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23話 レベル上げは効率的にする戦闘少女

 小高い丘にある廃屋の屋根に二人の少女が立っていた。黒い革製のロングコートに身を包み、フードを深く被っており、その容姿は他人からは見えない……かもしれない。


 実際は顔を隠すほどに被ると前が見えなくなるので、普通に被っていた。のだが、本人たちは深く被っているつもりだった。その風体に興味を持った幼女が顔を覗きに来たら、顔を見られちゃうことは間違いない。


 まぁ、雰囲気が大事なのだ。一人の少女がクククと怪しそうに笑い、遠くに見える光景の感想を口にする。


「この惑星、少し変だわ。私の知る地球と違うの。こんなにも日本が、しかも東京都内に平原があるわけないのよ。多摩を除いて」


「そうなんですか? それにしては広々とした平原ですが」


 もう一人がその言葉を聞いて、訝しがる。なにしろ、辺りには廃墟となった高層ビルが立ち並ぶ地区と、地平線まで見えそうな森林混じりの平原が同居しているのだから。


「う〜ん、アイアンアントを狩ったら、情報収集しなきゃね。私たち刹那的に生きすぎじゃない? なにも情報を得ないで突き進んでいるわ」


 フードを取り去り、提案するのは思議花梨。自称女子高生とか言う不死者である。悪戯して、額にウーと書いておいたら、かっこいいわねと喜ぶ厨二病患者である。


「情報なんて、困ったら確認すれば良いんです。初心者はフレーバーテキストを読むのでなく、まずレベル上げしろと、『宇宙図書館スペースライブラリ』の掲示板まとめサイトに書いてありましたし。ところで、フレーバーって、響きがお腹を空かせますね。鏡、今日のご飯はなんですか?」


 食いしん坊な発言をする黒髪黒目の幼気な少女の名はアリス。特性に食いしん坊はなかったはずだが、最近はご飯を食べるのが大好きになっていた。


「料理スキルがレベルアップするから、良いんだが……なぁ、俺たちって本当に一緒の身体なのか? 仮想空間で料理作れるし、食べれるし、おかしくない?」


 不思議そうに疑問を口にするのは魔風鏡。おっさん。以上。


 おっさんの紹介はいらないと思うので、この程度で良いはずだ。少女に取り憑く犯罪者とでも付け加えておけば良いだろう。


「それよりもアイアンアント狩り。冒険者でしたっけ? 迂遠な方法をとっていますよね」


 廃墟ビル。そのビルは飽きっぽい幼女が積木遊びをしたように、乱雑にビルが積み重なっていた。双眼鏡で覗くのわかるが、そのビルはたくさんの鉄色の甲殻を持つ2メートル程度の大きさを持つアリが出入りしている。


 あれが恐らくはアイアンアントというクリーチャーに違いない。そして積み重なっているビル群はアリの巣だと予想できる。


 しかし、冒険者たちの姿が見えなかった。いや、見えてはいるのだが、かなり離れた場所にいるのだ。


 そこから数キロは離れた場所のビル群の隙間、ちょっとした空き地にトレーラーハウスが数台並んでおり、バギーやバイクもある。テントが立ち並び、武装をした人々が歩いているところから、キャンプとして使っていると思われる。


 それは別に良い。キャンプがあれば狩りは楽になるからだ。アリスももう少しレベルが上がったら猫星人を雇おうとも思っているし。


 だが、狩りの方法がおかしい。アリの巣から離れたビルからスナイパーが射撃。当たったアリが撃たれた方向に走り始める。他のアリたち30匹程度を連れて。


 そうして巣から離れたところを、待ち構えていた他の冒険者たちが襲いかかるのだ。だいたい100人単位で。すなわち、一人一匹程度にも、その戦いで稼ぎにはならない。


「う〜ん、俺が思うにアホなんじゃないか?」


 顎をさすりながら、おっさんがモニター越しに考えなしな発言をする。


「そうですね、花梨が言うには10万円は10泊ぐらい宿屋でできるお金らしいですよ。それぐらいの価値しかないのなら、さっさと倒せば良いんですよ」


 双眼鏡で戦いを観察しながら『解析のスキャンアイ』をアリスは発動させる。そこ戦闘力はというと


『アイアンアント 総合戦闘力2100』


 と出た。周囲の冒険者たちは1000程度の総合戦闘力を持っている。待ち構えて戦うのは良いが効率が悪すぎる。戦闘力1000程度の違いなら、専用武装を変えれば倒せるはずなのだ。


