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神奇世界のシグムンド  作者: 上川 勲宜
第2章 銀腕の戦士
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第1話 乙女の争奪戦

 カーテンの隙間から差し込む朝の陽光で、真道志具は薄らと瞼を開けた。開けた際、光が眩しくて目を一瞬細めたが、後に慣れて視界が良好となる。


「朝か……」


 ぼそりと呟く志具。


 今日もまた、騒々しい一日が始まるのか……。


 そう思うと、気持ちがげんなりと沈む。少し前まで、静かで平穏な毎日を過ごしていた彼にとって、ここしばらくで変化した日常は、精神的についていけていなかった。


 町で起きていた連続辻斬り事件。その犯人が自分のことを慕ってくれていた後輩だったのは、少なからず志具の中では衝撃的なことだった。


 事件を解決して以来、後輩――玖珂なずなとは会っていない。心配になって一度、彼女のクラスまで行ったことがあるのだが、クラスメイトの話では、ここのところずっと休んでいるらしい。……まあ、事件が起きてまだ一ヶ月どころか一週間程度しか経っていないから、当然と言えば当然か。あれだけの騒動を起こしたのだ。反省する点もあるだろうし、なにより、自分たちに会いに行きづらいのかもしれない。


 だが志具自身も、その環境の変化に慣れようとがんばっているほうだ。


 両親が行方不明と知り、町で起きていた事件を解決した志具は、本格的に魔術師たちの世界に足を踏み入れようと決意した。理由は色々ある。そうすることで両親の行方を掴めるかもしれないという期待や、自分が狙われているとわかった以上、なにもせずにいることがたまらなく嫌だったということ……。


 ……いや、違う。一番の理由はたぶん、魔術師になることで見えてくる未来に、期待があったからだ。そこにいれば、新たな何かを見つけ出すことができるのではないかと、そういう期待が……。


 ……と、いつまでもこうして寝ているわけにもいかない。思った志具は身体を起こそうとした――そのときだった。


 ――……ん?


 なにか、視線を感じた。


 視線が自分に向かって突き刺さっている。


 誰の視線だ? ここは自分の部屋。自分ひとりの場所だ。視線を感じることなどないはずなのだが……。


 恐る恐る志具は、首を横に向けた。


「――よっ」


 目と目が合った。


 なぜか自分の隣には、少女がひとりいた。


 朝日によって眩しく輝く明るい茶髪、快活で小悪魔的な意地悪い光を宿した瞳、整った容姿……。はっきりいって、美少女だった。


 その美少女は志具と目が合うや否や、相好を崩し、声をかけてきた。


 思考停止。突然のアクシデントに志具の頭は追いつかなかった。


 やがて凍結した思考が、徐々に回転し始める。そうなることで、現状が徐々に把握できてきた。


 万条院ななせ。志具を護るために家に押し入ってきた、志具の許嫁を自称する少女だ。


 布団が少しめくり上がっていたのでわかったのだが、ななせの衣類は乱れていた。はだけているせいで、ななせの健康的な眩しいやわ肌が、志具の目に入ってくる。なんというか……魅力的だった。


 ……と、見入っている場合ではない!


「――ちょっ!? どうしてここに!」


 仰天した志具は、飛び上がるように身体を起きあがらせ、かけ布団をななせにかぶせる。……が、ななせはその布団を足元に追いやり、志具に接近する。


「どうしてとは失礼だな。昨日、あんなに愛し合った仲だというのに」


 蠱惑的に胸元を強調するななせ。下着を着けていないのか、はちきれんばかりのばかりの胸が、志具を誘惑する。胸元を自発的に見せつけているのに、頬を紅潮させているのが、なんともななせの魅力を増大させていた。


 ――夜の間に何かやったのか、私は?


 混乱する志具。……が、てんで心当たりがない。


 混乱しているのをいいことに、ななせはさらに言葉を紡ぐ。


「昨晩のお前は本当に逞しかったぞ。普段のお前からは想像がつかないほどに野性的で本能に忠実で……。――いやぁ~、普段理性的な人ほど、ベッドの上ではああなるものなんだなぁ~」


