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2話

 「おっ、左利きか。珍しいじゃんか少年」

「そうだよ、てか少年って……。アンタはいくつなんだよ」

「19だけど」

「俺のたった1コ上なだけじゃねえか」


 この小生意気な少女に勝つためだけに、俺は今まで細やかな努力までしてきたのだ。左持ちの剣にしてもそうだ。人は、何をするにしても右利きの人間が圧倒的に多い。左利きの剣士を相手にするのには皆慣れていないはずだ。


 「もうなんも言うことが無いんなら始めよか、ランちゃん♪ 」

 片手剣を構えるアリシア。彼女の強さはその戦闘技術の高さ――この1点に尽きる。先ほどやられた男が、おそらくは彼の異能である空中浮遊を駆使した戦術を繰り広げていたが、異能を使()()()()()()()()アリシアに全く歯が立たなかった。そのため彼女の異能を知る者はまだ居ないとすら言われている。




 ――でもそんなことだけが根拠じゃない。この女は強い。俺の勘がそう告げている。この決闘の勝利条件は相手に降参の一言を言わせるか、殺すかのどちらかしかない。



 「ああ、始めよう」

 その言葉を言い終わらないうちに、アリシアが俺の喉笛目掛けて切り込んでくる。その斬撃の人ならざる速さから、彼女が既に身体強化の魔法を自らにかけていることは容易に想像できた。だから。


 「ッつ……よくコレを止めたね」

 「……」


 俺の首元に迫る刃を、左手に持つ剣がすんでのところで受け止めた。彼女が身体強化の魔法を使うのはそもそも想定済みだ、こちらも既に同種の魔法はかけている。だから反応できた、そうなれば。


 戦闘を左右するのは純粋な剣技、そしてお互いの異能だ。


 力任せに彼女の刃を押し戻し、右脚で顔面目掛けて蹴りをくらわす、が、彼女はそれをいとも簡単に左手でいなすと、身体をくるりと回転させて再び切りかかってきた。紙一重でその剣撃を躱し、飛び退いて距離を取ると、俺は懐から掌ほどの大きさの小刀を1本取り出して、目にも留まらぬ速さで彼女の頸目掛けて投げる――()()()使()()()




 『複製』を使って投擲した短刀は、2本目が1本目の後ろに隠れるようにして、アリシアへと真っすぐ飛んでいく。それらは彼女の剣にいとも簡単に弾き飛ばされた――が、その顔に少しばかり陰りが見えた。


 「ふう、今のは危なかった、やるな少年。投げたの1本だけに見えたわ」

 「そりゃどうも」

 まだ俺の異能はバレてない。それに――全く敵わないってワケじゃない。




 今度はこっちから彼女に向かって斬り込む。どの斬撃もいなされ、躱され、止められる。


 「(バク)ッ! 」


 詠唱が最も短い爆発魔法を唱えると、炎の小さな球が彼女の方へ真っすぐに向かうが、その球は片手剣の切っ先に触れると、すぐさま爆発した。爆風で彼女の小さな身体が吹っ飛ぶ。


 「おわっ……熱……」

 吹き飛ばされた彼女はすぐに立ち上がると再び剣を構える。


 「なんで避けずに剣で触れようとしたんだ……」

 「いやどんな威力かなぁと思ってな。初めて見た」


 彼女の蒼く綺麗な瞳が、俺の目を射抜くように見つめた。そしてその瞬間気付いた。彼女はこの戦闘で本気など出していない。その薄く蒼い瞳の奥には、娯楽に興じるかのような余裕が見てとれた。


 「なんだよ、そんな私の目ん玉見つめて。惚れたか」

 「いや……何でもない。今から俺本気出すから。死にたくなかったら、あんたも本気を出してくれ。アリシア」


 彼女はふっと笑うと、剣の切っ先を俺の方に向けて言った。私が死ぬなんてありえない、と。

 「そうか…」


 左手の剣を強く握りしめる。アリシアには、本気で――殺す気でかからないと勝てないだろう。それに――。何となくだけど。


 ずっと努力してきた、目的のためならなんでもしてきた。それでも――この少女に勝つことができない気がしたんだ。



 魔法で強化された両足に精一杯の力を込め、彼女との距離を一瞬で詰める。左手に持つ剣を見せつけるようにして彼女に斬りかかる。当然彼女は右手に持つ剣で迫る斬撃を受け止めようと構える。この程度の速さの剣なら防ぐのは容易というわけだ。しかし、左のそっちは本命ではない。




 ――空いている右手に、左手に持つ剣モノと同じ重さが伝わってくる。




 「――かはッ」


 少女の口から紅い血が吐き出される。異能で増やしたもう一振りの剣は俺の右手に握られ、彼女の心臓に突き刺さっていた。




「――!? お前……だから本気を出せって……」

 「へへ、最後にアタシが勝つ――ッからぁ……()()()()本気なんて出すかよ……。なるほどっ……モノを増やすのが……アンタの異能……か」

 

 正直驚いた。こんなにもあっけなく人とは死ぬものなのかと。もちろん今まで1回だって人を殺めたことなんて無い。

 思考がまとまらなかった。それでも回らない頭をは裏腹に、俺は剣を彼女の身体から引き抜く。どす黒い血が流れて止まらない。

 

 振り返れば参加者たちが沸いていた。みんな何をそんなに喜んでいるんだ――。動揺でカラカラな喉から必死に声を絞り出す。

 「だっ、誰か……手当てっ、を…! 治癒の魔法を……! まだ助かるかもしれ――」

 沸く群衆の歓喜の声に、俺の小さな声など届かない。この20にもならない女の子が、今にも死んでしまうというのに。


 群衆のうるさい声が突然ぴたりと止んだ。そして背後から()がした。



 「――私に異能コレ使わせる奴は久しぶりだ、お前ウチの騎士団に入れ」

 後頭部に鈍い痛みが走ると、突然意識が朦朧としてくる。そして背後からは、先ほど殺したはずの少女の声。最後の意識を振り絞って後ろを振り返れば、空色の髪の少女が満面の笑みで立っていた。

 「がッ――なんで……」




 そこで俺の意識は、ふつり、と切れた。



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