19 ホブゴブリンの討伐と黒星
僕ら3人の冒険者パーティ『望撃歌』が活動を始めてからしばらく経った。
今日はいつも通り、魔物討伐の依頼を終えたところだった。
「今日はまあ順調だったな」
「ん。まあ疲れたな」
「は、はい、疲れ、ました」
予定通り3つの依頼を完遂して、冒険者ギルドの支部の隅にて立ち話をしていた。
思い返せば、ストライプ・ボアの討伐に始まり、民家の屋根裏に入り込んだ子猫くらいのサイズのデブ鼠(魔物じゃなかった)の駆除とちょっと大きな猫くらいのサイズのカタツムリであるプチ・スネールの討伐で入った依頼料だけで、60万エルほどだが、税金で半分になるので、30万エルが手取りの金額だ。
僕がプレイしていた時期の適正価格よりも、現在の方が税金引かれても全然高い。貧しい世界にしてはかなり高めではあるかもしれない。
なので、大体均等に分けることにしたわけだが、サリアが申し訳なさそうにしている。
本来は大変な仕事だというのもあるけど、初めて継続的に手にする大金に思うところがあるのだろう。
まあ、依頼した側も受けてくれるとは思ってなかったから受けてもらえる可能性を高めるために、依頼料を高めに設定した節もあったと思うけどね。
それを物語るように受付の向こうでの様子がだいぶおかしかった。
最初の頃は魔物を倒すこと自体が驚きだったようで、冒険者たちも驚きを隠せないでいたが、冒険者ギルドの職員も驚いていたっけ。
「魔物を倒すなんて・・・!」
「誰がこの塩漬け直行な案件を?!」
「兵士だった奴でも冒険者になったのか?」
「それが・・・特例で冒険者になった10歳にもなっていない子供なんです」
「「「子供?!!!」」」
とかいうギルドスタッフの会話をストライプ・ボアを倒して帰った時に聞いたりした。
今でも、魔物を処分して報告するとギョッとされる。
本当に、魔物の討伐はまず行われないんだな。魔物討伐は国の兵士の仕事というところか。
「え、えっと。たくさんお金入り、ましたね、・・・ほ、本当同じだけ貰っていいん、ですか?」
サリアが困惑している。この前のイベントでの破格の報酬からすると低く感じるものの本来は10万エルでもとんでもなく高額のはずなのだ。
「いいんだぞ?サリアも頑張ったからな」
「うん。それに均等以外にどう分けて良いのか、僕にはわからないよ」
「ん。成果に応じてとかもあるけど、誰が決めるの?て話だぞ。話し合いで時間かけるのは面倒だぞ。それに、変に成果を上げた方が良いとなると、パーティとしての機能が落ちる可能性がある。それに不満も生むだろ?良い意味で適当にやってるほうがいいんだぞ」
僕にとって、冒険者という職業は、前世でのゲームでの記憶がある分、そんなに金に困るような仕事じゃないから、エナの意見には同意である。
それにしても、饒舌に喋るね、エナ。
そういや前世でも有能な人材が集まる場では会議が無駄を生むとか聞いたことあるっけ。エナは子供ながらにそれを理解しているのか?
「詳しいことはわからないけど、まあエナの言う通りだから、気にせず均等に受け取ろう?」
「は、はい・・・!」
「ん。じゃあ端数分はどうする?」
「そうだな・・・」
分けられない分か・・・3で割ると余りは出ることがあるからな。
「特に案がないなら、均等に分けられない分はリーダーに、とかでいいぞ。1、2エルとか特に気にしないからな」
「僕もそれでいいけど。そういえばリーダー決めてないよね?」
あの主張の強いダラオンが抜けてから、リーダーは決めていない。
まあ誰がリーダーになっても特に変わりない気がするけどね。
「ん。適当に決めるか」
「そうだよね。誰がなったとしても3人で話し合って決めることに変わりはないよね」
「ん。そうだな。じゃあ次に冒険者ギルドに入ってくるのが男か女かを当てた者がリーダーとかはどうだ?2回連続で当てたら決まり。どうだ?先に2回分告げてからスタートだ。ただし、他の回答者と同じ組み合わせは選べない」
なるほど。それならいいか。めんどくさそうだし僕はリーダーになりたくないしなあ。
「うん。いいよ」
「は、はい・・・!」
「先に私から行くぞ。女、女だ」
あれ?これは・・・エナ、リーダーになる気ないな?
