DECOだからってなにしても許されると思うなよ 7
デクスタントの町長は自らが集めた人々の前でゆっくりと、絞り出すようにその言葉を口にした。
「昨夜、領軍の密偵から連絡を受けた。救援は、――来ない」
メルニアを解放した領軍が進軍していないことを知っていた来訪者たちは半ば予測していたが、NPCたちはそうではなかった。がっくりとうなだれる者、泣き出す者、膝から崩れ落ちる者もいた。
ぐっと歯を一度噛みしめた後、町長は声を張り上げた。
「今のところ食料はなんとか足りているがいつまでも持ちこたえられるわけではない。私たちは余裕があるうちに囲いを突破してメルニアに向かわなければならない。戦える者は武器を取るんだ。総員で北門を突破する。来訪者の方々も協力していただけるだろうか?」
来訪者たちは顔を見合わせ、頷きあった。
「やる――」
「ちょっと待ってくれ!」
いきなりナハトが遮ったので、アカネはびっくりして隣を見た。他の来訪者たちも同様だ。いや、何人かは頷いている。ナハトに同意している来訪者もいる。
「なんだろうか? 来訪者の方」
「今すぐ行動を起こすのは賛成できない。準備は進めておいてもらいたいが、十日、いや、五日でいい。今まで通り防衛に徹してもらいたい」
「それで何かが変わるのですか?」
「少しは生存率が上がるはずだ。盤面を一気にひっくり返すような手があるわけじゃなくて悪いが、時間が欲しい」
「お話を聞かせていただけませんか? それだけでは誰も納得できますまい」
「嫌がらせだ。今夜から毎晩北門南門から来訪者が打って出る。魔族の連中を眠らせない。少々騒がしくなるが、町の人々にはなんとかちゃんと眠ってもらいたい。数を減らせる、とまでは言わないが、デバフを付けることくらいはできるだろう。いざ脱出というタイミングで魔族が多少なりとも弱っていれば、突破も少しは楽になる」
アカネは驚いた。そんなこと考えもしなかったからだ。
「それでは来訪者の方々に負担が掛かりすぎはしませんか?」
「皆はどうだ? ここまで耐えて、最後まで最善を尽くさなくていいのか? もちろん他にいい意見があったら言って欲しい」
ナハトが言うと別の、さっき頷いていた来訪者のひとりが声を上げた。
「最後の脱出タイミングも夜にするべきだな。NPCは昼に寝ておいて夜活動するってできないのか?」
「えぬぴーしーとは来訪者の方々の言う私たちのことですな。もちろん寝る時間をずらすことはできます。最後の睡眠から2時間は普通に行動できますが、そこからは身体がだるくなります」
「たぶん、魔族も同じ条件だろうな。そうでなければ夜間も攻撃が止まらないはずだ。つまりハラスメント攻撃は有効だ。俺は釣りの人の提案に乗った」
来訪者もNPCもそれぞれに顔を見合わせ、頷き合う。アカネは苦笑する。別に釣り師装備というわけでもないけれど、釣りによる食糧供給を提案したことによってここでもナハトは釣りの人として名が通ってしまっていた。
「ハラスメント攻撃だけど、ただ打って出るより、狩人を先行させて物資を焼くのはどうだろう?」
「水樽なんかも狙って壊すべきだな」
「うまくすれば撤退まで追い込めるんじゃないか?」
「いや、こちらも釣りする人が減ってる。このままだとキツい。長くともゲーム内で一ヶ月持つかどうかってところだ」
「釣りサイドから言わせてもらえば、町に小麦粉の在庫はもうないんだよな。ミミズでなんとかしてるけど一ヶ月は持たないな。あとリアル的にこの週末で勝負をつけたい。平日になったらプレイヤーの数減ってヤバい」
「町長、お年寄りなんかはどうするつもりだ? 移動速度、つまり歩くの遅いよな」
「子どもと年寄りは馬車に乗せる。馬車が破壊されたときは、なんとか走ってもらう他ない」
それは見捨てるということだ。そんなことはアカネにだって分かる。
「NPC背負ってプレイヤーってどのくらい走れるんだ?」
来訪者の誰かが言った。
「試してみようぜ。そこのおじいちゃん、いいかい? 俺の背中に乗ってくれ」
その来訪者は老人を背に走り出す。
「思ったようには走れないし、スタミナの減りも早いな。でもまあ、何人かで交代すれば落伍することはないんじゃないか?」
「なんとか馬車を守り切る方向で行こう」
「じゃあ、ゾンビしてる連中にも伝達するってことで。DECOで五日後だったら、リアル深夜過ぎた辺りか。まあプレイヤーも多くていい時間なんじゃないか?」
来訪者とNPCは相談しながら作戦を詰めていく。
「よし、アカネ、俺たちは釣りに戻ろう。食料尽きさせるわけにはいかないからな」
「私、こんなプレイング知らないです。DEC6のときはNPCと一緒にボスを討ち取る流れしかやってこなかったですし」
「戦闘中心のプレイングだったんだっけ? DEC6でも同じようなことはできたな。魔族の侵攻が始まるまでに釣りで食糧供給してNPCの数を増やすのが肝心だった。いや、全然間に合わないことも多いんだけど」
「助けられますかね?」
「分は悪いな。それでもやらないよりはマシだ。夜襲は俺たちも参加しよう。とにかく魔族を眠らせないようにするんだ」
「了解です!」
短い上に雑で申し訳ない。寝違えたのか背中が痛くて集中できていません。この話は後日書き直せたらと思います。
少しでも興味を持っていただけたならよろしくお願い致します。
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