第二話『限界の先に』
同時刻、司令室にて。元帥ムネモリは窓際に立ち、訓練兵の様子をみていた。今年の訓練兵も目立った者は特にいない。溜息をつき、日課であるお気に入りのコーヒーを淹れる。
我が国。いや地球の状況は、刻刻と悪化の一途を辿っている。無計画な人口爆発。経済成長のための環境破壊。それらが要因となり発生したここ五年間の食糧危機。
研究開発班ニニギ博士の試算では、あと十年も地球で生存することは不可能だろうとのことだった。
それまでになんとしても、惑星移住計画「スペースヘヴン」を成し遂げねば。
今日は、先発隊の帰還日だ。この成果によって我々の進んでいく方向が定まる。ベルがなる。
「ムネモリだ。どうした。」
砂嵐のような回線の悪さ。おそらく帰還途中に報告してきているのだろう。
「隊員一名死亡。隊長含む三名、未確認生命体と交戦。以後不明。」
通信兵から短く伝えられたのは作戦の失敗を告げるメッセージだった。
「了解した。詳細は後ほど聞く。安全に帰還せよ。」
ムネモリは、電話が終わると直ちに四大将に招集をかけた。
「ハッチオープンします。」ヘリポートがようやく見える。
地球に帰ってきたことを実感した。満タンに詰めたエンジンもほとんど空になって給油ランプが点灯していた。コックピットから降り、足で地面を踏んだ。地球に帰還したのだ。
ボロボロの機体にこびりついた植物の緑色液が動乱の様子を物語っていた。
惑星ヘヴンで見た光景は、惨劇だった。
突如として現れた人型の生物。
あれを屠らなければ、我々種族の未来はないと瞬時に理解した。有効策も見つけられず、隊長と隊員を死なせてしまったことは悔やみきれない。
このことをなんとしてでも元帥に報告しなければ。
「軍曹こちらへ元帥がお呼びです。」モリ一等兵に呼ばれた。
「モリやん。ちょっと見ん間に綺麗になったんちゃう? 後、軍曹なんて呼び方やめてくれよ」モリは訓練兵時代からの同期だ。今は内勤だが、家が空手の名家ということもあり、男勝りな性格で真っ先に戦場に行きそうなタイプの女性だ。
「軍曹、それセクハラだぞ」モリは笑いながら、バシバシ肩を叩く。結構痛い。
深紅の絨毯が続く廊下の先に元帥の部屋はあった。
鋼鉄の扉を三回ノックすると、中から入りたまえと言う言葉が聞こえた。中に入ると、元帥以外に四大将も勢揃いしていた。
「先発隊 軍曹ノボル 只今帰還いたしました。」
「報告頼む。」元帥が口を開いた。
私はそこから二時間ほど、状況説明と成果と交戦の記録について話し、元帥と大将たちの質問に答えた。
報告が全て終わったときには、すっかり夜になっていた。
司令室の前には、モリが待っていて、またご飯でも行こうと声をかけてくれた。
今回の作戦を元に、元帥は惑星ヘヴンに対して宣戦布告しようと考えていると報告しながら察した。
次の出撃までに戦闘機の腕を上げなければならないなあ。そんな風に空に浮かぶ星になった英霊たちに祈るのだった。
ノボルの報告を聞いた後、元帥ムネモリは大将達に戦争の準備と「森羅万象計画」を発動させるように命じた。
大将たちは、自分の領土に帰って行く。
元帥は大将を部屋から見送り、窓から星を見上げ、不敵な笑みを浮かべていた。
それはまるで、星を手に入れる野心を露わにした狡猾な獣のように。