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イベントは早い者勝ち 1

 DECOにおいてイベントはそのすべてがユニークである。イベントフラグを全プレイヤーで共有している。

 例えばお姫様がドラゴンに攫われるというイベントがあるとしよう。従来のゲームなら、そのイベントフラグはプレイヤーそれぞれに紐付いている。ドラゴンの巣に行けば、プレイヤーの数だけお姫様は救出されることになる。だがダークエッジクロニクルオンラインにおいては、そのイベントフラグは全プレイヤーが共有する。お姫様の救出がいずれかのプレイヤーによって為されれば、他の誰かがドラゴンの巣に入っても、すでにドラゴンは倒されているし、お姫様ももういない。

 それどころか誰かがドラゴンと戦っている間に別のプレイヤーがお姫様を救出することさえ可能だ。ドラゴンが2匹いなければ、ね。

 と発売前に語ったのは開発者のひとりだ。

 そのことをナハトがアカネに伝えると、彼女は深く頷いた。


「それで皆レベル上げどころじゃなくなったんですね」


「お前も大概レベル上げ以外に興味無いよなあ」


 かつてレベル1でハネネイで置き去りにされた女性来訪者(プレイヤー)は、その後ナハトを遙かに上回る速度でレベルを上げ、今では領都に帰還ポイントを置いている。ただしあまりにも急いでレベルを上げてしまったため、装備品がそれに追いついていない感は残る。金策に時間を割いていないのだから当然だと言えば当然だ。


「そんなこともないですよー。それを言うならナハトさんだって釣り以外興味ないじゃないですか」


「木工も料理もスキル上げてるぞ」


「それ、釣り竿の修理や、釣った魚の処理のためですよね」


 呆れたようにアカネが言う。


「そうだが?」


「そうだが? じゃないですよ! もうちょっと他のことにも興味持ちましょうよ。100万Gですよ。100万ですよ」


「いや、お前、プレイヤー何人いると思ってるんだ? 人海戦術であっという間に見つかるだろ」


「お前じゃないです。アカネですー!」


「はいはい。そんなに100万欲しけりゃ探しに行けばいいだろ。そこら辺でメンバー募集してるだろうに。レベル41のクソザコ装備戦士に居場所があればだけど」


 ナハトがそう言うとアカネは頬を膨らませた。


「むー、100万欲しいのは欲しいですけど、現実として無理なのは分かってます。ちょっとした雑談じゃないですかー!」


「だからちゃんと付き合ってるだろ。それよりなんか金策考えろよ。流石にその装備でレベル上げパーティは寄生に近いものがあるぞ」


「こうして釣りしてるじゃないですか」


「俺が言うのもなんだが、正直、釣りはあんまり稼げん。採掘とかオススメだぞ。鉱石マラソンこそ修正が入ったが、魔鉱石とか出たら結構な額になるし」


「でもそれだとだらだらお話できないですしー」


「まあ、のんびりやるのはそれはそれでいいが、釣りなら釣りでもう少し稼いで装備どうにかするまでレベル上げはしないほうがいいぞ。地雷プレイヤーとして晒されかねん」


「ナハトさんにも追いついたし、別にもう急いでレベルは上げなくていいんですけど、なんだかんだでナハトさんしっかりレベル上げも行ってますよね」


「そりゃまあ、レベル上がれば行けるところも増えるしな。ステルスプレイで奥地に行くのも楽しいけど、フィールドで強い当たりはモンスター釣れる可能性もあるし、最低限そのフィールドで戦えるだけのレベルは欲しいな」


「レベル上げまで釣りが基準だ、この人」


「そうでもないぞ。一応、カンスト目指してはいるし、関われるイベントがあれば積極的に関わるつもりはある」


「今回の緊急イベントは?」


「流石にレベル足りんだろ。飛竜はMOBでも出現するけど、多分それより強いだろうし、NMほど強いのは無いだろうけど、やっぱりせめてカンストしてないとな」


 カンストしたプレイヤーがある程度出始めた時点で発生したイベントだ。カンストが前提の可能性が高い。開発者のインタビューによるとDECOのイベントは基本的にAIが自動生成するということだが、こうしてインタビューにあったのとほぼ同じシチュエーションが再現されているということは運営が意図的にイベントを引き起こすこともあるということだろう。つまりカンストしてやることが無くなったプレイヤーに向けた遊びの提供というわけだ。