「そんなことやっていない!」


「本当に?」


 そう訊かれると、一瞬躊躇してしまう。本当に自分は何にもしていないのだろうか、と。


 だが、ななせの瞳の奥の悪戯な光を、志具は見逃さなかった。


「本当にだ! ――と、とにかく万条院! 早く服を整えろ! 異性にそんなあられもない姿をさらして、恥ずかしくないのか?」


「だって将来夫になる人だからな、志具は。こういったサービスを、今のうちにしておくのも、許婚の務めというものさ」


「恥ずかしがっていただろ!」


「それは仕方ないだろ。あたしだって、誰それかまわず見せるわけじゃないんだからな。お前は特別だ。と・く・べ・つ」


 そう言って胸を突っ張って志具に密着させようとする。……が、志具はそれを阻止。ななせの両肩を両手でがっちりホールドし、それ以上近づかないようにさせた。


「なんだよ~。許婚の挨拶おっぱい、触りたくないのか~?」


 不満なのか、唇を尖らせるななせ。


「だから、そんなことをむやみやたらにするなと言っているのだ!」


「気にすんなってぇ~。あたしが許可してるんだ。――揉め!」


 ななせは不意に、志具の片手を掴むと、それをおもむろに自身の胸に押し当てた。


「なっ――!?」


 唐突の行動に、志具は回避行動がとれなかった。彼の手のひらに、柔らかい感触……。


 ――うわっ、柔らかい…………。


 程よい弾力、吸いつくような感触。どんな高級な枕や布団も、この柔らかさ、ふわふわさには叶うまい。


 思わず二、三度揉んでしまう。……が、すぐに我に返った志具は、すぐさま手を引っ込める。


 女性の胸を無遠慮に障ってしまったということから、恥ずかしさで顔を赤く染める。


 そんな志具の様子を見て、満足そうに白い歯を見せて笑顔を見せるななせ。


「どうだ? 感想は?」


「ノーコメントだっ!」


 からかい気味に訊いてくるななせに、志具はぶっきらぼうな言葉を返した。それで十分なのか、ななせは「キシシ……」と笑うと乱れた服装を整えた。


「それで、君はどうして私の部屋に来たんだ?」


 このままでは彼女のペースに呑みこまれてしまうと感じた志具は、とっとと用件を訊く。


「おっと、そうだそうだ。そういえば朝立ちを確認するために来たんだよ」


 ジトッとした目の志具。本人は無意識だったが、その瞳には冷たい殺気が立っていた。


「いい加減、怒っていいか?」


「冗談だって、冗談。…………二割ほどだけど」


「残りの八割は本気ってことではないか!」


 あはははははは…………!


 愉快そうに笑うななせ。対して志具のテンションは、反比例するかのように減退の一途を辿っていた。


「まあ、それはそれとして志具。朝食の準備ができてるから、早く着替えて降りてこいよ」


 十分からかって楽しんだのか、やがてななせはそう一言言い残すと、志具の部屋から退室していった。


 ななせが出ていき、静まり返った部屋で、志具は「はぁ~」と深いため息。


 一晩寝てなくなったはずの疲れが、先程のやり取りで全部戻ったかのような気分だった。



――――◆――――◆――――



「どうしたの、志具君」


 登校し、自分の席に着き大きく息を吐いていた志具。そんな彼に言葉をかけたのは、マリアだった。


 艶やかな金髪、穏やかさが現れている瞳に、日本人離れした綺麗な顔立ち。


 大導寺マリア。初等部からの付き合いで、志具にとって幼馴染と言える存在だ。


 そのこともあってか、マリアは志具の心の機微を敏感に感じ取っている。……まあ、今回の場合は、身近に付き添っていなくとも志具の様子がおかしいことは、誰が見ても明白なわけだが。それほどまでに、志具はげんなりとした様子を、表に出していたのだ。なまじ志具は普段、感情をストレートに出そうとしないので、なおさらのこと目立つのだ。


 幼馴染みの温情に満ちた言葉に、志具は言葉を紡ぐ。


「いや……。まあ、色々あってな……」


 その言葉に、マリアは「ああ……」とどこか納得した様子。彼女も、志具の苦労がどれほどのものか、おおよそ察しているのだ。すべてを言わずとも、こうして通じてくれるのは、なんともありがたい。


