24 前世 『終わり』と共に『始まる』ぼくら 下
打ち上げは球技祭終わりにすぐに行われた。
待ち合わせ場所にはクラスメイト41人のうち、18人が参加していた。
あれ?意外と半分くらいしか参加しないんだな。
まあ、今のところ参加して悪い気はしてないけど。
到着したカラオケ店は段差など一切ない、完全バリアフリーだった。
各階へはエレベーターが付いていて、問題なく車いすでも移動できる。
男子トイレを見るに、段差がないようで問題なさそうだ。女子トイレも同じだろう。
カラオケは莉緒さえ気に入ればなかなか良い趣味にできそうな気がするな!
カラオケの機械システムに苦戦しながらも僕は最近聞いた覚えのある流行り歌をチョイスした。
しかし、1番しかわからなかったのでヤバいなと思って「はいここまで!止めて!誰か!止めて!!」と言っても曲を止めてもらった。
「2番以降歌えないんかーい!」と藤堂さんがツッコミ、「だが良い!盛り上がったから!良い!」という山上のフォローのおかげで意外とウケたので良しとしよう。
藤堂さん、山上、ありがとう!
あーでもどうしよう。2曲目はないし、同じ手は使いづらいよな。
ということで僕は他の人の歌に合いの手を打つのと、莉緒との会話に専念することにした。
しかし、久里浜さんが僕と莉緒の間に入り込り話しかけてくる。
なぜだか莉緒と会話ができない。
久里浜さん!さっきから莉緒が会話に入れてないよ!
ちなみに、部屋は大きいとはいえ、車いすは入口付近のスペースのある場所に置いてあるため、必然的に莉緒も入り口付近だ。
会話のトスが急に下手になったな久里浜さん!疲れてるのか?
ちょうど山上の歌が終わったので山上を称えておくことにした。
「山上って意外と歌うまいのな」
「たしかに!でも、最上くんもうまかったよー。次は全部歌ってよー」
僕は自然な流れを意識して久里浜さんからのトスから莉緒も会話に組み込もうとする。
「いや、今日はもう勘弁して!僕は莉緒の歌聞きたいな」
「嫌」
莉緒が速攻拒否!
まあそうだよね。莉緒もたぶん歌ったことないだろうし。無理強いはやめておこう。
今度特訓のためにカラオケに誘おうかな?
「私が歌おっかな?私も結構うまいんだよ?歌うときちゃんと見ててね?」
「そうなんだ、歌うときはちゃんと聞いてるよ。あ。莉緒、そこのポテト取って」
「私がとるよ~!ここのポテトおいしいんだよね!はい!」
素手で人差し指と親指で挟んだポテトを僕の口元に笑顔で持ってくる久里浜さん。
別に僕は気にしないけど、素手って、気にする人は気にするやつじゃないか?
いや、意外と高校生では普通?普通かもしれない?!
じゃあここで乗り遅れるのもよくないな!
高校生の普通を知らない僕は混乱していた。その結果、僕は久里浜さんの手から直接ポテトをもらうことにした。
「ありがと、うん。本当にうまいねこれ」
「えへへ、でしょー?」
「莉緒も食ってみろってこれ、ほら」
僕は今教えてもらった素手ポテトなる技を莉緒に実行することにした。
「・・・いや、やめとくよ」
拒否!?いやこれが妥当か!!?た、たしかに僕の手からとか嫌だよね!気持ち悪いよね。ごめん。
・・・あー、普通ってなんだろ・・・?
内心謝りつつも混乱しつつも笑顔をキープ!がんばれ僕!今日という1日はまだ長いぞ!
「しょーがないな!僕が自分で食べちゃうよ!うん!おいしい!自分で食べてみな?」
「・・・」
莉緒が手を伸ばす。それを遮るように久里浜さんが「じゃー、私にあーんしてよー?」と笑顔で迫る。
いや、タイミング的に迫る格好になったのは莉緒にポテトを渡そうとした僕が前かがみになったせいなんだけどさ。
モデルやってたことのあるだけあって綺麗な顔だ。ちょっとひるんでしまう。
「あ、ははは、僕、今手汚いよ?」
「今、佐久間さんにはやったじゃーん?なにそれおもしろーい!」
回避のつもりで言ったのだが、悪手だった気がする。
ケラケラと久里浜さんがおなかを抱えて笑う。
ウケてくれてよかったよ・・・
この子の勢い何なの?どういうことなの?と混乱し始めたところで、久里浜さんが「佐久間さん、トイレ一緒に行こー」と脈絡もなく言い出した。
出たな!女子の連れしょん!
