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WILD JUMP

作者: 津辻真咲


「編集長。今度の企画案、読んでくれました?」

雑誌の編集者の男性は、編集長へ話しかけた。

「あぁ、もちろん。いいんじゃないか? WILD JUMP」

「モトクロスの新星、今年わずか18歳の若さで世界の頂点に立った少女、黒須もとかとウェイクボードの新星、幼い頃から数々の大会で優勝を総なめにした天才少年、上戸カイリ。この二人の対談は期待できそうですよ?」



対談当日。

「やだな~」

黒須はぐずる。

「何言ってるの、大事なお仕事でしょ?」

母は台所で食器を洗いながら、苦笑する。

「だって~。相手はウェイクボードの天才だよ? 話し合うわけないじゃん!!」

「あら、共通点はあるじゃない?」

母は微笑む。

「何よ」

黒須はぶすっとして、母を見る。

「WILD JUMP」

「もう!! バカにしないでよ!!」

黒須は頬を膨らまして、すねた。

「だって、共通点なんてジャンプしかないじゃない?」

「……」

「大丈夫、もとかは自分を出せばいいんだから」

「……」

「ほら、いってらっしゃい」

「いってきます」

黒須はいやいやながら、玄関から出て行った。



対談会場。

――うー。緊張する。

黒須は先に会場へたどり着いていた。すると、ガチャっとドアが開いた。

――来た。

彼女は振り返る。

「こんにちは。私は、ウェイクボードをやっております、上戸カイリと申します。よろしくお願いします。」

「あ、えっと、私は、モトクロスをやっている、黒須もとかと言います。よろしくお願いします。」

「それでは、対談を始めて下さい。どうぞ。」

編集者の男性がそう言った。

「えーっと……」

「黒須さんはいつからモトクロスを始めたんですか?」

「10歳の時です。父がモトクロスが好きだったもので」

「上戸さんは?」

「僕は5歳です」

「5歳!?」

「はい」

「すごいですね。私はまだ、自転車にも乗れてなかった頃ですよ」

「そうでしたか」

「上戸さんは、ウェイクボードのどこに魅かれたんですか?」

「そうですね。やっぱり、全部ですかね」

「へぇ」

「黒須さんの方はどうですか?」

「私もやっぱり、全部です」

「そうですよね」

二人は笑い合った。



数時間後。

「ただいま」

黒須が家へと帰って来た。

「どうだった?」

母が尋ねる。すると。

「うーん。普通かな。あ、でも連絡先は交換した」

黒須は淡々と答える。

「あら、そうなの? 良かったじゃない?」

「そうかな?」

黒須はそう言うと。自分の部屋へと向かった。すると、スマホが鳴った。ラインにメッセージが来ていたのだった。

『今日はありがとうございました。今回の対談、とても有意義な時間でした。ところで黒須さんの誕生日はいつですか? 僕は7月21日です』

『誕生日は10月12日です』

『てんびん座なんですね、好きな色は何ですか?』

『アースカラーです。上戸君は?』

『濃い青です。血液型は何ですか?』

『A型です。なんだかさっきから刑事ドラマの尋問みたいですね?』

『すいません。僕、幼い頃からウェイクボードばっかりやっていたんで、こんな風にラインしたことなくて』

二人はラインを続けた。



モトクロス世界大会。

「Entry Number53 From Japan Motoka Kurosu!!」

会場は観客の声援で轟音と化す。

黒須はアクセルをまわす。そして、一気に加速していく。

「bolt!!」

実況が技の名前を叫ぶ。

「Kiss of Death!!」

「Turn Down!!」

歓声が会場外にも響き渡る。

――よし、最後の大技!!

しかし、黒須は大クラッシュした。

会場は一気に静まり返る。

「黒須選手、起き上がりません!! 救急隊員が駆け寄って来ました!! どうやら、このまま病院へ搬送されます!! 意識はまだ戻っていないようです!!」



病院。黒須はそこで目を覚ました。

――私、助かったんだ。

――全身が痛い。

「?」

――声が聞こえる。

「もとか? 大丈夫?」

母の声だった。

「お母さん……」

黒須は再び、意識を失った。



三日後。黒須は担当医の診察を受けていた。

「黒須さん。ケガについての大事な話があります」

「はい」

黒須はきょとんと返事をする。

「あなたの左腕は複雑骨折しています。これからリハビリを続けて行けば、日常生活に支障をきたす事はないでしょう。しかし、言いにくいのですが……」

主治医は少し躊躇った。

「何ですか?」

黒須は聞き返す。

「二度とモトクロスでのバイクには乗れないと思います」

「!!」

――そんな!!

