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1 ゲームの世界


暗闇から突然、ぼんやりとした白い視界が突如出現した。

・・・怠い。今何時だ?今日学校だっけ、いや、休みの日?


意識がぼやーっとしているが少しずつ明瞭になってくる。


そして、しばらくして、自分がおそらく、赤ちゃんであると気がつかされた。


・・・あぁ。僕は死んだんだ。そんなのは信じたくなかった。

これ自体が夢ではないかと思って、起きようとした。


悪い夢なら覚めてくれ・・・


でも、一向に覚める気配はない。


体は思うように動かないし、声も上手く出ない。出ても「あうあう、あー」くらいだ。


絶望的な感覚、突然身体も動かせなくなり目もまともに見えなくなったのだ。


でも、身動きがとれなることを想像したことは幾度かあった。

というのも、幼馴染みが交通事故で両足が使えなくなってしまった時から自分に置き換えて想像したことがあるからだ。


それでも実際にこうなると、少しパニックを起こしそうになる。

意識を違うところに向けることにした。


ここは悪魔さんが正しいならば転生先なんだろう。

落ち着け僕。今できることをしよう・・・


ちなみに寝ている場所は藁のような感触の素材の上だ。

クッション性の高い素材がそれ以外にないのだろうか?はたまた、相当貧乏なのか?


この時点で少なくとも本当に先進国家には生まれていなさそうだというのはわかった。


あぁ、本当に転生したんだ。



そう。僕は転生した。


前世では突然クラスメイト兼ストーカーと化した女の子にナイフで刺されたのだ。

ほとんど即死だったと思う・・・

今考えるだけでぞっとする。身震いしてしまう。


死の経験は二度としたくないな・・・。


そう思ったあたりから、また僕は前世の記憶を回想し始めた。死ぬ直前ではなく、その前の記憶をだ。

死ぬ直前に走馬灯はなかったけど、転生してから回想する羽目になるとはね。


生まれた時から、ある限りの記憶がよみがえった。


もう、お母さんやお父さんにも会えないんだな・・・

友達の山上(やまがみ)とか中学までの友達とももう会えない・・・



ふと悲しみが押し寄せて胸が苦しくなるが、そんなことを考えても仕方ないのだ・・・と無理やり僕は言い聞かせた。

高校に上がったばかりの僕は、大の大人ではないが、それなりに大きな悲みには出会ったことがある。


・・・もうここは元の世界じゃない。


他のみんなは別の世界で生きてるのだ。あの世界での僕は死んだ。僕は今の世界で生きなければ・・・


それに、こんな感情になるということは本当に前世の記憶もあるということに他ならない。

悪魔さん、嘘つかなかったな・・・。

前世の記憶があるだけ感謝しなければならないだろう。


前世の記憶・・・元の世界では幼馴染みの佐久さくま莉緒りおを守るため、僕へのストーカー化した同級生の久里浜くりはま麗華れいかによって、最上もがみ明彦あきひこ、つまり僕は殺された。

同様に僕が致命傷で息耐えようという時に莉緒も惨殺されたのが、視界に入った・・・


そして気が付くと悪魔さんがいて、そして取引により、別世界、すなわちこの世界に2人で転生したはずなのだ。

その時の取引内容に僕たちの記憶は維持されるというものだった。

転生に、記憶維持。

ここまで取引内容に問題がないなら、莉緒だってこの世界にいるはずだ・・・!


唯一、僕が前世から守らなければと何度も思ってきた人物がこの世界に転生している。

前世では守るどころか幾度となく散々な目に合わせてしまったが・・・今世こそは・・・!


今のところ莉緒の姿やそれを感じさせるような事柄はない。

他者の気配を感じないのだ。



まあ。近くに転生といっても同じ家にいるというわけではないだろうな。


・・・この世界に僕と共に転生したはずの莉緒。唯一、僕のことを知っていて、僕の考えをわかってくれていた理解者・・・少なくとも僕はそう思っている。


莉緒のことを絶対に見つけ出して守り抜く・・・


莉緒を助けられなかった僕は、文字通り生まれ変わって心機一転、今度こそ同じく転生しているはずの莉緒を助けるのだ、と、心に強く誓った。


いや、都合が良すぎる、か・・・

よく考えれば、莉緒が僕を探すかというと、少し微妙ではある・・・


・・・何にせよ、前世の出来事を悲しんでいる暇はない。命は短いのだ。いつどんな理由で奪われるかわからない。

そう・・・前世のようにストーカーに殺されるなんて自分には起こりそうにもなかったこともあるのだから。


僕は前世ではイケメンではなかった。

モブキャラが妥当というところだったと思う。だからモテた記憶が一度もない。

僕が死ぬきっかけになったあの久里浜さん以外に告白されたことはなかったしね。


今世ではイケメンだったら良いなとか思ったり。

まあそれはさておき・・・僕は高校生になってクラスメイトの久里浜さんに刺殺された。モブキャラだったのにだ。


法治世界で従順な人種の多い日本であんなことが起きたのだ、ここはもっと非情で過酷な世界だと悪魔さんに言われているし、もしかしたら、赤ちゃんの段階で死にそうな場面に巻き込まれる可能性も考えなければならない。


