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4 前世 『終わり』と共に『始まる』ぼくら 上


この春、高校1年になった僕、最上もがみ明彦あきひこ

まぶしい日差しに目を細めながら今まさに家を出たところだった。


さわやかな生暖かい風が頬を撫でる。


うん、いい気持ちだ。


入試が終わってからは中断していたオンラインゲームを再開してずっとやり込んでいたため、地味に久々の外だ。あんまりメインストーリーのアップデ―トも追加装備などもなく、ブランクはほとんど感じなかったから余計にのめり込んでしまった。


ちなみに通うことになった県立高校は偏差値はこの地域ではそれなりに高いほうになる。


正直、僕は偏差値を下げて受験した方が精神衛生上よかったんだけどね。ゲームもできるし。

そうもいかない理由があったので、ゲームをやめて頑張った。我ながら褒めたやりたい気持ちでいっぱいですよっと。


気分がいいので家の門のあたりの段差をジャンプで外に踏み出した。

膝がギシッと音を立てる。


痛くはないからまだセーフかな?ちょっとは運動しないとだね。

もともと運動は苦手ではない。

体育の成績はどちらかと言えばクラスの中でも上から数えたほうが早かった。


ガキっぽいとよく言われるが、こういうところが原因かもしれないな。すぐにゲーム感覚でランキングとか考えてしまうところとか。

・・・高校に入ったらそういうのは気をつけよう。


そんなことを思っていながら進行形で桜が舞い散っている桜通りまでくると、同じ高校の制服を身に着ける生徒がちらほら現れ、同じ方向に歩いていくのが見えてきた。



これから、僕の新しい生活が始まるんだ!


希望と不安を抱きつつ、心が躍っていた僕だが、この時はわからなかった。





絶望が・・・僕を待ち受けていることに・・・





僕はその通りを生徒の流れに逆行していきしばらく歩くと脇道に入る。

その道を2分ほど歩くと、大きくて綺麗な家が現れる。

僕は慣れた手つきでその家、『佐久間』と書かれた表札の横に付いている呼び鈴を押す。


しばらくすると、その家の扉が開いてボブカットの女の子が現れる。

同じ高校の制服。新品のブレザーに長いスカート。そして赤いリボン。

リボンの色は今年の1年生ということを意味している。つまり同級生だ。


彼女は華の高校生だが、その血色は良くない。

ほとんど家から出ないからだろう。


莉緒りお、おはよ」

「・・・うん。おはよう」


微笑むでもなく、莉緒はむすっとするようにゆっくりと出てくる。

手で一生懸命に車輪をまわしながら・・・


「まかせて、押すから」

「いいよ。自分でできるし」


・・・そう。彼女は車いすなのだ。

小学生の時に交通事故で左脚の膝下から切断して以来、ずっと・・・。


義足はどうかと言われることもあるが、残念なことに跳ねられた際に骨盤から両脚に続く神経が完全にダメージを受けて機能していないらしく、義足をつけたところで歩くことは不可能らしいのだ。


自分ですいすいと車いすを動かす莉緒。

僕は横で他愛もない天気や気候といった話題を展開するが、莉緒は相変わらず「そうだね」「うん、たしかに」「はぁ?」「あはは」とか生返事気味だ。


うん。今日は比較的機嫌がいいね!


酷いときは基本無言であることを考えるとこれは良い方である。



さて、そろそろか。


僕は莉緒の車いすの後方に移動する。

そろそろ少し段差が出てくるのだ。


おそらくこのくらいなら莉緒は1人で乗り切れるのだが、一見するとそんなに大変そうに見えないがちょっと高めの段差の後に地味に坂になっているので、一度後ろに下がりかねないのだ。


実際、「あっ」という声を上げる莉緒。手に力を籠めるのが分かった。

ふっリサーチ済み!


僕は車いすを後ろから押した。


「・・・明彦。ありがとう。でも、そういうの、いらないんだけど」


むすっとこちらを覗き見る莉緒。


ふふ・・・これを見れただけでよかったというもんだ。


にこっと笑い返しながら、僕は「ごめんごめん、次からはやらないよ」とだけ言って坂を通過してから手を放す。


そんなやり取りをしている間に学校についた。


ここまで来ればもう何も問題はない。


この学校は県内でも少ない完全バリアフリーで、どこのフロア、トイレや更衣室、別棟の技術系の教室や部室棟、2つあるグラウンド、体育館、文化会館、駐車場にいたるまで、どこへ行くにも車椅子での移動で問題はないのだ。


だからこそ、莉緒はこの学校を受けた。

・・・そして、僕は莉緒を助けるために勉強しまくってここを受けた。


莉緒の実力ならこのくらいのレベルなら余裕だっただろうけどね。僕はきつかった。後悔はしてないけどね。



「莉緒、クラスも同じだね」

「うん」


そんな会話をして教室に行くと席まで隣だった。ラッキー!