「特に戦闘力が1万未満の虫系は雑魚です。だいたい蟻酸と突撃、噛みつきしかしてこないですし」


 観察している戦いでも、知っている内容と同じである。蟻酸を防いで、ビルに逃げ込むなどして敵の攻撃を躱しながら銃で倒している。


「うん、アリスたんたちのように彼らは『宇宙図書館スペースライブラリ』の理を受けていないのよ。私と同じく脆弱な身体なの。物凄い脆弱なのよ、あ」


 花梨が話に加わるが、足を滑らせて屋根から落ちていった。ドシャンと血を流して死亡して、すぐに復活し、よいしょと屋根に登って来る。


「なるほど、花梨みたいに脆弱なんですか」


「そうなの。きっと脆弱なのよ」


 ジト目でその不死っぷりを見るアリスへと、自分は脆弱なのと、フンスと胸を張りアピールする花梨であった。脆弱の定義とはなんなのか考えなければいけないかもしれない。


「だからね。きっと頭を砕かれたり、腕を食いちぎられても、ステータスにペナルティがつくだけではないと思うの。きっと死んじゃうのよ」


 たとえ身体がミクロン単位で破砕されても復活する花梨の言葉なので、極めて疑わしいが、ボスゴブリンや盗賊を倒したことを思い出して、もしかしたらそうなのかもしれないと、アリスは思う。と、なるとだ。


「たしかに脆弱極まりますね。未開惑星恐るべし、です」


宇宙図書館スペースライブラリ』の理外にいる生物のなんと脆いことかと哀れみを覚えてしまう。それだと死ぬ可能性もかなり高くなるし。


 だが、ハンターとしてはここほど美味しい惑星はないだろう。きっとこの惑星の行き方が判明したら、ハンターたちで賑わうことは間違いない。


 それならばその前にさっさとレベル上げをして、美味しいアイテムなどは手に入れるべきだ。アリスはキランと目を光らせる。


「まずはここのアイアンアントを倒して、当座の資金と、ドロップに期待しましょう」


「だな〜。マイハウスで行える俺の採掘だけじゃ微々たるもんだしな」


 鏡もその言葉に頷く。アイアンアント、恐らくはその名前から鉄が取れるはず。それに経験値からいっても、美味しいと思う。


「戦闘力2000超えだよ? 栽培戦士の腕輪を使うの?」


 花梨がコテンと首を傾げて聞いてくるが、首を横に振って否定する。


「栽培戦士の腕輪は、レベルは上がるのですが、装備している間、戦闘系のスキルが上がらないのです。なので、武装で対抗します」


「1000を超える戦闘力の差を埋めれるの?」


 心配顔の花梨に、ニコリと自信ある微笑みでアリスはアイテム枠を開く。


「ハンターは武装により大きく戦闘力が変わるんです。その戦い方も多種多様。なぜなら……」


 なぜなら? と花梨がゴクリとツバを飲み込み


「クリーチャー狩りの専門家。それがハンターなのですから」


 そう告げて、アリスは今回の戦いに必要なアイテムを出すのであった。




 アイアンアント。女王アリを中心に群れを作る魔物である。外敵に対しては数で勝負をするタイプ。鉄のような硬さを持つ甲殻。薄い鉄板なら噛み砕く牙。吐く蟻酸は強力でコンクリートを簡単に溶かす。走る速さは時速20キロ程度。小型車並みの体格の虫だ。虫らしく、脚がもげたり、胴体が多少傷ついても、その命を止めることなく活動する。


 だが、冒険者たちは危険を承知で戦いを挑む。なぜならばアイアンアントはその体内に魔力結晶を作り出すからだ。遥かな昔、異世界にて創られた生物兵器の特徴。自らが活動するためのエネルギー源。それが魔力結晶である。


