34話 再び冒険者ギルドに行くおっさん
鏡はアリスぼでぃを置いてきた。やはり交渉はおっさんぼでぃを使わないと、カリスマや威圧感、歳相応の気概などが伝わらないだろうと思って。
そんなものは欠片もないおっさんだと思うのだが、本人は固く信じていた。信じる者は救われるの考えから大丈夫だろうと思っている模様。
バラックの家が建ち並び、ドラム缶を使って焚き火をしている薄汚れた男たちや、街角に立つ娼婦たち、露店は出所が怪しそうな食べ物や、ゴミと思うようなガラクタを店主たちが売っている中を歩く。
物陰にいる強面のチンピラたちが、鏡を見てコソコソとなにがしかを話すのが目に入る。
「ねぇ、鏡。私たちは目立ってないかしら? ちょくちょく見られているような感じを受けるわっ」
隣を歩くフードを深く被り、前が見えないので、鏡の裾を掴んでくる花梨が少し怯えたように聞いてくるので、ウンウンと頷く。
「俺は手榴弾をネックレスのように服につけているお前が怖いんだけど? お前は爆弾ネズミかなんかなの? ちょっと触ったら物理的に爆発する娘なの?」
花梨は首から手榴弾をネックレスのようにぶら下げていたりする。
感情が爆発するとか、怒りを爆発させるとかは聞くが、物理的に爆発する娘は聞いたことがないよと、おっさんは半眼となって、花梨を見る。チンピラたちより余程質が悪い。
「仕方ないじゃない。私は不死だけど、無敵ではないのよっ? 抑え込まれて、襲われたら成すすべもなく成人年齢制限が入る展開になっちゃうの。だから、パイナップルをたくさん買っておいたのよ。これは使うという思念だけで爆発するし、誘爆もしないしねっ。これがあれば街中も安全よっ!」
己の考えに疑問を持たず、ドヤ顔で語る花梨。花梨はたしかに安全だろう。だが、周りは大丈夫ではない。文字通り爆弾娘であるからして。
「攻撃力100しかないし、そこまで酷くはならないと思うの。対人専用手榴弾を買ったし、家屋とかにも被害は出ないわっ。ちなみに1ダース1万ゴールドだったわ。お買得品よねる?」
「『選ばれし者』のバザーなら50ゴールドぐらいで売っているけどな。物凄い早さで貯金が消えていくぜ」
「花梨はヒルみたいに質が悪いですね。私たちの貯金を食い潰さないでください。あ、私もチョコクッキーの詰め合わせを2万ゴールドで買いました。特価品で今買うともう一個ついてくるキャンペーン中だったのです」
質が悪いニート化を始めている美少女アリスがモニター越しに、リスみたいにカリカリ可愛らしくチョコクッキーをパクついていた。ヤバさを感じる。貯金が空になる前に料理スキルを上げないとと、強く決意するおっさんである。アリスは全く貯金残高を気にしていない。
とりあえず甘い物から料理スキルで作るかと、手榴弾のネックレスをジャラジャラとぶら下げる危険人物と共に街中を歩く。
目的地は冒険者ギルドである。
再びの冒険者ギルド。正直言って、ハンターギルドと通信がとれるようになった現状では訪れる意味がなさそうにも思えるのだが、ナクヤの考えは違っていた。
「これがハンターギルドを真似している冒険者ギルドですか。本来ならパチモノはガーディアンが漏れなく叩き潰すのですが、『宇宙図書館』の管理下にないので、叩き潰すのは我慢します。その代わりに情報を手に入れましょう。手に入れたい最大の情報はなぜ『宇宙図書館』の管理下に入らないのかということですね」
モニター越しに冒険者ギルドの建物を確認して、ケッと美少女らしからぬ悪態をつく銀髪に金髪のメッシュが入った美少女ナクヤ。
第一印象は無口でクールっぽいと思ったが、そうでもないらしい。
