と遭遇し、倒すことができたため、トータルでEXPを行きだけで20稼ぐことができた。今日は本当に良いペースだ。割と、1匹も魔物が出ない時があるのだ。その時は普段狩り過ぎてるのかなと不安になる。



それにしても、魔物を狩ればデータが霧散するように消えて替わりにドロップ品がPWKの中では出現したのだけど、この世界では出ない。でもそのかわり普通に死体は残る。もちろん血飛沫も出るのでスプラッタな光景が繰り広げられる。


たぶん、死体から欲しい物があるなら取れってことなんだろうけど、雑魚魔物の部位で何が売れるのかわからんからいつも放置である。普通に気持ち悪いし。


しばらくの間はハートさんが目を瞑ったままなので手を引いて先に進む。


「そろそろ目を開いても大丈夫かしら〜?」

「大丈夫だよ」

「いつも辛い仕事を任せちゃってごめんね〜?ママ失格よね」


隣町アテンに着きそうになった頃、急にバツの悪そうな表情であははっと寂しそうに笑うハートさん。



「そんなことないよ!僕は魔物退治は好きだしね」

「でも申し訳ないとは思うわよぉ〜あんまり心配はしてないけどね〜?信頼してるから〜」


こっちが微笑んで返すと同じように微笑んで返してくれる。

たまにこんなやりとりがあるから本当に心から僕のことを信頼してるんだろうなと思う。


むしろEXP手に入れる機会が増えてありがたいよと言いたい。でも子供の戯言と思ってか「EXP?なにそれ〜?」という感じで理解しそうにないので言わないけど。



アテンに着くと、すぐに『ヤークルスブレッド』本店に向かい資料という名の売上金を渡しに行くといつも通り、痩せた感じのひ弱そうな若い男性が出てきた。この人が社長のヤークルスさんだ。

この店はみんなひ弱そうなのが揃ってるよなと思わざるをえない。


とまあ、ここまではいつも通りだったのだが、今日は違った。


「ハートさん。いつもご苦労様です」

「い〜え〜、雇っていただけるだけで嬉しいですよ〜」

「いやいや、こっちも感謝してるんですよ!言ってなかったんですが、このケースの中身は売上金なんです」

「え〜!!知りませんでした〜!!」


ハートさんは中身を見てなかったし、本気で驚いていた。

僕はといえば知らん顔でハートさんの背後で屈伸運動をしている。


「同業者が近くに他に6つあったのですが、チェーン店だと資金の移動時に強盗に何度も襲われて結局資金繰りがうまく行かずに倒産まで追い込まれたりしているみたいなのです。しかし!うちだけはハートさんのおかげで一度も強盗もなく上手くやりくりできています。本当にありがとう!」

「そんな〜!とんでもないですよ〜ただ町の間を散歩してるだけですし〜!」



一瞬ぽかーんとするヤークルスさん。


「それがすごいんです!そんな貴女だから頼めるのですが・・・来月セレス領の他の町にも同時に2店舗我が『ヤークルスブレッド』を開店しようと思っているのですが、ハートさんにはそこの集金係をお願いしたいのです!」

「そうなんですね〜私で良ければお力になりますよ〜!」


ハートさんも嬉しそうだ。チラッと僕の方を見できたので、僕へ微笑みながら頷く。仕事が増えればその分外で狩りができる!


「ただ、場所がどれも遠いので元々週4日だったと思うんですが、週5回に変更で、また、今までの店舗での仕事はなしということでいかがでしょうか?ハートさんにしか頼めなくて・・・本当に申し訳ないのですが」


ヤークルスさんは本当に申し訳なさそうにハートさんを伺う。


「大丈夫ですよ〜この子と散歩するだけですから〜」


「良かった!給与は今までの2倍にします!本当にありがとうございます!」


給与2倍?!日本だとそんなの聞いたことないよ?!


「良いんですか〜?!こちらこそどうもありがとうございます〜!」


えへへと照れたように笑うハートさん。


話を聞いていると、どうやら、ハートさんは会社内だけでなく、同業の社長や経営ポジションに就く人たちの間では運び屋成功率100%の運び屋『ハート』として有名になっているのだとか。



本店から出るとすぐにハートさんが謝ってきた。


「ロキちゃんごめんね!勝手に請け負っちゃった〜・・・」

「大丈夫だよ!むしろいろんな魔物に会えるし!僕も嬉しいよ!」

「それなら良いんだけどね〜、ママこんなに頼られるの初めてなの!・・・ロキちゃんの力なんだけどね、それでも嬉しいの〜!」


半ベソかきながら嬉しそうに微笑むハートさん。

親の泣き顔はみたいものではないのだけど、嬉し涙のようなのでそれはさておき、本当に綺麗な人だな。見た目もそうだが、たぶん心が純粋だと思う。


・・・この世界にはもったいない気がする。

いや、前の世界では久里浜さんという綺麗な人が悍しいことをしでかしたことを考えると、別にどこにいても健康的ならどんな場所で生きてても良いか。


その人がふさわしいかどうかは周りの環境に依存するもんな。


ふと思い返すと、ハートさんは仕事が決まるまでにおよそ1ヶ月の間毎日複数の店に出向いて雇ってくれと訴えていた。

しかし、どこも雇ってはくれなかった。


どうやらどこも税金のせいでギリギリらしい。どうやら店は基本的に利益の70%を税金として持っていかれるとか。よくわからないがとりあえず多いと思う。その上消費税は60%だ。仕入れもえげつないことになるのだろう。


消費税とかは日本の高校生だった僕からしてみてもすぐわかるほど馬鹿みたいな額である。よくこれで経済が成り立つ物だ。


領主が搾取しているわけではなく、結界魔王の指示らしい。たしかそんなストーリーがあったのを攻略ページや小説で見た覚えがある。よく反発せずに世界が成り立つなと思わずにはいられない。


まあ理由は簡単だけどね。

魔王は普通の人間には倒せないからだ。しかも結界魔王は物理攻撃無効だしね。一般市民が反乱起こしたところで束になっても勝てない。


とはいえ数年後には反乱が始まるわけだけど、今はその影もない。


それはさておき、雇われなかったのにはさらに理由がある。

知らない人を雇うのはこんな世界だと厳しいのだ。生活が厳しいから店の金や物品を盗んだりするのは当たり前らしい。嫌な世界だ。


そんな事情もあってなかなか雇ってくれなかった時に『ヤークルスブレッド』は手を差し伸べてくれたのだ。


どこも雇ってくれない間は町の外で野宿したっけ・・・野草をとって、生で食べてたまにお腹を壊したりしていた。しんどかったなぁ。トイレないし。拭くための紙だってない。

冬になったらさすがにまずいと思っていたのだ。


だから、僕ら2人が衣食住問題なく過ごせるだけの賃金を貰えて、文句も言わずにおっとりしたハートさんを雇ってくれる『ヤークルスブレッド』にはなんだかんだ僕も感謝していた。

ここは恩返しの場面だよね。


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