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16話 クエストを待つ戦闘少女

 風が今日は強い日だ。高層ビルの最上階で、吹きすさぶ風に濡れ烏のような艷やかな黒髪を煽られつつ、アリスはぼんやりと辺りを見渡す。


 腰にはリボルバー型5式ハンドガンがホルスターに納められて、反対側には鎖剣を鞘に入れて吊り下げていた。


 アイテム枠には5式弾丸999発、砥石、修理キット、初級メディカルキット、ゆで卵が入っている。そして、双眼鏡も。


 初心者ハンターの装備としてはまぁまぁだ。鏡はとっても頑張ってくれた。


「ありがとうございます、鏡。これで探索ができると思います」


 見るものをロ、紳士の性癖に変えてしまう程の威力を持つ可愛らしい笑みを浮かべて、アリスは右上に浮かぶモニターの中に映っているおっさんへとお礼を言う。


 残念ながらおっさんは好感度の上下が数値化されるので、アリスの可愛らしい微笑みを見ても紳士にはジョブチェンジしなかったが、感謝の言葉を受けて、得意げに鼻を擦る。


「まぁ、俺は生産超特化だからな。これぐらいちょろいぜ」


 はっ、ホッ、と一日を音ゲーをやることに終始していたおっさん、鏡である。音ゲーやってただけでしょとのツッコミはいりません。現に作成しているし。ちなみに鍛冶と料理、化学はそのおかげで順調にスキルレベルが上がっている。


 おっさんが一日音ゲーをやっていたくだりは、カットでよいだろう。おっさんだし。


「それにしても『チャット』って凄えな。通信機を介したような会話がいくら距離が離れていても使用できるとはなぁ、さすがは『選ばれし者』だ」


 感心して鏡は頷く。『チャット』は『選ばれし者』のみが使える『選ばれし者』間のみで使用できる通信方法である。各国も機械も使用せずに銀河の端から端までリアルタイムで会話できる『チャット』機能を使用できるように研究しているが、実際に利用できるようになったとは聞かない。『宇宙図書館スペースライブラリ』のロストテクノロジーの一つだ。


 その力、『チャット』により、鏡とアリスはお互いがモニター越しで話すことが可能になっていた。今の鏡はナビゲーター役みたいなもので、楽しげであった。


「ねぇ、本来のナビゲーター役の私を無視して会話を進めないでほしいの。私ってナビゲーターの職業だったと記憶しているのだけど」

  

 花梨が後ろから不満げに会話に加わってくる。もちろん鏡は花梨とも『チャット』ができるので、花梨の目の前にモニターを映すと、ジト目で見つめる。


「ナビゲーターの役をやったことないだろ。なにか役に立つわけ?」


「うぐっ! 正論でも言ってはいけない言葉があるのよ、鏡。私は傷ついたわ。後で頭ナデナデプラス抱きしめを求めるわ。もちろん、アリスたんと鏡両方から」


「頭の悪い世界にナビゲートはいらないです。それよりも本格的に探索をしようと思いますが、なにか案はありますか?」


 傷ついたわと、悲しげな表情に似合わないニヤケ顔を見せる花梨へとアリスは尋ねる。出会って3日、早くも花梨の取り扱いに慣れてきたアリスである。たぶん花梨の取り扱い説明書は2枚ぐらいのペラペラな予感。


 周囲を見渡したが、廃墟ビルが建ち並ぶ中で平原が突如として、ビル間に生まれたように押し広げて現れた。そんな不自然な光景を感じさせる場所であった。なにか無理矢理土地を融合させたように見える光景だった。


