第四話『選出』
宣戦布告から、二週間。開戦準備は着々と進んでいる。 ヨウタが所属する補給部隊も弾薬から食糧まで有りとあらゆる物資の管理・運搬に追われていた。
戦闘衛星マウニに運搬する為の荷物を積み込んでいると、隊長から呼び出しが掛かった。
隊長室は、本館の端にある。急ぎ足で向かうと、赤銅色の扉が見えてきた。
ノックすると、中から隊長の声。
「入れ。」
隊長の声は、いつもより厳しい気がした。
「失礼します。」
「補給準備の進捗は?」と聞く声にはいつもの優しさがあった。
「順調です。あと、二、三日でマウニに出発できるかと。」
「それはよかった。今日は、マウニ派遣後の話をしたい。」
「自分とですか?」
俺はなぜそんな重要な話をするのだろうと思った。マウニ派遣は、一人ではないはずである。その時、隊長が言わんとしていることを俺は察した。
「ヨウタ、あなたが派遣隊隊長よ」察したことは当たっていた。
なぜなら、父が先発隊として宇宙に出た歳と同じだったから。
返事は決まっていた。
「わかりました。受けます。」
「ありがとう。」隊長は安堵の表情を浮かべていた。
その後、隊長からは三日後の出発を目標に、準備を進めるように言われた。
予想はできていた、自分もいずれ父と同じところに行くということは正直、怖さもある。
父が経験した未確認人型生命体との交戦。
自分がもし同じ立場なら、どうしていただろう。しかも、自分は隊長である。センダ大佐のようにいざとなった時のことを考えなければ。
ヨウタは、部屋に帰った後一晩かけ、遺書を認めた。ついに、出立の時だ。雲一つない快晴。宇宙が自分を歓迎してくれているかのようだった。
今回の任務は、マウニへの物資補給の後、滞在してマウニ側の補給部隊長として、地球側に連絡を送ることだ。
それにマウニには、父もいる。不安はあるが、父との再会は楽しみでもあった。隊長に出陣式で渡された部隊全員の集合写真を胸ポケットにしまい、機体に乗り込む。
「では、行ってきます。」
機体は宇宙に向かって、前進し始めた。
隊長の表情が、悲しそうにしていたのは気のせいか。
今回の任務には、俺を隊長にして同期のコウサカとカツギがサポートについている。空軍最強と言われている戦闘機乗りが二人もいる。こんなに心強いことはない。
この二人も惑星ヘヴンでの戦いに招集され、中継地点であるマウニで新型兵器のパイロットとして、選出されている。
宇宙空間に出た。エンジンブースターに点火する。
かつて青い惑星と言われていた地球も今では、すっかりくすんでしまっているのが目に入る。
ふと未確認人型生命体も、かつて故郷を失われたのか考え、我々と同じような境遇なのかもしれないなと思った。
カツギとコウサカは、未確認人型生命体についてどの程度知っているのか聞いてみた。俺もセンダ大佐の残していたログの内容。未確認人型生命体のことをディファレンズと呼び、彼らを倒すためには、現状、冷却して破壊するか、熱して蒸発させることが有効だとされていることは知っていたが、それ以上は知らない。
二人によると、ディファレンズは液状の体を持ち体形を変化するだけでなく、硬化して攻撃できるらしい。硬化した体は鉄を貫通するため、注意が必要とのことだった。
戦闘機の操縦ができなければまともに戦えない為、二人が選ばれるのは必然だと実感した。
前方に半月型の戦闘衛星マウニが見えてきた。人類の叡智を人類の希望の為に振り切って作った巨大な軍艦は、ゆっくりと惑星ヘヴンの衛星軌道上を運航している。いつでも戦う準備はできているかのようだ。
船体の上部に到達し、船内に降りていく。
物資運搬任務は完了した。
機体を降りると、ナカタニが待っていた。マウニに俺が到着することを知って、出迎えにきたらしい。コウサカもカツギと共に新兵訓練を受けた同期の再会は喜ばしいことだった。
ナカタニは、あどけない表情を残しつつも、輪郭ははっきりとしているし、すっかり大人の女性としての魅力を醸し出してた。
俺は少し照れながら、コウサカとカツギと共に望遠デッキに通された。
「今日は少し雲があるけど」といいながら、ナカタニは窓の外を指さした。
目に写るのは、宇宙空間に広がる無数の星々と澄んだ青い星。
これが惑星ヘヴンか。圧倒されて、三人共声が出なかった。
「綺麗だ」その場にいた誰かが発した一言は、皆の総意に違いなかった。同時にこの星を俺たちはもう少しで戦場に変えなければならない儚さがあった。
滅びの運命を変えるためにも、立ち向かわなければならない。俺は眼下に見える青い星に決意を誓った。