自信家なところやこの決め方を提案したところから察するに、リーダーになりたいのかと思ったけど、そうじゃないのか?
ま、まあ、そう来るならいいだろう。
「僕は、女、男の順だ。サリア、女同士の組み合わせと女男の組み合わせは選べないからな?」
「え、え!!わ、わからない、ですけど、えっと、じゃ、じゃあ残ってるのは、男、男、ですか?」
にっこりと笑うエナ。僕も頷くことはせずに「じゃあサリアはそれでいいのかな?」とだけ笑顔で告げる。
別に残っているのが男、男だけとは肯定してない。本来なら男、女の組み合わせも選んで良いのだ。
そんなわけで誰かが冒険者ギルドに入ってくるを待つと、・・・入ってくるのは男、男・・・。
うん。サリアの勝ちだ。
サリアがギョッとしていた。
よく考えれば、そりゃそうなんだよな。
ラーラさんという例外もいたけど、女性は冒険者には多くない正直ほぼ男なんだよね。ギルドに依頼に来るのもこんな行儀の良い連中が集まってるわけじゃないから男が依頼に来ることが多い。
男の方がこの場所に来るのは遥かに多いんだよね。
エナも僕もそれはわかっていた。冒険者ギルド内をパッと見てもそれはわかるだろう。
それにサリアは数学がわかってないだろう。数学がわからないというか、単純にだまされやすいというか。別に女、男の順番に指定しても良かったんだけど。僕もエナに倣って、男、男しか選択肢がないと思い込んでしまいそうな言い方をした。
そもそも正直に当てなきゃいけないと思っていたはずだから、事実、サリアが男が多いことに気が付いていたとしても男、男という組み合わせを素直に答えていたはずだ。
それに比べて、僕とエナとは完全に逆だ。なりたいとは思っていないから逆のことをやった。つまり、これは妥当な結果と言えよう。
まあ確率はどうであれ、勝ってしまっても別に気にもしない話ではあるけどね。リーダーになるだけだし。サリアよ、悪く思わないでほしい。
「ということで」
「ん。サリアがリーダーでいいな」
「え!えぇ!!?」
サリアは本気で驚いていたが、まあ決まったことである。僕とエナがほぼ同時にサリアの方を叩く。
その後、ギルドの受付にリーダー申請をしたが、「わ、私が・・・リーダー・・・?!」と震えが伝わる小声が聞こえてきた。それをエナが頭を撫でて落ち着かせていたので大丈夫だろう。
「それじゃ、来週の木曜日の朝にまたエナの家に行くから。それまでに適当に依頼こなしてくれてもいいよ。報酬は2人で分けて良いからね」
「ん。そうだったな。適当にできる範囲でやるぞ」
「ま、また来週、です・・・」
最後まで元気なさそうなサリアであったが、現状のパーティのリーダーなんて、特筆すべき仕事はやることないから、そのうち落ち着くだろう。
翌日から、僕はまたハートさんの護衛を手伝い始めた。
LEV9になってからは魔物が出ても以前よりも劇的てほどでもないけど、かなり楽に倒せるようになった。
そんなわけでハートさんの仕事も比較的余裕で終わらせて、木曜日になった。
朝。
エナとサリアの家に訪れ、扉をノックする。
「ん。久々だな」
「お、おはよう、ございます・・・!」
「うん。5日ぶりくらいだね。おはよう」
最後に会った時と見た目には変わりのない2人がそこにいた。
まあ見た目は変わらなくても鑑定によるとLEVは共に6。年齢の関係でその辺の猛者と呼ばれる輩より強いか、同じくらいだろうか。