「どうにかして、情報を手に入れないとな。早くコロニーに帰りたいし」
早く帰ってウハウハに暮らしたいんだよと、ナクヤの悪態を気にせずに、鏡も自分のことだけを考えていた。仲間全員が己のことしか考えないパーティーである。
冒険者ギルドのよく外れるガラス扉は直っているようで素直に開く。中に入ると、冒険者がこちらを見てくるが、見なくてもおっさんは『選ばれし者』と違って害はないよと首を竦めながら歩く。
冒険者たちは鏡を見て、隣の手榴弾娘を見て、そそくさと離れていくか、興味深げな表情になるかする。おっさんが同じ立場なら離れると思うんだけど。少なくともこの建物内にはいないだろう。
「うっかり君はどこかな〜?」
この間、うっかり3千万の報酬をくれた受付を探すがどこにもいなかった。さすがに受付から配置転換されたのかなと、残念がりながら受付の人たちを見ると、サッと目を逸らされた。
「鏡、なにか怖がられていない?」
「花梨が怖いんだろ」
耳元で囁いてくる花梨がジャラリと手榴弾ネックレスを鳴らすので、俺は人畜無害だよと答えて、受付の一つに座る。
「こんにちは、受付さん。聞きたいことがあるんだけど、この街の情報集積端末ってどこにあるの?」
気軽なフレンドリーさを見せるように、笑顔で話し掛ける。その笑顔を見て、受付も笑顔で答えてくれる。
「ひいっ! 情報集積端末ですか? 下流地区にはありません。中流地区以上でないと」
フレンドリーな態度が効いたのだろう。口元を引きつけらせて、身体を逸しながら受付は教えてくれるが、それは知っている。
「それじゃあ、中流地区に入るには?」
「生まれながらの中流地区の国民か、税金として一時金を1000万円払う必要があります。入るだけならですが。暮らすのはまた別途税金が必要となります」
ふ〜んと腕組みをする。意外と安い。どうせゴミになる紙札だ。幾らで売れるか試したら、ハンターギルドのショップでは1ゴールドにしかならなかったし。
「手続きは? ここでできるわけ?」
「はい。ただ……ランクが低い方ですと、中流地区の依頼は受けられませんが……」
ん? ランクってなんだ? そんな説明聞いてないけど? 疑問を表情に浮かべたのがわかったのだろう。受付は慌てたように教えてくれる。
「木板の身分証明書では駄目なんです。最低限の身分証明書は、そのマジックカードになるんですが……最低数年は働いた実績がありませんと……」
「そうか。俺って何年働いていたっけ? もう今年で5年かな?」
カウンターに肘をつけて、もうこの冒険者ギルドで働いて、かなりの期間になるよなとおっさんは平然とした表情で告げた。
もちろん受付は青褪めて、オロオロと周りを見渡すが助けはない。皆は関わりを持ちたくないらしい。
冷たい奴らだねと酷薄な笑みを浮かべるおっさんに、花梨もドン引きして後退るが、お前は逃げるんじゃない。何気にショックだろ。それに後退った先の冒険者たちが花梨の素敵すぎるネックレスを見て逃げてるじゃないか。
酷いなぁと思いつつ、受付に落とし物を渡すことにした。
落とし物をさっき拾ったんだよと、ドサドサと。
札束を積んだ。
『狡猾が発動しました。交渉成功率がアップします』
モニターに鏡の狡猾が発動したことが表示され、ニヤリと笑う。これならばいける。鬼に金棒、おっさんに日本酒である。恐れるのはもはや二日酔いだけだ。
「で、何年だったかな?」
目の前に積まれた札束に、ゴクリと受付が喉を鳴らす。ワナワナと震えて札束に手を伸ばしてくるのをそっと抑えながらにこやかに、おっさん的にはにこやかに微笑む。
「で、ですが」
「これは君が落としたのかな?」
札束の一つを受付へと押し出す。
「そのですね」
