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0 プロローグ 悪魔との邂逅


『惨劇』


・・・急に復活した僕の思考がその単語を、ぽん!と弾き出した。突然に意識がだけが蘇ったという感じだ。


・・・僕が意識を取り戻すと、記憶として思い出せる最後のものは、情けないことストーカーに刺された挙句、幼馴染も巻き添えにしてしまうという惨劇であった。



最後の記憶では、意識が落ちてきて暗くなり始めた視界に、焼き付いて離れなくなるほどの悍しい事件が映っていた。


真っ赤な血飛沫。

その液体で染め上がる床と壁・・・そして、嫌に鼻につく鉄の匂い。次第に闇へと暗転する視界。


高校入学して1か月やそこらでクラスメイトの女子に刺し殺されるなんて、思いもしなかった・・・


しかし、今目の前にはその惨劇の直前の記憶とは対照的に、真っ白な世界が広がっている。



「どういうことだろう」



・・・あぁ、夢かなんかだったのだろうか?


だとしたらひどい夢だった。

現実には感じたことすらなかった、あまりに過酷な苦痛。そう、あれは想像を超えた痛み・・・今や思い出しきれない地獄の罰のような痛み・・・


そして、今目の前には真っ白な世界が広がる・・・ということは夢の中か・・・?



いや・・・わかってる。


頭の中からあの光景を追い出そうとしている自分がいる。



「あ、明彦(あきひこ)!?」


二度と聞くことはないと思っていた声に衝撃が走る。


「この声、莉緒(りお)か?!」


姿は見えないけど、声だけでもわかる・・・記憶がぼけているが確かこの声は・・・幼馴染の莉緒のものだ。


あ、あぁ、ついに夢の中にまで莉緒が出てきたか。

いやぁ、僕の頭の中は寝ても覚めても莉緒だらけだな。



いや、本当はわかっている・・・あれは現実だったと・・・。


莉緒になんて弁明すればいいのか・・・どんな顔をすればいいのだろう。

幸か不幸か、今は声しか聞こえないけど。


僕のせいで、惨劇と呼べるほどの死に方をさせてしまった彼女に、僕は何をすれば償えるのか・・・


あぁ、あの時、久里浜さんを何とかできていれば・・・そんなことを考えている時だった。



「やぁ、君たち!おはようございます!」


・・・え?


急に話しかけられたが、姿は見えない。

その声の主は挨拶に続いて言葉を紡ぎ出す。



「さて、いやぁ。大変な事がありましたね。アレは酷かった!相当に面白くて素晴ら・・・おっと。そうじゃなかった。10代の集まる学び舎たる高校で、しかも日本という平和ボケのゴミカス集団・・・おっとそうじゃないな。若々しく無垢な集まりの中であんな事件が起きるとは思わなかったね」


もの凄い日本ディスってるんだけど・・・


「えっと、あなた一体・・・?」


直接意識同士のやりとりのような感覚、というのだろうか?

音という感じじゃなく、空気を介さない伝達というのが適切な気がする。


「まあ、君たちが認識しやすいもので言うところの悪魔というやつですよ」


あ、悪魔?いわゆる、地獄にいて、現世に現れる時には魂を対価に願いを叶えるとかなんとかいう存在か?


酷い死に方をすると地獄に落ちるのだろうか・・・?

思い返せばかなり酷い死に方だったと思う。


「思い返しての通り!君たちは死んでしまいました!残念ですね!あ、でも、魂が自壊するかもしれないのであんまり思い返さないほうがいいですよー?とりあえず私の話を聞いてもらっていいですかー?」



詐欺師と悪魔の話を聞くのはドツボにしかならない気がするけど・・・とは言っても逃げようもないし、聞くしかないだろうな。

正直、営業マンの「挨拶させてください!」と「話を聞いてください!」は聞いてはいけない、と、父が言っていた。時間だけ取られて良いことはないことが多いそうだ。


「話くらいなら聞けますよ」

「・・・私も聞きます」


営業マンにこの言葉はNGワードそのものなんだろうな。でも相手は悪魔だし、そもそも今何ができようか。選択肢ある?