ステータスだけで見たら未だにLEVで上回るはずのギルドマスターのおねえにはかなわないと思う。
まあそもそもおねえは経験があるから、たとえ少しくらいステータスが上回っていても勝てないだろうけどね。
それにしても、エナもサリアもそれなりに討伐の依頼を受けたのだろうな・・・1週間経たずにLEVを上げるとは、割と強い魔物も倒しているのだろう。
他愛もない挨拶してからすぐに3人でギルドを訪れると、ギルド内がざわつく。
「なに?この感じ。2人を見ているような気がするんだけど」
これは僕に向けられたものではなく、彼女らに向けられたものだろう。
エナが僕の求める回答を察してくれたらしく答えてくれた。
「ん。依頼でな。数日間町を離れてホブゴブリンを倒したんだ。それのせいで噂になってるんだと思うぞ」
「わ、私も、出会ってしまったことにも驚いたんですけど・・・倒せてもっとびっくりしました・・・!」
「ホブゴブリン・・・かなり強かった気がするんだけど、まあ2人ならいけるか」
ゲーム知識では、ゴブリン自体がLEV2が1匹でも人間の大人に近いくらいの身体能力で、凶暴だと記憶している。
そして、人間を見つけると襲うことで有名だ。
ホブゴブリンはゴブリンと同様に雑食性だが、これまたゴブリンと同様に主に肉を好む。逃げていれば畑や家畜を食い荒らされるし、立ち向かうにしても他種族を食料として見ていることも嫌なところだ。さらには繁殖に他種族の女性を必要とするのもまた忌避される原因だろう。
特に姿が似ている人間を好んでいることもあって、見つけたらまず逃げ延びてすぐに領主に伝えることが求められる。
そして、ホブゴブリンは同じLEVでもゴブリンより全ステータスがそれぞれ2倍ほど高いし、その上知性があるがゴブリンと同様に複数で個を狙う性質を持っているため、人間からしてみたらとても厄介な存在だろう。
PWKではもっとゲームが進むとホブゴブリンの進化系で複数の魔法を操るのが出てくるほどだ。
ホブゴブリンは最初のあたりでは同族のホブゴブリンではなく、進化前のゴブリンを5、6体は連れている程度だが、この世界の水準の人々ならそれでも大概は出会ったら終わりだろうな。
「でも、どうしてホブゴブリンなんて倒すことになったの?」
ホブゴブリンほどの危ない存在なら、存在に気づいた時点で優先して魔王の配下たちや領主の兵隊が動きそうだけど。
「ん?んー。本当は数匹のゴブリンが現れるから追い払って欲しいという依頼だったんだが、どうせなら倒しとくかと思ったのに、素早く逃げるから巣ごと根こそぎ討伐してやろうと後を追ったんだ」
なるほど、エナらしいな・・・1匹のゴキブリをみたらすべて駆逐してやる!って感じになるんだろうなとか想像してしまう。
なんで領主たちが動かず、冒険者に任されたのかと思ったら、そういうことか。
本当はホブゴブリンではなく、ゴブリンの目撃があるから追い払うだけだったわけか・・・
「そ、そしたら、大きいゴブリンが襲ってきたん・・・です」
サリアが思い返して汗汗している。
「ん。最初の1匹のゴブリンは完全に囮だったんだぞ。深追いしたせいで危うく囲まれて殺されるところだったがサリアのおかげで命拾いした、あの時は本当に助かったぞ、サリア」
エナがサリアの頭を優しくなでる。少女同士の絡みか・・・前世だったら変態が好みそうなシチュエーションだな。
「はぁはぁっ!良い!」
なんか少し遠くからむさくるしい音が聞こえたような・・・?
