13話 戦闘少女はこれからを考える
『4腕のゴブリンガンナー。変異種ゴーグを倒した』
報酬:経験値3000
アイテム報酬:5万ゴールド、ボーナスボックス
『ゴブリンガンナーの巣の破壊に成功』
経験値報酬:2000
アイテム報酬:15万ゴールド
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『総合戦闘力が390になりました』
『体術の熟練度が0.4上がりました』
『体術の熟練度が0.4上がりました』
『体術のレベルが4になりました』
『鎖剣術の熟練度が0.4上がりました』
『鎖剣術の熟練度が0.4上がりました』
『鎖剣術のレベルが4になりました』
『超能力:重力の熟練度が0.4上がりました』
『総合戦闘力が520になりました』
『ボーナスボックスを手に入れた。実体化させますか?』
「もちろんイエスです。それとスキルポイントは超能力氷に全振りします」
勝利したことにご機嫌なアリスは、ポチリとボーナスボックスを実体化させる。空中に淡い蛍火のような光の粒子が生み出されて集まり?マークの入った白いトランクスーツとなる。
躊躇うことなく開けると、鈍い光を放つ鉄のインゴットがズラリと複数入っていた。
『鉄のインゴット100キロを手に入れた』
表示されたログに満足してアイテム枠に仕舞っておく。これならば最低限の設備を作れるはずだ。
「ふへぇ〜。あ、私にも経験値入ったわ。2になったわ。なんのスキルを取ろうかしら」
やったわと喜ぶ花梨。先程は囮役をやったし、巣の破壊クエストをクリアしたことになったのだろう。ボス戦は駄目だったらしい。肉体を持っていなかったから当たり前か。
肉体を戻した花梨がステータスボードを開いて、ウンウンと頭を捻り迷う姿を見て、恐らくは敵との戦闘が終わらないと肉体は戻らない仕様なのだろうと推測する。
「決めたわ! アリスたんがピンチの時に役に立てるように超能力回復に振っておくわ! ……おかしいわね、基礎戦闘力が上がっていない……」
笑顔でスキルポイントを割り振って、基礎戦闘力が上がっていないことに落胆して、悲しげな表情になる花梨。くるくると表情が変わって忙しい。
私と違って、スキルポイントはレベルアップごとに1しか花梨は手に入らない。貴重なポイントだが、あっさりと花梨は決めた模様。それと基礎戦闘力が上がらないらしい。『選ばれし者』は変わってますね。
「変態ですが、優しいのは認めてあげましょう」
花梨のその気遣いに、ふふっと優しく微笑み、ゴブリンガンナーやゴーグの死体と血だらけになっている部屋を見渡して肩をすくめる。
「そういえばもう体力が半分切ってますね。『治癒』、『治癒』、『治癒』、『治癒』、『治癒』」
体力ゲージを見て、半分を切っていたので回復させておく。
『超能力:回復の熟練度が0.3上がりました』
『超能力:回復の熟練度が0.3上がりました』
『超能力:回復の熟練度が0.3上がりました』
『超能力:回復の熟練度が0.3上がりました』
『超能力:回復のレベルが1上がりました』
ゴソッとESPが減ったが熟練度が上がる方が大事であるので気にしない。
「あ〜! 私も回復させてよ! 古よりも眠る神の力により、今こそその偉大なる大きな力を癒やしの力へと変え給え。『治癒』」
なぜか意味のわからないセリフを吐きながら、ぴすぴすと鼻息荒く手を突き出して花梨は回復を使ってきた。
厨二病特性がフルに使われている様子。元からの性格である可能性も微レ存。
しかもアリスの胸に突き出した手は当たった。
「おっと、手がすべ。ズベッ」
アリスも手を突き出して、花梨の頬に手が滑って当たった。
花梨はゴロンゴロンと吹き飛んだりした。