「……ま、まあ志具君。そんなに気を落とさないでっ。わたしにできることがあるなら、なんでもしてあげるから!」


「……ありがとう。その気持ちだけでもうれしいよ」


 マリアの心遣いに、志具は微笑みを浮かべる。もっとも、その微笑みはなんとも力強さがなく、風が吹けば飛んでいきそうなほどの儚さがあったのだが……。


「それにしても、志具君がこんなにもうなだれるだなんて……。いったい何があったんだろ……」


 と、マリアは考え始める。正直、あまり深入りしてほしくないことなんだが……、と志具は思うが、マリアのそんな献身的なところは、素直にありがたかった。


「おっ、マリア」


 と、そんなところに、先程までどこかに出かけていたななせと菜乃が、志具とマリアのところにやってきた。


「ななせさん。いったい志具君に何したの?」


 マリアは、自分で考えるより、当事者に訊いたほうが早いという結論に達したようだ。自分たちのもとにやってきたななせに、開口一番、そのような質問を口にした。


 しかし、ななせからしてみれば、唐突な質問だったので、目を丸くさせて首を傾げるばかり。


「何したって?」


「志具君、ここに来てからずっと疲れ気味だよ。ななせさんがなにかしてるんでしょ?」


 マリアの険の込められた言葉に、ななせが「それは――」と答えようとしたところ、菜乃に手で制される。


「お嬢様。ここはわたしが」


 と、軽くウインクする菜乃。この瞬間、志具は悟った。これはろくでもないことになるぞ、と。


 志具の危機感をよそに、菜乃が開口する。


「マリア様。志具様がどうして疲れ切った様子でいられるのか、その理由が知りたいのですよね?」


 うん、と頷くマリア。


 すると菜乃は、みるみるうちに顔を赤らめ始めた。頬に手をあて、まるで恥じらう乙女のよう……。


「もう……マリア様。わたしとて年頃の娘なのですよ? そんなわたしに、あんなことを言わせるつもりなのですか?」


「な、なに? そんな恥ずかしがるようなことを、志具君にしたの?」


 声に戸惑いを滲ませるマリア。菜乃に同調するように、マリアの頬がほんのりと赤く染まり始める。


「仕方ありませんね。マリア様がよくご理解できるように、あのときことを話しましょう」


「い、いや待て花月。ここは私が――――むぐっ!」


 志具がこれ以上の騒動はごめんだとばかりに口を開いたところ、ななせに手で口を封じられる。ななせの表情は、悪戯を思いついた悪ガキのそれだった。


 ななせの瞳は、小悪魔的な光を宿して、菜乃にアイコンタクトで指示する。――話を存分に盛れと。


 こうなれば、あることないこと――八割九割がないことだが――をマリアに吹き込むに違いない。


 ななせの手をのけようと志具はするのだが、思いのほか力が強い。同年代の男子のそれを軽く上回っているかと思うくらいに。


 なるほど……。仮にもななせは、危険な裏社会で活躍する者。やわな鍛え方はしていない、ということか。あるいは、魔術的ななにかで、身体強化をはかっているのかもしれない。


 こうしている間にも、菜乃はマリアにでたらめなことを吹きこんでいた。


 昨晩、志具様とななせ様が熱い男と女の契りを交わした、とか。


 ななせ様曰く、ベッドの上では志具様は野性的になる、とか。


 今朝、ななせ様は男性特有の生理現象を治めるために、一役買った、とか。


 家では二人は、蜜月の限りを尽くしている、とか。


 学園にいるときの二人の態度は、ただのポーズだ、とか。


 志具にしてみれば、ないことだらけの嘘八百を並べ立てていた。


 こちらの騒動を察知し、聞き耳を立てていたクラスメイトーー男女問わず――が、菜乃の話を聞いて、ある者は赤面し、ある者は呆然とし、ある者は憤怒――主に男性陣から志具に向けての――の感情をあらわにしていた。


 菜乃の話をじかに聞いているマリアの表情は、それはもう茹でダコすら生ぬるいとばかりに紅潮しまくっていた。時折向けられる、捨てられた子犬のような悲しい眼差しが、志具には辛い。


 ……い、いかん! このままでは私の平穏な学園生活が……っ。


 ななせたちが来てからというもの、ガラガラと音を立てて崩れ落ちているそれが、このままでは見る影もなくなってしまうと危機感に駆られる志具。火事場の馬鹿力でななせの手を払いのけると、菜乃とマリアの間に割り込んで、マリアと面と向き合う。


「し、志具君……」


 マリアは眦に涙を存分にため、今にも決壊寸前だった。


「マリア、さっきのは全部嘘だ! 嘘なんだ! 私は断じてっ、そのような行動に耽ったことはないっ!」


 周りに聞こえるように、声をダイナミックに上げ、身の潔白を主張する志具。


「ほ、本当に?」


 そうであってほしいと、懇願するようにマリアは訊く。志具は「本当だっ!」と語気を強くして即答した。


「そ、そうだよね。志具君、そんなこと、まだしないよね?」


 まだ、というところがいささか引っかかるものがあったが、志具は首を縦に振った。するとマリアは心底よかったぁ~、とばかりに大きく息を吐いた。誤解が解けたようでなによりだ、と志具。


