DECOだからってなにしても許されると思うなよ 4
DECOは移動が非常に不便に作られたゲームだ。NPCは馬に乗れるが、プレイヤーにはまだ解放されていないので、移動は徒歩が基本になる。マップの端から端まで24時間で到達できれば頑張ったほうだ。マップやや北西にある領都から最南端のウォルテナーまでは12時間以上はかかると思っておいた方が良い。平日のプレイ時間に制限のある普通のプレイヤーなら移動だけで3日から4日はかかってしまう。
アカネとナハトも週末までにウォルテナーに辿り着き、週末いっぱいを使ってレベル上げをする計画だった。
だった。つまり、過去形だ。
アカネとナハトはデクスタントという町に辿り着いて帰還ポイントを設定し、また翌日とログアウトして就寝した。翌朝、アカネは目覚めてからベッドの中でPAを使い掲示板を確認する。そしてその先頭にあるスレを開いて驚愕した。大侵攻対策スレと名前の付いたそのスレッドによれば絶望の壁から魔族の軍勢が侵攻してきて、ウォルテナーはすでに落ちたというのだ。
「あわわ、どうしようこれ」
デクスタントはウォルテナーにかなり近い位置にある町だ。ゲームにおいてリアル1時間かかる距離を近いと言っていいのかは賛否あるだろうが、DECO的には近い。おそらく今夜ナハトがログインしてくる時間は戦闘の真っ最中か、あるいはすでに攻め滅ぼされた後かだろう。アカネは自分のリアルを追求されたくなかったのでナハトのリアルについても極力触れてこなかった。だから現実世界での連絡先を交換などしていない。今すぐナハトに連絡を取る手段がない。SNSでナハトという名前のユーザーを探してみるも、それっぽいアカウントは発見できなかった。
「こんなことなら連絡先を交換しておくんだった」
頭を抱えるが今更どうしようもない。デクスタントの状況は気になるが、日中ログインしていられる身分というわけではない。学校を休むわけにはいかないのだ。しかし学校に行ってもデクスタントがどうなっているかが気になって授業の中身が一向に入ってこない。休み時間も友達と話しつつPAで掲示板をチェックする始末だ。
デクスタントは今のところ持ちこたえているようだ。しかしそれ以上のことは分からない。ゲームの中にいるプレイヤーが掲示板に情報を書くのはログアウトしてからだからだ。なおかつ日中は日本人プレイヤーが少ない時間帯でもある。ただ全体を通して阿鼻叫喚という感じだ。絶望の壁に近い町はいずれもが大軍勢に襲われている様子が見て取れる。
「夕日、今日はPAばっか見てるね」
ついには友達に指摘されてしまう始末だ。VRゲームをやっていることは友達には秘密なので、適当な音楽アーティストの名前を出して誤魔化す。VRゲームはちょっとコアな趣味だ。女子の趣味として公言はしにくい。
学校の終了とともに急いで家に帰り、とりもなおさずDECOにログインする。ログインにはかなりの待機人数がいて待たされたが無事、デクスタントにログインできた。そのことに安堵する一方、町の中は緊張感が漂っていた。
ログインの間から出てきたアカネ以外のプレイヤーたちはその足で町の出入り口に向かって走って行く。装備が無いことから死に戻りしてきたことは明らかだ。ゾンビ戦法だとアカネはすぐに理解した。来訪者は死んでも復活できるのだから、NPCより優先的にダメージを引き受けて死亡し、すぐに復活して戦線に復帰するという作戦だ。なお装備品はその辺の死体から持っていく。ログインに待機人数がいたのも納得だ。来訪者が復活してくるペースより、魔族に殺されるペースのほうが早いのだ。つまりジリ貧だ、ということでもある。
アカネは自分もそこに加わるべきか迷う。レベル41戦士でも、上手くやればレベル60の敵の攻撃をしばらくは受けられる。戦闘の腕前には少し自信があった。ナハトに褒められたということもある。
掲示板の情報でログインチューブが敵に破壊されても、そこに帰還ポイントを設定していたプレイヤーがログインできなくなるということはないと判明している。別のログインチューブに帰還ポイントが書き換わるだけだ。だからデクスタントを守ることがナハトというキャラクターを守るということにはならない。
