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3話

自然と瞼が開くと、白く光る魔力灯の光が目に刺さる。気づけば俺は知らないベッドに横たわっていた。後頭部にまだ少し鈍痛が残っていることから、あの試験からさほど時間は経っていないようだ。




 「お、起きたかランちゃん」


 起き上がってみるとベッドの淵に彼女が座っていた。あの決闘から服は着替えていないようで、彼女の服の左胸部分には俺の剣で突き刺した穴が残っている。そこから僅かに覗いて見える彼女の肌には、穴どころか傷も残っていなかった。


 「どうだ、()()()()()()()()をあと一歩のところまで追い詰めた気持ちは」

 俺を後ろから殴った最後の瞬間と同じくらいの笑顔だ、憎たらしい。俺を褒めているような口ぶりだが、裏を返せば『それでも私には勝てなかっただろ』と言いたいのが分かる。


 「勝たなきゃ意味ないさ」

 そのとおり、と彼女は答える。慰めているのかけなしているのか分からない女だ。


 「それよりお前……俺が刺した傷は? どうなってる、あの時確かに死んだだろ」

 「いやん、そんなに私の胸を見るなよう――」

 「ふざけてないで教えろ」


 分かったよ、と彼女が諦めたように呟くと、ベッドから立ち上がって短剣を抜いた。


 「私の異能は――」


 ――そう言うと彼女は、持っていた短刀で自分の喉笛を深く切り裂いた。


 「なッ……何を――」


 その蒼い瞳からはたちまち生気が失われ、彼女は折れるようにして膝をつき、どさりと倒れた。


 「お……おい、お前。おい……アリシア? 」




 ――床に伏している死体(ソレ)は、すぐに死体ではなくなった。




 「――どうだ、すげえだろ。これが……これが私の異能だ。『不死』、サイキョーだろ」

 よいしょ、と彼女は何事もなかったかのように立ち上がった。まさに今自分の頸を掻っ切っておきながら、アリシアはけろっとした様子で自分の異能を自慢する。

 「どうだ、なんとか言ってみろよ、ぐうの音もでねえか? 」

 「ぐう」

 「それは出るのかよ……まぁとにかく信じただろ。これが私の異能だ、この国で最強最高の異能。もっとも知ってる奴はあんま居ないけどな。それで? お前の異能は『モノを増やす』で合ってんのか」


 アリシアが首元にべっとりと付いた血を服で拭いながら問いかける。血が拭き取られて彼女の肌が露わになると、先ほど短刀が切り裂いたはずの部分に傷はもう残っていなかった。


 「ああ、そうだ。たった、それだけさ。戦うのにはぜんっぜん向いてない異能」


 「そうだな。でもお前は上手くそれを使ってる、最高だよ。戦闘に関するセンスは私以上かもしれない。だからこうして1対1(サシ)で頼んでるんだ」

 「頼む? 何を? 」

 アリシアが突然病床の俺に歩み寄り、握手を求めてくる。女の子らしい小さな手だが、普段から剣の柄を握っているせいかタコだらけだ。


 「お前にはウチの団の副団長をやってほしい」

 「……は? なんで俺なんだ」


 「理由は腐るほどある。まずこの試験以来ダントツで強い、あー……私の次にな。それに頭が良さそうだ、見た目的に、事務仕事とか向いてそう。あー、あと顔が良い、そこそこイケメンだ、将来のダンナ候補として傍に置いておきたい。あー、こんなところだ。以上」

 アリシアは俺を副団長に指名する理由をぺらぺらと水が流れるように語った。1つ変な理由が混ざっていたような気がするが。それにこの女に勝てないんじゃあ仕方がない。これが今の俺が掴める1番上の地位だ。奴・に近づくためには、この誘いに乗るのが最善だろう。




 「はぁ……しょうがない。乗ってやるよ、その提案。確かに俺はお前よりも事務仕事はできそうだ。頭の出来が違うからな」


 「なんだその上から目線は……ムカつくなてめえ……。負けたくせに」

 「あ? お前こそ俺に心臓ぶっ刺されてただろうが」

 「そのあと私が剣の腹で頭ぶっ叩いて勝ったけどな」

 「情けない顔して地面にぶっ倒れた後にな」


 お互いに噛みつき合う。少々どころか全くもって気が乗らないが、俺は彼女――これからの直属の上司となるアリシアと握手をした。




 「……っていうか、此処はどこなんだ。誰が運んでくれた? 」

 「私の部屋だよ。運んだのも私だ。そして今さっきまでお前が気持ちよさそうにすやすや寝てたのは私のベッドだ。どうだ? 自分をボコボコにした美少女の、良い香りがするベッドに身を包んでた感想は、性癖歪んじまうだろ? 童貞野郎」


 「……ぐう」

 「口喧嘩でも勝ったな、これで2勝だ」

 「ぐうの音は出たんだ、まだ負けてねえ……」

 握手した手をぐっと引き上げ、俺をベッドから起こす。俺の人生初めての上司は、クソみたいに生意気で、それでいて胸がすうっとするくらい気持ちのいいやつみたいだ。




 「改めて、ランだ。姓は無い」

 「アリシア・スカーレットだ。現在19歳、彼氏旦那共に無し! 今のところはお前が彼氏有力候補その1だから、よろしく」

 透き通るような空色の髪を煌めかせて、彼女は部屋の扉へと歩く。金色のドアノブに手をかけると俺の目を見てふふ、と笑った。こんな普通の笑顔もできるのか、と一瞬思う。




 「来いよ、新入りちゃん。ウチの団の奴ら紹介してやる」

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