体育館で入学式を終えて、教室で先制の話を聞いて下校するに至るまで、多くの時間を莉緒の隣で過ごすことができた。


僕の高校生活は実に好調なスタートを切ったと言える。


たぶん莉緒からはキモイと思われているだろうけど、幼馴染で昔から一緒だからあまり指摘はしてこない。うんうん、やさしさを感じるね。



それから数日経過し、学校内の生活も順調という感じだ。


僕は3週間目にして席の近くの男子と友達になれた。

同じ時期、莉緒も友達が1人できたみたいでよかった。




莉緒はあまり積極的に人と接するタイプでもなかったし、同じ中学からのメンツがいても、この学校では僕を除いて、友達を1からつくることになっていた。


中学の時までは友達を作るのにかなり時間がかかっていたからね。よかったよ。


ちょっと系統が違う感じの子だけど、友達になってくれたなら、本当によかったよ。


「友達ができてよかったね」

「うん、ありがと。明彦もすぐできてよかったね」

「心配してくれてありがと」

「別に心配なんかしてなかったよ」

「そ、そう」


ちょっとショックを受けつつも、友達ができたことで安堵したような嬉しそうな莉緒の横顔を見て、僕も心底嬉しかった。



ちなみに、僕から見ても、何人か中学の時の見知った顔もあったがもともと友達も多くはなかったので、知り合いというレベルの人はいなかった。


ほんと、僕にも友達できてよかった。




高校生活も1か月が経った頃だった。

球技祭という催しがあり、各クラスごとに競い、優勝クラスは他学年の優勝クラスとも戦うという、なかなか面白いものだ。


みんなで友好を深めましょうということだったが、あんまり交流のないメンツで遊んでも微妙な感じになるだろうなと思うんだよなぁ。



それはさておき、やれと言われてるからにはちゃんとやろうと思う。


種目は、バスケットボール、サッカー、野球、バレーボール、ソフトボール、テニス、卓球、バドミントンといくつかある中、僕はバスケに出場した。

別にバスケを選んだのには理由はない。

中学までにも体育でやった事があるからというのが強いていうならば理由だろうか。



全員何かしらには出場するし、莉緒は卓球に出るようだ。


別にバスケが得意というわけでもなかったけど初戦で負けた僕は高校生活初日に友達になった山上やまがみにバレーを見に行こうと言われたが、卓球を見に行くからやめとくと宣言して別行動をとっていた。


僕にとって高校から初めて友達になった山上だが、「佐久間さんの種目ね、いってら~」と言っていたので、特に遺恨もない。



そんなわけで、地味に卓球で勝ち残っていた莉緒を応援していると、すぐ隣で「佐久間さんがんばれー!」と莉緒を応援する声が聞こえだした。


声の出どころを見やると、いつのまにか莉緒の友達の久里浜くりはまさんがいた。


彼女はこちらを見てにっこり笑いかけてくる。


「最上くんもやっぱり佐久間さんの応援だね?」

「久里浜さんも応援だね。莉緒は何試合目?」

「これはたしか・・・2回戦目だけど、今ももう勝ちそうだよ!すごいね!」

「莉緒は卓球うまいからね」

「そうなんだー」


そんなやりとりをしている間に莉緒は2回戦を勝ち進んだ。


その後すぐに3回戦になったが・・・残念なことにどんどん相手に得点され、点差が開く。



あっちゃー相手は卓球部か!