周りを見渡してみるが、該当人物は見つけられなかった。
・・・ちょっと注意しておかないといけなさそうだな。変態がいるかも。
「なるほど・・・大事にならなくてよかった。それで、倒したんだね」
「ん。そういうことだぞ。でも、もともとゴブリンを追い払うだけだったから報酬もそれほど良くなかったんだぞ?他の依頼も同じ地域で出てなかったら絶対行かなかったぞ」
そんな愚痴を聞きながら、依頼の張り出された掲示板を見ていると、聞き覚えのあるイきりボイスが聞こえてきた。
「おい!糞雑魚ども!!!まだ冒険者なんてやってやがったのか!!」
声の方向を見たくもなかったけど、なんかぞろぞろ見覚えある子供たちを連れてきたのでチラ見程度で終わらせるつもりが二度見してしまった。
おうおう・・・いじめっ子集めましたって感じだな。ラーラさんの家の前のことを思い出す状況である。
「ん?後ろのちび助たちをつれて冒険者ギルドでなにしてるんだ?」
たしかに、ダラオン自体は冒険者になっているが、それ以外のいじめっ子たちは別に冒険者じゃないだろう。
「ふん!!お前らがどうしようもないダメなゴミ屑だったからな!俺が新しく仲間を集めてパーティを作って依頼を受けにきたんだ!」
「そこをどけ!!ダラオンさんのおこぼれで冒険者になったクズども!!」
「そうだそうだ!俺たち『黒星』は弱者になど容赦しないからな!!」
そうやって依頼の貼られた掲示板の前に割り込んできたのは、最初のコード02のイベントに参加していたいじめっ子軍団だった。
言っていることがめちゃくちゃなんだが・・・
今は『黒星』というパーティを組んでいるのか・・・この際ネーミングについては特に触れないけど、ダラオンはともかく、その他のメンバーは冒険者になれるのか?
そう思って鑑定をしてみたら、いじめっ子たちは全員冒険者になっていた。
もちろんダラオン以外には階級はついてないが・・・どうして冒険者になれたんだ?みんな16歳未満だぞ?
いろいろ思うところはあるが・・・こういう、自分が正しいと他者を蔑ろにするような奴らに何も聞いても良い意見はないしな、という気持ちとそもそもそんなに興味がないのでやめておいた。
自分のことだけで良いわ。
というか、こいつら文字読めないだろうに、どうやって調べているんだ?
掲示板からもぎ取る依頼を見ていると、共通点があった。
あぁ。なるほど。全部掲示板の一番下に討伐系がまとまってたのか。
ぱっと見、やりたい依頼もないし、危ない依頼もないし全部渡してもいいだろう。僕はエナに目配せして掲示板から離れた。
エナもそう判断したのか、特に何も言い返さず、不適に笑うとすぐにサリアの肩を抱いて下がった。
男前だなエナ。
その様子をダラオンが嫌らしい笑みを浮かべ口を開く。
「ふん!雑魚ども!聞き分けがいいのが救いだぜ!」
・・・いちいちむかつくな、こいつ・・・。殴ってこないだけ良いのかもしれないけどさ。
エナはそんなにキレ顔ではない・・・けど、軽く舌打ちしていた。
ダラオンたちは数少ない討伐依頼を掻っ攫って行き、残ったのは魔物が関係ないものばかりだった。
「なくなっちゃい、ました・・・」
「ん。まあ、ちび助どもの態度は腹立つけど、正直めぼしい依頼はなかったからいいぞ」
「こういう時は受付に相談してみるか」
PWKでは下級の依頼は掲示板から探すが、それ以外は受付で個別に受けることが多かった。ここでもそうだといいけど。
この世界基準ではどう考えても下級扱いにならなそうな強めの魔物の討伐に関しても下級と一緒だったのでその辺りは心配ではあるが・・・。
魔物討伐という時点でもはや基準が曖昧なのだろう。
ダラオンたちが去った後、受付に行って、魔物討伐の依頼がないか確認すると、ぎょっとした受付嬢が「討伐依頼、魔物の討伐依頼?」と焦っていると、背後からおねえがひょっこり出てきた。相変わらずキャラが濃い。
「あらぁん!仕事探してるのぉん?あなたたちなら任せられそうな依頼あるわよぉん!ちょうどあたしを指名してきた依頼があるのぉん!」
「ギルドマスター!・・・まさか!あなたに来ている総本部の依頼を回す気ですか?!」
どうやら、おねえがやるはずだった依頼があるらしい。
たしかに、おねえ自体結構強いから依頼が来ていてもおかしくはないよな。
ギルマスになる以前には有名な冒険者パーティに所属していたのだろう。
「この子たちなら大丈夫だと思うわよぉん」
「何を根拠にそんなことを!」
「あたしの勘よぉん!」
「・・・!?」
「勘よぉん!!」
などというよくわからない一方的なやりとりを見させられた後、ギルマスに連れられて奥の部屋に案内されることになった。