藤堂さんがよく休み時間に「○○さんトイレいこー!」て言っているのがなぜか頭にポップアップされた。
てか、このタイミングで言い出すってことはトイレすげえ我慢してたんだな久里浜さん。
そんなことを思いながらも僕は2人を見送る。
2人がいなくなると山上が凄い勢いで僕の膝に頭からダイブしてきた。
結果として膝枕である。なにこの状況。
「おいおい、最上!久里浜さんやばくね?!」
「ああ、やっぱりすごいよな」
あのテンションからの急につれしょん。彼女はなかなか特殊なタイプだと思う。
「あれは確実に気があるぜ?どうすんだよ佐久間さん」
「気が触れてる?言い過ぎじゃない?てか、なんで莉緒?」
気が触れてるまでは僕も思ってなかったぞ。
それに、なんの前触れもなく唐突に莉緒の名前が出てきたな。
「意外と凄いこと言うな!いや気があるって・・・、何その返し?エロゲの勘違い系主人公かよ!」と、もじもじし始めて謎のツッコミを入れてくる山上。
しかし、新しい曲の前奏が流れはじめた途端「あ!俺だ!」と膝から起き上がり、その場で立ち歌いはじめた。
山上が再び歌う番になったらしい。
今日、歌いまくってるな山上。
上手いから苦もなく聞いてられるからいいけど、他の人にも歌わせてあげてな?
そのあとはなぜか藤堂さんとデュエットで歌っていた。
どちらもうまいなぁ。
しばらくして莉緒と久里浜さんが戻ってきた。
久里浜さんは相変わらずおかしいが、莉緒はもっとおかしかった。
なにやら俯いているというか・・・
元気づけようと、莉緒に話しかけることにした。
「莉緒、帰りにコンビニでアイス買おうぜ?」
「い」「佐久間さんの家と最上くんの家って近いのー?」
ちょっと?!莉緒をブロック?!
久里浜さん!ちょっと邪魔しないであげて!なんか言おうとしてたよ!?たぶん「行かない」とか「いらない」とかだったかもだけど!
動揺を隠しつつ、僕は久里浜さんの疑問に回答する。
「めっちゃ近いわけじゃないけど、遠い親戚みたいなところでもあるから、昔から一緒にいるね」
「そうなの?!そういうのは知らなかったなぁ、あ。誤算ー。・・・あ、そうだ。じゃあ佐久間さん、今度最上くんの家に遊びにいきましょうよ、高校からも近いんでしょ?」
「・・・うん」
なにやら元気がない莉緒。一瞬、笑顔になりかけてまた表情が強張る莉緒。
なんだ?どうしたんだろう・・・
残っている短い冷め切ったポテトに手を伸ばして莉緒は「うん、おいしいね」と呟いていた。
もう冷めちゃってるし、そんなにおいしくないだろうな・・・
今度カラオケ行く時はここでポテトも注文してあげようっと。
その日は終始そんな感じで一日が終わってしまった。
僕は最初の方で歌った1曲だけ、莉緒は、1曲も歌わなかった。
打ち上げの帰り道、僕と莉緒、山上、久里浜さんという4人で桜通りを歩いていた。
山上がふざけた終始喋り倒しつつ、僕と久里浜さんがケラケラと笑う。
莉緒も釣られて笑うようなそんな感じだった。
笑いも落ち着いた頃だった。
久里浜さんが急に僕の前に現れて、僕の歩みを止める。
腰を折りつつ、にっこり笑いながら僕を下から見上げるような状態でこう告げた。
「ねえ。最上くん。出会って1ヶ月くらいだけどさ。私、君のこと好きだなー」
「えっ?!」
莉緒が驚きの声を上げる。
莉緒がこんなに驚くなんて、珍しいな。
・・・ん?え?てか、え?いきなりなに?どういうこと?
は?
