表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/35

17話 ポピュラーなクエストを受ける戦闘少女

 廃墟ビル。滅びて久しい秋葉原に聳え立つ廃墟ビルの中で人影があった。銃を背負い、汗だくになりながら懸命に駆けていた。


 ハッハッハと、息を切らしながら少女たちは走っていた。ビルの中は瓦礫がそこかしこにあり、薄暗いために足をとられそうになる。け躓くことがあるが、体勢を無理やり立て直して先に進む。


 廊下ではあっても、滅びる昔の名残りであろう、不自然に机やロッカーが通路を塞ぐように設置してある。きっと魔物に襲われた際にバリケードを作ろうとしたのだ。


 バラけて吹き飛んでいる様子から、バリケードを設置した人々の末路が予想できる。


 なにかにかみ砕かれた跡が残る頭蓋骨や、強い衝撃によりバラバラの白骨が落ちている。それは自分たちの末路を表しているようでとても嫌だった。


ちゃちゃ々! 奴らまだ諦めずに追いかけて来るよっ」


 隣で並走する仲間の少女が汗だくになりながら、叫ぶように言う。


「当然でしょ、いち。奴らは私たちが目的なんだから!」


 怒鳴り返して、廊下に放置されていた横倒しのロッカーを飛び越える。ちらりと後ろを振り向くと、バタバタと足音荒く男たちが追いかけて来ていた。


 余裕そうにニヤニヤと厭らしさを含む嗤いを見せながら。


 余裕そうなその姿に苛つきを覚える。いつでも捕まえられるという余裕さを見せてくれちゃって……悔しい!


 話に乗らなければ良かったと、茶々と呼ばれた少女は悔やむ。冒険者になって、一発逆転の人生をなんて思いながら数年。魔法遺跡から遺物を持ち帰るどころか、魔物を倒すこともできずに、簡単な採取などで日銭を稼いで生きる日々。


 仲の良いいちとなんとか這い上がろうと頑張るが結果を伴わない。そんな暮らしが嫌で、それでもなんとか抜け出したくて、自称ベテラン冒険者の話に乗ってしまった迂闊な自分。


 市は止めようと言ってきたのだが、這い上がる機会になると、冒険者の話に乗ってしまった。そこまで美味しい話というわけでもなかったし、まさか騙されるとは思わなかったのだ。


 狩りの荷物持ち。少しだけいつもより報酬が大きかった。冒険者ギルドを介さない分、手数料もかからないから報酬に上乗せできると言われて、そんな話もあるのだと思ってしまった。


 結果は罠だった。私たちを弄び殺す。ただそれだけのために誘ってきたのだ。こんなスラム街出身の自分たちを襲おうなんて、反対に驚きであった。


 手入れがまったくない、シャワーを時折浴びるだけのゴワゴワした髪に、痩せぎすで胸も乏しい牛蒡のような体つきの年若いというか、若すぎる私たちを狙うとは。どれだけ趣味が悪いのだろう。


 廊下の突き当り角を曲がって、駆け続ける。もはや酸欠状態になりクラクラしてくるが立ち止まったら死ぬ。奴らは銃を撃たずに捕まえるつもりだからこそ、走って逃げれる可能性があるのだと理解している。