だが、だけど、そういう問題ではないのだ。今この町が襲われている。NPCの生活が脅かされている。それを指を咥えて見ていることはアカネにはできない。気が付けばアカネは走り出していた。町の出入り口に向けて。戦場へ向けて。
DECOの戦場は現実の戦場とは違う。死体こそあちこちに転がっているが、キャラクターは見た目として外傷を負うことはないし、血も流れない。綺麗なものだ。凄惨さが欠けている。城門はすでに破られていたが、衛兵が列を組んで魔族を押しとどめている。DECOはキャラクターの衝突判定があるので、魔族だって一度に城門を攻められるわけではない。死んだキャラクターは他の誰かが町の中に引っ張り込んで、装備品をありったけルートする。そして遺品を身につけた来訪者は、果敢に魔族の群れに突っ込んでいく。神官が並んで衛兵や来訪者にヒールをかけ続けている。
「誰か、武器は余ってないか!? 防具はいらん!」
「少し押し返せ! 死体を引っ張り込むぞ!」
「MP尽きました。回復します」
「鍛冶職人です! 装備品は壊れる前に持ってきてください!」
「矢を合成したぞ。トレード開いてくれたら渡す!」
「衛兵! 道を空けろ。次が出るぞ!」
来訪者の誰かが言うと衛兵が少し横にずれて隙間を作った。そこから来訪者たちが魔族の軍勢に向けて突っ込んでいく。
「装備品を手にしたらここに集まれ! 今のグループが全滅したら突っ込むぞ!」
アカネは慌ててそこに駆けつけた。アカネより一回り大きい来訪者たちに囲まれて周りが見えなくなる。心臓が五月蠅い。全感覚没入と言っても肉体のくびきから完全に解き放たれるわけではない。緊張もするし、怖いものは怖い。
「次だ。行くぞ!」
そしてその時が来た。衛兵の横を走り抜けて魔族の正面に出る。構えた剣を魔族に向けて突き出した。攻撃判定によって刃は深々とその肉に突き刺さる。
DECシリーズにおける魔族という存在は魔導によって生み出された合成獣の一種だ。人間の要素がもっとも大きく出ているが、かぎ爪があったり、尻尾が生えていたり、まったく人間と見た目が変わらないという魔族は基本的にいない。魔族陣営に獣の要素が混じっていない純粋な人間がいたとすれば、かなりの確率でそれは魔族側に寝返った来訪者だ。
DECOにおいては魔族は来訪者やNPCに近しい存在としてデザインされている。一般的なMOBが倒されるとドロップアイテムを残して消えるのに対して、魔族は一時間の間死体がその場に残り、ルートしなければドロップアイテムは得られない。通常MOBよりも高度なAIによって動いており、確かな知性を感じさせる。つまり敵のNPCだ。ただしリポップする。そういう意味では人間NPCよりも来訪者に近い存在なのかも知れない。
アカネの攻撃を受けた魔族が手にした斧で反撃してくる。振り下ろされるそれにアカネは盾を合わせる。武器を盾で受けると衝突判定だ。その重たい一撃にアカネは一歩後ろに下がらざるを得なかった。スタミナがガクッと減る。アカネは連続攻撃を繰り出せない。
魔族が間髪入れずに攻撃予備モーションを取った。戦技<フルスイング>のそれだ。アカネは咄嗟に<シールドバッシュ>を入れる。魔族にスタンが入り、フルスイングはキャンセルされる。そこでアカネの脇から槍が突き入れられて魔族のHPが一気に減る。衛兵が背後から攻撃してくれたのだ。
――倒せる。
アカネは魔族の首を狙って横薙ぎに剣を振るった。狙いを違わず刃は魔族の首を刈り、急所への一撃によって魔族のHPは全損する。魔族の巨体が崩れ落ちる。アカネは慌てて死体を掴み引っ張った。魔族の持っている所持品はリソースだ。籠城戦によって補給物資の当ての無いデクスタントにおいて、あらゆるリソースは貴重だ。魔族側に持って行かれるわけにはいかない。アカネはなんとか城門の内側まで魔族の死体を引っ張り入れることに成功する。
「後をお願いします!」
来訪者たちが魔族の死体に群がり、所持品をルートして、さらに死体を邪魔にならないところまで引っ張っていく。それを横目にアカネは息を整えて、次の突撃班に加わった。
戦いは続く。終わりは見えない。
ギリギリ間に合ったぁ!
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