18 想像を裏切る魔物討伐
エナが腕を組みながら僕の目を見て話しをしてくる。
「ん。じゃまたギルド支部の中で待ってればいいか?」
強気な口調によくマッチする釣り目、少しきつそうな印象だ。
実際ちょっと性格はきつい方なんだろうが、同い年くらいの少女、サリアにはとてもやさしく振舞う様子は良き母親のような印象でギャップが激しい。
「・・・うん。そうしてもらえるといいかな」
エナの印象を思い返しながら、エナの言葉に僕は返答する。
この会話の前、パーティで魔物討伐を行っていくことになったのだが、少し端折った。
パーティなんて魔物討伐でないと僕は活かせないからね。他の面々もそれが良いとのことで、割とすんなりと魔物討伐になったのだ。
サリアはびくびくしていたが、何回か魔物と戦って後方で怪我なく終えられていたので、感覚が麻痺しているらしく、「魔物退治は・・・たぶん、大丈夫、です」とのことだった。
人間は変化するんだな・・・特に子供の変化は著しいな。
中身はもうトータル年齢で20歳台に突入した僕にはもはや変化はできないだろう、とか、こういう時は思ってしまう。
「また他の冒険者に絡まれても嫌だしね」
ただでさえ冒険者に本来なれないはずの16歳以下だけで構成された異例のパーティだというのに、ダラオンが冒険者ギルドで騒ぎを起こしたせいでさらに冒険者からの印象は最悪になっていた。ダラオンはもういないんだけどさ。
おねえやラーラさんのような子供にや優しい人間であれば問題はないんだけど・・・いろいろ重なっている今、あまり楽観的に考えない方が良いだろうな。
「ん。それもそうだ。じゃあうちに集合でいいか?一人暮らしだし、気楽に来てくれていいぞ」
エナのそのセリフに、ふと、前世での莉緒の記憶がよみがえる。
そういえば、莉緒が足を失う前、幼稚園くらいの時だが、よく遊びの約束を取り付けると「何時にうちに来て」と言っていた。
莉緒が足を失って以降は頻度が減ったけど・・・
ああ、そうか子供のころはこういう風に遊んだんだ、僕はちょうどあの時と同じくらいの年だし、思い出す条件はそろっていたのだろう・・・
この子たちに莉緒の二の舞にならないようにしないと・・・
・・・え?てかエナって一人暮らし?!
「ひ、一人暮らしとか凄いね。エナの家?どこにあるの?」
子供で一人暮らしというのには相当驚いてしまった。
それに、一人暮らしができるほどにエナは稼いでいたということだ。
となると僕並みの依頼遂行力があったわけだよな。戦い方を見ていてもとてもLEV0とは思えなかったわけで、たしかに毎日依頼をこなしていれば1人でも家を持つくらいの想像は難しくはない。
「ああ。じゃあ解散する前に案内するぞ」
エナは孤児じゃないと思っていたけど、身なりからして、ちゃんとお金がある人のそれだったし。でも、まさか自分で稼いだ結果だとは思わなかった。
ギルドを出て、3人で歩きながら会話を進める。
「最近住み始めたんだけど、子供でも事前に金払えば住まわせてくれる場所でな。ラッキーだったぞ」
「そうなんだ」
「わ、私も昨日からお邪魔させて、もらって、ます・・・」
「サリアも一緒に住んでるの?」
それは予想外だった、でもまあ、今後のことを考えると、ダラオンの怒りを買って街中という屋外に寝泊まりはできないだろう。
「ああ。1人でいるよりはいいぞ」
「それはわかる。うちは母親と2人だから、だれもいなかったら寂しいからな」
「ん。なんだマザコンか?寂しがりなんだなロキ」
「いやそういうわけじゃないんだけど」
なんか誤解したように生暖かい目を向けてくるエナ。
マザコンと認定されたままにしておきたくないんだけど、いやちょっと待て。
5歳で親離れしてた方が早すぎるだろ!と思いたいが、彼女らはすでに親離れした、いや、離れることを余儀なくされた孤児である。