あぁ、気が重い。

赤ちゃんの段階でこんな気が重いとは、先が思いやられる。


・・・まずは、悪魔さんが言うことが正しいのであれば、莉緒は近くにいるはずなのだ。


莉緒を探さないといけないが、この体では探しようはない。赤ちゃんだからね。生後どれくらいかはわからないけどさ。


莉緒を見つける、これが大事なことだ・・・だが、果たして、莉緒は僕に見つけてほしいと思うだろうか・・・


先ほどから同じような考えが何度も繰り返される。


莉緒と僕は幼馴染でいつも一緒だった。それは別に互いに好きだからとかではない。

僕のエゴが原因しているともいえる。罪滅ぼしともいえるか・・・


やることがないから、というのもあるが、前世でもあまり考えなかった方向に思考が向いている気がする。

転生して初めて客観視できたともいえるのかもしれない。


馬鹿は死んでも治らないというが、客観視くらいはできるようになるかもしれないね。


そいうのも、気を抜くと意識がなくなってしまうような気がした。

記憶の維持だって一時的な物かもしれない。


赤ちゃんの脳みそがそこまで発達しているとも思えない。

前世の記憶だって徐々に消えて行ってしまうかもしれない。


僕の自我を保つために状況の把握と目的の確立は重要事項だった。もしかしたらボーッとしてたら意識が突然なくなって別人になってしまいそうで怖いのだ。


だから・・・あれ?

・・・なんだか・・・お腹が減った・・・

うっ・・・なんだこれ・・・っん?!



争い難い空腹感に見舞われ、気がついたら反射的に泣き叫んでいた。



すぐに誰かが僕の元に駆けつけてくれる。

割とすぐ来てくれたということは・・・近くまで来ないと人として認識もできないんだな。

いや、ちょっと待てよ、近づいても顔もぼんやりしていて判別ができないわ。


これは、寝ぼけ眼だからとかじゃないだろう。


悪魔さん的には健康な身体と言っていたから目が悪いわけではないはず。

悪魔さんが嘘ついてないならだけど。

・・・ないよね?


あ。そういえば、生まれてから間もなくはちゃんと見えていないと聞く。

ということは、生まれてから数ヶ月も経ってないのかもしれない。


「よしよしぃ。お腹すいたんでちゅか~?」


声から察するに女性・・・母親だろうか?

それに察しが良くて良かったよ!とても空腹です!


しかし、自分が赤ちゃんであることがわかっているので言葉には出せないし頷いたりもできない。

そもそも出そうと思ってもちゃんと思うように声は出ないし首もうまく動かないんだけどさ!


生まれて何ヶ月なのかはわからないが、目があんまり見えてないことを考えると普通は笑ったりとかの機能もまだちゃんと成長していない可能性も考えられる。


まずいな、どうやってこれから感情を伝えれば良いんだ?

というか知識があっても泣く以外の選択肢は存在しないさそうだ。


・・・仕方ない。ガンガン泣かせて貰うことにしよう。


気がつくと、女性は僕を片手にすぐに目の前で服をたくし上げ始めた、ような気がする。ちゃんと見えてないけどそんな気がする!

でも僕にとってはかなり衝撃的であった。


ちょ!!!!?脱ぐの?!


あ、ぁあ、そうか!そりゃそうだよな!粉ミルクとかもなさそうだもんね!そりゃ母乳だよね!


僕は頑張って目をつぶって罪悪感を抱きながらも母乳を吸わせて頂いた。

目を開けていると、うっすらとぼやけた視界でも完全に乳房が認識できてしまう。


しかし・・・目を瞑るのも難しいとは。しょうがないのでガン見させてもらう。



まあそれはさておき・・・う、うめぇ。よくわからんけどなにこれぇ。


これが赤ちゃんだから旨く感じるのであって欲しい。

もしそうでないならば、僕は将来変な性癖を持つ可能性が・・・



しばらくすると満腹になり口から乳首を離す。


すると推定母によってゲップを出されてから、布団という名のおそらく藁らしきものに寝かされた。


「今日は大人しいでちゅね~?いつもなら藁の上に置こうとすると暴れるのに~」


なるほど、本当に藁だったらしい。


そして、いつもは暴れていたという言葉から察するに、僕は途中からこの赤ちゃんと意識が入れ替わったということなのだろうな・・・



元の赤ちゃんの意識はどうなったんだろう・・・殺してしまったのだろうか・・・?