「話が早くて助かりますね!では、選択肢は私が今から提示しましょう!」


一瞬の間が開いて、悪魔は言葉を続ける。


「私の力でもう一度、生き直してもらいます!すなわち、転生ですね!」


ファンファーレが鳴ったような気がした。気のせいか?いや、悪魔が鳴らしたのだろう。まだ鳴り響いてる。


「て、転生?」


驚きだ。まさかライトノベルにありがちなあれか。


「そんな、転生なんて・・・」


いきなりの超展開なんだけど・・・

いや、そもそもストーカーに刺殺されて、死んだと思ったのに悪魔が出てきた時点で超展開か。


本当なら、今回は聞いてよかったか・・・?まだ判断するには早いだろうけど。


「それは、元の世界でやり直せたりするの?」


莉緒が食いつくように質問を返した。

転生となると大概はファンタジーな感じの世界に飛ばされるのがお約束だけど、その辺どうなんだろう。


「元の世界でやり直したいんですかー?」

「私は・・・小学校に入るくらいからならやり直したい」


小学校入学というワード。それは莉緒にとって人生を大きく変えた事件があった時期、つまりそれ以前から記憶を持ってやり直せれば莉緒は全く違う人生を送る事ができるだろう。


「・・・僕も幼稚園くらいからやり直したいな」


そうすれば、また違った関係で莉緒と友達になれるかもしれない。


「そうですかー、でも残念ながら!元の世界には戻れませんね!」


きっぱりと言い切る悪魔。


やはり無理か、戻るというのが感覚的に無理だとわかってはいたけど・・・

悪魔ならもしかしたらと思ってしまった。


「そ、そうなんだ・・・」


残念そうにする莉緒。

・・・そうだ。死んでしまえば本来はそれで終わりだ。二度と知り合いにだって会うことはできない。ここで落胆する方が本来はおかしいのだ。


莉緒と会話だけでもできる僕は幸せといえるかもしれない・・・

・・・でもそうなると、何をこの悪魔はさせたいのだろうか。


「君たちは新しい世界で一から人生をやり直すのです!」

「新しい世界?」


また妙な話が出てきたな。

一から新しい世界?パラレルワールドとか?おいおい本当にライトノベルか?


「特に世界を指定することができませんが、少なくとも、君たちが居た法治国家としてある程度やれてる世界ではだめです。もっと、残酷で非情なものでなければなりません!」


「なんでそんな場所に・・・それなら、もうこのまま」


莉緒の言う通り、僕もそれならこのまま、莉緒を成仏させてあげたい。そして僕も・・・

仏がいるのかわからないけど。


正直、日本という温室のような環境で育った僕らにはそんな世界で生きていける気はしない。

ここは断った方が、結局のところ良いのかもしれない・・・


「このまま死なせると思いますか?私は悪魔ですよ?簡単に君らの魂を逃がすと?ははは!もし応じないのであれば君たちの魂を、君らの人生で起きた全苦痛を足し合わせてもまだ足りないほどの酷い苦痛を何十倍にも濃縮して与えながらゆっくりと何十年、何百年かけて鑑賞して楽しんでから、私、そう、悪魔の糧として食べて差し上げましょう!あぁもちろん輪廻には戻れません。私が食べたらそれで魂は消滅です。言ってることがわからないバカな人間はそれでも良いと宣うことがあるのでその時はご希望通り文字通り弄んであげるんですけど、もちろんもうそういうのは飽きてきたので、そういうバカには取引は持ち掛けません。あなた方はバカではないですよね?ねえ?」


僕と莉緒の全人生合わせて30年ほどで味わった苦痛をさらに超える苦痛・・・!?

それを人間からしてみれば永遠にも似た時間かけて鑑賞・・・確かに悪魔だ・・・!


そもそも、この取引、断る選択肢ないじゃないか・・・!