前世の記憶同様に僕の境遇が普通だと思ってはいけない気がする・・・
「えっと、お父さんやお母さんと一緒に、いられるのは、羨ましい、です・・・」
サリアがぼそっとつぶやいた内容が真理だと思った。
「うん。ありがたいことだよ」
「ん。まあそれは置いとくとして、あそこがうちだ。町はずれの壁の近くだぞ」
ふう。エナが話を切ってくれて助かった。
親がいることを羨まれてもなんて返せばいいのかわからないんだよね。
エナの指さす方を見ると、3メートルほどの町を守る木製の壁に隣接するような状態の長屋があった。
中世ヨーロッパ風の世界感のPWKではあるが、栄えた町や結界魔王がいる都以外はかなり貧相だったりする。この町なんかレンガ造りとは縁遠く、大半は木製とかが多い。
魔物が襲ってきたらその都度破壊させてしまうからちゃんと作っても仕方ないということもあるらしい。
そういえば定期的に魔物が皆殺しにしない程度に襲ってくるのは、たしか結界魔王の差し金だったはずだ。人間に力を蓄えさせないためとかいう設定だったと記憶している。
そんなわけでエナの住む長屋も木製だ。
中世ヨーロッパ風なのになぜか江戸時代感も漂うあたり、僕がプレイしていたPWKとはだいぶ違うな。僕がプレイしていた時代のPWKではとっくに結界魔王は討伐されていたしね。景観が全く違うのも仕方ないかもしれない。
てか、この屋根に上ったら壁乗り越えて外に出られそうだな。まあそんなことは誰もやらないだろうけど。
場所を教えてもらったのでそこで解散することにした。
「ロキちゃん~。お友達はできたかしら~?」
ハートさんが僕が帰るや否や話しかけてきた。笑顔のふんわりしたマイマザー。
いつものやり取りで、毎回「残念ながら」としか答えられなかったけど、今日新たにパーティを組んで、ふと思った。
エナとサリアは、友達といえるかもしれない、と。少なくとも仲間であることには違いない。
「うん。できたかも」
「あら!あらあら~!本当!よかったわ~!今度紹介してね~?」
笑顔がより一層花咲く。眩しい。
そういえば、僕はあんまりこの世界に来てからはあまり笑ったことがない。もともと根暗気味ではあったけど、知らない人しかいない世界で、毎日死への恐怖を感じていたせいか、より根暗度は深刻化している気がする。
ふう。徐々に笑えるようになればいいな・・・LEV10だから、10歳までゆとりもあるしね。
着実に結界魔王を倒す道筋を見つけて、確実にこなせるようにしたら、明るくなるように徐々に頑張ってみよう・・・
そう僕が考えた瞬間でもあった。
翌日、エナとサリアが待つエナの自宅の長屋まで行くと、ノックしてすぐにエナがいつも通りの感じで出てきた。
「ん。早いな。準備したら出るから、外で待っててくれ」
「了解」
数分ほど待っていると昨日とは違う服を着た2人だった。
シンプルな服装というのは変わりないが、今日は少しおしゃれな感じがする。
というのも、エナはカチューシャを付けておでこを出しているし、サリアは長い髪をポニーテールにしていて、髪は洗ったのか、脂っぽさもなくなっている。しかし、前髪で顔は見えないのは相変わらずだ。
「2人とも、今日はイメージが違うね」
「ん。褒めてるんだな?」
「うん。女の子らしいよ」
「あ、あ、ありがとう、ござい・・・ます」
いつも以上にうつむき、声が小さいサリア。エナの堂々とした態度とは正反対だな。
そのエナがくすっと笑うとサリアに声をかける。
「サリア。ロキはあんまり褒めるのがうまくないぞ」
え、急にディスられたんだが・・・。
「しょうがないだろ?同年代の友達いなかったし。人とのかかわりもほぼなかったから」
「ん。冗談だ。それは私たちもだしな。今後は良き仲間としてパーティを運営していきたいぞ」