不意に罪悪感が湧いてくる。


悪魔さんに聞く機会があったら聞いてみたいところだ。


しばらくすると近くから人の気配がなくなった。


さて、世話をしてくれる人は優しいことはわかった。

それだけでもまずは幸先が良いスタートと言える。



・・・いやちょっと待てよ、問題、いや大問題がある・・・


それは悪魔さんとの契約にあったことに起因する。




『レベルと同じ歳までしか生きられない』ということだ。



レベルという概念があるなら、それはゲームと同じ感じで、経験値とかを何かしらの方法で積んでいく必要があるだろう。


でもって経験値をどうやって上げて良いのかもわからないし、このままだとおそらく1歳になるまでは少なくともあんまり動けない気がする。


流石に赤ちゃんが動き回るくらいで、勝手にレベルが上がるということも、・・・あるまい。


あれ・・・?現状・・・すでにピンチでは?


考えないと・・・


しかし、厄介なことが、ある。



争い難い、睡魔で頭が、朦朧とするのだ・・・。


赤ちゃんだからなのだろう。やたらと、睡魔に襲われるのだ・・・


これは、まずい・・・




僕はいつの間にか寝ていたらしい。


次起きた時には違和感と共に目覚め、反射的に泣いていた。


どうやらおしっこが出たようだ。おねしょか・・・気持ち悪い・・・

でも泣いてたらすぐにおしめを替えてもらうことができたので気分が落ちついた。



くぅ・・・この年で誰かにシモの世話をして貰うとは・・・いや、たぶんまだ0歳だけどさ・・・

中身は高校生だからなぁ・・・


でも、これで、わかったことがある。

僕は男だったらしい。


推定母におしめを替える際にアレを摘まれて拭き拭きされた感覚があったので判明した。


あー良かった。

転生したら性転換までしてたらどうしようかと思った。

悪魔さんに聞き忘れていたのだ。

契約前にちゃんと聞いとかないとダメだよなこれ、危なかったよホント。



「今日はご機嫌さんでちゅね~」


女性がそう呟きながらおしめを替えてくれた時にやっと気がついたが、僕、この人の言葉わかるんだよな。

でも、明らかに日本語じゃないと思う。


というのも、絶対日本語じゃないんだもん。

何か喋ってるけど、その言葉が何故か理解できるのだ。


ということは、言語翻訳が勝手にされているのだろう。


これは悪魔さんの契約にもあった『特殊な能力』か?

たしかに便利だな。翻訳の仕事をするなら役に立ちそうだ。ちょっとまて、僕は話す時この言語で喋らないといけないのか?やば。


日本語で喋ったらあちらにも理解できるようになったりするのかな・・・まあおいおい、ゆっくり考えよう。今は喋れないし。


とはいっても、ゆっくりしてたら突然の事態で死ぬかも知らないけどね。でも年齢がレベルを上回ってもダメだし。

それにレベルよりも年齢が上回った時にどうやって死ぬのかだって不明だ。

これも聞いときゃ良かったぁぁあ。

今度会ったら聞こう・・・でも、会えるかわからないよな・・・。


しかもこの状態で万が一にでも死ぬと、やばいんだったよな。

たしか、人間の魂のある程度貯めないと地獄に魂落とされるとか・・・

てか万が一でもなく割と死ぬ可能性は高いのが厳しいところだけど・・・


当面はとりあえず、死なないようにレベル上げの情報を手に入れる・・・というのが目標だ。


動いて何かすることができないし、目もよく見えないし喋れないし、体の感覚は鈍いし、外部からの情報を得る手段がかなり限られている。

また、睡魔で考えていられる時間も限られている。


でも、睡魔に襲われて、目が覚めた時にはちゃんと前世の記憶が残っていてよかった。

どうやら、寝ても記憶は消えないらしい。


赤ちゃんの時からある程度の理解能力があるというのはとてもありがたいことだ。


さて次はどうすればいいか?

その疑問の足がかりになりそうなことに思い当たることがあった。


・・・レベル制というなら、どこかでステータスを見ることができるのでは?ということだ。


まずはそれを確認して、今後どうするかの材料にするのが良いだろうな。


・・・なんだろうな。

念じてみたら出るかな?


出よ!ステータス!

さぁ!来い来い!ステータスオープン!

・・・出てこいやぁ!