 指針はない。宇宙港がありそうなタワーも、放置されている壊れている宇宙艇も見えない。だから、アリスは迷っていた。


「う〜ん、そうね……たしかに何もないわね。レベル上げしたくても、クリーチャーも見えないしね〜」


 腕組みをしながら花梨も返答に迷う。クエストなども発生しないし、フリーにも程がある。


「鏡のレベル上げも必要ですしね。クリーチャーがいないのは困ります」


 レベルはできるだけ上げておきたい。昨日よりも強いクリーチャーなど、いくらでもいるだろうし。


「あ、ハンター登録もしておきました。なので、ハンター活動が可能になりましたよ。もちろん鏡も」


「ハンターはステータスボードのハンター入会でできるもんね。というか、それを行わないとエネルギー補充がマイハウスとかでできないしね。私も入会しておこっと」


 花梨は私の言葉に頷いて、自分も登録手続きをした。


「高炉を使うにもエネルギーマテリアルの補充は必要だったからな」


 鏡の言葉通りだ。初級設置アイテム以外は、通常の施設はエネルギーマテリアルを使う。そしてエネルギーマテリアルは『宇宙図書館スペースライブラリ』が推奨しているクリーチャーやエイリアンを狩る『ハンター』に登録するとなれる。


 本来はチュートリアルでステータスボードを扱うことにより、『ハンター』に入会する。『選ばれし者』の義務でもある。クリーチャーやエイリアンを支援するから倒しまくれということだ。


『ハンター』に入会すると、ランクが上がるごとに報酬がつくが、それは今は関係ないので省略。


 『ハンター』になり、ゴールドを使うだけでエネルギーマテリアルが今は手に入る。ただそれだけだが重要な事柄であった。


 何より気構えが違うのだ。『ハンター』になったことにより、なにやら自信が生まれてくる。


 もちろん花梨が。根拠なく自信が出てきて、ふぉー、鳳凰鶴の舞とか言っていた。アリスは元から自信たっぷりなので変わらない。


「名乗りを考えておかないといけませんね。売れっ子ハンターとして、素晴らしい文面を考えます」


 変わっていた。ハンターの名乗りを考えていた。私も考えるわと、厨二病が絡んできたので、チョップを入れておく。


「は、話が逸れたわね。探索なんだけど、まずは人を探さない? 人気がないけど、どこかに生きていないかしら」


 チョップって、痛覚減衰があまり効かないみたいと頭を抑えて愚痴りながらも、花梨は提案をしてきた。


 ふむ……と私は顎に手をそえて考え込む。人……ですか。いるのだろうか? クリーチャーだけの惑星は存在する。ここも同じ可能性があるのだが……。


 迷う私であったが、かなり遠くの廃墟ビルの間になにかが動いたことに気づく。すぐにアイテム枠から双眼鏡を取り出す。


 素早く汚れた窓枠に身体を押し付けて、身体を隠しつつ頭を覗かせて双眼鏡を構える。


「え、なになに? なにか見つけたの?」


 のんびりと近づく花梨へと足払いを入れて転がしておく。可能性は低いが見つかると困る。


 ぎゃあと、顔から倒れた花梨が騒ぐが不死だから大丈夫でしょう。何気に花梨の扱いがどんどん酷くなるアリスであった。


 双眼鏡見ると、ビル間に大きい影が窓から覗いていた。


「やりましたね、花梨。あれは人影です。即ち人がいましたよ」


「ほんとっ? 『選ばれしプレイヤー』かしら。私と同じ境遇かも」


「安心してください。転んだだけで死亡する『選ばれし者』を私は知りません。やりましたね、花梨」


 コケただけでアストラル体となった花梨へと笑みを浮かべて教えてあげる。すぐに元の肉体に戻ったが。


 どこかの冒険家と同じ虚弱体質である。たぶんエレベーターに乗るための段差に引っかかるだけでも死ぬだろう。


「ありがとうアリス。殴っていいかしら」


 ニコリと微笑んで、ポカポカとひ弱なパンチを繰り出してくる花梨は無視して、さらに観察する。背に銃を構えてなにかに逃げている。窓から窓へと移っていくが、数人いそうだ。