「おう。こちらこそ」
「わ、私も・・・!よろしく、です」
顔を見合わせ微笑を浮かべて、冒険者ギルドに向けて歩き出す3人。
それにしても、運営なんて言葉が出てくるとは思わなかった。ずいぶんとエナは頭もよさそうだ。というか大人び過ぎている。
冒険者ギルドにたどり着き、中に入ると、すでに中にいた冒険者数人がこちらを見てざわつく。
「ふん。見ろよ。ガキが迷い込んだぞ」
「おめぇ知らねぇのか?あいつらはインチキで冒険者になったガキどもだ」
「はぁ!?インチキ?!ふざけたガキどもだ!!」
僕たちのことはすでに噂になっているらしい。大人の冒険者たちがこそこそと噂をしている。
というかこそこそと言えるかは微妙な程度には声が大きいが・・・。
「グラニーのとこで冒険者見習いしていた奴らだな」
「あの半端の孤児どもか!全く、中身までなっちゃいねぇな!!」
「どうも、誰も見つけてないダンジョンを見つけてクリアしたらしいが、この近くに魔物にも出くわさずに見つけられるようなダンジョンなんて、な?」
「ねぇよそんなもん!ダンジョン攻略の『零』だって最近じゃ新規のダンジョンなんて見つけれられてねぇって話だろ?本当にインチキじゃねぇか!なんでギルマスは取り合っちまったんだ!」
「なんでも、ガキのくせに力が強いらしいからよ。不正を訴えたラートイたちが不意うちでケガしたらしい」
「孤児のくせにガキがいきがってるわけか!懲らしめてやるか!」
「やめとけ、ラートイでやられたんだ、後で、機を見て、な?」
機を見て何をする気だこいつら・・・!
イラっとしたけど、取り合ってるだけばかばかしいしな、喧嘩は買わないようにしよう・・・
で、ラートイってのはたしかダラオンに真正面から負けた冒険者か。そんな強くなかったのに意外と冒険者の中では有名だったのか?
まあ、そもそも現状の冒険者は魔物を倒すような輩は少ないから、LEVも低いし強い弱いとか団栗の背比べみたいなもんだよな、とか思ってしまう。
でも、有名人を倒したとなると余計に厄介だな・・・
依頼書の場所に辿りつくまでにその後も次々とめちゃくちゃ噂が耳に入ってきた。
反感買いまくってるなぁ・・・サリアもいつも以上に縮こまっている。
てか後で機を見て闇討ちとかされんのか?あと、背後には気を付けたほうがよさそうだ。冒険者たちの反応を見る限り、いつ襲われるかわからん。
さてと、それはさておき、今日の目的を果たさないとな。
適当に依頼を見るか・・・あれ、割と討伐系の依頼あるな。いや逆に当たり前か。
「土日には新規依頼は張り出されないからな、ガキどもでもできそうな依頼なんて残ってねぇのにな」
そんな言葉が聞こえてくる。なるほど、PWKでは毎日更新されていた依頼も、この世界では土日はお休みなのか。
それに今日は日曜日。残っているのは基本的に誰も受けないようなものしか残っていない。
農作物を荒らす魔物や街道に出没する魔物の討伐などが普通にあった。この世界では冒険者にこのような依頼はしないような気もするんだけど、領主付きの兵士や傭兵の方も追いつかないのだろう。
「ん。ロキ。これ全部やれそうか?」
「僕は行けると思うよ。今日中にとなると3つくらいかな」
「ん。じゃあ、確実性をとるために1つずつ攻略するか」
「そうだね。軌道に乗ったら一括でとってもいいと思うけど、周りの視線も痛いし」
サリアがギュッと僕とエナの服を引っ張っている。怖いのだろうな。
エナがポンポンと穏やかに微笑みながらサリアの頭をなでる。母親かよ。
「じゃあ手始めにエナ適当に選んでよ」
「ん。了解だぞ」
エナが選んだのは農作物を荒らす猪の討伐だ。
猪の魔物は特に問題なく倒せるだろう。PWKの世界では、兵士とかが倒しきれない魔物も数多く存在していたから、こういう討伐依頼も一定数出てくるという設定だったっけ。