明らかにフォームが違う。


さすがに敵いようがないだろうな・・・。


莉緒がいくつか点を取り返していたが、思った通り莉緒は負けてしまった。

試合が終わると、莉緒はこちらに寄ってきて、むすっとしていた。無言である。

まあ仕方ない。


「仕方ないよね、相手は強かったもん」


久里浜さんは、あはは、と苦笑する。


「ま、こんなもんさ。楽しめたか?疲れただろ。いす、押すよ」


僕は無言の莉緒の車いすを押して別の会場へと向かう。

莉緒も無言で押されている。



向かった先は、山上の場所。


残念ながら彼の見ているバレーもちょうど負けたところだった。


山上は「バレー部相手に頑張ったよ俺ら!」と参加もしてないのに到着した僕らに熱く語り始めたが、「どーどー、山上」と、なだめてとりあえず場所を移動することにした。


サッカーやテニスも同様に負けたらしいので午前の種目はうちのクラスは優勝なしだった。


午後の種目に期待だ、と言い合いながらみんなで昼食をとって笑いあっていた。


「あー私もTKGに出たいなぁ」


突然、先ほど初めて話したばかりのクラスメイトの女の子、藤堂とうどう加奈子かなこが雑誌を読みながら切望するようにくねくねする。


「は?」


山上がぽかーんとしている。正直僕もそういう顔になりそうだが、しないで置いた。


「いや、かわいい洋服着てさ~」

「いや、それTGCじゃね?」


山上が突っ込んだ。


「は!!あー!そうそうそれ!かわいいよねぇ。・・・てか私今なんて言った?TKGてなんだっけ」

「卵かけご飯だろ」


山上が失笑する。


「は!そうだ、昨日父親が『しめのTKGがうまかった!!』て連呼するから頭にこびりついてたわ!」


一緒にいた面子が皆笑い声をあげる。

莉緒もくすくす笑っている。


藤堂さんはクラスではお笑い枠という感じだった。


「藤堂さんかわいいから、機会さえあれば、出られるんじゃないかなー?」

「いやいや!久里浜さんに言われたらなんか嫌味に聞こえちゃうって!てか嫌味だろ!この!美人め!!」

「本気で言ってるっー!藤堂さんすらっとしててモデルになれそうだよ!」


じゃれ合う久里浜さんと藤堂さんたちに、山上が会話に入り込む。


「胸まですらっとしてるしな!」

「山上!!それセクハラだから!セクシャルアタッチメント!」


「ハラスメントどこいった!何取り付けてんだよ!」


山上が突っ込んでまた周囲で笑いが起こる。


「そうだ。モデルといえば、久里浜さんて読書モデルやってなかった?見た覚えあるよ!」


名前はまだ覚えてないが、別のクラスメイトの女子が久里浜さんに声をかけた。


「久里浜さん!モデルやってたんだ?すごいね!」


さらに別の女子が感嘆の声をあげるが、久里浜さんが、笑って流す。


「え?う、うん、一応ね、もうやってないけどさ、あはは」


これが、大人の対応というやつか?


「えー!一度でもなれたならすごいじゃーん!ね!最上くんだったら藤堂と久里浜さんだったら久里浜さんの写真撮りたいでしょ?」


また、反応しにくい話を投げてきたな、名前のわからないクラスメイトよ!後で絶対名前覚えてやるからな。


にしてもなんで、この人、僕の事知ってるんだろう。

あ・・・自己紹介の時に趣味が写真撮ることとオンラインゲームすることだって言ったっけ。


アマチュアの写真コンテストで入賞もしたとか言った記憶があるから、それで写真のことを覚えてくれていたのだろう。しかしながら申し訳ないことに僕は彼女の名前も趣味も全く覚えていない・・・。

申しわけなさがあるな。微笑みでごまかしておこう。


「最近は人を被写体にしてなかったけど、そうだね、久里浜さんなら撮る側が未熟でも綺麗に写ってくれそうだ」

「え?ほんと?」


久里浜さんが驚いた顔で僕を見た気がした。

さすがに撮られる側のことを無視した発言だったか・・・


「いた、もし撮るとしたらだから、気を悪くしたらごめん」


僕、きもくてごめんて感じ。


「ちょっとー!最上くん!私はー!?私はー!?」

「すらっとした長身貧乳はおよびじゃないってことよ!最上!もし久里浜さんの撮影会やるなら俺も呼べ!俺もいろんな角度から撮るわ!」

「おい山上、私は言うほど貧乳じゃない!Cカップはあるんだからね!それとセクハラ!お前がついてったら久里浜さんがかわいそうだわ!もし行けたとしても玄関までで帰れ!」

「おぉ、お前、意外とあるな!よくわかんねぇけどよ!てかひどくね!?俺の扱い酷くね?」

「山上に酷いとか言われたくないよ!」


藤堂さんと山上の掛け合いは今後も続けられそうだ。


そして。知らないうちに友達が増え始めた気がする。

球技祭てすごいな。思ってたのと違った。



しかし、ちらっと見ると、莉緒は機嫌がよくない。

久里浜さんに話しかけているようだが、ずっと生返事だ。


僕以外に対する生返事は結構機嫌が悪い時なんだよなぁ。


負けたのがそんなに悔しかったのかな?



いろいろあったが、午後の種目では我がクラスは野球部が数名いたため野球の種目では学年優勝までこぎつけた。さすがに他学年には敵わなかったが、優勝は優勝だ!


団結力が高まっていた僕らは自分のことのように喜んだ。

なんだか、山上の気持ちがわかった気がする。



放課後になると、いつのまにかクラスの打ち上げでカラオケに行こうということになっていた。


カラオケ・・・正直、行ったことないんだよな。

友達も多くはなかった僕、しかもカラオケに興じるような友達は1人としていなかった。


何歌えばいいんだろう。そもそもカラオケの機械の扱い方がわからない。

てかバリアフリー対策はされているのだろうか?



行かないという選択肢はこの団結力を実感した後では言いにくい。

2、3階階段登るくらいだったらおんぶしていこう。


ちょっと緊張しながらも莉緒に「一緒に行こう」と笑いかけた。


「うん」


あれ?意外と機嫌いい?

莉緒も年頃の女の子ってやつか?よくわからないなぁ。


「最上くんも行くでしょ?」

「行くよ。莉緒と一緒に」

「あ。佐久間さんも、そうだね!」


にこっと微笑む久里浜さん。


うん、笑顔が似合う子だ。言われてみれば、モデルをしていただけある。


考え事をしていた僕はその時まではまだ気が付かなかった。

久里浜さんの精神の異常状態に・・・。


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