僕はやっと意味を理解した。
「あ、あぁ、うん?なに?えーと、僕も久里浜さんは優しい良い人だなとは思うし好き、かな?」
久里浜さんの僕に対するその感情がどういう意味を成すか、なんとなくわかってしまったから、ごまかすことにした。いや、まさか、そんなはずは、こんな美人さんが・・・?
心臓がバクバクと脈打っているのがわかる。
「うれしー、それってさー、恋人に見れるていう意味で好き?私はそっちなんだけど?」
逃げられる道筋を潰されてしまった。
「えぇ?!」
驚きの言葉しか出ないよ!
つまり、久里浜さんが僕を?!嘘でしょう!!?
「ちょっと!えぇ?!久里浜さん!こんなとこで告白?!まじかよ俺ジェラシー!!!」
山上が突然の告白をおちゃらけて合いの手を入れるが全員無視である。
「な、なんで?」
莉緒が驚きの表情で久里浜さんを見上げる。
「なんでじゃないよ、佐久間さん。さっきトイレで言ったじゃん。私は自分の感情に正直でいたいから」
「っ!!」
莉緒が声にならない悲鳴をあげている気がした。
目の前で幼なじみの告白を目撃したらそんな反応にもなるよね!俺も逆の立場ならそうなる自信しかないよ!!
「ちょっと、ちょっと、久里浜さん、莉緒が驚いてるからそのくらいにしてさ」
「待てないよ!ずっと私は最上くんのこと見てたんだよ?1ヶ月も!」
「1ヶ月かよ!期間の話だったら莉緒ちゃんの方が」「山上くん。恋に時間は関係ないからさー?」
「ぃひー!!」
にっこりと山上の言葉を遮り見つめる久里浜さん。
正直そのその表情が、その笑顔が、無性に怖いと思った。
背筋に嫌な汗が流れるのを感じる。
「え、えーと。久里浜さん。僕は莉緒が好きだからさ!久里浜さんも好きだけど!」
「佐久間さんを好きっていう気持ちは恋愛的な意味じゃないんでしょう?じゃあ私ととりあえず付き合ってみてよ。それから考えればいいじゃん?」
「え?」
どういうこと?とりあえず付き合うとかあるの?!
好きじゃないけど、とりあえず?!
間違ってるのか、間違ってないのか、僕にはわからない・・・んだけど・・・
あぁ、高校生って、難しい・・・中学まではこんなのに関しては蚊帳の外だったし。
だけど、難しいでは片付けられない。
なにしろ目の前で僕の答えを求められているのだから。
「たしかに・・・そう言われると、僕は、そう意味で莉緒を好きなのかはわからないけど・・・」
昔から一緒だった莉緒に『恋愛』という感情を抱いているのか、僕には理解できていない。わからない。
恋って、恋愛ってなんだ・・・?友達とは違うのか?違うとして、何が違うの?付き合う意味って何なの?
『わからない』は答えとして間違ってないだろう。
そう思った。
だからそう口にしたんだ。
「ごめん、わからない」
でもそれは、僕の都合でしかない言葉だった。そんな気がする。
「だってさー?佐久間さん」
急に久里浜さんが莉緒の名前を呼ぶ。
莉緒はそれには応じず、ただ、無言で車いすを回して先へと進みだす。
僕は莉緒を追うことができなかった。
「久里浜さん、僕には今そういうのわからないからさ、とりあえず付き合うとかも、よくわからないし」
「んー、わからないばっかりじゃさー、先に進めないよね?いつまで経っても、変わらないと思うんだー?」
久里浜さんが素早く僕の手を取ってまっすぐ目を見つめてくる。
く、綺麗な顔して、やる事が結構きついな久里浜さん!
決断を迫られた僕が出せる答えは今までと同じで居たいという気持ちだった。
「久里浜さん、これからも僕と莉緒の友達でいてよ」
「嫌!!」
久里浜さんが大声をあげる。その声に僕らはびくっとなった。それほどの大声だった。
「く、久里浜さん?」
「なんで佐久間さんばっかりなの?最上くんは自分のために生きたら良いじゃない!なんでそうしないの?いつまでそんな生き方する気なの?ずっと佐久間さんの世話し焼いてて友達も中学までほとんどいなかったって聞いてるよ?ねえ、そんなんじゃだめだよ?私を見てよ」
「ちょ、え?誰からそんな」
ちょっとちょっと?え?誰から聞いたのか知らないけど、なんだろう、ものすごく違和感というか、いろんな意味で怪しくなってきたぞ?