「・・・悪魔というなら、結局僕らの魂を最後には食べるのでは?」



「いやいや。大丈夫ですよ。まあ、もちろん魂はもらうんですけど。それは君らのモノでなくても良い。すなわち、これは投資ですよ。意味が分かりましたか?」


魂はもらうけど、それは僕らのものではない。

悪魔が投資。そして、転生先は残酷で非情な世界・・・


「私たちに魂を集めさせようとしているんですか?だから、今までいた法治世界では上手く成り立たない、と」


莉緒がつぶやくように言葉を放った。


「ご明察!頭が良い人は好きですよ!」


「莉緒。僕にも分かったよ。で、悪魔、さん。魂を集めたら僕らの魂をどうする気?」


とりあえず、取引を持ち掛けてくる悪魔は呼び捨てにしていいことはないと判断した。これからは敬称をつけておこうと思う。


「悪魔さん、ね。その響きもいいね。そうだねぇ。君らが魂をたくさん集めてから死んだなら輪廻に無理やり戻してあげるよ」


「無理やり?それはどういう意味・・・?」


「一度君らが悪魔である私の力を使って転生した場合、その後その世界で死ねば本来【半地獄落ち】と呼ばれる現象に見舞われることになります。正規の転生じゃないので、そのペナルティと思ってもらえれば良いです。【半】とは言え、もちろん地獄なので苦しいですよー?私は意外と苦痛耐性があるので興味本位で半地獄には試しに13日ほど滞在しましたが、苦痛に飽きましたし、嫌になったので逃げだしました!結構やばいですよー?まあ、地獄の比ではないんですがね。ちなみにそんなところで地獄単位で100年経過後、記憶をすべて失って輪廻に渦に飲み込まれます。輪廻の流れを改竄されているブラックリストの魂なので特大ペナルティがついて、何世代にもわたって虫とか微生物とかからスタートですけどねぇ」



おいおい。ということはだよ・・・?


「つまり、このまま転生しないこと望めば悪魔さんに弄ばれ、転生後に魂を手に入れられずに死んだ場合には地獄で弄ばれてその後微生物になる。転生後に魂さえ手に入れられれば死んでも普通に死んだのと変わらない、と?」


法治世界と言えないような魑魅魍魎の跋扈したような世界の方がマシな可能性が出てきてしまった・・・!


「その通り。さあ、転生しますか?どうしますか?ちなみに新しい世界では記憶も維持させてあげます。転生先は残酷で非情な世界ですので、君たちに私に差し出す魂を手に入れさせるための力を差し上げます!生き抜くためには知識も必要でしょう!生き抜くために既存の知識が役に立つような世界に転生させましょう。また、2人は互いに助け合えるように近いところに生まれさせます。もちろん健康な肉体となるように設定します」


これは・・・控えめに言って魅力的だ。

記憶の維持、健康な肉体。それにいわゆるチート技能というやつの取得。流行りのラノベのアレじゃん。

元より転生しない選択肢はないのだが、僕ならむしろ自らの意思でその条件を手にしたいと思うほどのことだ。


でも、行く場所は残酷で非情な世界・・・。そんな場所で、他者の魂をたくさん刈り取ることになるとしても、僕は、悪魔に弄ばれたり、地獄に落ちたりなんてことを莉緒にはしてほしくない・・・それに、莉緒には健康な生活を送ってほしい・・・



「私は」

「僕は」

「「転生します」」



莉緒と僕の声が一致する答えを導いた。

よかった。転生の未来を選んでくれたようだ。


「素晴らしい!!即決できるその思考力!ちょっとくらい他者の命を奪うことを前提とする場合、多少は狼狽するものですが、それもない!良いですね!悪魔的です!」


「悪魔さん、さっきからディスってません?」


「気にしないでください!私は今嬉しいんですよ、長引いたらめんどくさいなと思いってただけです。では契約内容を整理しましょう」




転生のメリット!

・記憶持ったまま転生

・今ある知識の役立つ世界への転生

・2人は近場に転生

・健康な肉体の授与

・特別な能力の授与

・うまくいけば酷い苦痛を味合わなくて済む



転生のデメリット!

・その世界ではレベル制度があり、そのレベルと同じ歳までしか生きられない

・2人のうち片方死ぬともう片方も死ぬ

・死ぬまでに、人種の魂を2人が死んだ年齢を足し合わせてから10を乗じる数を集められなかったら【半地獄落ち】



メリットは聞いた通りだったけど、デメリットがあんまり聞いてない内容が多い気がする。


それに・・・レベル制度?まるでゲームじゃないか。


しかも片方が死んだら死ぬなんて・・・それに、10歳まで生きられた場合、2人合わせて、20×10で200人の命を奪わなければならない!気が遠くなる数だ・・・

50歳まで生きた場合、50×2×10で1000人て・・・ヤバすぎるだろ・・・大量殺戮にもほどがある数なんだけど。平時にこんなに殺した殺人犯いないよな、たぶん。


「・・・魂を集めるにはどうすればいいの?」


莉緒?これでも乗り気なのか、おいおい、たしかに転生しないわけにも行かないけど、かなりの人の命を奪わなければならないよ?