「そういえばななせ様。さきほどどこに行ってたのか、志具様にご報告しませんと」


「おお。そうだったな」


 思い出したような調子のななせ。


 ……いや。「思い出した」というよりは、「思いついた」といったほうが適切か。志具は二人の瞳の奥に潜んだ不穏な光を見逃さなかった。


「実はさっき、お手洗いに行ってたんだ」


「そんなこと、いちいち報告しなくていい」


 これ以上話をさせてなるものかと、志具はぶっきらぼうな言葉で遮断しようとした。……が、志具の言葉なんぞ却下とばかりに、無視された。


「それで、そのときにわかったことなんだけど……」


 と、ななせは不意に頬を朱色に染め、もじもじとし始める。


 普段の彼女なら、絶対にしないであろうその行動に、志具は思わずときめいてしまった。……が、すぐにかぶりを振って考えを改める。


 この女に油断してはならない。油断したら最後、骨の髄までおいしくしゃぶられてしまう。


 思い、次なる攻撃に身構える志具。なにも構えないよりかは幾分マシだ。


 そして放たれたななせのは、



「――実は私……できちゃったの……」



 ピシッ…………


 一瞬にして静まり返る教室。凍てつく時間。


 予想を超えたダイナミックな発言に、志具の思考すらも絶対零度で凍りついた。


 できちゃったの……、という言葉が、頭の中でリフレインされる。


 ――って、


「そんなわけあるかああああぁぁぁぁ――――!!」


 志具の魂の叫び。これまでの人生の中で、一番の声量だったかもしれない。


 静寂を突き破るようにして放たれたそれで、クラスメイトたちの金縛りも解けた。そして、口々に言う。


「び、びっくりしたぁ~」


「そうだよね。さすがにそんなことありえないよね。真道くん、しっかりしてるし」


「さすがに嘘だよね。……ね?」


 ななせの爆弾発言はどうやら、大爆発はしなかったようだ。その多くが、ななせの言葉を偽と見抜いたものだった。


 ただひとり、真に受けた人がいたが……。


「し、志具君……」


 ハッと志具はマリアを見ると、彼女はぼろぼろと涙をこぼしているところだった。一時気を緩めての一撃だっただけに、ショックも大きかったのだろう。


「ま、待て、マリア! 私はなにもやっていない!」


 弁明する志具。


 だけどそんな言葉は、マリアには届いていない模様。身体をぷるぷるとわななかせ、


「志具君の…………ムッツリスケベ大魔王――――――――!!」


 志具に背を向け、全速力で教室を出ていく、マリアであった。



――――◆――――◆――――



「まったくもう……。ななせさん。いくらなんでも、ついていい嘘と悪い嘘の区別をつけるべきだと思うよ」


 昼休み。いつもの屋上で昼食をとっている一同。誤解が解けたマリアは、口をとがらせてななせにそう苦言を呈した。


 ななせは「悪い悪い」と謝辞を述べていたが、志具にはわかる。この人はまったく反省していないな、と。


 結局、マリアの誤解を払拭するために、午前中いっぱいまでかかった。そのときの志具の苦労と言えば……筆舌に尽くしがたいところがあった。


 休み時間ごとにマリアに会いに行っては誤解を解こうとした志具だが、初めのうちはまともに話すら聞いてもらえない状態だった。志具が話しかけようとすると、じんわりと目に涙を浮かべて無言で立ち去るのである。そんなマリアにもめげず、努力した志具。そうすること三時間目と四時間目の休み時間のとき、ようやく納得してもらえたのだ。


「そういえば、もうすぐゴールデンウィークだな~」


 菜乃が用意してくれた重箱――志具とななせと菜乃の三人分の量が入っている――に入っている料理をつまみながら、ななせはふと思い出したように言った。


 ゴールデンウィークか……。


 今まではひとりだったが、今回は違う。なにせ、居候が二人も増えたのだから。志具のここ数年のゴールデンウィークの暮らし方は、至って平坦なものだった。友達と遊びに行ったり、学割が利く旅行に行ったり……。そういったことは一切していない。家で学校の勉強に勤しみ、それでも暇なときは本屋に行って立ち読みしたり……といったことをしていた。正直、同年代の若者と比べれば、青春をまったく謳歌していない休みの過ごし方だった。


 そもそも志具は、友達というものが少ない。別に嫌われているというわけではない。頭脳明晰、運動神経も悪くなく、容姿も怜悧さながらに整っている。話かけられれば対応するし、問題行動を起こしたこともない。原因は、志具からは人を寄せ付けないオーラが出ているように他者から思われているからだ。そのため、志具に近づく人はというと、初等部からの知り合いであるマリアくらいしか、寄り付かなくなった。


 こうして考えてみると、自分はつくづく、灰色な人生を送っているなぁ、と志具は思う。……まあ、色々な意味で、ここ最近はそういった人生ともおさらばするようなことになっているが。