 後ろをチラチラと見ながら走っている。時折銃を構えているが、銃声が響いてこないから、火薬式ではなさそうだ。


 そうして、後ろから追いかける多くの人たち。


 理解できた。明晰なる超古代文明の戦闘生命体は理解できてしまった。さすがは私である。


「クエストが待っている可能性があります。時折現れるランダムクエストですね」


 『宇宙図書館スペースライブラリ』の知識から判断する。データバンクにアクセスできる私の強みだ。


 ちなみに同じことができるおっさんは情報過多で疲れて寝ていた。おっさんはもう歳なのだ。教科書を持つだけで寝てしまったのである。


「クエスト? それってなにかしら?」


「もっともポピュラーなクエスト。名乗りを考えておいて良かったです」


「へぇ〜。でも、あそこはかなり離れていない? このビルを降りるだけでも、かなり時間を使っちゃうよ?」


 高層ビル最上階。20階をえいさ、ほいさと階段を降りていったら、たしかにランダムクエストはなくなりそうだ。


 でもアリスは階段を降りるつもりはさらさらなかった。


 窓枠に足をかけて、吹きすさぶ風に黒髪をたなびかせながら、悪戯そうにムフフと笑う。


「もしかして飛び降りるつもり? 駄目よ。初心者の一番死ぬ原因は落下ダメージなんだよ!」


 花梨が焦って警告してくるがもちろん知っている。大丈夫なはずだと体力が残ると思って、崖やビルから飛び降りて死んじゃうのだ。


「わかっています。でもクエストは待ってくれないので」


 足に力をこめて、そっと身体を傾けて窓を越えていく。


 身体が重力に従い落ちていく。


「ギャー! アリスたーん!」


 花梨が私を止めようと飛び出してきて、そのまま飛び降りていった。あらら。


「ちゃんと説明しておけば良かったですね」


 身体がビル壁のぎりぎりを擦るように落下していく。このままだとたしかに死ぬだろう。だが、私は自殺するつもりはない。


 風圧を感じ、服がバタバタと風で煽られる。足から落ちていくのでスカートが翻るが気にしない。アリスは勢いよく落ちていく中で、ビル壁にある亀裂や、デコボコの僅かな段差に足を軽く引っ掛けながら落ちてゆく。


 その程度では落下速度は変わらない。ザザッと足を引っ掛けるが無駄な抵抗に見えた。


 そのままアリスは落ちる花梨とほぼ同じ速度で落ちてゆき、地面に辿り着く。


「アダッ」


 アヒョーと風圧で顔を歪めながら落ちていき、血のシミになった花梨。普通なら結果はそうなるのだが。


「ほっと」


 物凄い速さで落ちたアリスは、軽く足を突き出して地面に着陸した。落下速度がなかったかのように、ふわりと降り立った。地面にはくぼみもできず、身体が潰れるどころか、足を挫くこともなく。


 平然とした様子で。


 スカートをそっと抑えて、ムフフと微笑む。

 

「えぇ〜っ! なんで死なないの? あんな高さから落ちたのに!」


 ガバリと地面から起き上がって、同じように落ちたはずの少女が驚くが、アリスにとっては何でもないことだ。花梨は自分を全く省みないことは明らかだ。


「落下ダメージはレベルと戦闘力が低い今は6メートルから計算されます。即ち6メートル落ちる前に段差などに足をかければ、落下は終わったことにより、また落下距離は再計算されるのです。私は壁にある段差に足を引っ掛けてきたので、常に落下距離は6メートルを超えずにきた。なので落下ダメージは0なんです」


「………あ〜、落下速度は変わらないのに、ダメージ計算はゲーム的な計算となるのね……。さすがはアリスたん」


 呆れたような、感心してよいのか微妙な表情で言ってくる。


「そうでしょう。スーパー古代人の私なら楽勝です。ちなみにミスったら重力操作をしました」


 なので完璧な作戦だったのですとアリスはドヤ顔で説明してから、駆け出す。


 時間の節約はできた。あとはランダムクエストが消える前に辿り着けるかだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ついに第一現地人との接触! [気になる点] 花梨が1話で2度死に戻るのは新記録では?アリスが絡むと毎回死ぬのがノルマになってるなぁ〜(ノД`)チョップの方を痛がる花梨に悲壮感がさらさらない…
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