躊躇う受付へともう一つ。
さらにもう一つ。
「そういえば、魔風様は今年で5年目でした! 申し訳ありません。こちらの書類上のミスですね!」
受付の後ろから上司が目を輝かせて、謝ってくるので
「構わないよ。ミスは誰しもするものだしな」
と、鏡は肩をすくめて、さらにもう二つの札束を置くのであった。
どうやら身分証明書は手に入りそうである。というか、やっぱり木板の身分証明書はゴミだったんだな。
冒険者ギルドを出て、歩きながら手に入れたカードを指に挟んで眺める。トランプ程度の金属製のプレートでバーコードが刻まれており、銀行口座の証明書にもなると説明を受けた。
「セキュリティガバガバじゃないか、これ? 恐ろしくて口座なんか開けないよな」
「もっとランクが高ければ、セキュリティ対策がされたカードを貰えるらしいわよ?」
「このカードでは口座をあまり信用するなってことか……」
花梨の言葉通り。冒険者ギルドはこのカードすらもとりあえず中流地区を通行できる程度の下流カードだと言っていた。下流民はあまり金を口座には預けないだろうと予測されているのだろう。そもそもあまり使わなければ口座は意味がないしな。
「鏡様。なんにせよ、中流地区へと潜入可能となりましたこと、お祝い申し上げます。早速こんなクエストはいかがでしょうか? ジャジャン!」
『中流地区のデータバンクにアクセスせよ』
条件:多数の情報を集める。
報酬:マイハウスに生産用ルーム作成アイテム。情報量により、さらにアイテム報酬あり。
擬音を口にして、モニターに映るナクヤがプラカードを出してきた。
なぜプラカード? というか、俺の横に正式なクエストとして同じ内容が表示されているんだが?
「なんでプラカード?」
ついつい口にしてしまう。
「モニターだけでは私の有り難みがわからないと思うのです。なので、プラカードも用意しました。なんとプラカードには追記もできてしまうんです。個人に贔屓をするのは許されませんが、プラカードなら問題ないので。と言う訳で、ジャジャン!」
フフンと鼻息荒く、新たなるプラカードを取り出してくるナクヤ。その姿から無口なクールレディの幻想がガラガラと崩れていく。だってプラカードの中身が極めてしょうもない。
『ついでに私のベッドも作ってください』
条件:ナクヤのベッドを作る。だって部屋以外に何もないんです
報酬:美少女ナクヤちゃんのスマイル
「自分自身に贔屓しているだけじゃねーか! なんだよ、スマイルって!」
「むむ、それじゃあ私の投げキッスも加えますよ」
プラカードにマジックでカキカキと新たな項目を加えるナクヤ。それを見て思う。あぁ、見かけと違って残念美少女だと。
まともそうに見えたのになぁと、アホそうなナクヤに呆れながら、中流地区へと向かおうとするが、通りからヘラヘラと笑うチンピラ風な男たちがぞろぞろと数人現れて道を塞いできた。
ちらりと後ろを見ると、やはり同じように男たちが道を塞ぐ。
「いったい何の御用かな?」
動揺もせずにつまらなそうな表情で鏡は真ん中のリーダーらしき男へと尋ねる。おっさんは御用ありません。花梨、相手をしてあげなさい。
小心にして脆弱なおっさんが出る幕ではないなと、手榴弾娘を前に押しやろうとして、嫌よ、鏡が行きなさいよと、押し合いながら醜い争いを繰り広げる二人である。
だって強面なのだ。チンピラって怖そうだよと、怯懦が発動しちゃうおっさんだった。
「ヘヘッ、旦那。良いお話があるんですよ」
だが予想外にチンピラたちは手揉みをしながら話しかけてきたので、ちょっと予想と違うみたいだと鏡は面白そうな匂いがすると目を光らせるのであった。