黒須は言葉が出なかった。



病室。黒須はそこにいた。すると、そこへ訪問客が現れた。

「黒須さん? いますか?」

上戸だった。彼は黒須を心配して、お見舞いに来ていたのだった。しかし、黒須は元気がない。

「どうされたのですか?」

上戸は黒須に尋ねた。しかし。

「何でもありません」

黒須は答えなかった。

「今年のウェイクボードの世界大会で優勝した、あなたには分からないと思います。もう、ほっといて下さい」

「……」

上戸は俯いてしまった。そして、そのまま部屋を出ていった。



病室の外。そこで上戸は黒須の母にばったりと出会ってしまった。

「あら。もしかして、あなたはウェイクボードの……」

「はい。上戸と申します」

彼は頭を下げる。

「わざわざお見舞いに来てくれたのね。ありがとう」

母の方は笑顔を見せた。しかし。

「でも、黒須さんは来て欲しくなかったみたいで。すみません……」

上戸は下を向いたままだった。

「そうだったのね。実はあの子もう二度とハンドルを握れないって、出来たとしても確率的には1%も満たないって、担当のお医者さんから言われたそうなの。だから、こちらこそごめんなさいね。あの子、失礼な事言ったかもしれないわ」

「いいんです。僕も相手の気持ちを考えずに来てしまいました。あの、実は今度の第二回ウェイクボードの世界大会があるのですが、それのチケットを渡そうと思っていたのですが、渡せずじまいで。代わりと言っては失礼ですが、お母様の方から、渡してもらえませんか?」

「分かったわ。あの子を引きずってでも行かせるわ。任せてね」

母は、彼に少し微笑んで見せた。

「はい。ありがとうございます」

「いいえ」

「それでは、失礼します」

上戸は去って行った。



「もとか!! 今日は上戸君のウェイクボードの世界大会の日でしょ。ほら、行くわよ」

母は一階から、二階の自室にいる黒須に呼びかける。しかし。

「……」

黒須は答えない。

――あの子には、モトクロスしかないのね。

母は苦笑した。



一年後。上戸は黒須に手紙を出した。

「もとか!! 上戸君から手紙よ」

母は、黒須の部屋へ入って来た。

「いらない」

黒須は一言そう言って、背中を見せた。

「何言ってるの。中身はちゃんと見るものよ」

黒須は無理やり、手紙を持たされる。すると、彼女は渋々、手紙の中身を見た。

「まぁ、ウェイクボード決勝大会のチケットじゃない!!」

黒須の母は表情を明るくした。しかし。

「行かない」

黒須は頑なに、拒否する。すると。

「お母さんも行くから、いっしょに行きましょう?」

母が苦笑しながら、フォローした。



大会当日。今日は晴れだった。

「やっぱり世界大会の決勝となると、規模が大きいわね?」

母は少し、はしゃいでいた。一方、黒須は暗い顔をしていた。

すると、会場のモニターに上戸が映った。

「あら? 見て!! モニターに上戸君が映ってるわよ?」

母は黒須に話しかける。黒須はそちらを見た。

『今回の演技内容はどんな感じで行きますか?』

上戸のインタビューの映像だった。

『全て新技で行きます』

会場がざわめき出す。

『どうしてですか? それで金メダルを取れる確率は1%程度ですが?」

インタビュアーが少し躊躇いながら、尋ねた。

『私は金メダルを取るためにこの大会に出たのではない。私の大切な人の心の希望を取り戻すために出るのです。では』

彼はそう答えると、インタビュー席から立ち去っていった。

『ちょっ、ちょっと、上戸選手!?』

――何考えてるの!? あいつ。


そして、上戸の演技が始まった。

「出ました。アースカラー」

「これは、上戸選手の大切な人の好きな色だそうですね」

実況と解説が交互に話していく。

「さぁ、また出るか。新技。オクトーバー・トゥウェルブ」

「これは上戸選手の大切な人の誕生日だそうですね」

「ここまでは順調です。上戸選手。次はブラッド・タイプA」

「これは上戸選手の大切な人の血液型だそうですね」

「さぁ、最後です。最後はTSUNAMI」

「ここで終了です。さぁ、結果は」

モニターには、今季最高得点が映し出されていた。

「上戸選手、優勝です」

――何であいつ、こんな事。

すると、モニターに上戸が映る

『どうして今回、新技だけを取り入れたんですか?』

『ゼロからがんばりたかったんです。実は私の大切な人が事故に遭い、大好きだったものに再起出来る可能性が1%だといわれました。私はあの人の立場と同じようになってマイナスからがんばることは出来ないけれど、ゼロからならばがんばることは出来る。だから、一緒にがんばろうって言いたかったんです」

黒須の瞳から涙が流れた。

「もとか。また、バイクやろうよ」

母は苦笑して言った。



次の日。上戸は黒須の家を訪ねて来た。

チャイムがなり、黒須の母が扉を開けた。

「あら、上戸君じゃない。あっ、今もとか呼んで来るわね」

母はそう言うと、黒須を呼びに行った。そして、黒須が出て来た。

「何?」

黒須は不愛想に言った。すると。

「え?」

上戸は金メダルを黒須の首にかけた。

「君に貸す」

上戸は微笑んだ。

「君が今度、金メダル取るまで、これは君に……」

語尾が小さくなる。しかし。

「だから、何年かかったっていい、絶対に返しに来て?」

黒須は涙を流した。

「ごめん、今まで」

黒須は謝った。

「大丈夫だよ」

上戸は微笑んだ。


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