「ゴールデンウィーク、楽しみですね~、お嬢様。――して、なにをなさるおつもりで?」


「決まっている。あたしと志具の仲をより親密にするための時間にするんだ!」


 菜乃の問いかけに、ななせはそう語気強く宣言した。


「し、親密にするって……具体的には、どういったことをするつもりなのかな?」


 ななせの宣言に気押されながらも、マリアは尋ねる。


 するとななせは、「ふふふふ……」と、含み笑いを漏らし始める。口元が不吉に歪み、彼女がいかなることを考えているのか、容易に想像できた。


「教えてほしいか~?」


 ニヤニヤと笑みを浮かべているななせ。


 マリアはというと、コクコクと首を縦に振って、肯定。眉を緊張に引きしめ、ななせの一字一句も聞きのがすまいと必死の様子だ。


「そうか~。教えてほしいか~。――――だが断る!」


「なんで!?」


「なんでってお前、わざわざライバルに、自分の手の内を明かす必要はないからさ」


「ラ、ライバル……」


 マリアはちらっと志具を一瞥する。その視線に志具は、不穏なものを感じ取った。たとえるなら、まるでゲームの景品を羨ましげに見るような、そんな視線……。


 自分はどうやら、知らず知らずのうちに『狩られる側』に追いやられつつあるようだ。


 以前も感じ取っていたその予感が、徐々にその鮮明さを顕わにしていた。


 それにしても、だ。


 先ほど二人が言っていた、『ライバル』とは、いったい何のことを指しているのだろうか。ななせの一方的なものと思っていたが、どうやらマリアのほうも、その言葉を意識しているようだし……。


 ななせとマリア。両者が自分の知らないところで何かを競い合っていることは明白だ、ということを、志具は察知する。


 ……まあ、なんにせよ、こちらに飛び火しないことを祈るまでだ。


 争いの渦中にいることを自覚できていない志具。こういうところが周囲から鈍いと言われる所以であるのだが、本人は知らない。なにせ、鈍感なのだから。


「まあ、断片的ワードだけ挙げるとすれば……ホテル、ベッド、イン、と言ったところか」


「ホ、ホテル! ベッド! イ……イイイインン!?」


 口をわななかせ、顔が徐々に熟れたトマトのように真っ赤に染まっていくマリア。もとが肌白いため、その様はより顕著だった。


「そ……そそそそんなの…………ゆ、許しませんっ! 神が許しても、このわたしが許さないからね! こ、……高校生同士がその……ベ……ベベベッドでインするなんて…………は、早すぎるよぉ!」


「おやおや~? なにを考えているのかね~、このお嬢さんは。あたしはただ旅行に行ってホテルに泊まって、ベッドに入ってゆっくり身体を休めたいっていうつもりで言ったんだけど~」


「なっ――!」


 喉に何かつっかえたように、言葉を詰まらせるマリア。今やマリアは、頭から湯気が出てもおかしくないくらいに顔を真っ赤にさせている。


「ふふふふ……。むっつりスケベなんだなぁ、マリアは」


「ち、違うもん! わたし別に、変なこと考えてないもんっ!」


「じゃあ、さっき自分が考えたことを言ってみせてくれよ」


「そ、それは……」


 マリアは志具を見やる。……が、志具と視線が合うと慌てて目を逸らした。


 助け船を出すか……。


 どうやらマリアひとりでは、ななせの攻撃を捌ききれないらしい。この辺りで援護を出すほうがいいだろう。


「万条院。人をからかうのもほどほどにしろ。泣かせて傷つけてしまってはただのイジメだぞ」


 志具がやや険を込めた調子で言うと、ななせは「はいはい」と素直に従った。


「志具君……。ありがとう」


「別に、礼を言われることではないさ。事実を言ったまでなのだから」


 平然と言ってのける志具。そんな志具の優しさに触れ、マリアは表情を穏やかにさせる。


「そ、それで……志具君は、どうなのかな?」


「なにがだ?」


「旅行。志具君、ななせさんと一緒に行くつもりなの?」


 旅行か……。


 たしかに、気晴らしに行く分にはいいかもしれない。今までとは違ったゴールデンウィークを過ごすのは、いいリフレッシュになることだろう。


 ただ問題は、ななせと菜乃だ。


 ななせが旅行のプランを立てるとなると、どうにも嫌な予感しかしない。最悪、なし崩し的になにか不穏なことをやらかすとも限らない。菜乃もななせの味方である以上、助けは期待できない。


「ちなみに万条院。どこに行くつもりだ?」


「ん~、そうだなぁ……。とりあえずエデンでどうだ?」


「エデンか……」


 エデン。旧約聖書のアダムとイヴの楽園の名を借りたそれは、大阪府の湾岸に造られた、巨大海上都市の名前だ。


 近未来都市として知られ、日本……いや、世界の科学技術の粋を集めた場所。観光業が盛んで、島にはグエディンナと呼ばれるテーマパークがあり、季節を問わず人気の観光名所となっている。