 魔導具を扱うのに必要な魔力結晶を求めて、冒険者たちは命懸けの戦いを挑む。命を掛け金として、さらなる栄華を求めるために。多くの屍を築きながら。


 そんな冒険者たちを殺す代表格にして、一流の冒険者への登竜門としても扱われるアイアンアントは、廃墟ビルへと餌を運んでいた。倒した他の魔物や、冒険者たちを。


 いつもどおりに活動をするアイアンアントたちの中で、10匹程の動きが止まる。他のアリたちはその横を気にせずに過ぎていく。アリは他の者の動きを敵でもなければ気にしない。


 触角をヒクヒクと動かして、何かに呼ばれたように止まったアリたちは動き出す。ビル外へと出ていくが、その様子を見ても気にはしなかった。


 ビル外に出たアリたちは、足早にある地点へと走っていた。何かに呼ばれたのだ。なにかアラームのようなものが頭に響いていた。


 放置された車を踏み潰し、家屋を乗り越えていき、十字路まで移動する。十字路には丸い機械が置いてあり、ピッピとアラームを鳴らしていた。その隣には長い黒髪の幼気な少女が佇んでいる。


「ようこそ、ハンターの地へ。歓迎しますよ、アイアンアントさん」


 フフッと笑みを浮かべて、少女は手に持つ長い鉄棒。いや、バズーカを構える。


「サクサクいきます。サクサクと」


 そうして、軽く引き金を引くと、噴煙を上げて砲弾がアイアンアントに飛んでいき、先頭のアイアンアントへと命中し、爆発する。鉄の甲殻を持つアイアンアントはバズーカでもダメージはそこまで受けない。……はずであった。


 実際は緑の血を関節から垂れ流して、倒れ伏してしまう。


 それを見て、操られるように集まってきたアイアンアントの目の色が変わる。危険な敵だと判断したのだ。すぐに蟻酸を吐き、突撃を仕掛けてくるのであった。



『敵アイアンアント10体。対象の誘導に成功しました』


 鏡に作ってもらった低レベルクリーチャー誘導装置の動作は問題ないようだとアリスは映し出されたログを消す。


 知性のない敵を誘導するハンター必須のアイテムである。それを使用してアリスはアイアンアントを呼び寄せたのだ。


「鏡。音波バズーカも問題ないようです」


「そうだな、二等兵。君こそがこの惑星を守る星となる」


「えーでぃーえふ! えーでぃーえふ!」


 その言葉を聞いて、おっさんが腕組みをしノリノリで言ってきて、花梨が応援歌を歌っていた。暇な二人である。


 アイアンアントたちが、先頭の仲間が倒されたことに気づいて、アスファルトにヒビを入れながら怒って襲いかかってくる。


 アリスはアイテム枠から新たな音波バズーカを取り出して、慌てずに身構えて次弾を発射させた。


 次のアイアンアントも命中すると同時に身体を震わせて倒れ込む。硬い甲殻を持つ虫系クリーチャーに効果的な音波バズーカ。その力は命中した時に相手の体内に強力な音波を生み出す。敵の外殻が硬いほどダメージがデカくなる兵器だ。


 リロードに時間がかかるので、複数を持ち替えて使うのがハンターの常識である。ちなみに攻撃力は1000である。


『アイアンアントを倒した。経験値200、200ゴールド、鉄鉱石、エネルギーマテリアル200を手に入れた』


「お、予想通りだな。これならマテリアル兵器を作ることもできるぞ」


 鏡がその結果に嬉しそうに言ってきて、アリスもムフフと微笑んじゃう。


「どんどん稼ぎましょう。これならすぐにレベルアップもするでしょうし」


 新たなバズーカを取り出して、アリスは迫るアイアンアントへと不敵に微笑むのであった。


 その姿は狩猟をする獣。子猫のようだった。にゃーん。

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― 新着の感想 ―
[良い点] もうバトルシーンはヤバいから初めからモニター室にいる花梨さん、正解です(^ ^)最初に滑り死にしてるのはもはや様式美か…… [気になる点] えーでぃーえふ=ADF=アリスディフェンスフォー…
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