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DECOだからってなにしても許されると思うなよ 2

Showさまよりレビューを頂きました。ありがとうございます!

 アカネは怒っていた。カンカンに怒っていた。頭の上にヤカンを置いたら湯が沸きそうなくらいに怒っていた。ナハトと雑談しながら釣りをしていたところ、ナハトが突然用事が出来たと言って立ち去ったのはいい。仕方ない。リアルの事情が絡むこともあるだろうし、あるいはDECOの中で他のフレンドに呼ばれたということもありうる。別にナハトを独占したいと思っているわけではない。まあ、せっかく同じくらいのレベルなのだから、一緒にレベル上げくらいはしてもいいんじゃないかなとは思っているが。

 閑話休題。

 用事があるからと落ちたはずのナハトが、その直前まで話題にしていた辺境伯の娘であるクリスティーナを救出したというのだ。それも単独で釣り場探しをしていて発見という話である。

 嘘だ。

 アカネは知っている。ナハトは直前までこのイベントには興味をあまり持っていなかったし、現行エリアの釣り場探しなどすでに終わらせている(・・・・・・・・・・)

 つまりなにか別の理由があったのだ。

 それ自体はいい。仕方ない。

 いや、仕方なくない。

 せめて自分にくらいなにか説明があってもいいんじゃない? と、アカネは思う。フレンドなのだ。それ以上のなにかではないけれど、フレンド登録はしてあるのだ。直前まで楽しく他愛ない話題に花を咲かせていたのだ。それを打ち切ったのだから、なにか一言あってもいいんじゃないかとアカネは思う。

 DECOでのフレンド機能は、そのフレンドのオンライン状況と居場所が分かり、なおかつ離れていてもウィスパーと呼ばれるメッセージのやりとりが可能だ。PAでボイスメッセージを送り合うみたいなもので、会話というほどテンポのいいものではないが、挨拶や近況報告くらいのことは便利にできる。

 一方でフレンド機能は相手への現状通知をオフライン状態に固定することもできる。実際にはオンラインなのにオフラインということにできるのだ。ちょっと合成だけするためにログインしたのに、数の多いフレンドから一斉に挨拶が来て面倒、みたいなときに重宝する。実際アカネもオフラインにしていることが多い。これでも女性アバターのプレイヤーだ。レベル上げに行けばすぐにフレンド登録を申し込まれる。アカネの場合、スタートがスタートだったので、フレンドの申し出が嬉しくて最初のうちは了承しまくっていたら、今では結構面倒なことになっている。女性アバターのプレイヤーがリアルでも女性であるかは分からないのだが、全感覚没入(フルダイブ)はリアルの肉体とアバターを近づけたほうがより身体を動かしやすいため、性別や体格も似たようにしているプレイヤーが多い。アカネもそのひとりだ。

 はい、閑話休題。

 ナハトはこの週末、ずっとオフライン状態の表示だった。アカネもリアルで忙しかったのかな、くらいに思っていて、戦士ではなく盗賊のレベル上げに初級エリアに戻ったりしていた。それが蓋を開ければこれである。お姫様、ではないけれど、お嬢様を颯爽と助け出した――アカネの中ではそういうことになっている――騎士様のようなことをやっていたというのだ。

 それがなんだか腹が立つのである。理屈ではない。感情だ。特に拡散されたSS(スクリーンショット)が良くない。ナハトの隣にクリスティーナが立っていて、その手がちょっとだけ持ち上がっている。それがアカネにはナハトの袖を掴みたくて躊躇しているように見えるのだ。

 クリスティーナはNPCでAIだ。果たしてそこまで細かい感情の機微があるのかどうかは分からない。だがそういう問題ではないのだ。そう見える、ということこそがアカネにとっては重要だ。

 とにかくナハトに一言なにかを言ってやらなければ気が済まない。なにを言いたいのかは自分でもよく分かっていないのだが、とにかくなにかだ。

 その時、視界の端に通知がポップアップしてナハトがログインしてきたことが分かった。平日の20時ちょっと前。ナハトがログインしてくるのは大体いつもこの辺りだ。ここから深夜1時くらいまでがナハトのログイン時間になる。

 アカネは鼻息荒く、ずかずかと足音を立てながら領都の来訪の間に向かった。


 領都の来訪の間とは言っても、辺境(ダークエッジ)で最大の規模を誇る大都市であるエルネキアには来訪の間がいくつもある。だがナハトは大体の場合、同じ来訪の間に帰還ポイントを設定している。西門から程近い、利便性が高くて、他の来訪者(プレイヤー)も多い場所だ。

 そこでアカネは他の来訪者(プレイヤー)に囲まれているナハトを発見した。


「釣りの人、マジ釣り装備なんすね。マジリスペっすわ」


「ベルグリンソロ踏破って本当ですか? 絶望の壁に釣りポイントはありましたか?」


「クリスティーナ様の好感度はどんな感じです?」


「いや、名声値のほうが気になる。町のNPCの反応とか変わりました?」


 いや、お前らのほうが反応変わってんじゃん。昨日まで釣り装備の人とか見向きもしなかったでしょ。アカネはそう叫びそうになるのをぐっとこらえた。ナハトの名を呼びたかったが、ここで呼んでしまえば彼の名前が知られることになる。今のナハトは一般的にはクリスティーナを救出した釣り装備の人という認識で、ナハトという個人ではない。多分、一週間、上手くすれば数日もすれば忘れ去られるはずだ。

 今日は諦めて別のことでもするかと、アカネが思ったそのとき、ナハトと目が合った。


「悪い。知り合いが来たからこの辺で」


 ナハトはそう言って人波を割ってこっちにやってくる。


「助かった。質問攻めにされて参ってたんだ。ネームドより対応に困るな」


 小声でそう言ってナハトは苦笑を浮かべる。


「私はお怒りです」


「お、新しい遊びか?」


「ちーがーいーまーすー! ナハトさん、私に謝ることがあるんじゃないですか? 胸に手を当ててよーく考えてください」


「うーん、ここでお前の胸に手を当てたらセクハラで猫精霊(ケットシー)呼ばれることは分かるぞ」


「その発言がアウト寄りのアウトです。がー!」


「そうか、あぶく銭も入ったし、お前の装備新調してしばらくレベル上げに専念するつもりだったけど、なんか迷惑みたいだな」


「えっ? 買ってくれるんですか?」


「貸すだけな。流石に1ジョブくらいはカンストしときたいし、お前はDEC6やってただけあって戦闘は安定感あるからな。そこは信頼してる」


「むむむ。もう一声」


「なにを吊り上げたいんだ、お前は」


「そこが分かんないからモテないんですよ。ナハトさんは」


「別にモテなくて構わないけどな。それで、行くのか? 行かないのか? どっちだ。アカネ」


「行きます! レベル41だとちょっと厳しめですけど、絶望の壁狙います?」


「絶望の壁に行くかはともかく、ウォルテナーの町には行くぞ。今日は買い物と移動で終わると思え」


「ラジャーです!」


 もうすっかり機嫌の良くなったアカネなのであった。

今日もなんとか書けた。書きためはありません! 自転車操業!


少しでも興味を持っていただけたならよろしくお願い致します。

ブクマしていただいたり、↓からポイントを入れていただけると狂喜乱舞します。

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