ちなみに、この世界だとそもそも多くは倒すのが難しいから退けることでも討伐と認識されているらしい。
あと、今より領土は広がって魔物の出現数も強さも今よりも上がっていくのに、この状態で強い魔物が入り込んだら人々はどうなるのだろう・・・ふと不安に思った。
このままではPWKの世界のシナリオ通りに多くの人間が結局死んでしまう・・・でも、解決策はすぐには思い浮かばない・・・考えるのを辞めよう。
解決案今後浮かぶかもしれないし。
僕らはその依頼書を持って受付に渡す。
とりあえず依頼を受けたことを伝える必要がある。
受付嬢は少し怪訝そうな顔をする。
冒険者だけでなく、受付嬢も割といい目では見てくれないらしい。
「依頼内容は町の外の農地に現れる猪型のモンスターの討伐、もしくはまたやってこないように退けることですが、よろしいですか?」
「ん。大丈夫だぞ、良いよな?」
「うん。大丈夫」
「は、はい・・・!」
「子供にできるとは思えませんが」
「大丈夫。やってくるから」
「できなかった場合、失敗時に手数料がかかりますので」
「はい」
受付嬢は終始眉をひそめていた。とりあえず名前を覚えておこう。レミオーリさんね。怖い顔してるなぁ。そうか。失敗したら手数料がかかるのね。そういやPWKでもあったな。そんな大金ではなかったけど。
「では、『望撃歌』のパーティでの依頼を承認しました。討伐後に依頼主にこちらの書類を渡してサインをもらってきてください」
僕たちはひとまず、ギルドの建物から出ると、外に向かって出ようとしたが、僕はふと思ったことがあったので提案することにした。
「グラニーさんに冒険者になったことを報告しに行かない?」
「ん。なるほど、いいぞ」
「ぐ、グラニーさんにはお世話になりました・・・!」
ということでみんなの意見が一致したので、挨拶しに行くことにした。
グラニーさんはいつも通りの感じだったが、僕らが、冒険者になったことを話すと目を見開いて驚いていた。
「君たちもなったんだね!!!驚いた!!」
も?
ということは先にダラオンが来たのか。意外とマメだな。
「うん。お世話になったし、ありがとうございました」
「ありがとうだぞ」
「あ、ありがとう、ござい・・・ます」
「いいんだよ!みんながこんなに早く1人前になれるとは思わなかったよ!ロキくんやエナちゃんは今回の件でこちらから頼んだところもあるし、こちらからもありがとうだよ!」
なるほど、エナのところにもグラニーさんは頼んでいたのか。
たしかにエナは今回の一件にいてくれなかったら危なかったと思う。
グラニーさんナイスだ。
「冒険者になったわけだし、依頼を持って来てくれてもいいからね?」
商売上手だな。いや、そもそも何の利益もこの人は得ていないんだっけ。
「ん。そのうちだぞ」
エナが不敵に笑いながら適当にあしらう。
まあ、そのうち僕が依頼を持ってこようかな。
そんなわけで、挨拶を済ませてから町を出ることにした。
ラーリアの町を出てすぐ。依頼主はすぐに見つかった。町を出て少し歩いた場所・・・一番荒野に近い農地エリア、つまり町から人間生活圏における一番外側という感じだ。
「え?・・・え?君たちがかい?」
依頼の話をその畑で柵を作っていたおじさんに話しかけたところ。怪訝な目で見られた。
たしかに子供だとこうなるか・・・しかもただの依頼じゃない。魔物を討伐する普通じゃない依頼だ。
「そうです。僕らが依頼を受けに来ました」
「はぁ。そうかい、ケガしねぇ程度に頼むぜ。まあもともと冒険者がすぐに来るとは思ってなかったしなあ」
あんまり期待はされていないが、まあそれもいいだろう。
「ん。で、まあ見たところ依頼書通り、作物が荒らされているな」
「・・・で、ですね」