「でもさっきの話からすると、誰かが飛竜と戦ってる間に、クリスティーナさんを助けちゃえばレベルは関係ないんじゃないですか?」


「常識的に考えろよ。飛竜を倒せるパーティが、みすみすと逃がしてくれると思うのか? それにそのお嬢様を領都まで連れて帰ってきてイベントクリアだろ。道中で狙われまくるぞ。ちょっと悪い考え方をすれば領都の近くで待ち伏せるのが一番楽だということになる」


 ナハトがそう言うとアカネは喉を鳴らして考え込んだ。こういうときの彼女はなんというか猫っぽい。ナハトが領都でログインすると、さりげなくその辺で待っていて駆け寄ってくるあたりは犬っぽい。


「どうなんですかね? DECOのNPCAIってかなり賢くありません? PAパーソナルアシスタントより応答性能いいですよ。自分が誰に助けられたかくらい覚えているんじゃありません?」


 実際、DECOのNPCはかなり賢い。来訪者(プレイヤー)が関わらなくともNPC同士で人間関係を作っていくし、そのまま結婚して子どもが生まれたりもする。流石に人間と同じように、とまでは行かないが、会話が成立するのも事実だ。来訪者(プレイヤー)の中には特定のNPCを口説き落とそうと必死になっているものもいる。少なくともそうしたくなる人が現れるくらいには人間っぽい。


「可能性はあるな。だが辺境伯が連れて帰ってきた者に報酬を払うと言っている以上、最終的に領都にお嬢様を連れて帰ってきた奴が100万Gを手に入れると思うぞ」


「そうなりますかー。でもクリスティーナさんの好感度は実際に助けた人たちだけ上がりそうですよね。途中で奪った人はむしろ下がりそう」


「NPC同士の情報交換もあるっぽいから、辺境伯の好感度も下がりそうだな。案外、途中で襲うというのは悪い判断なのかも知れないな」


 辺境伯が直接絡んでくるイベントは今回が初めてだから、辺境伯の覚えが悪くなることがプレイする上でどのくらいデメリットになるのかは分からないが、最悪、一発で犯罪来訪者(レッドプレイヤー)扱いということもありうる。そうなると懲役をこなさなければ町の施設が使えなくなり、魔族側に寝返るという選択肢も現実味を帯びてくる。実際にそうして町を追われ、魔族側に寝返った来訪者(プレイヤー)は一定数いるのだ。なお最初から寝返る気満々でプレイを始める来訪者(プレイヤー)も一部いる。


「そもそもクリスティーナさん、無事なんですかね?」


 アカネがぽつりと呟いた。


「そこまで鬼畜じゃないと思うが、DECOだからなあ」


「飢えゲージって満タンになると弱体化(デバフ)かかるんですけど、渇きゲージってどうなんですかね?」


「ああ、渇きも満タンになるとステータスに弱体化(デバフ)なんだけど、両方満タンになるとHPが減っていって最終的に死ぬ」


 飢えと渇きのシステムは来訪者(プレイヤー)だけのものではない。NPCも生きるのに食料と水を消費する。十分な食料と水が無ければNPCは仕事ができなくなり、町の生産力が減ることになるので、場合によっては来訪者(プレイヤー)が積極的に飲食物を町に運び込むことが必要になる。


「……ヤバくないです?」


「ヤバい気がしてきた。まあ、プレイヤーは基本的に水も食料も持ってるから発見さえされれば大丈夫だろ。発見さえされれば」


「ちなみにDECOのフィールドってどれくらい広いんでしたっけ?」


「関東地方」


「関東地方。プレイヤーって何人くらいいるんでしたっけ?」


「登録数が130万人くらいだったか。同接だともっと少ないけど。多分、20万くらいじゃないかな」


「20万人で関東地方」


「ちなみにカンストしてるのはプレイヤーの1割くらいだ」


「2万人で関東地方。これ、無理ゲーじゃないですか? 人海戦術はどうなりましたか?」


 アカネがジト目でナハトを見つめる。


「いや、襲撃地点も、飛竜が飛んでいった方向も分かってるし、ある程度絞り込めるだろ。たぶん、その辺、考察勢が頑張ってるはず。集合知を信じろ」


「私たちが思いつくようなことを頭の良い人たちが思いつかないわけがないですもんね」


 二人は一瞬だけ視線を交わして乾いた笑いを漏らした。

 たぶん、カンスト勢がなんとかしてくれる。

10話くらいまでは毎日19時に投稿していく予定です。


少しでも興味を持っていただけたならよろしくお願い致します。

ブクマしていただいたり、↓からポイントを入れていただけると狂喜乱舞します。

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