4話
アリシアに導かれるままに部屋を出ると、絨毯と照明に彩られた綺麗な廊下に出た。見るとそこらには他の部屋へと通じる扉がいくつも等間隔に配置されており、宿屋のような造りになっている。そんなことを考えている俺の表情を読み取ったのかアリシアが説明を始めた。
「ああ、お前の思ってる通りだよ。この建物は昔宿屋だったんだ。それをウチの団が買い取って団員みんなで寝泊まりできるようにしたんだよ。城に住むとかだりいしな。あんな王様とか私よりも地位が上の人間がごろごろ居る空間に住むとか耐えられん」
「そ、そうか……」
アリシアの言葉から垣間見える彼女の性格の悪さに若干引きつつも、後に続くと1つの部屋から子供ほどの背丈の少女がおどおどとした様子で出てきた。
「げっ……団長。おはようございます。新入りの子起きたんですね……」
「げっ、じゃねえよライラてめえ……ぶん殴るぞ。ほらランちゃん、挨拶しろ」
目の前にちょこんと立つ銀髪の少女に向き直り、俺はアリシアにしたように名乗った。見た目は10才かそこらにしか見えないが、この団に入っているということは18よりは上のはずだ。見た目は子供でも年は俺より上というパターンだろう。
「ラン君ね、よろしく。ワタシはライラ。こう見えて10才よ。よろしく」
「いやこう見えてってまんまだろ! ホントに10才かよガキじゃねえか――がッ……うッ……」
思ったことがそのまま口をついて出る、その瞬間にとてつもない力で後ろから首を絞められる。ライラが物凄い形相で俺のことを睨んでいた、子供扱いされたのがそんなに気にくわなかったのだろうか。薄れゆく意識の中で状況を整理する。
「ワタシは確かにアンタより年下だし、子供なのも認める。でもアンタよりも先にこの団に入った先輩だから。敬語。使え。いいな」
「ぶははははッ、ライラが怒った~ガチギレ~」
俺が今にも意識を失いそうになっているのにも関わらず、アリシアは笑い転げている。
――ということは、今俺の首を絞めているのは誰の腕だ?
「――そのへんにしておきなさい、ラターバ。珍しく団長が挨拶回りの仕事してくれてるんだから、気絶されたら面倒よ」
ライラが俺の背後の何かに話しかけた途端、俺の首を万力のような力で絞めていた腕が解ける。血がどっと脳へと流れるのを感じつつ後ろを振り返れば、ライラをそのまま大人にしたような姿の少女がそこに立っていた。銀髪は少しばかりライラより長め、身長も身体つきも大人の女性だ。表情だけが虚ろで、まるで生気が感じられなかったが。
「このラターバさん? てのはライラッ――ライラさんのお姉さんかなんかですか……? 」
「いや、それは――」
「――ワタシの友達よ。生まれた時からずっと。私たちは友達」
アリシアの言葉を遮るようにしてライラが言葉を紡いだ。
「そう……ですか」
質問を投げかけるのすら躊躇われるような雰囲気が流れる。察するにこのラターバとライラは一言では言い表せないような関係なのだろう。誰しも1つや2つ、人に言えないことがあるものだ。ライラへの挨拶をそこそこに済ませ、俺はアリシアと他の団員たちのところへ向かった。
「……気になるか? ライラとラターバの関係」
前を迷わず歩いていくアリシアが彼女らしからぬ真面目な口調で問いかける。
「言われなくても何となく察しはついたさ。ラターバってあの人は……ライラさんの異能だろ? 」
俺の回答を聞いてアリシアの歩みが止まり、振り返る。
「空気は読めよ、あの子の前ではな」
「ああ」
そのまま再び俺の前を歩き出しながら、彼女は続ける。
「まあアイツはラターバのこと、ただの異能だとは思ってねえんだ。ラターバって名前までご丁寧につけちまって……」
「ふぅん」
話が終わると、アリシアは一番奥の部屋の扉を勢いよく蹴り飛ばした。他の団員の部屋だというのに、全くと言っていいほど遠慮が無い。人格を疑う。
「げッ、団長……何しに来たんスかもう! しっ、しっ! あっち行け! 」
蹴り飛ばされた扉の向こうへと進むと、気弱そうな青年がコーヒー片手にくつろいでいるところだった。この青年もどうやらアリシアを毛嫌いしているようだ。至福の時間をこんなクソ女に邪魔されてなんと可哀そうな青年だろうか。
「新入りをわざわざ挨拶に連れてきてやったんだろうが……お前らちょっとは私に感謝しろよ」
「どうも、ランといいます。この女に負けてここに入りました。なんだか貴方とは仲良くなれそうです」
黒髪のその青年は、俺の挨拶に気を良くしたのか、笑顔で挨拶を返してくれた。
「おお……なんだか君は数少ない常識人な気がするぞ……ボクはルイスだ。よろしくね」
「貴方はおそらく苦労人なんでしょうね……」
俺とルイスはこの団で数少ない男同士、堅い握手をした。
「ルイスにはこの団のめんどくさい事務仕事やらなにやら全般をぜ~んぶ任せてる。彼の負担をこれからは君が半分肩代わりというわけだ、ランちゃん。頑張れよ」
アリシアが老人を詐欺にかける時のような下衆い表情で俺の肩に手をかけた。
「あらあらアリシアちゃん、その子が新人? 今度は自分好みのイケメンくんを入れたって訳ね」
声のする方に視線を向けると、アリシアとは比べ物にならないほど性根が腐っていそうな女性が壊れた扉の近くに立っていた。長い朱色の髪は後ろで一つ結びにまとめられ、その整った顔立ちとは裏腹に、今まで出会った人間の中で最もクソみたいな性格をしていると俺の第六感が告げている。
「んげぇッ、フェリ……」
あのアリシアが思わず声を上げてしまうほどの女だ、絶対にろくでもない奴に違いない。
「どうも新入り君、私はフェリ。アリシアとは子供の頃からの付き合いよ。よろしくね」