くっ・・・出ねぇ・・・どうすればステータスを確認できるのか・・・そもそもステータスが確認などできるのか?



そんなことを考えているうちに睡魔、空腹、シモの問題などが次々とやってきた。


この世界に意識を戻してから初めて母乳を飲んだ時を1回目として、実に6回目の母乳を飲んでいる時のことだった。


結論を言うと、僕はついにステータスを確認することができた。



よっしゃ!!


「あんっ!?もう~この子ったら、そんなに噛んで~!だめよぉ~!」


テンションが上がったせいか、僕は乳首を強めに噛んでしまったらしい。

推定母よ、ごめん。


てか、あなたの息子は変な性癖目覚めそうです・・・色っぽくて少しドキッとしました。

まあそんなことは置いといて、だ。



なるほど、頭の中で対象を認識しつつ鑑定したいと思いながら『鑑定』と念じないとステータスは見れないんだな。


そして、これはおそらく他人には見えない。


僕は自分の目の前に出ているにもかかわらず推定母が何も言わないところ見るに、そういうことなのだろう。


それに、目がよく見えないはずなのにそれだけははっきり見えるあたり、僕にだけ見えるシステムといったところか。


レベルって概念がある時点で察してはいたけど、ザ・ゲームの世界という感じだ。

さて、食後のゲップを出してもらいながら、僕のステータスを確認しましょうかね。




***


NAM:ロキ

GEN:男

AGE:0歳2ヶ月

STS:健康

HTP:15

STR:1

ATK:1

VIT:4

DEF:2

INT:125

RES:4

DEX:1

AGI:1

SKL:『言語理解』、『光明』、『鑑定』

TTL:『禁忌の転生者』


***


僕の名前はロキというのか。おいおい呼ばれたら反応できるようにしていこう。



・・・この結果を見て思ったことがある。


言語はアルファベット表記と日本語の併用。

・・・それにこの無理やりの3文字表記とレイアウトにはものすごく見覚えがある。


僕が高校入学前の春休み中にやっていたオンラインゲーム『The story of a phantom witch killer』略してPWKの表記と全く同じなのだ!


なるほど、知識が役に立つ世界・・・悪魔さんが言っていたのはこれか。まさかこの世界に転生できるとは・・・!

いや、まてまて、もしかしたら。ゲームシステムを使っているだけの全く異なる世界かもしれない。


それに、PWKとは違い、明らかに欠落しているステータス情報がある。


LEV、EXP、MGPだ。

あってもおかしくはないだろう。というか、LEV、つまりレベルはないと困る!

なかったら話と違うことになってしまう。じゃあ何のレベルを上げろってんだという話になるからね。


・・・あり得るのは、空欄もしくはゼロのステータス情報は表記されないということだろうか。


試しに推定母のステータスを『鑑定』させてもらおう。


***


NAM:ハート

GEN:女

AGE:16歳

STS:健康

LEV:1

EXP:65

HTP:120

STR:15

ATK:10

VIT:35

DEF:10

INT:67

RES:4

DEX:39

AGI:20


***



す、推定母よ!16歳だったの・・・?!

前世換算で同い年とは・・・めちゃくちゃ複雑な気分になってきた。


まさか同い年の乳房に触れて乳首を吸って母乳を飲むことになるとは・・・『鑑定』しなきゃよかったと思ってしまった。


思い返してみると、小ぶりで張りのある胸というのが・・・同級生の胸ってこんな感じなんだろうなと、ふと妙にリアルな想像をしてしまったり・・・


・・・うん、やめよう。想像するとどんどんおかしな性癖の開花へと繋がりそうだ。意識すればするほどドツボである。



・・・この情報を有効に使わせてもらうしかない。


SKLやTTL、おそらくPWKの世界と全く同じだとするとスキルと称号だろう。


それに推定母にはLEVもEXPもあった。すなわちレベルと経験値だが、PWKの世界ではEXPは累積値が表示されていた。0では空欄ということになって表記されないと思われる。


でもおかしいな。

一般人女子だとしても、PWKでは16歳くらいだったらもう少し貯まっていてもおかしくなかったはず・・・

PWKと似てはいるが、経験値が入りにくい世界なのか?

そもそもPWKでは鑑定SKLを使わなくてもステータスは見れた。この時点でだいぶ異なる。


それにおかしな点がもう1つある。EXP65でLEVが1なんてどうなってるんだろうか?


EXP累積値で65もあれば3とか4になっていた気がするんだが・・・もしかしたら数式が違う?もしくは何かレベルアップには条件があるのか?



これは法則を見つけるために比較の人物を見つけないといけない。出なければ、少なくとも僕には現状推定ができない。



すぐに接触できそうなのは父親だと思うが、思い返せばこの数日、未だに推定母のハートさん以外と出会ってない。


・・・あれ?もしかしてハートさんてシングルマザー?