畑は荒らされ、作物の茎がほとんど折れ、青い葉っぱがいくつも地面に落ちて散らばりしおれている。
「・・・まあ、魔物は待っていれば現れると思うけど、早く終わらせるにはこちらから行くのも手ではあるよね」
倒しに行こうかな。EXPの糧にでも・・・あ。とは言っても、僕のLEV9だし、もはやここまでくると僕のLEVは上がらない気がするな。結界魔王倒すまで間はLEV10でカンストだし、この辺に出てくる魔物のLEVなんて、たかが知れてるからEXPが1とか2入ればいい方な気がする。
カンストでなくとも、もはやその辺に出る魔物じゃLEV差がありすぎてな・・・。ボスクラスの魔物と戦わない限りは上がらないような気がする。もちろんちりも積もれば上がるだろうけど、どのくらいで上がるのか見当つかないんだよな。ゲームの時より格段にレベル上がりにくくなってるし。
でもまあ、パーティ契約してるから、僕が倒してもエナとサリアにはEXPが行くのか。便利なことだ。
「ん。どうする?私はその辺うろついて倒してこようか」
エナはやる気に満ちた様子だね。
「じゃあサリア連れて行ってきてくれるかな?僕はここで猪来ないから見張ってるよ」
「ん。ロキなら安心して任せられるぞ。サリア、じゃあ外回り行くぞ」
「わ、わかりました・・・!」
畑から荒野方面へと移動するサリアとエナを見送って、僕は畑に陣取った。
さて近くで作業中のおじさんから話でも聞こうかな。猪なのはわかってるけど、どのくらいの数いるのかとか聞きたいところだ。
「おじさん、猪の魔物はどのくらいの数いたの?」
「ん?あー。3頭だな。1頭いるだけでも相当厄介なのによ、普通の動物と違って人が近づくと涎だらだら垂らして襲ってきやがるからな。毎日のように来やがって。どうにかしてほしいよほんと」
「わかりました。ちなみになぜ、3頭だと?毎回来るなら違う個体が来ている可能性もあるのでは?」
「額に傷がついているのが1頭と、縞々模様があるのが1頭だ、もう1頭は特徴がないが、いつも来るなら同じ奴だろ」
「・・・わかりました。情報ありがとうございます」
なるほど、3頭。それも、縞々の猪か。PWKでもよく見かけたな・・・ストライプ・ボア。
弱いわりにLEVは2とか3だったか?そうすると、EXPもおいしいが、問題は攻撃は強くないが、結構打たれ強くてSKLまで持っている。たしか、『狂走』だったか。AGIが倍になるとかいう奴だが、まあエナがいれば大丈夫か。
ぼーっと自然の中に立ってしばらく待っていると、地響きが聞こえてきた。
「な、なんだ?」
おじさんがびくっとしてきょろきょろとし出した。
地響きは徐々に強くなっているように感じる。
「おそらく、魔物が走ってきてますね。こっちに・・・」
この感じからして普通の動物とはではないだろう。おそらくストライプ・ボアのSKL発動時に走ってる感じだな。・・・エナとサリア、しくじったか?
鑑定したところ、ストライプ・ボア。LEV4か。想定より高いな。たしかにこの辺に出る魔物にしては強いが、余裕だな。
「ま、魔物!!?逃げるぞガキ!」
おじさんがストライプ・ボアの姿を認識した瞬間、大慌てで農機具を担いで走り出した。
「いえ、今から倒しますので、大丈夫です」
「ば、バカいってんじゃねぇぞ!!」
一瞬立ち止まって助けてくれようとしたが「付き合い切れんぞ!早く逃げろよ!」と言って町の方に戻っていった。
「まあ見ててください、って言いたかったんだけどまあ一般人にしてみれば危ないのはわかるし、まあいいか」
・・・さて、いっちょやりますか。
所詮はただ速いだけの猪。・・・故にやばいのだけど。僕のAGIからしてみると脅威ではないので問題ない。
文字通りの猪突猛進というか。
突っ込んでくる場合は、体さばきして、かなり力込めて真横から首に剣をぶち込む!