モニュと揉んでこようとするので、アリスは容赦なく殴っておく。吹き飛んでアストラル体になる変態に見直した私が愚かでした。同性なのに、変態的笑みを浮かべて、口元をニヤニヤさせてくるので手加減は無用だろう。
すぐにアストラル体から元に戻る花梨へと、ジト目になりながら声をかける。
「少しおかしくないですか? 巣の破壊クエストが一階の雑魚を倒して、ボスを倒すだけでクリア扱いにされるなんて」
本来は階層を登っていき、地道に敵を殲滅していく必要があるはずなのにと、コテンと首を傾げて不思議に思っちゃう。
だが、意外なことに花梨は頬をポリポリとかきながら不思議には思っていないようだった。
「ほら、実際に狩りとか行くのには高層に住んでいると不便じゃない? だから低層だけにいたのよ」
「? クリーチャーの殆どは食べ物など食べませんよ。捕食は攻撃アクションです。生活の中で食べることをするのは人類とほんの少しの例外エイリアンやクリーチャーだけですから。知らなかったんですか? もしかして記憶力がないとか? 記憶力喪失ですか?」
当然の理だ。皆が知っている当たり前の事実。だからこそ食べ物もないダンジョンなどにクリーチャーは潜んでいるのだから。
「う、う〜ん……さり気なく私をディスってくるアリスたんの毒舌には興奮しか感じないけど。たぶんここのクリーチャーたちは普通に生活していそうな予感がするのよ」
周囲を見て、その臭気に顔をしかめながら花梨は言う。ほほう?
「ふむ……『選ばれし者』特有の情報網ですね。マスキングされたバージョンアップがまだあったということですか」
『選ばれし者』の中では解析厨とかがいる。彼らは私たちとは別の情報網から、知られざる秘密を暴き公表する。たぶん念話で話し合っているのだろうと私は予想しているけど。
「そういうことにしておくわ。それよりもこれからどうするの?」
なにか隠していそうな花梨が肩をすくめて聞いてくるので、気にはなるが答える。
「あぁ、それなら考えています。この階層を登って、敵のいない階層を拠点にします。ここの敵の湧き待ちをしつつ最低限の準備をしないと」
防具はまだ耐久力があるが、鎖剣は切れ味が鈍り、耐久力も減っている。砥石を用意しないといけないし、修理キットも欲しい。念の為に回復薬も。弾丸は言わずもがなだ。
ここはボス湧きするし、ちょうどよい。独占しておきたい。
「湧き待ちね……すれば良いんだけど。それなら登りましょ」
「私の予想だと24時間ポップだと思うんですよね。それでは行きましょうか」
なぜか顔色の悪い花梨を促して、私は次の階層へと向かう階段に向かうのであった。
ひび割れたガラス窓が窓枠に残っている。真っ黒に汚れており、もはや窓ガラスとしては役に立ってはいないが。壁には苔が生えており、机や椅子が転がっている。ロッカーも倒れたり、傾いていたりして、ネズミが私の足音に驚いて去っていった。
「本当にクリーチャーがいませんね。変わったエリアです」
20階建ての崩れた高層ビル。通称ならば少しはクリーチャーが各階層にいてもおかしいのだが、目に入るのはネズミと小鳥だけであった。
埃だらけの床に足跡をつけつつ、怪訝に思ってしまう。なんというか経験値稼ぎのできない場所だ。
歩くごとに、ベッタリと埃に足跡がつくのを見ながら閃く。そういうことか。
「わかりましたよ、花梨。ここは恐らくはセーフティーゾーンです。あのボスを倒したことで解放されたんですよ」
さすがは私。あらゆる『宇宙図書館』の知識にアクセスできる超古代の戦闘生命体なのは伊達ではない。少しだけ胸を張り、推測を口にする。たまにあるのだ。ハンターが狩場とする惑星では。
宇宙港まで遠く、対空装備のある惑星で強襲艇が使えない場合、ボスを倒せば解放されるセーフティーゾーンと呼ばれる場所が。
そこでは敵は湧くことはなく、安全にポータルを開くことができる。きっとここはそういう場所なのだろう。