いやぁ、それはそれで厳しい展開だな。

非常で残酷な世界で16歳の女の子が子供を1人で育てるとか無謀すぎるのでは?


これは前世の認識だから、この世界ではそうでもないのかもしれないけど・・・たしかPWKの世界は中世の西洋あたりを参考に作られた剣と魔法の異世界ファンタジー世界のはず。

よく知らないけど、前世の現代日本より厳しいのでは?


そんなことを考えてはみたが、事実は事実なので受け入れるしかない。


おそらく、そもそも父親は死んでるか蒸発したかして一緒に住んでいない、もしくは出稼ぎなどで家にいないのだろう。


ハートさん以外に人を見てないから、手助けに来てくれる人もいないのか?と考えると絶望的なスタートを切った気がする。


まあ少なくとも、ハートさんが明るいキャラで助かった。僕も見倣いたいところだ。



・・・EXPの法則はさておき、まずはLEVを上げることを考えなければならない。


僕は悪魔さんとの契約で『レベル=年齢までしか生きられない』となっているのだからLEVを上げなければならない。それすなわち何もしなければ死あるのみ!


現在LEV0、年齢は0歳。この状態では、余命1年を切っているのである。


絶体絶命といって差し支えないだろう・・・



PWKの世界では基本的には魔物を倒すか、対人戦で相手を殺すか、極稀に手に入るEXPーBOMBと呼ばれる経験値の塊みたいなものを服用することでしかEXPは手に入らない。


もちろん、EXPが入らなければLEVも上がらないのだ。


となると、これ、いきなり詰んでるじゃん!という話になる。



0歳のうちにレベルを上げる方法など正攻法では皆無!



死ぬことを想定した捨身戦法なら0歳でもLEV上げの可能性はゼロではないかもしれないが・・・それには大きな問題がある。

ゲームの世界では死んでも復活できるが、この世界ではどうだろうか?


ハートさんのLEVから推察してみたらそれはできなさそうだ。



・・・ノンプレイヤーキャラクターでもPWKの世界ではもっとEXPもLEVも高かった。


あの世界ではプレイヤーはもちろん、ノンプレイヤーキャラクターもペナルティはあれど死んでも生き返った。

それこそ村人も金さえあれば、老衰以外の死では蘇っていたというシュールな世界観だった。


どこぞの廃課金プレイヤーが村人を雇ってゾンビアタックしまくってクリアしたというイベントダンジョンがあったと聞いたことがあるほどだ。

・・・通称村人アタックとか言われてたっけ。人の命を何だと思っているのかと掲示板で叩かれていたのを思い出す。


とはいえ、批判もあったし、そこまでして得られる報酬は少なかったのもあってか、それ以降は規制されたわけでもないのに村人アタックが起きるようなことはなくなった。

なぜかその村の人々だけ序盤なのにそれなりにLEVが高いから初心者プレイヤーより全然強いみたいな冗談みたいな状況になっていたとか。


と、まあ。生き返るからこそ、それなりに無謀な戦いをしてLEVが上がっていたというとも考えられる。


しかし、現実世界同様に死=死なのであれば、当然ゾンビアタックや捨て身のプレイはできない。

それにだ、今考えられることで問題がさらにあるのだ。


PWKの世界よりもこの世界はEXPが手に入れ辛い可能性が非常に高く、また、LEVを上げるための必要EXPがゲームより高いということだ。


・・・しかし、何にせよEXPを手に入れないと1年もしないうちに僕は死ぬ。そして、同時に莉緒も死ぬことになる・・・僕と莉緒の命がつながっているらしいからね。そういう契約だ。


それだけは絶対に避けなければならない・・・二度も僕のせいで莉緒に死を迎えさせるというのは嫌だからね・・・



とはいえ、気持ちだけでどうにかできるわけではない。


幸い、この世界がPWKの世界と限りなく近いというなら、まだ活路がある。


できるのかはわからないが・・・いわゆる、経験値上げのバグの存在だ。


そもそもバグがないと言っても過言ではないほどにPWKはバグはなかった。


しかし、ひとつだけ序盤にだけしか意味をなさないバグが唯一存在した。

それが今まさに欲している経験値上げのバグだ。



ありがたいことに材料も条件もほぼ既に揃っている。


スキルを使って特定のものを壊すと魔物でも人でもないのにEXPが入りLEV2まで上がるというものなのだが、それを実行するにはあるスキルが必要になる。


しかも本来なかなか手に入らないのがスキルという存在だが、なぜかそのスキルはかなり簡単に手に入る。


その名も『利き香草』。


2種類の草だけを1分以内に10回以上交互に嗅ぐ。というものだ。


戦闘では使えないし、ストーリー進行にも意味をなさないしそれ以降使い場所もない。もはやそのバグのためのスキルとしか思えないのだが、事実存在しているだから僕が何か言ったところで仕方ないだろう。