ゴボォッ!!という音とともに縞々の猪は首と胴体が離れた状態でそのまま直線的に突っ込んでいった。
「お、おい、いったい何が!?」
心配したのか、おじさんが農機具をどこかにおいてから戻ってきた時にはすでに畑は血飛沫で大変なことになっていた。
「倒しましたよ」
「な、なんだって!?ストライプ・ボアがまさか、なんてこった!!?」
「お、おい!何があったんだ・・・って何だこれ!魔物か!!?」
隣りの畑から来た別のおじさんが突然の出来事に目を白黒させて驚いている。
「僕は冒険者だから」
「冒険者って、・・・そんなことできる奴が冒険者にいるなんて知らねぇぞ!?」
「しかも子供じゃないか!?」
どこからともなく聞きつけて農夫たちが寄ってきた。
「お、俺も無理だとは思っていたが・・・魔王も領主もやってくれねぇからよ、畑が荒らされるのに何もしないわけにもと思って依頼したが・・・まさか本当にできるとは・・・」
依頼をかけていたおじさんが他の農夫たちに事情を話し始めた。
たしかに、ただの冒険者ではこんな依頼を受けもしないし、倒すのもあり得ないか。その上僕らは子供だ。
何を言えばそれらしくなるだろうか。
実はこのことは依頼を受ける前から考えてはいた。もし問われた場合には・・・
「僕はただの冒険者ではありません。階級の付いた特別な冒険者、その集まりである『望撃歌』パーティに属する者です。以後、何か魔物でお困りでしたら、ギルドにご依頼を」
一瞬農夫たちが言葉を失った。
な、なんか間違えたか?
そう思った時、ドッと声が上がる。
「か、階級付きの冒険者!?そんなのがいるのか!!」
「知らなかった!!」
「凄いぞ!!」
「これで仕事が進む!!」
「ありがとう!!!」
歓喜に沸く農夫たちによって、畑がさらに荒れている気がするのは見なかったことにするか・・・
・・・歓喜している時に水を差すわけにはいかないけどさ、実際のところ、階級が付いていてもまともに魔物と戦えるだけの冒険者がどれほどいるかは不明だけどね。
そんなことになっていると、エナたちが帰ってきた。
「ロキ。戻ったぞ」
「ああ。エナ、サリア。どうだった?」
僕の声にサリアがもじもじしながら口を開いた。ちょっと興奮した様子だ。
「えっと、結構、たくさんいたので驚きました・・・!」
「ん。林の中に20頭ぐらいだぞ。縞々のだけ逃したけど、ロキが倒したようだな」
「に、20頭!?」
なるほど、毎日現れていたのは特徴のない猪は実は同一個体ではなかったということか。
農家のおじさんたちの驚きの声につられて、さらに他の農夫たちが寄ってきたが、縞々の猪の死骸を見て驚いていた。
そんなわけで、散々農夫の方々を驚かせながら、依頼人の依頼完了のサインもらい、僕たちはギルドに戻ることにした。
ラーリアの冒険者ギルドに戻り、受付で完了報告をする。
エナが先頭を切って話をしてくれた。
受付嬢も成果に驚いていたが、周りの冒険者たちもどよめく。
「なんの騒ぎだ?」
「子供パーティが魔物討伐したらしい!」
「嘘だろ?」
「マジだマジ!死骸もいくつもみたって知り合いが町の外の畑で見たって言ってた!」
「倒したしたのはストライプ・ボアだってよ!しかも21頭!」
「それも1日で終わらせたって!」
「はあ!?」
「なんだよそれ・・・!」
ギルド内に居座っていた冒険者たちが噂話から驚きの声を次々と上げるのが聞こえてくる。
「割と簡単に事が済んで助かったぞ」
エナがご機嫌そうに親指を立てながら戻ってくる。
「僕も、エナやサリアが居なかったら大群の猪を1人で相手することになっていたよ」
「ん。結構いいパーティじゃないか」
「ふ、2人と一緒なら・・・わ、私も、頑張れます・・・!」
エナが笑みを浮かべてサリアを撫でる。僕も少し笑顔になっているだろう。
そんなわけで、初めての討伐依頼は大成功だった。