「とすると、いよいよもって厄介ですね。しばらくはこの惑星から脱出できないかもしれません」
セーフティーゾーンがあるということは、近くには宇宙港はないことを示している。街すらもないのだろう。ハンターたちはここを中心に活動をしていくことになるに違いない。
「あ〜……そういう考えに至っちゃうわけかぁ。なるほど、自身の常識を当てはめるとその結論に至っちゃうのね」
後ろ手に歩きながら、どことなく歯切れの悪い、煮えきれない答えを返してくる微妙な表情をしている花梨にムッとしてしまう。
私はプクッと頬を膨らませると、腰に手をあててクルリと振り返り、睨むように後ろを歩く花梨へと視線を向ける。
「なにか私の知らない知識を持っていそうですね。『選ばれし者』の独自ネットワークですか? 教えてくれても良いと思うのですが」
「う〜ん。もしかしたら、そういうのではなくて、たんにポップしないかもって思う訳よ。それだとまずいことに巻き込まれたと私は恐れているんだけどね」
「ポップしない? 訳がわかりませんね。そんなことが起こり得るのですか?」
そんなことになったら、ハンターたちは困ってしまう。レベル上げに万単位でクリーチャーやエイリアンを退治する必要があるのだからして。
「うん。ここはね……現実かもしれないの。死んだらお終いの世界」
不死の存在がなにか言ってきた。
「それは物凄い説得力がありますね。先に進みますよ」
ゴクリと真剣な表情で戯言を言ってくる花梨へと冷たい声音で答えて、再び歩き始める。聞いて損しました。
それよりもここがセーフティーゾーンなら、絶対にやっておかないといけないことがある。
「違うの。そうじゃなくって、自然な環境かもしれないってこと。ほら、不自然にアイテムがドロップしな……したか。鉄のインゴット出たわね……。あ〜、よくわからなくなってきたわ。っと、何してるの、アリスたん?」
脳内が不自然な花梨が頭を考えて唸って悩んでいたが、私の行動を見て動きを止めて、尋ねてくる。
「なにをしているかといえば、露店設定です。入口近くに露店を設定しておきましょう。きっとぼったくり値段でも買ってくれますよ」
階段から目に入る場所に露店設定をする。四角いシートが現れるので、錆びた机の引き出しを開き、中に入っていたジャンクを拾って売り物として設定。値段は99999999999万ゴールドにしておく。
これで大丈夫だ。後日、拾ったり作った物を売り物にすればよいだけ。ジャンクが売れなければ露店設定は解除されないので、良い場所が欲しいハンターが使う技だ。
賑わうセーフティーゾーンでは、この技がキラリと光るのだ。ふふふ。
強欲なアリスは可愛らしくちっこいおててで口を抑えて微笑んじゃう。悪戯を企んでいる幼い子供に見えて、その姿は極めて愛らしかった。
「スクショゲット。う〜ん、それ意味あるのかなぁ?」
素早く私をパシャリと撮った花梨が疑わしそうに言ってくるが、撮影料取りますよ?
「ここに来る方法が『宇宙図書館』の掲示板に記載されれば、多くのハンターで賑わいますからね。こういう小技が意外とお金になるんです」
「………まだ確信とれないし、それでいいわ。それで次はどうするの?」
「もう忘れたんですか? マイハウスに戻ります。準備をしないといけません」
ステータスボードから、ポチリとポータルを発動させる。
「どうやら、ここはジャンクが大量にありますからね。まずはそれを回収して、探索準備をしませんと」
「たしかにね。………大丈夫かしら」
不安げに花梨が言ってくるが、何を不安に思っているかは理解できる。
「大丈夫なようにするんです。ある程度のリスクは取りませんと」
採取は鏡の出番だ。敵が出ないとなれば、ここの回収は採掘士であるおっさんがやらないといけない。
死なないようにと祈りながら、私はポータルの淡い光の粒子に覆われて、マイハウスに帰宅した。