「どうだ?」


「ああ。いいんじゃないか」


 関東に住んでいる志具としては、関西にあって行く機会のないエデンに旅行に出かけるのは、悪くないと思った。世界中の科学技術の粋を集めた人工島都市、興味がある。


 特に渋る様子も見せなかった志具の反応を見て、ななせは「よしっ」と満足げな様子。


「し、志具君! わ、わたしも一緒に行ったらダメかな?」


「マリアも?」


 突然、そのようなことを進言してきたマリアに、志具は驚く。


「おやおや~? マリアったら、あたしたちの関係に水差すつもりか~?」


 といいつつ、ななせは目にいたずらな光を宿している。


 からかっているな、マリアを。


 だが、マリアも意地悪いななせにひるまない。


「志具君とななせさんを二人っきりにさせたら、なんかその……不安だもん。ちょっと目を離したすきに既成事実を作っているとも限らないし」


「あらあら、既成事実だなんて……。嫌らしいですね~、マリア様ったら」


「本当は自分が既成事実をつくろうとしてるんじゃないのか~?」


 従者とその主が、一体となってマリアをいじる。


 マリアは頬をピンクに紅潮させながらも、反論する。


「ち、違うよっ! わ、わたしは別に……き、既成事実なんてつくろうなんて……」


 ちらりと志具を一瞥するマリア。そして、


「…………す、少ししか考えてないもん…………」


 顔を俯かせて、消え入りそうな、蚊の鳴くような声のマリア。そのせいで志具には、何を言ったのか聞こえなかったが、ななせは違うようだ。犬歯を見せてニヤニヤとしていた笑みを、一層濃くする。


「聞こえなかったぞ~、マリア。ワンモアプリーズ。大きな声で」


 その声で、ハッと我に返ったように表情を返るマリア。どうやら、自分がとんでもない発言をしたことに、先ほどまで気づいていなかったようだ。


 マリアは、先刻自分が言った発言を思い出し、顔を一層赤くさせるが、首がとれんばかりに左右に振ると、


「な、なんでもないよ! 何にも言ってないからっ! ――ねっ! 志具君! 志具君も、何も聞いてないよねっ? ねっ?」


 突然自分に話を振られて戸惑う志具。マリアからは有無を言わせぬ迫力が宿っており、抵抗はしないほうがよさそうだった。


 なので志具は、「あ、ああ……」と気押されながらも頷いた。


「ほらっ! 志具君もこう言ってることだし、わたしをいじるのはこれでおしまい!」


「でもマリア様。たしかにわたしは聞き――――」


「お・し・ま・い・な・ん・で・すっ! わかったかな! 菜乃さん!」


 眉を吊り上げ、菜乃に顔を近距離まで近づけるマリア。


 さすがにこれ以上はまずいと本能で察したのか、菜乃は目を丸くさせながら、「……はい」と了承をみせた。人間、追いつめられるとなんだってできるようだ。火事場の馬鹿力、のようなものだろうか……。


「それで志具君、どうかな? 一緒に行ってもいい? いい?」


 勢いそのままに、今度は志具に詰め寄るマリア。


 マリアとは長い付き合いだが、ここまでのマリアは初めてだった。


 普段見ることのできない親友の様に、志具はじりじりと後方に下がる。……が、その間を埋めるべく、マリアが前に詰め寄ってくる。


 マリアの目は真剣そのもの。そんなにエデンに行きたいのだろうか。


「……あ、ああ……。私は別にかまわないが」


 その真剣さを、志具は無碍にはできなかった。まあもともと、志具にはマリアが来ることに反対の意思はなかった。それに旅行先ともなれば、ななせと菜乃の二人に何されるかわかったものじゃなかったので、マリアはいい抑止力となってくれることだろう、という考えもあったゆえだ。


「なぁ、万条院もかまわないだろ?」


 とはいえ、念のために訊いておく必要はある。なにせ発案者はななせなのだから。


 ななせは、


「ああ、別にかまわないぞ」


 と、別段マリアが来ることに抵抗がない様子。……ただ、マリアの気迫に気圧され、ここで反論しようものなら何されるかわかったものじゃない、という恐怖心から渋々……という可能性も、捨てきれないが。


 かくして、旅行が決定した志具たちだった。



――――◆――――◆――――



 放課後。特に問題なく午後の授業を終えた志具は、帰りのホームルームを終えると、荷物を通学カバンにしまって、下校しようと教室を出る。早足で出ていこうとする志具の肩を、ガシッと掴む少女がひとり。