攻略ページを見てありがたく利用させてもらっていたっけ。

ゲームを始める前から攻略ページという禁じ手を使うというのはゲーマーには怒られるかもしれないが、僕はにわか勢なので問題ない。



さて、このバグだが、両手にそれぞれ別の草を握って、草フィールド上に自分のキャラを置いて放置しているとなぜか経験値が入るというものだ。


バグに理論なんてないんだろうけど、こじつけとしては、『利き香草』は両手に草を持った時点でスキルが発動する。草であれば何でもいい。


足元は草フィールドなのでプレイヤーキャラの重みで草を破壊しているという扱いになるのだろう。

スキルで破壊したわけじゃないのに、スキルで壊したという扱いになるバグだ。


正確には、一定条件を満たせば放置しているだけでLEVが2に上がるまでEXPが毎分1ずつ手に入るのだ。

そしてLEV2になった途端にEXPは上がらなくなる。まさに序盤だけのためのバグ。



まあそれでも問題はない。

ゲームでのこのバグの真価は、これをチュートリアル中に行い。

本当は倒せないはずの手負いのレア魔物を自力で倒しLEVを爆上げするという裏技を実行するためのものだ。


本当ならプレイヤーのHTP、すなわちヒットポイント・・・体力が2割切るとお助けキャラとしてノンプレイヤーキャラクターが助けてくれるらしいのだけどね。


チャットで古参プレイヤーに聞いたことがあるが、残念ながらそれなしで行ける分そのキャラとは出会わないことになるらしい。

役に立つキャラらしいのだが・・・その後ストーリーを進めたが、とりあえず1回も出てこなかったっけ。

とはいえ僕も公開されていたストーリーを全てをクリアしたわけじゃない。


そもそもチュートリアル以外は時系列に沿って最新ストーリーに順次更新されるため、リリースされてから時間が経って参加すると、その時点からストーリーに参加することになる。

だから僕はPWKの結末を最後まで見れていないどころか、実は最初もプレイしていない。


僕が参加したのは、結界が張られ鎖国された島国で繰り広げられる結界魔王軍とプレイヤーの戦いの後、すなわち結界魔王討伐後に拡張された、魔族と人間の戦いをコンセプトにした大陸魔人大戦からだった。


とはいえ、クリアした時点までのキリの良いところのメインストーリーはノベル化されているので大まかな流れは知っている。


活躍したプレイヤーの動向を追ったストーリーになるため、短編集みたいな感じになるが、最終的に一つ結界魔王討伐の目的のために動いているのでなかなか読み応えがあった。


結界魔王戦もなかなか凄かったが、それ以上に四天王戦こそ手に汗握る展開を繰り広げていた。

何せ、島の住民の全滅を食い止めるためにプレイヤーが力を合わせているという演出には興奮せざるを得なかった。


結局負けた戦いもいくつもあったようで、島の人口は60パーセントほど死んでしまったのだ。

正直あんなの事前に四天王の攻撃を知らないと防ぎようがないとも思ったから、小説を読んで感涙してしまったっけ。

しかもだ、そのせいでその後の大陸魔人大戦で一部の人間が魔族に寝返ることになるのだ。それがまた切ないストーリーで・・・


・・・戦争は、良くない。

憎しみは憎しみを呼ぶのだ。戦争は大勢が関与する分、膨大な数の憎しみの連鎖の開始点になる。


でも、もし、この世界もPWKと同じに展開になるのであれば、僕はそれを防ぎたい。

まあ、今が大陸魔人大戦前ならという話だけど。そもそもこの世界はPWKなのであれば、なのだけどね。



それはさておき、もし経験値バグがあるとするなら、僕にとって役に立つ人物とは、公開されていたストーリーまでは少なくとも出会わないという展開にもなりそうなところではある。


この世界で生き抜くには、正直お助けキャラが出てこないのは心細いが・・・考えても考えても、これ以外に僕が1歳を迎える方法がない気がする。


・・・やるしかないだろう。


僕はいつでも背面にある藁を掴むことができることを確認して、口元に持ってくる動作もできるかを確認した。

藁も草だもんね。バグの材料の一つだ。


・・・うん。ギリギリできるな。うまいこと体が動かないけど、できないことはない。


あとはもう1種類、別の草を手に入れなければ・・・。


動けない僕に手に入れる可能性があるとしたら、ハートさんに連れて外に出してもらった時、その時に草を手に入れるほかないだろう



そして1週間経ったある日。その時はやってきた。



「今日は良い天気だからねぇ~お外にいきましょうねぇ~」


「あうあう!あいう!」


よしよし!ナイス!ハートさん!