「この1ヶ月ずっと見てたんだよ?最上くんと同じ中学の子にもいっぱい話聞いたし、同じクラスになってからは毎日会話したじゃない?お互いのことも知り始めてるじゃない?このままもっとお互いのこと、理解し合おうよ、ね?」
僕の手を握る久里浜さんの手の力がさらに籠る。
ちょっと、手が痛くなってきたよ!
「く、久里浜さん、病んでるなぁ」
チラッとみると山上が顔を引きつらせていた。
たぶん僕もそれに近い表情になりそうではあったけど、困惑しつつも笑顔のまま、キープできていると思う。
たしかに、これは、病んでいる気がする。
「久里浜さん、落ち着こう?」
「落ち着いてどうにかなるの?ねぇ、答えてよ」
うん、これは無理だ。僕には手に負えないよ。
僕は久里浜さんの手を振り解いて走り出す。
「久里浜さんまた明日ぁあ!!!山上ぃ!あとは頼んだぁぁ!!」
「ええええ!!!!?ちょま最上ぃぃぃい!!!」
「最上くぅぅん?!」
藤堂さんと山上が僕の背中に向かって叫ぶのがわかる。
久里浜さんがなんの反応もないのが逆に怖い。
僕は逃げた。どうしようもない男だと思う。
答えられないしちょっとやそっとじゃ逃げられないから、本気で逃げた。
後ろを振り向くことなく、ひたすらに走る。
走る途中で莉緒に追いつき、車いすを本気で押して帰路に着く。
「あ、明彦?!」
「莉緒!ちょっと急ぐけどごめんな!」
僕は車いすをいつもよりもかなり早めに押す。
「なんで?なんで私のことそんなに」
後半は足音などで聞こえなかったけど、僕は今正常に頭が動いていないから、さっきまでの自分の意見とは矛盾した言葉を小声で呟いていた。
「好きだから、かな?」
それはたぶん誰の耳にも入らなかったことだろう。
それでいい。
冷静に考えたらきっと、この言葉は無意味で・・・無責任だから。
その日はそのまま家に帰る事ができた。
莉緒を送り届けたが、莉緒もこちらを振り向くことはなく、一言も発することなく家の中に入っていった。
・・・久里浜さんが追ってくるかと思ったけど、そこまではしてこなかった。
山上と藤堂さんが頑張って足止めしてくれたんだろう。
明日からどうしよう。
「はあ・・・」
ため息が不意に出てしまった。
翌日山上にお礼を言っておいたら「気にすんな、とりあえず、あいつはやべぇから気をつけろ?」と熱心に説いてくれた。
久里浜さんにどんな顔して会えば良いのかわからなかったけど、「あ、最上くんおはよー!」と、笑顔で手を振りながら、あっさりとした対応してくれた。
でも・・・その日久里浜さんが莉緒とは一言も喋っているところを見ることはなかった。
さらに翌日、休み時間終了ギリギリにばったり会った人気のなくなった廊下で、不意にまた久里浜さんに笑顔で告白されたが、また走って逃げた。
ああぁ・・・情けない。
その1週間後にもベランダに追い詰められて告白されたけどベランダから飛び降りて逃げた。
2階でよかった。
・・・情けない・・・情けない・・・!!
その日からは事あるごとに告白されたが、なんとか逃げ切った。
そんなやりとりを見せつけられていたクラスでは、久里浜さんは浮き始めていた。
情けない僕に誰かが後ろ指を指しているようなことはなかった、と思う。
今思えば、それらの行動が終末へのカウントダウンを加速させたのかもしれない。
ある日、休み時間に莉緒の車いすを押して久里浜さんが廊下に出ていくのが見えた。
最近喋っているところを見た覚えがなかったんだけどな・・・
胸騒ぎを覚えて、僕はその後をつけた。
一旦見失ったものの、人気のない特別棟の奥でやっと見つけることができた。
でも、その時には事件は今まさに起きる瞬間だった。
久里浜さんの手には刃渡り15センチほどのナイフが握られていたのだ。
僕の心臓が飛び出しそうに跳ねる。
ナイフを持っているだけでも問題だが、久里浜さんは明らかに莉緒に向かって振り下ろさんとしていたのだ。
まずい!!!そう思った時には僕は動いていた。
莉緒を守らなければ・・・!今度こそ・・・!!!