「……なんだ?」


 邪険に言い放ち、振り向く志具。少年が振り向いた視線の先にいるのは、案の定、ななせだ。


 志具とは正反対に、清々しい笑顔のななせ。その背後には、彼女の使用人である菜乃と、志具の幼馴染みのマリアがいた。


「一緒に帰ろうじゃないか」


「たまにはひとりで帰りたいんだ」


「ぼっち帰りなんて淋しいことするなって。せっかくあたしのような美少女が声をかけてるんだ。それに乗るのが男ってもんだろ」


「別に。ひとりで帰ってもいいだろう。四六時中カルガモの親子のようにベッタリと常に一緒にいるだなんて、息がつまりそうだ」


「――だってよ、マリア」


「な、なんでそこでわたしに振るのかな?」


 唐突にかけられたななせの言葉に、マリアは慌てる。


「いや~、だってマリア。あたしがいない前から、ずっと志具と帰ってるんだろ?」


「た、たしかにそうだけど…………で、でもでも、あのときは志具君、そんなこと一言も言わなかったし、さっきのはななせさん宛てにかけられた言葉だと思うよ!」


「いや~、わかんないぞ~。積もり積もってってこともありえる。日頃から思っていたことが、あたしと心を開いたがために、ついぽろっと本音がこぼれたのかもしれないぞ~」


「…………ほんとう? 志具君」


 ショックを受けたような顔のマリア。心なしか、眼に水気が出てきていた。


「ち、違うぞ、マリア。私はそういうつもりで言ったわけじゃなくてだな…………」


 その様子を見て、慌てて弁解しようとする志具。だが、下手な言い訳はかえって事態を混乱させかねない。


 志具はななせや菜乃を一瞥する。彼女たちの目は小悪魔のそれとなっていた。自分の言葉を変なように解釈して、状況を悪化させようとする気満々の、悪意あるトラブルメーカーのそれだった。


 失言しないように、あれこれと言葉を探す志具。だが、志具は元来、人づきあいが得意な方ではないため、口下手なところがある。ゆえに、言葉をうまく切り抜けるような、都合のいい言葉が探し当てられずにいた。


 あ~、とか、う~、とか唸っている間にも、マリアの眼にたまりつつある涙は、決壊寸前だ。やがて志具は、「はぁ~」と諦めの溜息をつくと、彼女たち三人と下校することに、決めたのだった。



――――◆――――◆――――



 下校時、ということもあり、下校ルートにある繁華街は、人で混み合っていた。


 そんな中、横一列に並んで下校というのは、周囲に迷惑であり、マナー違反である。ゆえに志具たちは、コンパクトに二人並んで下校していた。


 ただその際、問題になったことがひとつある。


 それは、『誰が志具の隣になるか』だった。


 最初、さぞ当たり前のようにななせが率先して、枠を取ろうとした。……が、それをマリアが許すはずがない。学校の正門の前で、二人は揉めることになった。


 下校時刻、それも生徒の往来が最も多い場所で騒動を起こされると、当然ながら人目につく。現にそうなった。


 迷惑さと好奇心さが入り混じった眼差しを向けられる一行。このままでは、あらぬ誤解が学内に知れ渡ることになってしまう。ただでさえななせは、転校してきたときに一騒動起こし、それがじわりじわりと生徒内に知れ渡りつつあるのだ。これ以上の騒動は、なんとしても避けなくてもならなかった。


 たまりかねた志具は、言い争うななせとマリアの間に割り込み、結果、じゃんけんで決着をつけろ、と案を出した。


 その結果――


「…………なぁ、万条院」


「なんだ?」


「その……なんだ。私の腕に身体を密着させるのはやめてくれないか?」


「でもそうなると、幅広く横に並ばないといけなくなるぞ。そうなるとほかの人の迷惑になるだろうが」


「それは……そうだが……。だが、もっとこう……適当な距離を取ってだな……」


「ヤマアラシのジレンマのように、くっついたり離れたりしながら、適度な距離をはかればいいだろ?」


「では今すぐ離れてくれ」


「却下」


 勝ち誇ったような様子のななせ。それを背後から恨めしさと羨ましさが五分五分の眼差しで見るマリア。そしてそんな三人を一歩引いたところで楽しそうに眺める菜乃。


 そう。じゃんけんの結果、ななせが勝利し、志具の横のポストを手に入れたのである。

志具の隣をまんまと獲得したななせは、ここぞとばかりに身体を密着させてくる。たわわな女性らしい二つのふくらみが志具の腕に押しつけられ、志具はどうにも気恥しかった。前方からすれ違う人や、後方から自転車で追い抜く人が、興味深そうな視線を一瞥してくるのが、たまらなく嫌だった。


「だ……だいたい、公衆の面前で、こういった行為は破廉恥だと思うんだ、私は。もう少し場所を選んでだな……」


「何言ってるんだよ。あたしたちのラブラブ加減を見せつけないと、カップルだと、認めてくれないじゃないか」


「誰に見せつけているんだ。だいたい、私たちはカップルなどではない! 断じて!」


 言葉に熱を込める志具。その背後では、うんうん、と熱心にマリアが頷いていた。


「それじゃあ、何をしたらあたしのことを恋人だって、認めてくれるんだ?」


 それは……、と志具は言葉に詰まる。正直、そのようなことを訊かれても困るというものだ。なにせ志具にとってしてみれば恋愛なんぞ、最も縁遠いものだったのだから。


「…………し、知らん!」


 答えに窮した志具は、そうぶっきらぼうに言い放った。するとななせは、笑みを一層強くさせてみせると、


「じゃあ、離れてやらな~い♪」


 志具の腕に、より一層くっついてきた。無理やり引っぺがしてやろうか、と志具は考えるが、それは無理そうだ。少女の力とは思えないほどに強く、ななせは志具の腕を掴んでおり、引っぺがそうとするもんなら、腕ごともって行かれそうだった。