転生して初めての外だ。目は近くしか見えないが、耳なら多少は聞こえる。


「あったかいでちゅね~」


確かに暖かい。

眩しい光が僕を優しく包む。うん。でも単純に眩しい。


おそらく太陽か。PWKは地球と同じように太陽の周りを回っているような感じだったらしく、四季があった。

なので、おそらく今は春か夏にかけてあたりくらいだろう。


これなら、草は取り放題のはず・・・


問題は抱っこされている状態で、どうやって草を手に入れるかだ。



そんな風に思って意外といいところにチャンスはやってきた。


「ほら~お花さんですよぉ~」


目の前に花が差し出された。ぼやけてはいるが、ここまで近ければ認識できる!

それは白い素朴な感じの、赤ん坊の手のひら大の花だった。


僕はその瞬間を見逃すことはなかった。


「あうあうあうー!」


お花さんごめんよっ!


がしっ!ぶちッ!と力の限り花を握りつぶし引き抜いた。


「あーーっ!!ロキったら!!」


ハートさんが怒るがそれほど本気ではないらしく、くすくす笑っていた。


手に握った花も引きはがそうとはしてこなかった。



ありがたい。奪われたらどうしようかと思った・・・



そのあたりをしばらく散歩したあと、家に戻ったらしく、僕はまた、藁の上に置かれた。


ハートさんの気配がなくなったので、僕は花を持っていない方の手に藁を掴み、右、左と交互に嗅ぎ始めた。


うん。


1分以内にできたはず!


これでできなかったら、僕は詰んだといえよう。


・・・『鑑定』!


***


NAM:ロキ

GEN:男

AGE:0歳3ヶ月

STS:健康

HTP:15

STR:1

ATK:1

VIT:4

DEF:2

INT:125

RES:4

DEX:1

AGI:1

SKL:『言語理解』、『光明』、『鑑定』、『利き香草』

TTL:『禁忌の転生者』


***



よし!よし!!よし!!!

ゲットした!!

てか地味に1か月成長してる。


あと、そういやスキルの『光明』ってなんだ?・・・まあいいや、それは置いといてだ!

あとは、このままキープできれば・・・!



僕はどきどきしながら、バグが起動しているか『鑑定』によるステータスの確認をした。


よし!!バグも正常に起動してる!!EXPの表記が増えて1になった!


バグが正常というのはおかしな話だが、この場合、僕にとっては正常なのだ。


そのあたりは完全にPWKの世界と同じということでもある。

・・・となると今後のストーリー展開は、今が何年なのかとかにもよるので・・・でもわからないのでおいおい調べたい。


しばらく時間が経過し、後1でEXP60だというところまできた。

さすがにそろそろLEV1になってもいいだろう。


確認していて驚いたが、未だに僕のLEVは0なのだ。

EXP59でLEV0て、EXP仕様はどうなってるんだ?


まあいい。

LEV1のハートさんのEXPが65だから、それまでにはLEV1になるだろう。


・・・もしもEXP65になってもLEVが上がらなかったら、以下のことが考えられる。


・LEV上げには何らかの条件が必要(AGEより上には上がらない、など)

・バグではEXPは上がれどLEVは上げられない


そうなるといよいよお手上げだ。

まあどちらにせよあり得ないだろう。もしそうだとしたら僕はレベルを上げられないからそのまま死ぬことになるだろう。



上がれ・・・上がれ!


EXPが60になったがまだLEV上がる様子がない。

さすがにおかしい・・・


焦りが僕の表情に出ていたのだろうか?


「どうしたんでちゅか~?」


ハートさんが僕を抱き上げた。


ちょっと!今は抱き上げないで!


抱き上げられてしまうと僕の真下に藁が接触していないから、毎分EXP1アップバグが成り立たなくなる。

まあそれはいい。

すぐに寝床に戻してくれれば問題はない・・・



そのはずだったのだが・・・


「さっき手が汚れちゃったから機嫌が悪そうなんでちゅかね~」


しまったぁぁあ!!

ハートさんは過保護であった・・・。


僕の手から藁と外でゲットした花を奪い取ると、綺麗に濡れ布巾で拭き始めたのだ。


「あうぅーー!!!」


やめてーーー!!!


しかし、言葉は出ず、綺麗に拭き取られてしまった・・・



これでは、『利き香草』が使えない!