その一心で、僕は持っている力の限りを出し切ったと言っても過言ではないほどの行動に出た。
全力で莉緒の元まで走り、車いすを引っ張り投げた。
「痛っ!!」
滅多に力仕事なんてしない僕からしてみれば、人を乗せた車いすは物凄い重かった。
身体が軋む感じを無視して僕は莉緒をナイフから遠ざけた。
ごめん莉緒、痛かっただろうけど、今は我慢してくれ。
「最上くん?!」
久里浜さんは僕が突然現れて驚いていたようだけど、次の瞬間、今まで僕が見たことのない表情で睨んできたのだ。
驚くほど、目は完全に血走っている。充血しているのとはまた違う気がする。
でもそんなに凝視することもできない。怖い。恐怖が僕を襲っている。
全身が震えて縮こまっていくのを感じる。
「・・・ねぇ。最上くん。なんで佐久間さんばっかりなの?私のことには向き合ってくれなかったのに・・・なんで!!なんでこんな時にだけ!なんで向き合ってくれるの!!!?」
掠れるような声から急激に怒気を孕んだ大声をあげる久里浜さん。
「そりゃ当たり前だろ!ナイフなんて持って何考えてんだよ!?」
僕は完全に狼狽えていた。まともな思考ができているかわからない。
「・・・はぁ?偽善者ぶんないでよ?私から逃げておいて、今更正論なんてムカつくだけなんだけど!!」
え、なんだこれ、話が通じるような気がしない・・・
気が付けば、先ほどまでの血走ったような目をしていた久里浜さんは、虚ろな目をしており、一目でわかるほど手が震えている。
少し涎が垂れていたようで久里浜さんは手で口元を拭っている。
まさか・・・薬?
なんか薬でもやってるのか?!
明らかに様子がおかしい!
「なんか言えよぉ!!!ぁあ!!最上ぃぃい!!!」
久里浜さんが絶叫する。悲痛な叫びに、僕は全身が硬直するような感覚に見舞われる。
もはや訳がわからないけど、今まで見たことのない異常な事態にさらに異常が組み合わさって、僕の頭はパンクしそうだった。
「お、落ち着いて、久里浜さん!」
「何よぉ!!!!みんなみんなぁ!!馬鹿にしてぇ!馬鹿にしてぇぇえ!!馬鹿にしやがってぇぇぇぇぇえぇえぇ!!!!」
何が最後のスイッチを押したのか、僕にはわからなかった。
久里浜さんは僕に向かってナイフを振り上げた。
一言でいえば、恐怖。
きっと恐怖と、一時的に身体に無理をさせたせいか、僕の足は持たれてその場で転んでしまい、そのまま久里浜さんに馬乗りになられた。
ヤバイ!
そう思った時には何かがバヅンッ!!!と何かが切れたような音と同時に首の中に熱湯でも注ぎ込まれたかのような痛みが襲った。
「がぉぁぁぁぁ?!!!!ぁあぁあああぁぁああぁあ!!!!!」
目の前には、僕の視界の端から飛び出た赤い液体で血だらけになっていく久里浜さんと、同じく血塗れで滴るナイフが映る。
そして次に振り下ろされた時、僕は胸あたりにゴギィンッ!!!という音と一緒に身体が反射的に跳ねるとともに激痛を感じた。
「あ、明彦ぉ!!!!?」
名前を呼ばれた気がした。
でも僕は目の前が目を瞑った覚えもないのに暗くなっていた。意識があまりの激痛と共に薄れていた。
・・・僕の目に最後に映る世界では、倒れた何かが何度も何度も刺される光景が繰り広げられていた・・・
何もできず、ただ、激痛を除く感覚という感覚がなくなり熱かったはずの感覚が寒気に変わり、凄い勢いで体が鉛のように動かなくなっていく。
思考は、もう、まともに、動いていない。
けど・・・あぁ、ごめん。
ごめんよぉ・・・あの時から今日まで、何も、何も、できなかっ・・・た。
ごめん
こうして、最上明彦の人生は、終わった。
終わったのだ。




