第三話『宣戦布告』
けたたましくなる音。招集の合図だ。
今日は元帥演説があると、モリ先輩が言っていたが、こんなに早いとは。
時刻を見ると、朝の四時半だった。
眠たい顔を叩き起こし、戦闘服に着替え、急いで大広間に向かう。
もうすでに8割以上が整列しており、出遅れていた。
大広間に設置された壇上には、軍服姿の元帥。そして、元帥の左右には全員が揃うことは非常に珍しい四大将が並んで立ち、鋭い眼光でこちらを睨んでいる。
場にいる四大将、そして軍服姿の元帥を見た兵たちはこの招集が非常に意味のあることだと察しているようだった。
宇宙防衛兵部隊長である父の姿が見えた。父は、隊員を整列させその時を待っている。
俺も早く自分の所属である補給部隊の元に行かなくては。
「こっち、こっち、ヨウタ。遅いわよ」モリ隊長に叱責された。
モリ隊長は、父と同期らしく仲良くしている様子を何回も見た事がある。
俺には母がいない。なんでも、俺を産んでから亡くなったと聞いた。資源が乏しい今の地球では医療もまともに受けられず、出生率も年々減少している。母は、その犠牲者とも言えるのかもしれない。
母がいない俺を心配してか、モリ隊長は俺が小さい頃から、よく家に遊びに来てくれた。俺にとっては母と同じ存在だ。だkらか、部隊内でも下の名前で呼んでくる。
「早く並んで。」モリ隊長に急かされ、俺は列に加わった。
全員が整列し終わったことを見て、元帥が壇上から声を発した。
いきなりの招集にも関わらず、集まっていただきありがたく思う。君たちは私の誇りだ。
さて、本題に入ろう。
我々は十三年前、荒廃した地球に見切りをつけ、我が種族の命運をかけて、惑星ヘヴンに移住する計画を立案し、先発隊を送り込んだことは皆も承知であろう。その時の結果も。
あの時、公式には機体の不良による失敗と報道ではなされていたが、事実ではない。
未確認人型生命体との交戦があった。
そして、その当時先発隊隊長を務めていたセンダ大佐と隊員は未確認人型生命体によって殺されたのだ。
大広間には、声にはならないざわめきと動揺が広がっていた。
黙れ。大将が発すると場内は静かになった。
元帥、続きを。大将が促す。
うむ。すまない。我々はその報告を当時、先発隊として任務にあたったノボル軍曹から聞き、対策を講じた。そして、その計画を今日ようやく皆に発令する事ができる。
計画名は、「森羅万象」。我々は、もう一度、惑星ヘヴンに植民を試みるのだ。
そして、地球上のありとあらゆる生命・環境を惑星ヘヴンで復活させる。
地球で安全に暮らせていた、あの輝いていた時代に戻るのだ。
この計画には、我が軍の総力をあげて立ち向かわなければならない任務なのである。
センダ大佐は人型未確認生命体に殺されるまでに、ヘヴンの詳細な地形データ、土壌サンプル、植生などを我々に置き土産として残してくれていた。そこからわかるのは、惑星ヘヴンこそが我々にとっての天国であると言うことだ。
この惑星を逃す手はない。我が人間という種族が永久に繁栄を続けるにはそれ以外の道はないのだ。
私ムネモリはここに宣言する。我が軍は、十三年の時を経て、惑星ヘヴンに宣戦布告すると。
これが我が民族の生き残る道だ。皆もその礎となってくれ。
民族の誇り、そして、天国への切符を掴もうではないか。
戦闘準備にかかれ。以上だ。
元帥の話には、熱がこもっていた。これ以上、人間を失いたくない思いがあった。
皆が徐々に戦士の顔になっていくのがわかった。
そこからは、あまり記憶に残っていない。
元帥の次に、大将が作戦について説明していた。俺が何不自由なく暮らしていた十三年間に惑星ヘヴンの衛星軌道上には、父が指揮する宇宙防衛兵は前線基地が建造されていた。
建造された前線基地はマウニと呼ばれ、三日月のような形に巨大な主砲がいくつも惑星ヘヴンに向いていた。そして、マウニにはアカツキ工業が新兵器の実験を行なっているという噂が地上にも届いていた。
最近は、父とも会わない日が続いていた。父は今、何をしているのだろうか。ふと、物資の数を検査している時に窓を見上げた。
空にはぼんやりとした三日月が浮かんでいる。