 勝ち誇ったような笑みのななせに、志具はやれやれといった面持ちで首を左右に振る。せめて人通りの多いここから、一刻でも早く抜け出そうと、志具は歩みを早くする。


 ――と、そんなときだった。


「そこの君」


 自分に似向けられた言葉だとわかった志具は、歩みを止め、声のした方向へと視線を向ける。


 視線を向けた先。そこにいたのは、なんとも涼しげな容貌をした外国人だった。


 腰辺りまで伸びた金色の髪に、涼しげで怜悧そうな容姿。瞳はルビーのように紅く、スラリとした長身痩躯。歳は二十代くらいだろう。その青年はまるで、一枚の美麗な絵画のように、美しかった。

 青年は厳しい視線を、志具に向けていた。誰だろうか、と志具が思っていると、青年がズンズンと志具に近づいてくる。ただならぬ雰囲気を感じ取ってか、ななせは表情を引き締め、志具に抱きつくのをやめる。


「どうかしましたか?」


 会話できるほどに接近してきた青年に、そう言葉をかけたのは、ななせだ。


 すると青年は、厳しい相好を崩した。すると、穏やかな口調で言う。


「いやいや。お嬢さんに用はないんだ。僕が用があるのは――」


 と、青年は志具へ、非難の目を向けた。どうやら、彼が用があるのは、自分だけらしい、と志具は把握する。


 志具が何か言おうと口を開こうとするが、その前に青年の言葉が遮った。


「君! いくらその娘と仲がいいからって、公衆の面前でいちゃつくのはやめたまえよ!」


 は? と志具は口を半開き。呆気にとられている志具に、青年はさらに言葉を続ける。


「もう少し周りを見たらどうなんだ。君の軽はずみな行動のせいで、みんなが迷惑しているのがわからないのか」


 どうやら彼は、自分と万条院の先ほどの行動を非難しているらしい。志具としては、彼と全く同じようなことを考えていたので、言い訳ができなかった。


「すみません。以後、気をつけます」


 軽く頭を下げ、謝罪する志具。


「謝るくらいなら、初めからそんなことしなかったらいいんだ。どうせ心の中では、悪かったなんて微塵も思っていないんじゃないのか?」


 その言い方に、志具は少しカチンときた。たしかに悪かったことは認める。……が、自分の心の内まで勝手に解釈されて怒られるのは、どうにも理不尽だと思う。


 そう思い、言葉にして言い返してやろうかと思った志具。だがそれは、ななせの言葉によって遮られた。


「生憎だけど、こいつを非難するのは筋違いさ。だって、彼の腕に好き好んで抱きついていたのは、あたしなんだからな」


「なっ……ん、だと……?」


 ななせの言葉に、衝撃を受ける青年。しばらく呆然としていたが、かぶりを左右に振ると、再び志具に向き直り、


「い……いや。悪いのはこの少年だ! 周囲に見せびらかすようにイチャイチャして……なんてうらやまし……否っ、なんてやつだ!」


 ……あれ?


 今さっき、本音が垣間見えたような……。


「と、とにかく! 僕は許さないからな! 人前でいちゃつきやがって! どうしても許してほしかったら――――」


 と、そのとき、青年の肩をポンと叩く人一がいた。


 ビクリッ、と青年の身体がこわばる。そして、ギッギッギ……、と油の切れたロボットのように、ぎこちない動きで青年は振り向いた。


「あ…………。おまわり、さん……」


 青年の肩を叩いたのは、繁華街をパトロールしていた警察官だった。肩を叩いた人とはほかにもうひとりいた。そのもうひとりの警官は、隣にいる若い女性と、なにやら会話している。時折青年を指さしたり、視線を送りながら、なにか確認を取っているようだ。


「あ、あの……。何の用、でしょうか……」


「いやなに。ここ数日、この繁華街に、若い女性に声をかけてはナンパを繰り返している不審者がいるということでな、調査しているんだよ」


 口調は温厚だが、警察官特有の、有無を言わせぬ迫力が、そこにはあった。


 やがて、確認が取れたもう一人の警官が近寄ってき、二三言葉を交わすと、


「あの……僕は決して怪しいものじゃ――」


「話はじっくりと署で聞こうじゃないか」


 そう言うと、青年の両肩を警官が二人ホールドし、そのまま引きずっていく。


「あっ、ちょっと待って! そこの少年に……モテロードを突き進む忌々しい少年にまだ言いたいことが…………」


 必死にじたばたともがく青年だったが、警官があらかじめ準備していたのだろう、路肩に停めていたパトカーに押し込まれると、そのまま連行されていった。


 ポカンとその場に突っ立っている志具たち。


「…………なんだったんだ?」


 やがて呟かれた志具の言葉に、ななせは「さあ」と、肩をすくめて言うのだった。


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