まあ、また草を手に入れればいいか。





そう思っている間に・・・半年が過ぎた!!




これは・・・本格的に不味いことになった。寒くなってきて外には草花はほとんど生えていないだろう。

外に連れて行ってもらえることはあるにはあるのだけど、植物はほとんど枯れてしまっているので全く手に入る機会がない。枝を掴ませてくれるとかもない!


とうにハイハイでどこにでも行けるようになったものの、家の中に花や草はなかった。


生後7ヶ月時点でなんとかつかまり立ちできるようになったが、やったあと体が動きがさらに鈍くなるので9ヶ月くらいまではあんまりしないようにしていた。体が疲れてしまうのだろう。


そんなわけで体を労っていたら結果、EXPに変化はなかった。というかなんかしても赤ちゃんじゃEXPゲットなど夢のまた夢というやつである。



あと4ヶ月以内にEXPを手に入れなければ・・・



やばい・・・どうしよう。



そう思っていたが、睡眠欲や排泄欲、食欲など、抗えないものが多くて思考がいちいち妨げられる。




さらに2ヶ月が経ち、生後11ヶ月が経ってしまった。


PWKの世界での暦は確か12ヶ月。地球と同じはずだ。

ということはタイムリミットまで残り1ヶ月を切っている。



「は~い、あ~ん!」



そんなことなどつゆ知らず、ハートさんは今日も元気だ。

我が母親であるハートさん、まだ16歳というところから察するに、ぼくを生んだ時点ではまだ15歳だった可能性がある。


はー、てことは逆算して14歳ですでに・・・

やめよう。考えないったら考えない。


ちなみに、目もそれなりに見えるようになってきたが、僕の目に映るハートさんはやはり幼く見える。

前世を含めると年齢はハートさんとほぼ同じだけあって、日本の高校生より年下に見えるのだ。


まあそれはさておきだ。


・・・心配なことがある。

というのも1年が経とうというのに、ハートさん以外に人と出会った記憶がないのだ。



どうやって食料を調達して、どうやって毎日を過ごしているのか、本当に謎だった。


外には畑らしいものがあるが、そこで作物が成っているのも見たし、小さい川が近くにあるのも知っているけど、このままだと冬はどうするのかと思ったっけ。

まあ、寒くなってきたころにはキノコや大根、ジャガイモのような保存が比較的効くようなものが離乳食にも出てきているから、そういうことで乗り切っているのだろう。


ちなみにお米はないので、ジャガイモなどの芋類が主食だ。

ジャガイモのほかには、ちょっと前にサツマイモが食事にでていた記憶がある。


ちなみにPWKの世界観を引いているため、作物の名前はちゃんとジャガイモやサツマイモだ。



そして、寒くなってきているため、藁の量をハートさんが増やしてくれていた。


寒くなり、外の世界は植物がどんどん無くなっていた。

植物がなくなってしまう・・・


そう思った時、ふと、離乳食を口に運んでいる、スプーンに目が行った。



・・・あれ?そういやこれ、木製だよな?・・・植物扱いになるのでは?


物凄い今更だけど!木製!これ植物だ!



つまりバグスキルの対象になるのではないか?盲点だった!

僕は食べ終わった後もスプーンを手放さない作戦に出た。



「も~?どうしたの~?スプーン離して~?」


「あういあ、あーおあん、おえあえいあい!」



悪いがハートさん、それはできない!



正直、何歳くらいから喋り出すのかわからないから、未だに赤ちゃん言葉である。


最初のうちはハートさんは力づくでスプーンを奪ってきたが、折れたのか、そのうちスプーンをおもちゃとして置いてくれた。



よし!!!


僕は片手に藁を、片手に木製のスプーンを持って、寝床である藁の上に陣取った。


1分が経過した頃。


『鑑定』でステータスを見ていた僕は「あーう!!」と叫び声を上げてガッツポーズをとっていた。



「あらあら〜?ご機嫌でちゅね〜?」


「あう!!」


***


NAM:ロキ

GEN:男

AGE:0歳11ヶ月

STS:健康

LEV:1

EXP:64

HTP:50

STR:10

ATK:10

VIT:11

DEF:7

INT:120

RES:8

DEX:7

AGI:8

SKL:『言語理解』、『光明』、『鑑定』、『利き香草』

TTL:『禁忌の転生者』


***


上がった!!ついにLEVがレベルが上がった!!


これのおかげで、何とか2歳の誕生日までは過ごせそうだ!


まさに舞い踊りそうなほど歓喜した!




しかしこの時、僕は気づいていなかった。


僕が1歳になれる条件を満たしたところで、莉緒の方が満たせていなかったら意味がないということ

に・・・


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