第六話『開戦』
隊長と話をしたのが、二日前だ。
敵の艦砲射撃の音が日に日に強くなっている。
戦争は遂に始まった。
ムネモリ艦長が、マウニの主砲で惑星ヘヴンの本拠地を砲撃したのが昨日の午後。お昼ご飯にカツ丼が振舞われた後だった。
全体に集合がかけられ、作戦名コロニーが開始が宣言された。
我々補給部隊は後方支援として、弾薬・食料の運搬と管理を任せられている。
前線に直接出ることはない。
父が率いる宇宙防衛兵は、主砲で攻撃する前に先に奇襲をかけるために出撃していた。
コウサカとカツギは、新型兵器の訓練が間に合わず今回は、量産型戦闘機『滅』で出発した。
マウニの主砲攻撃により、ディファレンズの本拠地は半壊していると通信兵から連絡が入った。
作戦は概ね成功の様相である。
ただし、ディファレンズ側も大量の兵を投入し、半壊の建物から別の建物へと、移っているようである。
何より、液体の体は普通の球では効果がなく、当たった部分を凍らせる凍結弾や焼夷弾による従来型の攻撃では、あまり数は減らせていないように感じた。
ムネモリ艦長はマウニを惑星ヘヴンに着陸させて、勝負を決しようとしていた。
陸上の情報を得る為にも、奇襲を仕掛けた父の部隊が帰ってこなければいけない。
突如、無線で連絡が入る。
ディファレンズ側から戦闘機型の機影複数ありとのことだった。マウニに向かう三機の機影が映し出されていた。
艦長はありえないことに目を見開いた。その機影はセンダ大佐が操縦していた形と同じだからである。
今、宇宙防衛兵ではセンダ大佐の乗っていたものから改良された戦闘機を使用しているが、旧式の機影が動いているのが、俄には信じられなかった。寧ろ、センダ大佐が生きているようで、感動した眼差しを浮かべる隊員もいた。
だが、艦長はすぐに険しい顔に戻り、『隊員に伝える、旧式は殲滅しろ。戦闘機乗りは直ちに三機撃墜を命ず』といった。
ディファレンズの戦闘機は、我々が改良を重ねてきたように弱点を強化されていた。
他のディファレンズたちを戦闘機に貼り付けることで、戦闘機の鉄の体が、液状の効果をえていた。
おそらくコウサカとカツギも出撃を命じられたのだろう。マウニの上空には、三体の敵機と無数の防衛兵機が交戦している。
敵機は三機だけなので、そこまで手こずることはないだろう。センダ大佐の置き土産を利用して、戦闘機を動かすほどの技術力をディファレンズが持ち合わせているとすれば、かなり計画が元のプランではない方向に行く気がした。
敵の一機がマウニ本体に向かって、特攻してきた。周りの戦闘機は全力で阻止する為に射撃する。
特攻して船体に穴を開け、ディファレンズを送り込む作戦だとわかったからだ。
敵機接近。艦内にはアラームが鳴る。俺は、衝撃を最大限に抑えるためにかがみ込んだ。
その時だった。
特攻する敵機体が、何かに弾かれて爆散した。艦内の警告音も鳴り止み、俺は窓の外をみた。
そこにはジェットエンジンを積んだロボットがいた。
これが噂で聞いた新型兵器だとすぐにわかった。操縦席にカツギの姿が見える。
戦闘機という表現は適切ではなかった。
ロボットのような腕がついており、腕にはハンマーらしき武器を装備していた。
武器の周りには先程特攻を仕掛けてきた敵機の破片が散らばっている。
他の二機も防衛兵との交戦では勝てないと踏んだのか、マウニへの特攻を開始したようだ。
カツギは予測地点を見極めている。敵機はカツギを避けた。裏を書かれたようだ。カツギがおうが操作がまだ安定せず中々進まない。
敵機は主砲横にある弾薬庫に向かっていく。
艦長が発射の合図を出した。敵機は主砲の攻撃を受け、跡形もなく消えた。
これでは再生も無理だろう。敵戦闘機、三機の攻撃を避けた。
その夜、父が率いる先発隊が地上に降り立ったことが無線で報告された。
ディファレンズは、他の星への逃亡を計画し、幹部級のディファレンズの戦闘機は全て消えていることも報告された。
数日後、戦争は人類の勝利で終わった。
ムネモリ艦長とディファレンズ側の代表が講和条約を結び、惑星ヘヴンの譲渡。ディファレンズの惑星ヘヴンからの退去。我が国との不戦条約を締結し戦争は終わった。
戦争に勝ち負けなどないが、個人的には父と友人を亡くさなくて良かったと思った。
しかし、我が軍も被害が決して少なかったわけではない。
先発隊は動員された三分の一の兵士が亡くなり、戦闘機乗りも数名撃墜された。
何より、精神的病を患った人が多数を占め、決して喜べる勝利ではなかった。
同期のナカタニも戦争による体調不良で、より戦闘に巻き込まれない内勤部署に異動になった。
森羅万象計画は、惑星ヘヴンに降り立つことを目的とする第二段階に移行した。
父が率いる先発隊は、調査のためもうすでに地上に降り立っている。
再開するのは、もう少し後になりそうだ。
嬉しかったこともあった。マウニに、モリ隊長がやってきたのだ。
ムネモリ艦長が、森羅万象計画を第二段階に引き上げた為、マウニを中継地点として移住を加速していくことを全体に宣言した。そのために、惑星ヘヴンへの移住準備と、地球から惑星ヘヴン間の補給部隊を統括する任務の為だった。
モリ隊長は父に会いたがっていたが、俺を見るなり「ヨウタ、よくやったわね」と戦争での補給部隊長のことを褒めてくれた。
些細なことだが、自分にとってはものすごく嬉しかった。
今夜は、黒板に白いチョークが飛び散るように無数の星が瞬いていた。
俺は、久しぶりにモリ隊長の得意料理であるカレーをお腹いっぱい食べ、幸福感に溢れていた。