どうにも莉緒らしくない。

とはいえ、異常事態には『らしさ』なんてものは消え去るのかもしれないけど・・・


「今言おうと思ってたところですよ!魂の回収方法は、君らの意思で殺した場合に、勝手に僕の元に魂が回収される仕組みにしてあります。なお、過失や、回り回って無意識化で殺してたとかはノーカウントです、まあ未必の故意ならいいかもですね。死ぬとわかっていて放置して限りなく直接的に殺したのであればカウントされると思いますがね」


未必の故意?・・・それはよくわからないけど、つまり、意識的に人を殺さないといけないのか・・・悪魔に魂を渡すために。あぁ・・・もうキツイ、さらにキツイ。

日本の高校生を捕まえて大量の人殺しをさせようとは・・・

本当に悪魔だ・・・。

・・・いや、この提案を受ける場合、いくら僕らが魂を人質に取られた被害者とはいえ、悪魔と等しい存在になるのではないか。


「つまり、僕らは悪魔の使い?」

「言い得て妙ですね。最近悪魔の間じゃ流行ってるんですよ、この投資。君の言葉を使うなら【悪魔の使い】、そうですね。これ、労力を最小限にして、たくさん魂が手に入るから最高の投資なんですよ。最終的利率は平均3倍くらいかな。でも君たちには500倍くらいを要求したいですね。あ、ちなみに君らの世界でもよく転生の話とか流行ってましたよね?あれはみんな、悪魔と契約して魂を他の世界に飛ばしやすくする為の宣伝なんですよ。気が付いてました?」


利率はよくわからないが、500倍て、少なくとも1000人殺せと?・・・マジかよ。


体はないのにふらついた気がした。

脳が揺れたような感覚というか。めまいというか。


・・・それにだよ?たしかに、転生ものは漫画、小説、アニメ、映画になっているくらい流行っている。

だからこそ、割と簡単に転生について受け入れた節がある気がする。

え?そういうの止める神様はいないのか?


「神様はそういうの放っておくの?」


莉緒の質問はまさに僕が今思ったところだ。


「神もね、意外と打算的なところあるんですよ。持ちつ持たれつってね。なんで悪魔が活発に動いてるのに神が何もしないかって言えば・・・おっと、まあ、それは君らに話しても仕方ないですね。さて、どうする?今の内容を聞いても契約しますか?」


でも答えはもう決まっている。

もはや選択肢などなかった。


「「契約します」」


僕と莉緒の声。正直、僕は割と即決に近かった。


・・・もう決意に揺らぎはない。

他人を殺さなかればいけないということはあまりに受け入れがたいが、それでも、莉緒を健康な体で生かすには、僕のせいで殺されてしまった莉緒への罪悪感を払拭することはできないが、贖罪として新たな罪に塗り替えることになっても、僕は悪魔さんの提案を飲むしかなかった。僕が頑張れば彼女をまっとうな死後にしてあげることもできるのだ。


「素晴らしい!さて、そろそろ転生しましょうか!早いに越したことはない!」


・・・だけど、いざ転生するとなると怖い。

痛かったりするのだろうか?もはや意識しかないわけで、痛みを感じるのかは怪しいけどさ。


突然、悪魔が何かを大声で叫び出す。


「『禍い転じて福となせ!契約に基づき加護と呪いを与えん!さぁ、この者達に僕たる烙印を!』」


なんで悪魔の口から福とか祝福とか、いろいろと良い感じの言葉が出てくるのか。

謎だが、もしかしたら神とのゴニョゴニョも関わってくるのかもしれない。


そんなことを考えているうちに、僕の意識はまた途切れた。



あぁ・・・願わくば、幸福な未来を手に入れられんことを・・・


こうして、僕と莉緒の異世界転生は幕を開けるのだった。


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