 撃ち合いになったら死ぬに違いない。それを相手もわかっていて、楽しんでいることもわかっていた。涙が出そうになるのを抑えながら進むと


「うへへ、追いついたぜ」


 前の部屋から厭らしそうな笑みを浮かべた男が立ちはだかってきた。


「く、どうやって先回りをしたわけっ」


 茶々は背中に背負っていたライフルを掴み、前方に立ち塞がる男へと銃口を向ける。隣で市も同じく銃口を男へと向けていた。


「いいぜ、いいぜ。せいぜい足掻くんだな」


 せせら笑うムカつく男へと引き金を引く。身体に満ちる魔力が引き金を引いた瞬間に吸い取られて、銃へと吸収される。


 一瞬虚脱感が身体を揺らめかす。銃が輝き吸収された魔力は風の魔法となり、銃弾を覆う。そして風の力を纏わせて、敵へと軽い空気音をさせながら飛んでいく。


 魔法銃マジックライフルの中でも一番安い銃。たまたま魔物に襲われて死んだ冒険者から拾った銃だ。自分たちが冒険者になろうと決めた銃である。


 風切り音と共に私と市が放った銃弾は敵へと向かう。ゴブリン程度なら倒せる威力を持つ。だが、男に向かっていった緑色の風弾は男の目の前で弾けてしまった。


 チュインと弾ける音がして、弾丸があらぬ方向に消えていく。やっぱり駄目か………。


「ブハハハ。一流の冒険者に、てめえのようなゴミの武器が効くかよ。残念でした〜。お前らもせめて『魔導障壁マナシールド』を買っておかないとなっ」


 男の周りには空気の膜のような物があった。『魔導障壁マナシールド』、魔法や魔法武器を防ぐ現代の冒険者の必需品。その障壁シールドにより、冒険者は命を守られる。マトモな冒険者なら必須。


 即ち、まともではない私達にとっては縁のない防具だ。最低の『魔導障壁マナシールド』でも高額なのだから。


「このっ、このっ!」


「やられなさいって、こいつめ!」


 市と一緒にライフルの引き金を引き続けて、数発の銃弾が同じように男へと迫り、同じように弾かれてしまっていく。


 余裕の足取りで男はどんどん近づいてくるが、その障壁は強力で砕けることはない。


 5メートル程度の距離まで詰めてきた男は僅かに足を屈めると、次の瞬間、突風が男を中心に巻き起こり、猛然と私たちへと突っ込んできた。


 あまりの速さに対応できずに、身体を強張らす私の頬は平手打ちされてしまった。かなりの力で頬を殴られた私は吹き飛び床に横倒しになる。隣に同じように市も殴られて横たわってきた。


「『肉体強化ブースト』も使えねえ奴が冒険者になるんじゃねえよ。先輩からのありがたーい教えだぞ。ゲヘヘ」


 歪んだ笑みを浮かべながら告げてくる男に、せめて最後まで抵抗しようと、溢れる涙を拭い、睨みつけようとして


「ピンポンパーン。銀河を跨ぐ凄腕ハンター。アリス・ワンダーは只今フリーです。クエストの依頼は安心確実、お安い依頼料のアリスにご相談を。どこよりもお安く雇われますよ〜」


 なんだか脳天気な声が通路に響いた。なんなのと声のする方向へと顔を向けて驚いた。


 いつの間にいたのだろう。部屋の隅に幼気な少女が立っていた。信じられないことに、腰まで伸ばしている黒髪。眠たそうだけど、綺麗な輝きの瞳に、スッキリした鼻に、悪戯そうな唇。可愛らしいというのは、この少女のことを言うのではなかろうかと思うほどの美少女が佇んでいた。


 腰に剣を履いて、腰には銃をぶら下げて、装甲のついた服を着込んでいた。


 両手を口に持ってきて、拡声器のように使い、私たちへとキラキラした輝きの瞳を向けていた。何かを期待している表情だった。……今、なんとこの少女は言ったっけっ?


「雇うわっ! 貴女を雇うからっ!」


 市が切羽詰まった者特有の焦った声音で叫ぶ。


 うんうんと少女は頷き、私と、私に襲いかかろうとしていた男は驚きで目を丸くしていた。だって、こんな登場をするなんて、人間とは思えない。私たちは逃げるべきなのではと、脳裏をかすめる。


