DECOだからってなにしても許されると思うなよ 1
「では第七回、クラン“辺境の隣人”定例会を始める」
トランは長テーブルの上座に座り、居並ぶ面々を見回した。とは言ってもそれほど数は多くない。トラン自身を含めて8名しかこの場にはいなかった。
「うーん、定例会なのに参加者が少ないな」
「まあ、連絡はリアルSNSのグループで滞りありませんし、定例会自体リーダーの趣味みたいなものですよね」
サブマスターであるネルがバッサリと切って捨てる。いきなりのサブマスターの裏切りにトランは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。トランとしては毎週定例会を開きたいくらいなのだが、メンバーの猛反発にあって定例会は二週に一度となった経緯がある。それでもなお集まりが悪い。メンバー同士の仲が悪いわけでは無い。単純に協調性が無いだけだ。
「とりあえず反省からだ。我々の活動は秘密裏である」
トランがそう言ったとき、その部屋に戦士風の装備の男性が入ってきた。その男性は室内の8名を見回すと頭を下げた。
「あ、なんか場違いですみません」
「こちらこそクランハウスも持てない弱小クランが公共の場ですみません」
ネルが頭を下げる。彼女の言ったとおり、辺境の隣人はクランハウスを持っていない。定例会に使っているのも領都にある教会の食堂だ。もちろん誰でも入ってこれるし、秘密の秘の字の欠片も無い。
「あー、ごほん」
男性が出て行くのを待ってトランは咳払いをひとつ。誰も食堂に入ってこないことを確認して、やや小声になった。
「我々の活動は秘密裏である」
繰り返した。トラン的にはそこが重要だったのである。
「どんなお為ごかしを並べようと我々はプレイヤーキラーだ。プレイヤーにもNPCにも気取られるわけにはいかない。我々は影に生きる存在なのだ。そのこと努々忘れるな」
「クランマスターのいつもの病気は置いておいて、活動自体は順調です。前回の定例会から今日までにPKしたパーティは6つ。多いとは言えませんが、数より質の方針ですし、概ね問題ないかと」
「問題なら大有りだろう。あの釣り馬鹿野郎だ」
トランは大げさにため息を吐いてみせる。クランマスターの悲哀を感じているのだ。なお同感は得られていない。
「あの状況なら仕方ないと思うにゃあ」
リーサが相変わらず頭のおかしい語尾で言う。来訪者はすべて普通の人間なのでリーサは別に猫耳のあるような種族というわけではない。どうしてうちのクランは変人ばかりなのだろうかとトランは絶望的な気持ちになった。彼もそう大差は無いのだが、自覚は無い。
「リーサは信頼できます。彼女がそう言うのでしたらそうなのでしょう」
指先で眼鏡を直しつつ、ネルは断言する。
「そうなのでしょうで済んだら定例会いらないだろ。事の経緯を説明して貰わないと困る」
「分かったにゃ。今回のターゲットは単独で町の外を移動するプレイヤーとNPCを狙ってキルする小悪党どもだったにゃ。ウチらのいつもの感じにゃあ」
「補足情報はいらないけど、まあ続けて」
「アシリドルで連中を発見して、あちしは追跡を開始。一番暇してそうだったナハトに連絡を取って急行してもらったにゃ。その日は連中はベルグリンをうろうろして結局山中でログアウトしたので、あちしも一端ログアウトしてアシリドルに帰還して、ナハトと合流したにゃ。翌日、ナハトと一緒にアシリドルのログインの間を監視して、連中が出てきて合流するのを確認。追跡を開始したにゃ。連中はその日もベルグリンをうろうろしてたにゃ。そこであちしはピンと来ました。こいつらは辺境伯の娘を狙っていると、にゃあ」
「うん、気付くの大分遅いね」
「現行犯がウチらの信条にゃから、あちしらは根気よく追跡を続けたにゃ。そしたら連中が大穴を発見したにゃ。なんとそこには飛竜がいたにゃあ。それからにゃあにゃあにゃあの大戦闘にゃ。戦闘中に後ろからさっくり殺るか迷ったけどにゃ、ナハトが止めるんで止めたにゃあ」
「現行犯が信条だからね」
「連中はなんとか飛竜を倒したにゃ。そしたら奥にはクリスティーナ嬢がいたにゃ。連中の狙いはやっぱりクリスティーナの装備品だったにゃ。連中がクリスティーナ嬢に攻撃しようとしたときにゃ、あちしの弓矢、ではなく、ナハトが釣り竿で攻撃を止めたにゃあ」
「いきなり意味が分からないことが起きたね。釣り竿で攻撃をキャンセルしたの?」
「ナハトが言うには、釣り竿は武器スロットに入るけど、武器扱いじゃないにゃ。だから攻撃判定による透過処理が発生しないので、釣り針を引っかける判定を得られるにゃあ」
「どこでそれを知ったんだって話だけど、まあ、ナハトだからな」
「ナハトだからにゃあ。釣り竿を振って釣り針を腕に引っかけて攻撃を止めたにゃ。それでナハトがハンドサインで下がってるように言ったからあちしは隠れて様子を覗っていました。あとはナハトがクリスティーナ嬢と協力して3キル。逃げ出した魔法使いをあちしがさくっとヘッドショットして1キルにゃ。この時点でナハトは完全にクリスティーナ嬢に見つかっていたから、そこから見捨てて去るのは無茶な話だにゃ。あちしはそっとその場を去ったけどにゃ。闇に生きる狩人にゃ」
「まあ、リーサのほうが我がクランの方針にはあってる。実際あいつは有名になりすぎた。ほとぼりが冷めるまでしばらくは使えないな」
「名声値が高いプレイヤーも必要でしょう。NPCキラーから重要NPCを守るためには必要です」
「まあ、あいつのことはいいじゃねぇか。俺としては次の獲物について聞きたいね」
ジルタインが言うと、ヘックスがそれに応える。
「絶望の壁付近のレベル上げポイントにPK集団が現れるようになった。おそらくは2パーティで徒党を組んで、MOBと戦闘中を狙ってくるそうだ。ネットで情報収集してる段階だけど、本腰を入れるべきかな? マスター」
「DECO内でも動向をチェックしてもらえるかな。おそらく魔族落ちしたプレイヤーだろうから、捕捉は難しいだろうけれど。流石に規模が大きい。他のPKKクランが出張ってくるかもな」
辺境の隣人はPKKクランだ。PKを専門にPKする集団である。DECOにはいくつかのPKKクランが存在するが、辺境の隣人はその中でも弱小に位置づけされる。純粋に規模が小さいからということもあるし、トランの方針で活動内容を喧伝しないからでもある。
大規模PKKクランは確かに多くのPKに重圧を与えるだろう。あまりにも目立つと大規模PKKクランに目を付けられる。それはそれでPKを防ぐひとつの方法だろう。
だがトランは別の道もあるのではないかと思った。
PKしようとすると不意に現れてPKをPKする謎の集団。どんな小規模なPKでも狙われる。そんな噂がPKの間で流れれば、と思ったのだ。というのは後付けの理由で実際には、正義の暗殺者とか格好良くね。くらいの感覚である。
そんなわけでPKを探してPKしようとして逆にPKされたりしながら頑張っていたトランの周りに少しずつ人が集まり、辺境の隣人が生まれたというわけだ。
「久々の大きな仕事になりそうじゃねぇか。腕が鳴るぜ」
「神官ですけどね。あんた」
このクラン、どういうわけか変人ばかりである。
なんとか書けた。書きためはありません!
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