「おいくらでしょう? ランダムミッションでの定価は知っていますか?」


 にこやかに、ムフフと揉み手をしながら尋ねてくる。


 それがアリス・ワンダーとの出逢いであった。





「おいくらでしょうか?」


 クエストを前にアリスはウキウキだった。初めての交渉からのクエストだ。この場合は固定報酬の他に、相手から直接交渉にて報酬を貰えるのである。


「アリス。狡猾を持つ俺からの忠告だ。交渉は焦らずにこちらが主導権を持ってだぞ」


 モニター越しに鏡が忠告してくるので、素直に頷く。


「了解です、鏡。私は超古代文明の戦闘生命体アリス。交渉スキルがなくとも、肉体言語スキルはありますので安心してください」


 アリスの交渉とは、パンチから始まるのである。


 ムフンと鼻息荒く相手を見つめる。こ汚い男が一人に、不幸そうな少女が二人。追いかけてきている男たち二人。


 よくあるランダムクエストである。そこの盗賊を倒せば良いのだろう。できるだけ報酬をボッタクらないとと、決意する戦闘少女。


「1万円でどう? とっておきなの!」


 少女の一人が叫んでクエストを依頼してくる。だが、その手に持つものを見て、目を僅かに見開く。


 なんと相手は古代に失われし通貨を出してきたので驚いちゃう。コレクターに高く売れそうだと目を輝かす。


「コロニーに戻ったら、コレクターを探すぞ! ひと財産だな。やったぞアリス」


 おっさんも目を輝かしていた。まだ見ぬ金持ちライフに口元がニヤけていたりする。


「豪運のおかげですね。では受領します」


 ポチリとアリスは宙に浮く『クエスト』を受諾する。と、モニターが光り


『盗賊を倒せ! 少女たちを守れ!』


報酬:経験値1500

アイテム報酬:交渉、15000ゴールド


 と受領したクエストが表示されるのであった。


「では、盗賊さんには退場して貰いましょう。『解析のスキャンアイ』」


 盗賊へと目を向けて解析する。ここらへんの盗賊の戦闘力はどれぐらいなのだろうか。


『盗賊A』

総合戦闘力:877


「意外と戦闘力が高いですね。ついでに少女たちは?」


『襲われている少女A』

総合戦闘力:148

『襲われている少女B』

総合戦闘力:145


 なるほどと納得する。


「これなら数発ダメージを受けても死なないですよね」


 護衛する相手は最後に体力が1が残っていれば良い派のアリスであった。


「お嬢ちゃんはそんな装備をどこで手に入れたんだ? おじさんに言ってごらん? フヘヘ」


 気を取り直して冷静になったのだろう盗賊がニヤケ顔で尋ねてくる。自分が負けるとは微塵も持っていないに違いない。


「余裕ありげな態度。まさしく雑魚盗賊ですね」


 腰を僅かに落として、素早くホルスターから銃を抜く。黒髪が舞い、不敵な笑みの女ガンマンは引き金を引く。


 ガンガンと銃声が響き、銃弾が空気を引き裂いて男へと向かうが


「馬鹿がっ! 『魔導障壁マナシールド』にそんな銃がきべだ」


 盗賊は余裕の笑みのまま、回避することもなく、アリスの撃った弾丸を額に受けた。


 余裕の笑みのまま、額に風穴を開けて吹き飛び、壁に当たって止まるのであった。


 倒れ伏して、血が男の額から広がっていく中で、アリスは不思議そうに小首を傾げる。


「また一撃で終わりですか。このエリアの敵って体力少ないんですね」


 ゴブリンの変異種もあっさりと死んだ。ただ首を捻っただけなのに。


「そうだな。ここの敵は体力がなさすぎる。レベルアップにはちょうど良いよな」


 鏡も頷いてくれたので、やはりそうだったかと納得する。敵が弱いのは良いことだ。


『銃術の熟練度が0.3上がった』

『経験値120を手に入れた。120ゴールドを手に入れた』


「オーケーです、後は追いかけてくる敵を倒せばクリアですね」


 アリスが合流する前に仕掛けておいた罠。追いかけて来ていた男たちを妨害するためにセットしたのである。


「こんなボーナスエリアだったんですね、納得しました」


 それならばポップがなかなかしなくても、レベル上げできるかもしれませんねと納得しながら、追いかけてくる男たちを殲滅するために、ぽかんと口を間抜けにも開けている少女二人の横を通り過ぎるアリスであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 何も持ちそうにないスラムの女の子たち、強欲なアリスが見捨てるのかと思ったらコレクション価値を宇宙図書館が認めてラッキー!(._.)だけど現地では北斗○拳みたいに「ケツを拭く紙にもなりゃしね…
[一言] ボーナス美味しいです! さて、現地人との初遭遇。どんなことが聞けるかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